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軍人は戦場レンタルされる  作者: 森羅秋
死人の跳梁跋扈
29/30

29:逃げ道の迷い

 

 幸いなことに、窓ガラスを破壊するほどの力はない。


 すりすりと顔をこすりつけながら、視点がばらばらな瞳孔を向けて口を歪まして、諦めるように歩き始める。


 渋滞のため止まることが多く、そのたび、ゾンビが車に張り付いてきた。


(はぁ。体液で窓が汚れるからやめてほしい)


 フェヴァの手がハンドガンを触る。撫でていると、まるで安定剤のように落ち着いてきた。


 そもそも目の前でクリーチャーが動くたび、反射的に撃ちたくなってしまい、ひたすら耐えていた。


(そのうち無意識に撃ちそうでヤバイ)


 そう思うほど、クリーチャーがうろちょろと目障りであった。


「おもしれーな。共同作業してるぜ」


 コォラが笑って指さしたのは、ゾンビは集団でしゃがみこみ、何かを食べている場面である。


 そして人間モドキに襲われた人間が倒れていても、ゾンビはスルーして生きている人間を追いかけていた。


 フェヴァは黙ってその方向を見る。笑っているのは不謹慎であるが、情報は必要だ。


(人間モドキが病原袋で仲間を増やし、ゾンビは食欲のみ、か)


 ばちん! 


 と音がして、前を見る。


 今度は前方の車にゾンビが張り付いていた。


 フェヴァはため息を吐く。左手の指がトントンと、ハンドルを叩く。


「数の少ないうちに狩ってもいいんだが……規律違反は面倒だ」


 ここはカイレムアスターテンで、遍七刻ではない。

 レンタル契約内容以外の業務は、緊急時を除き、基本的に禁止である。


 その理由は保障外だからだ。

 慈善活動をしてもタダ働きになり、怪我をしても医療費も出ない。


 さらにそれで死んだら最悪だ。

 肉体の情報が国外へ漏れてしまい、試験管ベビーの技術として盗まれてしまうだろう。


 観光に行ったとしても期限内に戻らなければ、逃走や脱走として扱われ、追手がやってくる。

 捕まれば強制送還され、遍七刻の利益に反した行動と分かれば、手厚い最悪な処分が待っている。


 フェヴァは苦虫を噛み潰したような顔になった。


 彼は様々な理由から、脱走一歩手前となった経験が数えきれないほどあった。

 こんなふうに仕事終わりに時間を取って、観光に来た時など。九割の確率でクリーチャー侵略に出くわす。


(早くウスレッズアンリ基地に戻ろう。そこで延長があれば、国から出撃命令が出るはずだ。それまでは何もしない。何があろうと無視だ)


 前の車がゆっくりと進むたび、フェヴァはアクセルを踏む。


 不意に、右側から風が入り込んできた。


 まさかと思いコォラを見ると、彼は助手席の窓を全開にて、片腕を出して外を眺めていた。


 フェヴァの右手がハンドガンへ向かうが耐えて、睨むだけに留める。


「ちょっと聞くが、なんで窓を開けっぱなしにしているんだ?」


 コォラはのんびり欠伸をしてから、出していた右腕を上げた。そこには紛れもなくハンドガンが握られている。


 フェヴァの目が大きく見開く。

 窓の向こうから車の隙間を縫って歩くゾンビが、呼ばれたようにこちらに歩いてきた。


 コォラは十二分に、それこそ二メートルの位置まで近づけて。


 パァン!


 ヘッドショットをした。


 ゾンビが後ろに仰け反った瞬間、フェヴァはコォラの首根っこを引っ張って車内に倒すと、即座に窓ガラス開閉ボタンをして閉めた。


 そしてハンドガンのセーフティーボタンを押してから、コォラの手から取り上げる。


「なにをやってるんだ!」


「射撃練習。流石にあれだけ近かったら外せねぇぜ」


 コォラが得意気に話すので、フェヴァの目に怒りが灯る。


「あれは自殺行為だ! 見えない位置から噛まれたらどうする! 頼むから地上最悪のゾンビを作らないでくれ!」


 コォラは目を丸くしていたが、にやっと笑った。


「それも美味しいな」


「止めてくれ。コォラが勝つのが目に見えている」


「ゾンビなのに?」


 不思議そうに瞬きをすると、フェヴァは苦々しそうに言い放つ。


「そうだ。人類が全滅する」


 コォラは嬉しそうな表情になり、背もたれに寄りかかるとふんぞり返った。


「その時は仲間に入れてやるよ」


「まっぴらごめんだ」


 フェヴァは前を見て、距離が開いていたのでその分、車を発進する。


「それにゾンビより、民間人や逃げている車に当たる可能性の方が高い」


「正解。フェヴァは俺のこと好きすぎるなぁー」


「ドアを開けろ。お前を外に投げ捨てる」


 言われて、コォラは素直にドアのロックを外して、ドアノブに手を掛ける。


「本当に開けるな」


 すぐにフェヴァから制止が飛んで、ドアをロックされた。


 コォラは「キシシ、愛が重い」と笑い、手を伸ばしてラジオのスイッチを入れる。

 周波数を合わせるが、ノイズしか流れない。


「ありゃー? ニュース出てこねぇ。どっかの電波塔か、アンテナやられてんじゃね?」


「人間モドキならやりそうだ。最近は知能が発達した奴らが増えてきている。ライフラインを先に攻撃していても、おかしくない」


 前の運転が小刻みにブレーキをかけ始めた。

 車間距離が近すぎと感じて、フェヴァは会話を切って運転に集中する。


 オースイッスナナルーサを出るには南に下る道路に行く必要があるが、中央部から下って来た車が渋滞をなし、堂々と信号無視をして走っているため割り込めそうにない。


 そのため渋滞でも比較的スムーズに動いている中央部方面を進み、どこかで右方面に曲がってナーカル地区から南に下り、ウスレッズアンリ基地へ向かおうと考えた。


「く……路駐やゴミが多いし、途中で乗り捨てた車が……迷惑だ」


 路上の状態の悪さにフェヴァが毒づいた。

 道路地図は頭に入っているものの、初めての場所を実際に運転すると、どこを通っているのか段々分からなくなってくる。


 カラフルかつ様々な様式の建物が並ぶとはいえ、あちこちで人が襲われているのを見ると集中力も切れてくるものだ。


 そしてこのエリアは窓が破られている建物が多かった。

 殴ってこじ開け、中から引っ張り出したかのように見えるのは、窓の周辺におびただしい血痕があるからだろう。


 ただ今は静かだった。

 静かすぎるくらいに、静寂に満ちている。


(それに気のせいか……人間モドキの数が爆発的に増えている。噛まれたのならゾンビになるはずなのに……?)


 ここでフェヴァは一つの推測に気づいて、突っ伏しそうになった。


(まさか……人間モドキが発生した場所に近づいているのか!?)


読んで頂き有難うございました。

次回は8/27更新です。

物語が好みでしたら☆応援して頂けると嬉しいです。

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