↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/32

7:帰省と昔話①

 半年に一度、風射隊に一週間の休暇期間がある。


 この隊は三十人中、二十九人が試験管で生まれた強化人間であるが、十歳までは里親で育てられているため故郷があった。


 皆、嬉しそうな表情で荷造りに取り掛かり、休暇の予定を話し合う。そして帰省の準備ができた者から、フェヴァの元を訪れ本部に戻る日時を伝える。


 この時期が来ると、フェヴァはほんの少し、憂鬱になる。




 風射隊事務室で、来年入隊する人物のプロフィールを眺めていると、ドアがノックされた。


 どうぞと促すと、二か月前に入隊したエンプが入ってくる。

 彼は肩までの黒い髪に、幼さが残る丸い顔をしている。だが鋭く紫の眼光がアンバランスな印象を与えた。


「失礼します!」


 すぐに敬礼したので、フェヴァは手を振って、楽にするよう指示を出す。


「里帰り希望だな」


「はい! 明日から三日間、休暇許可のお願いに参りました!」


 フェヴァは机の上に置いてあるバインダーを手に取り、必要事項を記録する。


「受理した。よい休暇を」


「有難うございます! 自分の出身は周島(すとう)なので、干物をお土産に持って帰ります。楽しみにしてください!」


「ああ、楽しみにしている」


 エンプは「はい!」と返事をしてから、ふと、フェヴァの出身地が気になった。

 あまり自分のことを話さない副隊長にほんの少し興味を持つ。


「副隊長は休暇中も任務が入っているようですが、帰省しないんですか? それとも、自分たちとは少しずらして休暇を取るんですか?」


 フェヴァはため息をつきながら、首を左右に振った。

 隊に入って来たばかりの新人は、大抵この質問をすると、内心苦笑する。


「いいや。俺は休暇をとらない」


 エンプは驚いたように目を見開いた。

 

