19:予想と予感は的中した
掘削区画に入る手前で、巨大封鎖ゲートが道を塞いでいる。
横にスライドして開くタイプで、複合金属で作られており端には氷の結晶が張り付いている。サイズは高さ七メートル、幅は十メートルで大型車両が通れる大きさであった。
凍るような空気と金属の冷たさが、音を吸っているように異様な静けさを保っている。
「閉まってるね」
ハッサルが不思議そうに寸断された車道を見ると、サマモリが苦笑した。
「フロストサーペントを追い詰めるために、車両で入ったあとで閉めたそうだよ」
「あちこち移動できるのに? 誰の案だろう」
「さぁね」
小声でこそこそ話しながら、二人は端にある人間サイズの小型ドアに向かう。
コォラは彼らのすぐ後ろで眺めており、フェヴァは三人から離れた場所で周囲を警戒していた。
「開けますね」
サマモリは職員カードを取り出すと、ドアの横に操作パネルにスライドして暗証番号を入力した。
カチャリ、とロックが開く。
「中に入りましょう」
サマモリが手動レバーを握りしめ、開こうとした――その途端。
ドォン!
封鎖ゲートの向こうから爆発音が轟いた。
一拍おいて、封鎖ゲートが衝撃波を受けて激しく振動する。
それはサマモリの持つレバーも同様だ。隙間から風の塊が叩きつけられた。
「わ!」
サマモリが力負けして一歩後退すると。
「あぶね!」
コォラがドアを蹴って封鎖ゲートに押し付ける。
三秒ほどで、圧が消えた。
ひゅうっと、冷たい空気が封鎖ゲートの微細な隙間から流れてくる。
「い、今のは……」
サマモリが腰を抜かして座り込みながら、手動レバーから手を離す。手は激しく震えており、恐怖の色を浮かべてドアを見つめた。
ハッサルが傍に駆け寄って抱きしめる。
一歩間違えれば二人は吹き飛んだドアに当たって大怪我を負っていただろう。
コォラは足を降ろしながら、フェヴァに顔を向ける。
「フェヴァ。中で爆発したみたいだぞ」
「みたいだな。蛇を仕留めていればいいんだが」
「それだと楽しみがねぇだろ」
コォラは手動レバーを回してドアを引く。向こうの空気が流れてくると、焦げ臭さが一気に充満する。
「あー。ポカしてらぁ」
失敗を仕方がないなと笑う様な、穏やかな声を出しながら、コォラは封鎖ゲートから中に入る。フェヴァも続けて中に入って、眉を顰めた。
二百メートル先に炎上する二台のジープ、その周囲の壁や地面も炎が立ち上がっていた。
ジープの周囲に黒焦げの塊がいくつか落ちている。
「喋るな。周囲に居ると考えろ」
フェヴァが小声で制すと、アサルトライフルを構えながら、足音を立てずにゆっくりとジープへ移動する。
コォラもそれに倣って移動した。
「これは!」
封鎖ゲートを抜けたサマモリは、目の前の光景に言葉を失い、息を飲んだ。その直後。
「ひっ、きゃ……」
ハッサルの甲高い声を聞いて、すぐに彼女の口を手でふさぐ。
「んんん!」
くぐもった悲鳴が口の中に響く。声を出しては駄目だとハッサルは遅まきに気づいて、大丈夫と言わんばかりに頷いた。サマモリが手を離すと。
「サマモリさん」
声を震わせながら胸に飛び込む。
「大丈夫、大丈夫」
サマモリはハッサルを落ち着かせるよう優しく声をかけながら、封鎖ゲートの近くに立ち、軍人の動きを見つめる。
フェヴァは炎に気をつけながら、ジープの傍に近づく。周囲にある黒焦げは人の形をしており、車に乗っている黒焦げはロケットランチャーを担いだまま倒れていた。
上を見上げると、天井を走っている配管の一部が破壊されている。
燃料ガスと圧縮空気の管だろう。未だ、炎が勢いよくジープを焼いているのがその証拠だ。
