第12話:安らぎの中で
「ねえ、ねえ。ミレニア。この船凄いわ」
装飾も何もない金属性の狭い通路。垂直に近い急な階段。何処に続くか分からない剥き出しのパイプ類、何故か妙にワクワクする。
「スフィア様、あまり興奮されては危ないですよ」
まるで小さな子をあやすかのように、ミレニアに注意される。だけど興奮が止まらない。
私は、お医者様に安静を言い渡されてから、二日ほどミレニアに部屋から出して貰えなかった。やっと今日。外に出られたのだ。
「現在、翔鶴は湖で錨泊中です」
「地上ってこと?」
「湖上ですが、まあ、そういうことになります」
「お母様にお会いした後は、外も見てみたいわ…それと。ティテに会いたい」
お母様にも、ティテにも会えていない。「そんな顔色でお会いになられたら奥様が心配します」ミレニアに、そう言われては我慢するしかなかった。
「そのように致しましょう」
「むーー」
「?」
ミレニアは、頬を膨らませた私に目をパチクリさせる。
「どうされましたか?」
「ミレニアが硬い!」
「え?硬い?」
私はミレニアの背後に回ると、横腹をくすぐる。
「!?」
ミレニアは飛び上がって、身をくねらせる。
「な、何を、スフィアさ、ま」
「何を。じゃない。なんでそんなに他人行儀なの」
「しゅ、しゅじゅうの関係は…クククク。守らなければ。ふふふふ、いけません」
「今の私は、王子の婚約者でもない、領も持たない…ただの世間知らずな小娘です。ミレニア、主従とか言って壁を造らないで…」
「スフィアさ…ま」
「お願い、私の友達でいて…お願い」
私は、いつの間にかミレニアの背中で泣いてしまった。
「スフィアお嬢様…」
ミレニアは私の手を取ると、私の頬を伝う涙を拭ってくれた。
「二人の時だけですよ…スフィアは大きくなっても泣き虫のままですね」
ミレニアは抱きついた私の頭を撫でてくれ…そっとそう言った。
***
「お母様。入ります」
ビンセントが扉を開けてくれ、私は艦長室に通された。
「倒れたって聞いて心配したわ」
「申し訳ありません、もう大丈夫です」
「無理してない?」
お母様に見つめられる。
「はい!」
「そう。良かったわ」
良かった、安心してくれたみたい。
「お母様。お父様が…」
私はギュッと拳を握りしめていた。
「スフィア。大丈夫。お父様は命を諦める方ではありません。必ず生きています」
「はい!」
「今回の件は、他領でも他人事ではありません。他国も同じです。
今なら、力を貸してくれるところが、きっとあります」
「はい!」
「諦めては、駄目よ」
「わかりました」
「スフィア。こっちへ」
私は、ベッド脇に進むと、お母様に胸元まで手を引かれ、頭を撫でられた。
「お帰りなさいスフィア」
「ただいま」
何年ぶりだろう、私はお母様に抱きついた。優しい、懐かしい香りがした。
***
ティテは、私には良く分からないけど、上層格納庫・前部区画という場所の、第一エレベーター?近くにいるらしい。
ミレニアに案内されたのは、太陽の光が届かない、広い広い部屋。戦闘機が綺麗に並べられていて、その先にティテがいた。
『スフィア!大丈夫なの!』
私がコクピットを覗き込むと、ティテが息急切って話しかけてきた。
「大丈夫よ、もう元気になったわ。ごめんね、ずっと来られなくて…」
『…飛ぶのに生命力を使わせちゃったから。だから私のせいでスフィアがって…ずっと考えてた』
「そんな、それは私が決めたことよティテのせいではないわ」
『だけど…』
「いいの。それよりティテ…
ここからなら迷いの森が近いわ。今なら戻してあげられるわよ?」
『……そうね』ティテは言葉を詰まらせた。
「どうしたの?」
『見て。この姿では戻れないよ。それに…私はスフィアと一緒に行くって決めたの』
「ティテ…」
『だってスフィア、危なっかしいでしょ』
「え?」
『お嬢様然としているのに無茶ばっかで』
「う」
『自分を顧みなくて』
「そ、そんなこと、ないわ」
『だから、しっかり者の私が必要でしょ』
「うう、なんか、納得できないけど。
ティテ。ありがとう」
『どういたしまして…』
「ジリリリリリリッ! ジリリリリリリッ!」
聞いたこともない、けたたましい金属音が断続的に鳴り響いた。
「な、何?ミレニア」
私は耳を抑えながら、控えていたミレニアに叫ぶ。
「これは、防空警報です」
「防空警報?」
「敵機です!」
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