24:使える餌は使うべき
コォラとフェヴァはその足でエレベーターへ向かった。
ワキガの匂いは嗅覚にダメージを受けるが、安全性は申し分ない。
「……狙いは何だ」
あっという間に地下四階へ到着し、エレベーターから降りたところで、フェヴァが問いかけた。いつものコォラであれば、クリーチャーをおびき寄せるため階段を進み、無駄に大きな音を立てるはずだ。
今回はあっさりと目的地に着いたことで、フェヴァの疑心がむくむく膨れていく。
コォラは大きな目を見開いて、瞬きをしてから、首を傾ける。
「狙い……狙いねぇ」
「そうだ。普段なら蛇を追いかけまわすだろ」
「追い詰めるのは好きだけど、この中で駆け回るのは徒労だよなー」
コォラは両手を頭で組みながら、だるそうに歩き始める。
コツコツと足音を立てるが、ここに蛇が居ないことは百も承知だ。
今頃、移動の準備で音を立てている地下一階を気にして、地下二階をうろうろしているはずである。
「ってことで、フェヴァ。この施設を凍らそうぜ」
コォラが電子ロックのついているドアを示した。
「はあ……やっぱりそうか」
フェヴァは髪をかき上げ、呆れたようにため息を吐いたが、否定はしない。
銃弾が効かないため火力を上げるしかないが、様々な機械や薬品、ほかにも貴重なサンプルが置かれているであろう研究施設を破壊することはできない。
追いかけていくにしても、ダクトを経由して移動されたら正確な位置は分からない。
そうなれば、フロストサーペントからこちらに姿を現すキッカケを作る必要がある。
それが寒さだ。
研究員たちがすでに試して成功している。
全てのフロアを氷点下にして、フロストサーペントが自ら研究施設を出るよう、仕向ける必要があった。
フェヴァは電子ロックの前に立ち、サマモリのカードでロックを解除した。
扉が開く。
地下四階は機械室である。精密機器の熱と湿度がこもり、蒸し暑く感じた。
面積は地下三階と同じであるが、二・五メートルの低い天井に、通路の幅も狭い場所だ。
小さめの設備室がいくつも区切られており、空調設備室、除害設備室、電源室、配電盤室などが並んでいる。
フェヴァは初めてきた場所であっても迷わずに空調設備室へ到着した。前もって見たフロアマップを完璧に覚えているからである。
中に入ると熱い空気が身体にまとわりついた。
壁に沿って熱源設備、熱搬送設備、空気調和設備が並び、配管が天井を縫うように走っており、それらが低い唸り声をあげて稼働していた。
フェヴァは中央通路を進み、点検スペースで腰を下ろす。
熱源設備は遍七刻製品で、型番を一瞥しただけですぐに構造を思い出した。
(これなら簡単だな)
パネルを外し、スイッチをオフにして機械を止める。
「これで十分もすれば徐々に寒くなっていくだろう。しばらく待つか?」
入り口に向かって呼びかけると、コォラは意地悪そうな笑みを浮かべ、「おう」と返事をした。
再びエレベーター前へ戻ると、コォラは十五分ほど待機しようと提案した。
「そのくらい経てば冷えるだろー。地下三はここより早く冷えるから、蛇はここに来れない。まあ来たとしても、そのうち寒さで冬眠か凍死すれば万々歳だ」
フェヴァはじとりと、疑惑の眼差しを向ける。
それが狙いなら、フロストサーペントをここまでおびき寄せればいい。
通路幅は狭く、機械が並ぶため、フロストサーペントにとっては動きにくい形である。最終的に、空調ダクトで利用するしかなくなるはずだ。
それなら動きを予測しやすいのに、コォラはあえて選ばなかった。
フェヴァには理由が分かる。
「……だが、ロケットランチャーを撃つために、地上におびき寄せることにした」
そこで言葉を切る。
コォラの口元に笑みが浮かぶ。
「キシシ。寒さと餌の動きで、外に出ないといけないって思うだろうなぁ。図体でかい分、脳みそも大きいから頭いい。だから気づくぜ」
フェヴァは重々しい溜息を吐きながら、呻く。
「研究員とヘリを餌に使うな」
「いいじゃん。俺ら蛇を殺すためにレンタルされたんだし、使えるモノはぜーんぶ使うだけだぜ」
気楽に言い放ち、コォラはウィンクする。
「みんな死ねば分からねぇだろ。小型ヘリがあったし、二人で帰る分には楽勝だろ」
「いいや。小型ヘリでは長距離は飛べない。輸送ヘリだけは守らないと生還できないだろう」
フェヴァが淡々とした表情になったので、コォラはほんの少し眉をひそめた。
「……なら、乗客もヘリも守らないといけねーか」
コォラは若干残念そうに頭を掻きながら、バックパックから無線機を取り出した。
「そんなところに入れるんじゃない」
フェヴァの小言を余所に、コォラはスイッチを押す。微かにノイズ音が流れると、つまみを回して周波数を合わせ、輸送ヘリの無線機に繋いだ。
「おーい、きっきっきっちょ、聞こえるかきっちょーう」
「まともに喋ろ」
フェヴァがすぐにツッコミを入れる。
すると、無線機から低い声が聞こえてきた。
『にゃーんだい風射隊の問題児さーん?』
「猫なで声で気持ちわる!」
フェヴァが反射的にツッコミを放った。
『おおおお……俺の言葉に被せるようなツッコミの素早さと、キレ味がすげぇ。噂通りだぜ副隊長さん』
「何を確認したかったんだ……?」
フェヴァの表情が引きつる。心なしか寒気を覚えてしまい、両腕を組んだ。
『俺の隊はツッコミが足りずボケばかりなんだ。これはいい、癖になる』
「だろう? フェヴァの持ち味は最高だ」
コォラが得意気な顔で二回頷いた後、無表情になった。
「だが、やらない」
『ずるいぞ。こっちにレンタルさせろ』
「やなこった。フェヴァは俺のもの」
「待て。俺を題材にしている理由は分からないが、本題に入れ。行動開始時間まで引っ張るんじゃないぞ」
まるで長電話するなとでも言いたげであるが、コォラは無視して、冷えた頬を手で温めながら話を続ける。
「そっちにさぁ、団体客が乗り込んでないか?」
『たった今、乗り込んでいる最中だ。アーティに任せている』
そこで機長は間を開け、
『お前らはそこに残っていちゃつくのか?』
コォラが「それいいな」と同意したところで、「よくない!」とフェヴァが怒鳴った。
機長のフレンドリーを越えた悪ノリに抗議しようとした、まさにその時。
『……おいおい。シャッターを破って、ばかでかい蛇が出てきたんだが……あ、やべぇな』
ここで無線が切れた。
怒り心頭のフェヴァだったが、すぐに思考が冷えてくる。
「でっかいのが釣れたな。早く行こうぜ」
コォラはエレベーターの開くボタンを押してから、「キシシ」と笑った。
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次回は8/15更新です。
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