25:やっぱし蛇は蛇
ヘリ・輸送機の収納スペースに出ると激しい風音が響いていた。
車両や荷物の隙間から覗く巨大なシャッター、その右側から、激しい風とともに大量の雪が舞い込んでいる。
近づくと、シャッターを下からこじ開けたような穴が開いていた。
コォラとフェヴァはそこから外へ出る。
その途端、視界が白に染まった。
ブリザードが吹き荒れ、視界が悪い。
二人は軍事用輸送ヘリを探すため、互いの姿が見える距離を保ちながら移動する。
(ゴーグルをしていても、きついな)
フェヴァはそう毒づく。エレベーター内でフルフェイスとゴーグルをつけ防寒したものの、視界は悪く、鼻で息を吸うたびに肺から熱を奪われるような感覚があった。
(だが、このくらいならば撃てる)
準備運動のように指を動かす。
即座に撃てるようロケットランチャーを右肩に担いだ。
あとはフロストサーペントを発見するだけであった。
「フェヴァ、三時の方向」
風の合間にコォラの声が小さく聞こえ、フェヴァはその方向を見据える。
基地から四百メートル地点、地上から二十メートル上空にて、ホバリングをしている。
そこから上空へ上がれないのは、フロストサーペントが大きな口で左側の後部ハッチに噛みついているからだ。
全長十五メートルのため陸から浮き上がっているが、ヘリにまきつこうと胴体をくねらせている。その振動により、ヘリは左右に大きく揺れながらも安定したホバリングを続けていた。
「……すごい技術だな」
フェヴァが思わず感嘆の息を吐く。
「だよなー。蛇のガッツには感心するぜ」
コォラが同意しながら、バックパックから無線機を取り出し、フェヴァの左へ移動する。
「おい。そこは機長の腕を感心するべきじゃないのか?」
「いやいや。あれは【アーティ】の操作技術だって。機長なんて単なるおまけ。ここは寒さに耐えながらも獲物を逃がさない蛇に感心するさ」
「視点の違いか……」
「感覚の違いじゃね?」
そう呟いて、コォラはフロストサーペントをじっと見る。風にあおられ体が斜めになっている。機体に絡みつこうとする胴体を弾くように、ヘリが左右に動いていた。
「このままハッチが開いて、中の奴らが蛇の口に落ちるまで待つか」
「ふざけるな。その前に俺たちが凍える」
フェヴァは照準器を覗き込み、フロストサーペントの、口に近い頭部に合わせる。
だがヘリが左右に動き、なおかつ雪により視界が狭まる。
コォラが不思議そうに首を傾げる。
「……寒いのかフェヴァ」
「当たり前だろう! さっさと仕留めて温まりたい!」
「そっかー。じゃあ早く片付けるかな」
コォラは無線機のスイッチを入れ、機長に呼びかけた。
「もっしもっし機長ぉ~。聞っこえ~る、かぃ?」
「なんで童謡のフレーズなんだ!」
フェヴァが即座にツッコミをすると、無線機から機長が応答する。
『な~んだ、お前か、聞っこえるよ~ぉ』
「機長もノるな!」
噛みつくようにツッコミをすると、コォラが「キシシ」と笑った。
「やかましいフェヴァは無視しちゃっていいぜ。ヘリはまだ飛べるか?」
『そうだなぁ、尻が重いんだが、なんとかいける』
フェヴァは呆れたように「せめてハッチって言えよ」と小声で呟く。
「けつ重くても上昇しろよ」
『はー。これ以上は無理だって。【アーティ】も重量不可って投げている』
「分かってるって。ロケランで蛇をぶっ飛ばすから、上手くすればヘリから外れるはずだ」
『えー。お前が撃つのかー?』
コォラはフェヴァをチラ見する。
「まーさかー。撃つのはフェヴァ。失敗したらフェヴァの枕元で恨み辛みを言えばいいさ」
「俺だけの責任か?」
フェヴァが怒りをまといながら呻くと、コォラと機長は声を揃えた。
「ああ。間違いなくフェヴァの責任」
『ああ、間違いなくそいつの責任だな』
「意気投合すんな!」
たまらず叫ぶと、機長が声のトーンを低くすると。
『丑三つ時に覚悟しとけよ。地獄から鬼を引き連れどんぶらこ~どんぶらこ~、針を持って三途の川を渡ってくるからな。ああ灰が足りないから撒けない口惜しい~……』
童話をいくつか合体させながら陰気な喋り方をした。
「止めてくれ。どこからツッコミを入れていいのか分からない」
『この程度で? ツッコミ役が聞いてあきれる』
フェヴァの照準が、うっかりと、ヘリの前方へ行きかけた。だが気を取り直して、フロストサーペントに修正する。
「おいおいフェヴァ。機長への『ツッコミ』は全セリフだろ?」
「お前がそれを言うな」
ギリッと奥歯を噛み締めて、フェヴァは照準をフロストサーペントに定める。
コォラは肩をすくめると、ゴーグルを外して空を凝視する。
「指示出すからうまく飛べ」
『いよいよ佳境にきたって感じだな。神業を見せてやる』
「じゃあ」
コォラはフェヴァが安心して撃てるよう、飛行中の角度と位置を機長に細かく指示した。
陸海空で使用する機体とその動き、天候による影響は頭の中に入っており、短時間でも動かず水平に保つように計算して誘導する。
「そうそう、その位置、その位置。機長、その動き、うまいねぇ~」
(上手くないと機長になれねぇって……。普段からこうやって真面目にすれば、もっと周囲の目が変わるのに)
フェヴァが毒づく。彼も同じ内容が頭に入っておりいつでも発射できる。だが悪天候の時は、コォラを頼りにした方が、成功率は格段に上がった。
「ヒッヒッヒ。いい角度に来たじゃないか」
コォラは低く笑い、楽しそうに目を輝かせる。
反対に、フェヴァは極限まで神経を集中しているため、表情が無くなっている。
フェヴァの全身から緊張感が漂う中、コォラは笑顔のママ機長に指示を飛ばす。
「機長、あと十五秒、その位置確実にキープ。射撃合図よりコンマ三秒遅れて上方へ全走力――頑張れよ」
『信用するぜ。隊長』
「こっちもヘリがなくなったら凍死に決定だ。ヘマはしないさ――撃て」
ヴォウン!
フェヴァは引き金を引いて発射した。
衝撃が体にのしかかり、ほんの少し後ろに後退する。
吹雪を突き抜けたロケット弾は、フロストサーペントの――口の付け根よりやや内側へ着弾し、爆発した。
ドォン!
フロストサーペントの頭が砕け散った――そのタイミングで軍事用輸送ヘリが急上昇して、振り切った。
空中に残った胴体と頭部が、滑るように地面に落下して、大きな雪の煙を巻き上げた。
大量の血液が周囲に散らばったがすぐに凍り、白い色に浸食された。
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次回は8/18更新です。
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