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王子の取巻きAは悪役令嬢の味方です 作者:佐崎 一路

第一章

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エディット嬢が語る学園の七不思議(どころじゃない)

 とはいえ、いつまでも頭を抱えていられない。
「こうしてはいられませんわ。『拙速せっそく巧遅こうちに勝る』とも申します。まずは動くべきです、愚図愚図していては手遅れになりますわ!」
 うちの格言大好き義妹(いもうと)が僕を急き立てる。淑女らしからぬ落ち着かない様子で、はしたなくも今にも僕の手を引っ張って先導しそうな勢いだ。
 けど、どこに行くつもりだろう?

 まあ、落ち着いて……と、ルネの肩に手をやって宥めながら、僕は次の行動指針について思案した。
 何を悠長なと言われるかもしれないけれど、ルネの好きな格言で言えば『勝兵は先ず勝ちてしかる後に戦いを求め、敗兵は先ず戦いて而る後に勝ちを求む』であり、要するに『勝つ者は先に勝ってから戦いをするのである、負ける者は戦ってから勝つ方法を考える』というわけで、勝負というモノはでたとこ勝負の博打ではまず負けるので、先に勝てると判断した戦いしかするなという意味になる。

 こうした場合、無策で首を突っ込んでも状況は悪くなるばかりだ。まずは事前準備を周到にして、勝利の方程式を確実にしなければならない。

「そうだね。まずはエドワード第一王子が、思い込みで先走ってアドリエンヌ嬢と対立しないように、当事者と第三者から情報を収集しつつ、感情的に動かないように僕とルネとで、ふたり(第一王子とアドリエンヌ嬢)に言い含めて、性急に直接対峙などしないように誘導しないと」

 おそらくは十中八九、クリステル嬢が階段から突き落とされたというのは何かの間違い、勘違いであるだろう。その場合は冤罪なのを証明して、なおかつなるべく第一王子派に遺恨を残さないように、落しどころを見つけて『妥協してやったんだ』と、阿呆の自尊心を満足させる結論を出すように会話を誘導する必要がある。
 問題なのは、もしも本当にクリステル嬢を突き落とした犯人がいて、アドリエンヌ派だった場合、どこまで庇うのが適切なのか……。
 こう言っちゃなんだけど、クリステル嬢は所詮は法衣貴族である男爵家のそれも庶子だ。国内外の貴族があまねく通う学園生のカーストでは最底辺に位置する。
 で、(いさか)いの相手はまず間違いなく彼女よりも高位貴族の令嬢であるはずだ。
 貴族制度の悪しき弊害だとは思うけど、イジメや嫌がらせがあった場合でも、相手の家柄が上であった場合、通常であればやられたほうは泣き寝入りをするのが一般的だし、それで納得がいかなければ学園の教務課に訴えることも可能となっている。そこで和解案を提示して貰い、謝罪および賠償などの形でお互いに合意し、水に流すのが紳士淑女の対応ということになる。

 どちらにしても、あくまでこれは犯人の令嬢 (がいるとして)とクリステル嬢との個人的な問題であり、例えその令嬢がアドリエンヌ嬢と親しいとはいえ、あくまで一個人の暴走であり、アドリエンヌ嬢にまで責任が及ぶものではない、と割り切れるのなら問題はないのだけれど、あの公正でありながら情に篤いアドリエンヌ嬢が黙って静観するかどうか……非常に疑わしいだろう。

 肯定するように、カチカチカチカチと歯車の音が高速で回転し始めた。

 まったくの濡れ衣であった場合――まず間違いなくそうだろうけど――その公正さから、冤罪を晴らすために身内の弁護に立つのは確実だろう。逆に本当に身内の御令嬢が暴走をして、誰かを傷つけたと知れば、怒髪天を衝く勢いで不正義を糾弾せずにはいられないだろう。
 それはいい、やり過ぎないようにルネなら取り成しをするだろう(同じ公爵家の御令嬢ということで、ルネなら立場上ある程度発言力もあるだろうから)から、問題はない。

 むしろ問題だらけなのはエドワード第一王子だ。
 まかり間違ってこの問題に直接首を突っ込んできたら問題――どころか、取り返しのつかない大問題だ。
 そもそも令嬢同士の諍いに男子が口を挟むなど、紳士としてあまりにも無粋な行動である、というのが一般的な貴族間のマナーである。
 これが兄弟や親戚、最低限婚約者という立場であれば、まあギリギリ赦される範囲内だろう。だが、第一王子とクリステル嬢では、公式にはまったく接点がないし、私的にも『親しい間柄である』と明言したことは、少なくともクリステル嬢にはない。

 つまり、現段階でエドワード第一王子がしゃしゃり出るということは、アドリエンヌ公爵令嬢という立派な(立派過ぎる)婚約者がいる身でありながら、まったく関係のない未婚の女性に色目を使って一方に肩入れをした挙句、王族の権威を傘に他の貴族の御令嬢を脅すという、統一王国の法と貴族としての良識と人間としての倫理すべてに真っ向から唾を吐く行為と見られるということだ。
 まして、弁護側としてアドリエンヌ嬢が矢面に立っていた場合、自分の婚約者と対立して半ば公然と浮気を公言した屑……となって、下手をすればこの段階で宮廷に話が行って、真相究明……第一王子とアドリエンヌ嬢との婚約は解消。だが、現段階ではオリオール公爵家と王家との結びつきを切るわけにもいかないので、阿呆を廃嫡にして、第二王子のジェレミ―を正式に王太子として改めてアドリエンヌ嬢と婚約させる……いや、一気に結婚まで持ち込む荒業に出る可能性があるな。