天井際の壁に沿って、巨大な空調ダクトが一本走っている。その側面には等間隔で点検口が並び、そのうち三つが内側から破壊されている。
コォラが隣に立つと、天井を示した。
「あそこが破けてるな。熱パイプ?」
「阿保か。燃料ガスだろ。熱パイプなら重度の火傷くらいで焦げない」
フェヴァが呆れたように修正すると、コォラが肩をすくめた。
「茹るか、焦げるかの差だろ。やだやだその程度でツッコミなんて心狭すぎ」
「その程度じゃない。全く別物だ」
「はいはい。まぁとりあえず。どっかの馬鹿が燃料ガス管を撃って爆破しちゃったってことで」
コォラは両手をジープにかざした。まるで焚火に当たっているようにほっこりした表情になる。
「暖かくて落ち着くな」
「死体ばかりのところで暖を取るな」
フェヴァは冷たく言い放ってから、周囲に落ちている黒焦げを観察する。
人が均一に焦げており、顔の識別は困難である。特に頭部と肩がよく焼けていて、ほぼ真上から爆撃を受けたのだと予想した。
(ということは、蛇は天井を這っていたのか?)
ジープの周りを見ると、斜め右上に破壊された空調ダクトの点検口がある。
(……ダクト)
フェヴァが静かに考えている横で、
「ちょっとあっち見てくるぜー!」
コォラが手を振りながら、三百メートル先で左側にゆっくりカーブしている通路へ向かう。
通路の先を覗き込むと、今度はスキップしながら戻ってきた。なにか楽しいことがあったようである。
「なぁなぁフェヴァ。あっちの道にも三体の死体があるぜ。あっちは綺麗だったが、霜がついてたな。天井の配管が二つ壊れてたぜ。冷却かもしれねーな」
「なるほど?」
「でさぁ。ブレーキ痕っていうか、カーブ曲がり切れずに壁にあった痕跡があるから。蛇から逃げてあっちからこっちに移動して、固守隊の奴らが天井を這う蛇を狙ってロケラン撃ったけど外れて爆発。それかジープ同士事故って誤発とかな。人為的ミスだぜ。やべぇ」
ケタケタと笑うコォラを尻目に、フェヴァは近づけるギリギリから、目視でジープと遺体を確認する。
黒焦げはほぼ傷がない。ジープも衝突による凹みや傷はあるものの、蛇に締め付けられたとか噛まれたような傷はなかった。
「人為的ミスで巻き添えを食って死んだ、か。所長に聞けば詳細は分かるだろうが……嫌な死に方だ」
味方の攻撃によって死に至った者達に、数秒だけ黙祷を捧げてから、フェヴァは通路の奥――左側にゆっくりとカーブに目を止める。
「蛇はどこへ逃げたのか」
「すぐ近くにいるんじゃねぇの?」
フェヴァの呟きにコォラが答える。目が合うと、楽しそうに笑った。
「だとすると、どこだ?」
「それは分かんねー。爆発の直前までここに居たんだろーけど、火を恐れて一気に距離を開けたんじゃね? そのうち――獲物を回収しにここへ戻ってくるだろ」
ふと、コォラは天井の隅に伸びる空調ダクトを見つめる。
「戻ってくる」
フェヴァもつられて空調ダクトを見る。
ギ……ミシ……
空調ダクトからわずかに軋む音がして、ダクト全体にたわみのような音がわずかに鳴る。
奥から点検口の蓋がわずかに揺れていくのを見たフェヴァは、アサルトライフルを構えながら、封鎖ゲートにいるサマモリとハッサルに怒鳴った。
「そこから離れろ!」
二人の顔色が変わる。
サマモリがハッサルの手を引いて駆け出そうとした時、封鎖ゲートから近い点検口を突き破り、フロストサーペントの顔が飛び出してきた。
読んで頂き有難うございました。
次回は8/4更新です。
物語が好みでしたら☆応援して頂けると嬉しいです。




