第14話:防衛戦
「直掩は何機上がってる!」
いつもニコニコしている印象しかない、ビンセントが叫ぶ姿を私は初めて見た。
「17です」
「くぅ…待機機体は発進中止、格納庫に戻せ!
対空砲準備急げ!」
「機影、キ43-IIと確認。
隼。王国軍です!」
「直掩向かいます」
矢継ぎ早に、報告と命令が飛び交う。
「スフィア様。申し訳ありません。ここが見つかるとは思いませんでした」
「今はそんなときではないわ」
「直掩の高度をもっと上げられませんか?」
「どういうことですか?」
「この船を囮に、A6M5に敵機を倒してもらえませんか?」
「?」
「王国軍は、この船が欲しいってことありませんか?」
「王国は沈めに来たのではないと?」
「そんな、気がしますが。どうでしょう?」
「あり…ありえるのか?」
「艦長!通信です。降伏せよと言っています」
ビンセントはその報告を聞くと、驚きとともに笑った。
「直掩に通信!
高度をとらせて、翔鶴上空で待機させろ!」
「なるほど。お嬢様、当たりのようです」
ビンセントが、見せたことのない笑い方をする。
***
ビンセントは、降伏勧告に答えなかった。
その代わりとでもいうように、攻撃を命じた。
「12.7cm連装高角砲、右舷撃ち方始め! 射距離八千、信管合わせろ!」
私がブリッジの窓から外を覗いた瞬間、視界がオレンジ色の閃光で染まった。
艦橋のすぐ下、張り出した砲座に並んだ四か所八門の大砲が、一斉に火を吹いている。
ドォン!ドォン!
ドォン!ドォン!
と艦を揺らす重い振動が、足の裏から身体を突き抜けてくる。
数秒後、遥か彼方に、黒い綿菓子のような花がいくつも咲いた。
その花は直撃もしないのに、王国軍機が粉々になって落ちるのが見えた。
しかし、その花を潜り抜けた、キ43-IIが更に距離を縮めてくる。
(どうして僚機が落ちても来るの?)
「直掩!攻撃開始します!」
「降ったら直ぐに昇るように伝えて!」
私は叫ぶと、ビンセントが一瞬だけ驚いた顔で私を見て、その直後に「お嬢様の言う通りだ! 撃墜より高度維持を優先させるように伝えろ!」
「25mm3連装機銃、自由射撃! 撃てッ、落とせッ!」
空を覆うように、光の尾を引いた火線が乱舞する。
「早く帰って!」
私は祈る思いだった。
20機は決して少ない数ではないが…
船を沈めに来たならともかく、そうでないなら。
中途半端な数だと思った。
威嚇、制圧が出来る数ではない。
一体どんな命令で来たのだろうか…
アイランドの横を、機銃を撃ちながらキ43-IIが通り過ぎていく。
直後艦橋内に、聞いたこともないような鋭い音が弾けた。
カンッ!――パシィィィン!
鼓膜を突き刺すような乾いた高音が艦橋に反響した。 右舷の窓ガラスに白い花が咲いたかと思った瞬間、それは一気に細かな網目状の亀裂となって、粉を蒔いたかのように内側へ弾け飛んだ。
風が吹き込み。
ガン、キン、ギィンと音が続く
機銃弾が艦橋に飛び込み、鋼鉄の壁や機械を跳ねまわる。
そうか…ここを狙ってるんだ。ミレニアが言った船の心臓部のここを。
「スフィア様、危ない!」
ミレニアが私に覆いかぶさる。
通り過ぎていくキ43-IIは、直掩機と25mm3連装機銃の猛火により、一機、また一機と火を噴き、翼をもがれ蒼い海へと墜ちていった…
静寂が艦橋に訪れる…聞こえるのは、割れた窓から吹き込む風の音と、足元でチリチリと音を立てるガラスの破片だけだった。
「お嬢様。大丈夫ですか?」
「私は大丈夫です。ミレニアは?」
「はい、私も大丈夫です」
ホッと胸を撫で下ろす。
「被害状況知らせ!」
狙われた艦橋には7.7mmが窓から飛び込み、機器に幾らかの被害はあったものの、人的被害は無し。
直掩には、一機の損失も無かった。
「良かった…」
そう言った私の言葉がかき消される。
「入電!二番偵察機より敵機見ゆ!数50!」
再び艦橋に緊張が走る。
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