 どっちにしても、アドリエンヌ嬢にとって明るい未来とは言えない。

「時間との勝負だ。僕は第一王子派の様子を確認してくる。ルネはアドリエンヌ嬢の方を」
「承知いたしました」
 即座に了承をしてくれる頼もしい義妹。
「それとエレナはクリステル男爵令嬢の怪我の具合や、現場の確認と……」
 と、指折り数えながら指示を飛ばしかけていたところへ、無言で様子を窺っていたエディット嬢が、おずおずと……周囲を見回しながら、なぜか非常に後ろめたそうな様子で口を挟んできた。

 場所が場所だけに、興味ありげにチラチラこちらを窺いながら通り過ぎていく学園生は多いものの、そこにいるのが公爵令息(ぼく)令嬢(ルネ)、そして統一王国最大の財閥であるラスベード伯爵家のご息女(エディット嬢)という錚々たる面子であるのを一目見るや、触らぬ神に祟りなしとばかり足早に通り過ぎていくばかりで、いまのところ話が外に漏れている危険性は少ないだろう(エレナが注意していることもあるし)。

「あのぉ……失礼ながら、ロラン様はアドリエンヌ様、もしくは中立寄りで事を納めようと奔走されるつもりでいらっしゃるのですよね?」
「ええ、まあ。大きな声では言えませんが、紳士として淑女のために労を惜しまないつもりではいます」

 下手に耳目を集めるわけにはいかないので、あくまで雑談の延長のような気楽な態度は崩せないものの、それでも僕はエディット嬢の目を真っ直ぐに見詰め返して頷いてみせる。
 エディット嬢の瞳にほっと安堵の色と精彩が戻って……そして、なぜだかまたすぐに翳りが落ちた。

「――で、あるならすでにもう、手遅れかも知れません」
「は?」
 思わず聞き返すと、彼女はどうにも歯切れの悪い口調で続ける。

「はい、その……実は私は朝、誰もない時間に校舎内や庭を巡るのが趣味なのですが」
 なるほど朝の清涼な時間に誰もいない校舎の静けさや、朝露に濡れる新緑を眺めて風情に浸るというわけか。実に淑女らしい穏やかな趣味だねえ。……なんでドミニクの奴が婚約破棄しようとするのか理解できないな。
「なぜかといえば、緑が多く敷地が広大で建物や収蔵品にも歴史やいわくある物が多いせいか、ここは夜中に害のない野生の魔物や小妖精が徘徊……もしくは住み着いている跡が多く散見できるのです」
 ああ、なるほど同時に知的好奇心を満たすための趣味というわけか。無邪気でいいじゃないか。
「いまでは校舎を管理している家妖精(ブラウニー)さんたちとも一緒にミルクを飲む仲になりましたし、こっそり学園の敷地内に住み着いている黒妖犬(ブラックドッグ)(※見ると死ぬとまで言われる魔物)さんなど、すっかり打ち解けて毎朝糞の始末をして、あと口の中に顔を入れて色艶の確認、肛門に指を突っ込んで健康状態を把握するなどしています」
 ああ……うん、ドミニク。君の気持ちがちょっとだけ理解できた気がするよ……。

「それで、今朝のことなのですが。校内でこのようなものを採取したしまして」
 言いつつポケットからコルク栓で封がされた小さな硝子(ガラス)瓶をふたつばかり取り出して見せる。片方はキラキラ光る燐粉で、もう片方は黒い獣毛と細かな鱗だった。
「こちらは古代精霊語に関する講義室で見つけた『妖精の砂』。これを(まぶた)に掛けられると、たちまち眠りに落ちるという代物で、もう片方は件の事件があったという階段の途中で見つけたのですが、私も初めて見た代物でして、なおも注意深く探っていたところ、そこへエドワード殿下が取巻きの皆様とともに、今回の事件の容疑者である怯える女生徒を、半ば無理やり連行してきまし。そして、この場で吊るし上げ……いえ、事件の真相を明確にすると息巻いて――」

「「なっ……!?」」
 あまりといえばあまりの浅薄な第一王子の行動に僕とルネが絶句する。
「夜討ち朝駆け上等か! くっ、第一王子の爆発的行動力を甘く見すぎていたか!?!」

 臍を噛んでももう襲い。いまごろ真相究明という名の謂れのない魔女裁判が始まっているだろう。

「それで、その場には婚約者であるドミニク様もおられたのですが、私に一瞥もくれることなく、抗議しても取り合わず……それで、急ぎ私付きの従者にアドリエンヌ様へ、緊急を知らせる伝言を立て、取るものもとりあえず、協力してくれそうな皆様を探していたところなのですが……」

 そこでたまたま僕らに逢ったというわけか。
 最初、世間話をしていたのは、僕を警戒して第一王子のところへ助っ人に行かないように牽制か、時間稼ぎをしていたのかも知れないな。
 だけれど、いまは少なくとも味方だと信じようと思いかけている、そんなところだろう。

 ならばその信頼に応えなければ男が廃るというものだ。
「……行こう。これ以上、事態が取り返しのつかないことになる前に!」

 そう三人に促しならが歩みを進めると、ルネ、エレナ、エディット嬢は真剣な、そして嬉しげな表情で頷いて、黙って僕について着てくれた。
予定では、第一王子とアドリエンヌとの対決場面まで行くはずだったのですが。
なかなか進まず申し訳ありません。次回は直接対決ありです。

なお、今週は忙しいので、次回の更新は10/26(木)頃の予定です。
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