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王子の取巻きAは悪役令嬢の味方です 作者:佐崎 一路

第一章

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伝説の勇者様参上(平時の存在意義とは?)

早めにできたので予定より一日早く更新します。
 なんてことを口に出すんだろうねうちの義妹は。レストランで落ちたスプーンの交換を命じるような、自然な口調で王家の転覆を提案してきた。
 これ迂闊に第三者に聞かれでもしたら、即座に国家反逆罪で告発された上で一族郎党爵位剥奪の上、国外追放間違いなしの超危険発言だよ。
 冗談でも口に出していいことと悪いことがあるんだからね。

 そう苦言を呈する僕に対して、うちのお姫様ふたり(エレナも一応は騎士爵家なので、平民から見れば十分にお姫様だ)は、平素と変わらない態度で軽く聞き流して妄想を続ける。

「若君はなぜそんなに悲観的なのでしょうね? 一国の王になるなど男子の本懐ではありませんか。後宮を設けて酒池肉林ですよ。その際には、是非私もお声をかけてください。個人的には側室のナンバー4くらいがベストですのね、そのあたりで」
「あら? そんな中途半端な位置でいいの? 正室は……まあアドリエンヌ様として、それに準じる地位を巡って、こうお互いに女として宮廷小説みたいに鎬を削れるかと思ったのに」
「四番目ってところがいいんですよ。二番は上からの圧力と下からの押上げで息が詰まる立場ですし、三番は上ふたりに代わって下の取りまとめをしなければなりません。そうなると四番目が一番気楽で、なおかつ周りから侮られない位置ですので」
「なるほど。さすがね、エレナ。名よりも実を取るってことね」

 ありえない未来設計に浸るエレンと若干残念そうなルネ。
 普通、こういう爛れた空想は男子が率先して行って、妙齢の婦女子は「不潔ですわ。これだから殿方は!」と、毛嫌いするのが定石ではないのだろうか?
 うちのお姫様たちが変なのか、貴族の淑女って一皮むけば、全員こうなのか――その可能性が高そうだなぁ――いろいろな意味で、幻想がガラガラと崩れる音が聞こえてきたような気がした。

「いやいや、ないから。れっきとした王家が存在するのに、勝手に王になろうとか。それって謀反だからやめようね。僕は統一王国の法に従う善良な市民として、そのような暴挙は容認できないからね」

 即時却下する僕に対して、ルネはにこやかに笑って応じる。

「ええ、それはわたくしも同様です。我々は法に従う法治国家の人間です。つまり、王ではなく法に従うという解釈でお義兄様とも見解が一致しているということですわよね?」

 あ、これ絶対に、訳の分からない詭弁を弄して言質を取ろうとしているな。
 警戒して無言を貫く僕に構わず、正論っぽい主張を重ねるルネ。

「そして、我が国での王とは枢密院の賛成のもと、国教である聖教徒大神殿において認められた存在でございます」
「慣習法として、現在の王家の一族に優先権があるわけだけど?」
「ですがそこには抜け穴もございます。先ほど話にも出たようにいまより四代前には王女の王配として御成婚なされた方が、一時的に国王となられた前例がございます。つまり――」

 ①王族の血統を継ぐ男子。もしくはその女性を伴侶とする、ある程度の身分の貴族であること。
 ②枢密院の許可のもと、貴族院での採決を得ること。
 ③以上を持って、聖教徒大神殿の大神官が認めて戴冠式を執り行うこと。

「この三点さえクリアできれば、別にいまの王家に繋がる王子でなくても問題なく王になれるという理屈ですわ」

 ちなみにアドリエンヌ嬢の実家であるジラルディエール公爵家は、裏の王家と言われるだけあって、その血統は濃い。
 二~三代にひとりは王家の直系である王女が嫁いだり、末の王子が婿入りしたりしている上に、他の結婚相手も大なり小なり王族と繋がりがある。
 結果、四代前に直系が途絶えた現王家よりも、血統的には正当王家の本流に近いとさえ言えるのだ。

「さらに現枢密院議長はアドリエンヌ様の御尊父であらせられるジラルディエール公。そして貴族院名誉総長は御祖父に当たる先代の公爵」
 まるで僕の逃げ道を塞ぐかのように、愉しげにルネが続ける。
「とどめ――なんといってもお義兄様は、およそ二百五十年ぶりに聖教徒大神殿に顕現した〈神剣ベルグランデ〉の使い手。それも紛い物ではない《オリオールの祝福》を十全に授かった『勇者』『聖者』『神の子』と謳われる存在ですわよ! 神殿が否と答えるわけがございません」

 この〈神剣〉については、いまだに謎に包まれている。
 わかっているのは最初に記録されたのはおよそ三千年前。
 世界中に魔物が跋扈し、魔族が興隆を誇っていたその時代。脆弱な人間の祈りに応えるかのように、ある日突然に現れた。
 最初は岩に突き刺さって誰も抜けなかったこれを、ひとりの男が難なく引き抜き――そして、その剣を持った男によって人間の立場は一変する。

