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王子の取巻きAは悪役令嬢の味方です 作者:佐崎 一路

第一章

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学園の階段は令嬢の鬼門(お約束過ぎて盲点だった)

「……とりあえず二、三日じっくり考えさせてくれ」

 自分でもその場しのぎの逃げ口上だと思うけど、勢いに任せて軽はずみな答えは返せない。
 じっくりと考えるふりをして、断る口実を作るための執行猶予を貰うことにした。

「相変わらず煮え切らない勇者様ですね」
「こういうのを世間では『角を矯めて牛を殺す』というのではありませんか?」
「左様でございます。エドワード殿下の時から何も学んでいませんね」

 まあ、当然のようにルネとエレナには顰蹙(ひんしゅく)を買ったけど……。すまんな、肩書はともかく中身は臆病者(チキン)なんだよ僕は。
 そりゃ確かに〈神剣ベルグランデ〉を携えて本気の全力を出せば、ドラゴンでも一刀両断、魔王だろうが魔国だろうが一晩で滅ぼせるけど、いまどきそんなことしたら犯罪者だよ。

 なにしろドラゴンときたら年々数を減らして、特に知恵のある〈エンシェント・ドラゴン〉などは絶滅危惧種扱いで、個体ごとに各国で保護しているし、
「つーか、昔の連中は肉ばかり食っておったから早死にしたんじゃよ。選り好みせずに野菜も摂らにゃならんぞ。あと肉にしても人間は筋っぽい上に臓物が臭くてかなわん。儂は焼いた牛や豚肉の方が好きじゃな。炭火で焼いて、大根と一緒に醤油を付けたら……くはあっ! 二度と人間なぞ食えんわっ」
 うちの国にも一頭だけいる【暗黒魔竜ブリンゲルト】さん(「若い頃は、(わし)もちょっとヤンチャだった」とのこと)は、国定公園の住処(ダンジョン)で手作りの漬物(ピクルス)とカモミールティーを振る舞ってくれながら、そうしみじみ語ってくれたものである。

 そして、勇者の不倶戴天の天敵であり、いまや隣国の片隅で細々と自治領を統治している魔王だって、
「いまどき殴り合って、強い方が偉いとかの魔族式解決法では国が立ち行かんじゃろう? それよりも金じゃ金。金があれば魔族じゃろうが正義じゃ。そんなわけで速記と暗算の得意な官僚が早急に必要なのじゃが、どいつもこいつも使えぬ脳筋ばかりで……なぬ?! 勇者、おぬし算盤(そろばん)が使えるじゃと!? ちょ、ちょっと手伝え!」
 と、神殿で『勇者』認定された後、挨拶に行ったら愚痴をこぼされ、後半有無を言わさず五年分の資料を渡された(国家機密では?)。
 そのまま黙々と書類仕事を手伝わされて半日後――。
「――凄い! 書類の山が消えて執務机の天板が見えたなぞ、就任以来初めてじゃ!? おおおっ、勇者よ。将来隣国の公爵になどなるのは辞めて、本気で(わらわ)と添い遂げぬか!? 共に手を携えれば世界は思うが儘じゃぞ!」
 と、熱烈に悪魔の誘惑(プロポーズ)をしてきた第百六十九代魔王ヤミ・オニャンコポン(ピンクの髪に赤い副眼を持った美少女)と、鬼気迫る形相で書類片手に必死に引き留めにかかった過労死寸前の腹心の魔王軍幹部とか、いま思い出しても怖気に震える。

 そんなわけでドラゴンや魔物、魔王に対して絶対の力を持った〈神剣〉なんて、いまのご時世では算盤以下の無用の長物と化している。
 その〈神剣〉の付け合わせ(ガーニッシュ)である勇者など猶更と言えるだろう。

 そんなわけで僕のモットーは『細く長く』『長いモノには巻かれろ』なのだ。

「それに実際問題、この場合の一番の難関は、どうやってアドリエンヌ様にお義兄様の良さを伝えるかですものね……」

 ルネがまさに僕が目論んでいた御破算にするための方法を口に出して懸念を示す。
 そう。僕が王になるとか王位を合法的に簒奪するとかの戯言の第一の前提条件は、『アドリエンヌ嬢と僕が婚姻関係を結ぶ』こと。
 つまり、上手いこと周りに波及しない形で第一王子との婚約を破棄させ、しかるのち僕との婚約を改めて認めさせる必要がある。

