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軍人は戦場レンタルされる  作者: 森羅秋
南天極の古蛇
17/29

17:待っていたもの

 ゆっくりと、だがスムーズにエレベータードアが開く。


 目の前にあるのは――大型運搬用の通路であった。


 冷気が流れ込み、エレベーター内の温度が一気に下がる。青白い照明が、冷たい空気をより一層下げてくるようだ。しかし不思議なことに、地下一階よりは暖かく感じた。現に息が白くない。


(おかしいな。こちらの方が暖かく感じる。地下一階の空調は故障しているのか?)


 地下一階を歩いた感覚では、異変を感じなかった。


 何か理由があるかもしれないが、今はこちらに集中しようと、フェヴァは耳を澄ませる。


 空調音が空気を振動させ、至るところから、シュー、と何かが漏れているような音が響く。そこには耳障りな賑やかさがあった。


「なぁんだ。何もいねーじゃん」


 コォラが残念そうに言い放ち、エレベーターから出た。


「勝手に進むな」


 フェヴァはアサルトライフルを手に持つと、ロケットランチャーの安全装置をオンにして袈裟懸けに背負った。


「はやく来いよ」


 コォラに急かされて、フェヴァは通路に出る。


 天井はクレーンレールが走っており、とても高い。エレベーターの速度からおそらく十五メートルはあるだろうと予想した。


 幅は車両が通れるほど広く、金属で補強されている。氷面の下を掘っているため通行が頻繁に行われているのだろう、細かい傷があちこちに刻まれていた。


「さっきの防犯カメラの映像はどのあたりだ?」


 エレベーターから出たばかりのハッサルに、フェヴァは呼びかけた。彼女は一瞬呆けたように目を丸くしていたが、足を止めて腕を組み、記憶を探る。


「……おそらくですが、掘削機に向かう通路だと思います」


「案内を頼む」


「任せて下さい」


 小声で、ハッサルはガッツポーズをした。音の反響を警戒しての小声だろう。


「なぁフェヴァ。車に乗って行こうぜ!」


 コォラは車両格納庫の前で無邪気に大声を上げる。


 ハッサルの顔色が変わり、「しー」とジェスチャーをするも、コォラが言う事を聞くわけもない。


「却下だ。蛇は振動とか体温とかに敏感に反応する。車に乗るということは、こちらの居場所を教えることだ。先ほどなら良かったが、今は駄目だ。不意打ちを食らう確率が上がる」


「面白くないのー。楽しいことしよーぜ!」


 コォラはその場で足をタップダンスをする。

 カツカツと、静まり返った通路に軽快なリズムを響かせながら、ラップのように歌い始めた。


「オレオレ平和暇だぜこりゃよぉ。これだけ広いと、走るのは面倒だな! 早く来いよフェヴァ、フェヴァフェヴァのおバカ」


「なんだと!」


 悪口を乗せると、フェヴァが怒りの形相で怒鳴った。一瞬、アサルトライフルの銃口を向けそうになったものの、音を出すのは危険と判断。殴るためにコォラの元へ駆け出した。


 二人の足音が盛大に響く中、ハッサルが両手で胸を押さえた。


「あああ。わざとなんですよね、知っていますが、これはちょっと……こわいよぉ」


 身を震わせながら、よたよたと走っている。二人に追いつかないとフロストサーペントに襲われる危険性が高まるため、必死である。


「さぁて、何が残っているかなー」


 コォラが車両格納庫のドアを開こうとして、内側から開いた。


「おや?」


「気をつけろコォラ」


 フェヴァは即座にアサルトライフルを構える。対象に向かって引き金を引こうとするが。


「待ってください!」


 中から防寒着を着た研究員の男性が出てきた。銃口を向けられ、泣きそうな顔で両手を上げる。


「わ、私はサマモリ・マズミです。ここの研究員です。う、撃たないで」


「サマモリさん!」


 ハッサルが呼びかけると、サマモリは目を見開いた。すぐに車両格納庫から出て「ハッサルさん!」と叫びながら、彼女を強く抱きしめる。


「生きていてよかったですうううう!」


「なんでここへ来たんですか」


「だって、だって。私の失敗を庇ったじゃないですか。所長になんとかしろって怒鳴られて。ハッサルさんが死んでたら一緒に死のうと思って」


 ハッサルの胸の内を聞いて、サマモリの目に驚きが浮かぶ。


「そんなことを言わないでください。私が何のために……」


「私のためって。サマモリさんの選択は、私を不幸にするだけなんです! 私のためって言うなら、一緒に生きてここを出ましょう! 絶対ですよ! 絶対……っ、ううう」


 ハッサルは感情が高まり、子供の様に泣きじゃくる。サマモリは涙ぐみながら、愛おしそうに抱きしめた。

 恋人同士の世界が始まり――かけたところで、フェヴァが静かに呼びかける。


「なら行動しているのは、固守隊と警備員か?」


 サマモリの思考が現実に戻る。

 第三者の存在を思い出すと顔を真っ赤にして、ハッサルからパッと手を離した。


 コォラは車両格納庫の中を一通り見終わって、出てくる。


「フェヴァ。毒にも薬にもならねぇ馬鹿クセェ恋愛ドラマ終わったかー?」


 フェヴァも似たような気持ちだったが、口に出すことはせず、話を逸らした。


「誰かいたか?」


「いーんや。この中には誰もいないぜ。あいつだけがここにいたんだ」


 コォラがハッサルを注視する。


「……ここで何を?」


 フェヴァが静かに問いかけると、サマモリの目に悲しみが浮かんだ。


「彼らの考え方について行けず……恥ずかしながら一人で逃げて、隠れていました」


「考え方?」


「はい。軍人たちが車を使うと言い出して。ハジロさんたち……警備員と一緒に止めたんですが……。結局、車で掘削機エリアに行きました。私は怖くて逃げてしまって……だって振動で位置がバレやすいのに……信じられない」


「なんだ。ここに来た途端、みんな食われたんじゃねーのか」


 コォラが肩をすくめると、サマモリが「とんでもない!」と声を荒げた。


「怖い事言わないでください。あまねの軍人がなんとかしてくれます!」


「俺やる気ねぇー」


「なっ!」


 サマモリが絶句したところで、フェヴァが手で二人を制した。


「彼らは掘削機エリアに移動したで、間違いないか?」


「はい。間違いありません」


「コォラ……場所は」


 フェヴァはコォラに向き直ると、二つ折りの大きな紙を手渡された。


 何だろう思いフェヴァが紙を広げて見ると、それは南極研究所地下三階と四階のフロアマップであった。



読んで頂き有難うございました。

次回は7/30更新です。

物語が好みでしたら☆応援して頂けると嬉しいです。

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