 男が剣をひと薙ぎすれば、鋼鉄の如き鱗を持ったドラゴンすら両断され、一突きすれば天を飛ぶ巨鳥を射落とし、魔族の魔法は男に届く前に霧散した。
 そうして徐々に人の生活域は広がり、人々はこの男を『勇者』と呼び讃え、その剣を〈神剣〉と崇め奉った(ちなみに刀身に古代語で『チュエッラ』と刻まれていたことから〈神剣チュエッラ〉と呼ばれる)。
 男は多くの者たちから慕われ、王となるように請われたが、当時の魔王を斃すと同時に、地上での役目を終えて神となり、神々の住む世界へと〈神剣チュエッラ〉ともども旅立っていったとある。

 これが聖教徒大神殿が流布する聖典の中に書かれている〈神剣〉と『勇者』に関する記述で、子供でも知っているお伽噺だ。
 この時の勇者が水色の髪と菫色の瞳を持った、神のごとき麗しい男だった……というのは真偽の定かではない俗説だけれど、嘘か本当かその後、およそ五十年から百年周期で〈神剣〉は定期的に地上へ顕れ、魔族や魔物相手に目覚ましい力を発揮した。

 で、〈神剣〉の勇者であるのは決まって水色の髪と菫色の瞳をした者たちであり、その一族の末裔がオリオールというわけだ。
 もっともこの『オリオールの祝福』と呼ばれるこの特異な色彩は、かなりの劣性遺伝らしく、ここ六代では僕と、本来は遠縁であるルネだけに出ている。
 また、『オリオールの祝福』を持っていても、確実に〈神剣〉が地上に顕れるとは限らず、実際、ここ二百五十年あまりは一度も勇者だ英雄だと言われる様な人物は輩出されなかったらしい。

 そのせいか『オリオールの祝福』も与太話かお伽噺扱いされ、そのせいばかりではないと思うけれど、かつては絶大な権威を持っていた聖教徒大神殿の教えは形骸化し、最近では神学者や思想家などが公然と、
『神は死んだ』
 と、言い放つほどである。

 そこへ降って湧いた〈神剣ベルグランデ〉と、それを言い伝えの通り使いこなす勇者の出現――となった瞬間、大神殿が精彩を取り戻した。なにしろ死んだと思っていた神がどっこい生きていたわけだから、神殿関係者が狂喜乱舞したのは言うまでもない。

『まさに奇跡! 聖典は真実であった! おお、迷える子らよ。括目して見よ。やはり神は天にましましたのじゃ! 〈神剣〉を崇めよ! 神を信じぬ不信者はすべて今頃煉獄の炎に焼かれていることだろう!!』
 という大神官の声明が大々的に国内外に放たれた。
 ま、意訳をすれば「やっぱ神はいるじゃねーか、ざまあみやがれ!」というところだろう。

 そんなわけで起死回生の救世主扱いされている僕に対する聖教徒大神殿の扱いは、まさに常軌を逸しているほどだ。行き過ぎていて怖いので、とりあえず〈神剣ベルグランデ〉を預けておくことを条件に(現在、見世物になって寺銭を稼いでいる)、余計な干渉をしないように協定を結んでいるほどだ。

 万が一、僕が「次の王になりたいな~」などと口走ったが最後、何が何でも叶えようとするだろう。断言できる。

「条件としてはほぼすべてが整っているようなものですわね」
「僕本人にその気がないという根本的な問題があるんだけど……」

 成り行き任せで僕を言い包めて、取り返しのつかない路線に乗せようとするルネに反駁する。

「些細なことですわ。大儀の前にはお義兄様個人の意見など何の価値もございません」
「いやいや、そこが一番大事だろう!」
「それでは逆にお尋ねしますが。若君はアホの第一王子や人を人とも思わない第二王子が次の国王になって、この国の未来を任せるべきだとお思いですか?」

 エレナに真正面からそう聞かれると答えに詰まる。

「それは……確かに容認しがたいものがあるけれど……それでも、もっと他にいるだろう、適任者が……?」

 そう言いながら、この場では一番の良識のある大人であるジーノに視線を送って、援護を期待すれば、
「若君はご自分の立場をご理解されていないようですな」
 軽く肩を竦めて受け流された。

「お義兄様は難しく考え過ぎなのですよ。できるできないではなく、王位のほうが勝手にお義兄様の懐へ転がり込んできた……その程度に考えておけばいいのですよ」

 あっけらかんとこの状況を総括するルネ。
 エレナも、「その通りですね。普通の人は欲しくてたまらないものでしょうけれど。若君くらいどうでもいいと思っていらっしゃる御方にこそ相応しいかも知れませんね。勇者らしく、これも天命だと諦めるのも肝心ですよ」と、完全に他人事だと思って気楽だし。

 なんでこう楽観的なんだ、うちの女性陣は!?
次回は10/20(金)までに更新します。

※〈神剣〉に関して質問等がありましたが、各時代に顕れた〈神剣〉はすべて別なものです。
 その名に応じた特性を持っています。チュエッラ=疾風という意味で、一見して細剣でした。
 その時々の使い手に応じて、長剣だったり刀だったり、場合によっては槍や弓だった場合もあります。
 ロランの〈神剣ベルグランデ〉は『偉大なもの』『巨剣』という意味で、その名の通り馬鹿みたいな剣です。
 また、〈神剣〉は絶対に破壊不能ですが使い手が死ぬと同時に消えるため、現在、地上にあるのはベルグランデのみです。
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