 ……うん、無理。和解することすら至難の業なのに、婚姻関係とか絶対に不可能。
 冗談でも口に出した瞬間、ビンタどころかグーでぶん殴られる。

「なんとか上手いこと丸め込めないかしら?」
「この際、当人の意思を無視して外堀から埋めていくのはどうでしょう」
「つまり、エドワード殿下の悪意と先行きのなさを国王陛下……だとちょっと不安なので、搦め手で太后陛下へ告げ口をするとかかしら?」
「なんなら第一と第二王子をさくっと亡き者にするのはどうでしょう? 後腐れないですよ」
「それはさすがにバレるとリスクが高いので、やるなら最後から五番目くらいの手段にしましょう」

 世間話でもする口調で、のっぴきならない計画を策謀するルネとエレナ。
 チッチッチッチッ……と、歯車の音が時限爆弾のカウントダウンのように聞こえてきた。

 ◆ ◇ ◆ ◇

 翌日、ルネと馬車に乗り合わせて学園へ到着した僕たちだけれど、正面玄関に入った瞬間、どことなく浮ついた……いや、大多数が息を潜めて嵐が通り過ぎていくのを待つような。それでいて、物見高く見物に集まっているような、おかしな雰囲気を肌で感じて、従者として同行したエレナともども三人で揃って首を傾げた。

「なんだろう、妙に学園内が騒がしいような。それでいて緊張しているような、変な空気だね」
「ええ、こんなことは初めてですわ。昨日の午前中までは変わりなかったですのに、昨日の今日で何かあったのでしょうか?」
「適当な学生に聞き込みでもしてきましょうか?」
「そうねえ……」

 エレナの提案にルネが返事をしようとしたところへ、
「ルネ様、おはようございます。ご機嫌麗しゅうございます」
 にこやかに十五歳くらいの御令嬢が、ルネへ朝の挨拶をする。

「あら、エディット様! ごきげんよう。先日は災難でしたわね」

 親しげに腰を曲げて挨拶を返すルネ。
 にしても『エディット様』? 大富豪であるラスベード伯爵家の御令嬢の?
 和気藹々とした雰囲気で当り障りのない会話をするふたりだけれど、気のせいか時折、エディット嬢が僕に微妙に熱っぽい視線を寄越す気がした。
「――む?」
 背後に控えるエレナが、僕にしかわからないレベルで警戒心を上げる。

 はて? エドワード王子派の取巻き筆頭と見られている僕を警戒してか、いままで直接話したことはなかった筈なんだけれど。なんだろうこの意味ありげな態度は?

 そんな友人の様子に気を利かせたルネが、さもいま気が付いたとばかり、
「ああ、そうそう。ご紹介いたしますわ。お義兄様、この方はエディット・マルレーヌ・ラスベード様。いつも大変親しくさせていただいております。エディット様、こちらは私の義兄である」
「ロラン・ヴァレリー・オリオールです。はじめまして、エディット嬢。いつも義妹がお世話になっています。ご迷惑をかけておりませんか?」
「とんでもございません。ルネ様にはいつも私の愚にも付かない話に付き合っていただいて――ああ、それよりもお礼が先でした。先日の〈ラスベル百貨店〉では」

 テンパっているのか、玄関先で秘匿事項を口走りそうになったエディット嬢。
 昨日のエドワード第一王子に続いて、事件の舞台である〈ラスベル百貨店〉のオーナー御令嬢がバラしたら、さすがに誤魔化しようがないよ、これは!?

「そうそう。聞いてくださいお義兄様っ。エディット様はとっても博覧強記(はくらんきょうき)で、特に古今東西の魔物や幻獣に造詣が深くていらっしゃるのですわ!」
 淑女としてはいささか嗜みに欠けるけれど、咄嗟にエディット嬢の台詞に覆い被せるようにして、ルネが話題を無理やり変えてくれた。

「へえ、珍しいですね。女性は魔物を奇怪だとか野蛮だとか言って忌避するものかと思っていましたけれど……ま、〈エンシェント・ドラゴン〉とか〈魔王〉とか、実際に見たり話したりするとまた別な感想が出るとは思いますが」