 彼は試験管ベイビーだが、里親を実の親のように慕っている。いつ死に別れするか分からないため、可能ならば顔を見に帰っていた。


「親に顔を見せないんですか?」


「そうだ」


 フェヴァの脳裏にあの出来事が蘇り、表情が曇る。随分昔の話だが、今尚、彼の心を締め付けていた。


「すみません!」


 フェヴァの表情をみたエンプが慌てて謝る。


「不躾なことを聞きました! お許しください!」


「……いや。怒っていない。すまないな。俺にはもう」


 家族が誰もいない、と答える前に。


「そうそう。帰ったってしょーがないよな~。誰もいねーし」


 コォラが軽口を叩いた。


 フェヴァとエンプは声の方向に顔を向ける。

 コォラはソファーに寝ころんで、だらけていた。


「お前……」


 フェヴァが眉間に皺を寄せて唸る。


 エンプが来た時に、室内はフェヴァ一人だけであった。

 コォラのことだ、話している間に、音もなくこっそりと入って来たのだろうと、フェヴァは盛大なため息を吐いた。


「入ったなら一声かけろ。仕事やるから」


「したくねーからこっそり入って来たんだろうが、わかれ」


「わかるか!」


「隊長、いつの間にソファーへ?」


 エンプは確かにドアの傍に立っていた。

 一人分のスペースを開けていたが、それでも、ドアが動けば風の流れや音で分かるはずだ。

 なのに気づけなかったと、目玉が落ちそうなほど目を見開いて、コォラを凝視する。


「昼寝」


「いえ、やりたいことを聞いたわけではなく……」


 エンプが困惑すると、フェヴァが立ち上がる。


「気配を消して入ってくるなんて、趣味が悪いなコォラ」


「むしろ趣味良いだろ。会話の邪魔しなかったんだし」


「今、邪魔しているだろ」


 コォラが「ぶー」と声を出して、唇を尖らせる。


「いいじゃねーか。俺がここで寝ころんでも、邪魔じゃねーだろ」


「俺の機嫌パラメーターは激減している。見苦しいから座れ」


 フェヴァがコォラの元へ歩くと、襟首を捕まえて起こし、ソファーに座らせた。


「部下がいる。ちゃんとしろ」


 コォラは再びソファーに大の字になってだらけた。

 フェヴァのこめかみに血管が浮かぶ。


「ほお? そうくるなら、お前がやるべき仕事を強制的にやらすからな」


「えー。やだー。俺って戦闘以外取り柄ねぇもん。全部フェヴァにお・任・せ。適材適所で世の中円滑に進める方が楽だと思うぜー」


「てめぇはただ楽をしたいだけだろーが!」


 フェヴァは腰につけていたハンドガンを出し、コォラの頭に銃口を向ける。


 コォラは愉快だと言わんばかりに笑みを浮かべた。


「キシシ、そうとも言う」


「あああああの!」


 不穏な空気が漂ったので、エンプが慌てて声を上げて場を壊す。 

 フェヴァとコォラが視線を向けたので、すぐに話題を変えた。


「副隊長と隊長って、もしかして幼馴染ですか!?」


 フェヴァはハンドガンを下ろして、エンプに向き直る。


「そうだ。こいつが庭に迷い込んできた時からの、腐れ縁だ」


「迷い込む? 迷子ですか?」


 エンプが不思議そうに首を傾げる。


「いや。迷子っていうか。侵入したって感じかな」


 コォラが起き上がり、ソファーに座り、フェヴァを指し示す。


「こいつン家、あの辺りで一番大きくて、立派な豪邸に住んでたんだ。敷地も広かった。だから侵入したいって思うのは当然だろ?」


 フェヴァは舌打ちして「野良犬よりもたちが悪い」と呟いた。


「侵入……ええと。よく隊長と友達になろうと思いましたね」


 正論である。コォラが気難しい表情になったので、エンプは慌てて「副隊長と友達っていいですね!」と持ち上げた。コォラは「だろう」と胸を張ってご機嫌になる。


 フェヴァはコォラを一瞥して、苦虫を噛み潰したような顔になった。


「コォラは血まみれで芝生に倒れていたから、仕方なく、保護したんだ」


「血まみれ!?」


 エンプが驚くと、コォラは神妙な顔を作った。


「そうそう。あれは、空腹に耐えきれずそこら辺の民家に押し入って、食料盗んだ時に軍に追われ、指名手配されて、銃でバンバン撃たれてしまい、逃げ込んだ先が。こいつの家だったってことだ」


 冗談か本気なのか分からないと、エンプが混乱する。


 フェヴァはすぐに訂正した。


「――というコォラの話は大嘘。実際は廃棄処分のクリーチャーが逃走。徘徊している最中に出くわし、命からがら俺の家に逃げ込んだというのが正解だ」


 エンプがぱぁっと表情を明るくする。


「なるほど! そうですよね! あまりにもリアルに想像できたから、どうしようって思いました!」


「ううん? それはどういう意味かなぁ?」


 コォラが目に苛立ちを灯すと、エンプが怯えて後ずさった。


「虐めんな」


 フェヴァはコォラの頭を軽く叩いてから、苦笑する。


「こいつ保護したのはいいが、行く当てがないっていうので、俺の家で飼っていた」


「飼う?」


 エンプがなんとも言えない表情を浮かべたので、フェヴァは笑みを浮かべて頷いた。


「そうしたら、庭を這いまわり、駈けずり回って、そこら辺で粗相をする。落ちているのを拾い食いするのは当たり前。ネズミは口で捕まえるわ、冷蔵庫から盗み食いをするわ、野良猫のボスと張り合ったりと、大変だった。保健所を呼ぼうかと家族で相談したこともあったな。『こんな子、家では飼えません!』って何度も家族会議があって」


 流暢に語っていると、コォラがフェヴァの服の裾を掴んで引っ張る。

 フェヴァが振り返ると、コォラが珍しく引きつった顔になっていた。


「フェヴァ、俺、お前に何か嫌な思いでもさせたか?」


「四六時中」


 フェヴァは冷たい眼差しで突き放した。


 エンプは困ったように眉を下げる。


「……ええと、それも、冗談ですよね?」

 

 コォラがうんうんと頷く。


「俺がそんなことすると思うか!?」


「しそうだろ」


 フェヴァがそう聞き返したので、エンプは頷きかけて慌てて止めた。


 同意するとコォラの尊厳を傷つけることになる。後が怖いので笑って誤魔化し、話を変えた。


「ええと……隊長は、休暇週間で里帰りするのですか?」


読んで頂き有難うございました。

次回は7/7更新です。

物語が好みでしたら☆応援して頂けると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。