15:案内拒否争奪戦
「勝手に動くなと言っている!」
フェヴァは面倒だと言わんばかりに渋い表情を作る。
「俺たちは討伐しにやって来た軍人だ。地下三階にいるならそこへ向かう」
「そうそう。クリーチャーは俺たちに任せて、てめぇらは黙って大人しくガタガタ震えてろ」
コォラがあっかんべーをして、頭の横で手をひらひらとさせた。
悪ガキがよくやるちゃちな行動であるが、アラストは盆栽をボールで壊されたかのような怒り心頭の面持ちで睨みつける。
怒鳴るかなと思ったフェヴァだが、彼はドアに顔を向けて大声を上げ、来いとばかりに手を振った。
「セーザワ! シーラサギ! 来い!」
呼ばれて、二人の研究員が不安そうな表情で通路にやって来た。
セーザワと呼ばれたのは二十代の男性でやせ細った姿に目の下のクマが濃い。
シーラサギと呼ばれたのは二十代の男性で中肉中背、疲労困憊の顔をしていた。
二人とも明らかに怯えた眼差しを向けると、アラストは追い払うような仕草をする。
「お前らはこいつらと一緒に地下三階へ行け」
「えっ」
「な、なぜ……」
二人は顔を引きつらせて、明らかに嫌そうな素振りをする。
アラストは軽蔑するような眼差しを向けて、腕を組む。
「このガキどもは軍人という名目でここへ来ている。フロストサーペントをなんとかするといって動くなら、こちらにも協力義務が課せられる。お前らに汚名返上のチャンスをやろうって言ってんだ」
「そんな、フロストサーペントに近づけって言うんですか!?」
「生きたまま飲み込まれるのは嫌だ……っ」
「そもそもお前らがミスしたんだろ! 下に連れて行ったら戻ってくればいい。簡単だ」
アラストが言い切ると、セーザワとシーラサギの顔色が悪くなり、目に涙を浮かべた
「来なくても良いんだが……」
フェヴァがそう助け舟を出すと、アラストから射殺すような視線が飛んでくる。『部外者は口を出すな、俺が一番上だ』と威嚇されていると感じ、部外者なので口を閉じる。
「……生意気」
フェヴァに聞こえる程度の声量で、コォラが不機嫌そうに呟く。
(所長に苛立ってるな。コォラの行動が全て雑になるかもしれない……先が思いやられる)
手間が増えるかもしれないと、フェヴァがげんなりしていると、解析室から女性が一人、通路に飛び出してきた。
「所長、私が行きます!」
名乗りを上げたのは二十代の女性で、眼鏡をかけている。髪が長いのか、フード横から黒髪がはみ出していた。
「私に行かせてください!」
女性が決意の籠った瞳をアラストに向けると、彼は途端に表情を緩ませた。
「カノノは行かなくていい」
「ですが! 私が温度設定をミスしたと思います。ですから私が責任を取りたいのです。行かせてください!」
「こいつらも当日、温度設定をミスした。責任はこの二人が取る。それが筋というものだ」
アラストは柔らかい声色で説明してから、セーザワとシーラサギに軽蔑した眼差しを向けた。
「はー、セーザワとシーラサギ、男性のお前らが逃げ腰で、情けないと思わないのか? 若い娘がこんなに強い覚悟を持っているのに。いいか。今は異常事態だ。己の身の安全より、やることがあるだろう?」
二人の体が怯えるように小刻みに震える。
「そ、それは……」
「おっしゃることは分かりますが……」
両手をこすり合わせ、視線を左右にせわしなく動かす。その様子に、アラストはあからさまに落胆しような、大きな息を吐く。
「その足りない脳みそで考えてみろ。研究者ならば、自らの実験で起きた惨事を食い止める義務がある」
「……し、しかし……蛇が」
「こわ、こわいです……死にたくない」
二人は鼻をすすりながら、行きたくないと懇願した。
アラストは二人の頭を手で叩いて、冷たい眼差しを向ける。
「非常識な考えもここまでくれば立派だな。実験の後始末をしない研究員は必要ないんだよ。お前らの選択肢は二つだ。行くか、クビになるか、選ばせてやろう」
二人は泣きそうな顔になり「それは……」と口にして押し黙った。
「俺なら間違いなくクビを選ぶな」
コォラが聞こえるように返事をすると、フェヴァも「同感だ」と頷いた。
「局長。口出しをして悪いが、怯えている奴らに案内をさせる気はない。足手まといだ」
フェヴァがしっかり断ると、コォラがアラストを指差しする。
「馬鹿キングみたく、マタハラとセクハラとオワハラやっててウケるーっ!」
「コォラ、全部違う。あれはパワハラだ」
「なんでもいいじゃん。ハラスメントデパートで」
「やめろ。それは生きた公害だ」
「キヒヒヒ! 違いねぇ」
コォラが爆笑すると、フェヴァも口元を緩ませた。
目の前で盛大に悪口を言われ、アラストは歯を食いしばり怒りに満ちた目を向ける。
「なんなんだお前ら! 黙って聞いていればパワハラだと!? 俺の愛の鞭だ」
コォラがニタニタと笑いながら、アラストを見据える。その目には明らかな敵意が含まれていた。
「ふへえ~。愛の鞭だって。それって結局は鞭じゃん。聞いたかフェヴァ。痛めつけるだけだって堂々と自白してるぜ」
「コォラ。もう相手にするな。言い合いが始まると時間のロスになる」
フェヴァが静かに制すと、コォラは「そだな」と両手を頭の上で組んだ。そしてアラストへの興味を失くして、エレベーターへ向けて歩き始める。
「お前らみたいなやつはとっとと蛇に食われてしまえ!」
アラストが振り返りながら、捨て台詞を放つ。
彼の視線が無くなった瞬間、女性がアラストの脇をすり抜けて走る。
「待ってください! 私がご案内します!」
そう声を出しながら、コォラとフェヴァを素通りして電子ロックのドアに駆け寄った。
職員カードを照らしてパスコードを入れる。
「カノノ! そんなやつらと行っても死ぬだけだ! ここにいなさい!」
まるで恋人を引き留めるがごとく、アラストが愁いを帯びた表情で近づいてくる。
だがカノノと呼ばれた女性は振り返らない……というか無視をしている。
「考え直せ、俺が守っているじゃないか。カノノ、お前だけは死なせたくない。さぁ」
甘ったるい声で女性の名を呼びながら、アラストが電子ロックのドアに近づく――ので、コォラが数歩ほど前に出た。
「どうした。死地についてくるなら歓迎するぜ」
「くっ」
にたにたとした不気味な表情を見て、アラストの足が止まる。
「来ないのか?」
「……」
「話になんねーや」
アラストの覚悟の程度が分かり、コォラは嗤う。
電子ロックのドアが開くと、女性はアラストから逃げるように、真っ先に外へ出た。
「行くぞ」
フェヴァが呼ぶと、コォラは「おう」と返事をしてから真顔になる。
「所長、俺たちの邪魔をすんじゃねーぞ。でないと、ぶった切るからな」
コォラが牽制すると、アラストは気圧されたように後退した。
「う……死んでしまえ!」
と捨て台詞を吐いて解析室に逃げた。
「コォラ、遊んでないで早く来い」
フェヴァが電子ロックの向こう側から催促するので、コォラはにぱっと笑って、その場を後にした。
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次回は7/25更新です。
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