 なので僕もその尻馬に乗って話題を変える。
 だが、その効果は覿面だった。

「〈エンシェント・ドラゴン〉!? 〈魔王〉!! もしや本物に会って話したことがあるのですか!?! さすがは〈神剣の勇者〉様ですわ!」
 思いっきり身を乗り出して瞳を輝かせるエディット嬢。
「あ……っ。も、申し訳ございません。私ったら、なんてはしたない真似を……」

「あ、いえ。ちょっと驚いただけで。それにしても、冗談ではなく本当に魔物や幻獣が好きなのですね」

 僕の正直な感想に、身を引きかけたエディット嬢はその場に留まり、我が意を得たりとばかり何度も頷いた。

「ええ……いえ、左様にございます。といってもほとんどが剥製か図鑑でしか見たことがありませんけれど」
 それからふと懐かしいような遠い目をして口に出す。
「父とともに子供の時分から諸外国を巡るたび、『この道には昔、オーガの群れがいて旅人が避けて通った』とか『この大河の中州にはかつてセイレーンがいて、船乗りが月夜の晩は絶対に通らなかったんだよ』と、聞くたびにどれほど心が躍ったことでしょう。そうした場所は世界中に枚挙に暇がありませんわ」
 それから一転して、悄然と肩を落とす。
「ですが、いま彼らは滅びの道を辿ろうとしています。我々人間の手で。私はそんな彼らに惜別の情と滅びの美学を見ずにはいられないのです」

「……なるほど」
 脳裏に茶請けに漬物(ピクルス)バリバリ食べている暗黒魔竜と、ねじり鉢巻きで書類事務をしている魔王の姿が去来した。

「〈神剣の勇者〉であるロラン様なら、さぞかし珍しい体験をなされているでしょう。ぜひとも伝聞ではない、真実の魔物たちの姿について、忌憚のないご感想をお伺いしたいと……本当はずっと前から思っていたのです」
 うっとりと憧れに潤んだ瞳で僕の向こう側を透かしながら告白するエディット嬢。

「……なるほど。憧れは憧れでも、『勇者』という珍獣枠であり、同時に背後に控える魔物や魔族に対する知的好奇心ですか。安心しました」
 エレナが僕にだけ聞こえる声で小さく呟いて、警戒心をすっと解く。

「そういうことであれば、このような玄関先の立ち話もなんですので、近々お互いに時間を取って歓談いたしませんか? ねえ、お義兄様」
「そうだね。お互いの立場があるので気を付けないとね」

 これは思いがけなくエディット嬢とお近づきになれるかも……と、捕らぬ狸の皮算用をしたところ。
 何気ない注意のつもりだったのだけれど、途端にエディット嬢は顔を強張らせて、僕を警戒する表情で周囲の様子に気を配り出した。

「どうかされたのですか、エディット様?」
「あ、いえ……いえ、あっ、もしかしてルネ様もロラン様も昨日の事件をご存じないのですか!?」
「「なにがですか?」」

 そう尋ねると、エディット嬢は僕とルネの顔を交互に見比べ……小考してから、覚悟を決めた様子で、そのことを口に出した。

「――昨日の午後のことですわ。休み時間に講義の移動のため、混雑している階段を利用していたクリステル男爵令嬢が、途中で何者かに突き落とされたとか。そして、その犯人としてアドリエンヌ様と近しい御令嬢が槍玉に上げられ、いま学園内は一触即発の状態なのです」

 当然、槍玉に上げているのはエドワード第一王子派だろう。
 その取巻きである僕に事件の概要をありのままに教えてくれたエディット嬢。どれほどの決断だっただろうかと、頭が下がる思いだ。

 ま、それはそれとして、『クリステル男爵令嬢が何者かに危害を加えられた』と、聞いて真っ先に思い浮かんだのは、
「男爵家の小娘に対する、直接的な行動も辞さない」
 エレナが盗み聞いてきたコンスタンス侯爵令嬢がジェレミー第二王子に語っていた内容だった。

「「「しまったぁ、出遅れた~~っ!!」」」

 まさか話を聞いてきた当日中に、休み時間に階段から突き落とすなどというベタな行動を起こすとは、ありきたり過ぎて完全に盲点だった。
 同時に頭を抱える僕とルネとエレナを、エディット嬢は怪訝そうに眺めている。
オニャンコポンはとっても由緒ある名前です。

次回は10/22(日)頃更新します。(ちょっと遅れるかも)
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