14:みんなが気になる大きな蛇
早速、任務放棄の一声を聞いたフェヴァは内心頭を抱えた。正当な理由なく、勝手に任務放棄は許されない。
コォラが足を動かす前に、速攻で釘を刺す。
「コォラ。今はふざけていい時じゃない。任務は任務だ」
コォラは嫌そうに口をへの字にしたものの、頭を乱暴に掻いて気持ちを切り替えると、「だな」と笑った。
アラストの視線がフェヴァに移動した。そのタイミングでフェヴァは名乗りを上げる。
「俺は遍七刻点島陸軍所属、風射隊副隊長のフェヴァだ。こいつは隊長のコォラ。訳あってこちらのクリーチャー討伐に派遣された」
「……試験管ベビーの使い捨て軍人。俺は遍七刻周島の出身だから風射隊という名は知らん。強いのか?」
「おう。十代で戦闘に慣れていない奴ばかりが揃っている隊だ。俺はそいつらをビシバシしごいて戦場で使えるようにするのが仕事だぜ」
コォラが胸を張ってドヤ顔をすると、アラストが嫌そうに表情を歪めた。
ますます使えないやつが来たと思っているのだろう。コォラは彼の心情を読み取ってにやにやと笑った。
「コォラ」
フェヴァが視線で叱ると、コォラは口笛を吹いて誤魔化した。
アラストは右手で頭を抱えている。他の研究員たちも不安そうな表情を浮かべている。
明らかに空気が悪くなったが、フェヴァは胸を張る。
「互いを知る必要ない。俺たちが知りたいのは研究施設で何が起こっているのか。クリーチャーの正体だ」
アラストは睨みながら、深いため気を吐いた。フェヴァの佇まいや雰囲気は熟練の軍人だ。ある程度の訓練は済んでいると推測してから、「チッ」と舌打ちして、腕を組んだ。
「期待外れだが、ガキとはいえ軍人だ。何かの役には立つはずだ。いいか、教えてやるんだから一度で覚えろ。質問もなしだ」
あまね南極研究施設は氷床コアから古代微生物・ウィルス・生物を採取し、DNAの研究を行っている。
地下三階にある掘削制御室からボーリングし氷を採取している最中、地下四五七八メートル付近の氷床で、巨大な大蛇を発見した。
完全に凍り付いており生命兆候がないと判断し、研究のために回収。
地下二階の保存冷凍庫で保存していたが、二日後、突然目を覚まし、氷を割って這い出る。
点検しに向かった研究員を襲い、保存冷凍庫から脱走。
空調ダクトを使って、地下三階から地下一階まで移動しながら、人間を襲っている。
研究施設で働いていた二十六人と、派遣された軍人も六人が捕食され、二日間の犠牲者は三十二人となった。
「被害が出た直後にあまね軍に要請したら半日後に十人の軍人が到着したんだがなぁ。あっという間に、隊の半数以上が捕食された。エリートだと豪語したくせに、まったく使い物にならん」
「そりゃそうだ。固守隊は実戦で役に立たねぇって」
コォラが鼻で笑ったので、フェヴァはすぐに彼の胸倉を掴んだ。
「どこまで知っている」
「いやいや知らないぞ? あまね南極研究所に救援に行った固守隊が軒並みエリート校出身という実務経験ゼロに等しいとか、そいつらから緊急SOSが本部に来たことで俺たちに急遽変わったことなんて、知ってるはずないじゃないか」
「チッ、そうか」
フェヴァは苛立ったように言い捨てながら、コォラを離す。
「クリーチャーの特徴は?」
「みんなの大好きな蛇は全長十五メートル。胴回りは九十センチってところか? フェヴァお察しの通り、空調ダクトを使って移動してるみたいだなぁ。警備室のダクトに痕跡があったし。なぁアラスト、そうだよな」
いきなりコォラに親しく呼びかけられ、アラストは一瞬呆けた。だがすぐに気を取り直す。
「あ、ああ……よくわかってんじゃねぇか。『フロストサーペント』は古代蛇ティタノボアのサイズに近く、鮮やかなオレンジと赤の模様がコーンスネークに似ている」
「フロストサーペント?」
フェヴァが聞き返すと、
「知らないのか? 蛇のコードネームだよ」
アラストの口元が吊り上がった。
「いやぁ困ったねぇ。こんな基本も知らない軍人が来るとは思わなんだ」
フェヴァの失敗を待っていたかのような、勝ち誇りが強く滲んでいる。
「可哀想だから説明してあげようじゃないか。氷を割って出たのは、外部から効率よく熱を吸収できたからだ。そして鱗が割れていないことから凍結耐性たんぱく質をもち、低温でも筋肉が硬直しにくいと考えられる。一つ不思議なのは交戦的な点だが、冬眠から醒めた空腹ではなく、人間の味を覚えているからと推測すれば」
ここで間を持ち、興味を惹かせる。
フェヴァが「で?」とあえて催促をすると、アラストは大きく目を見開いて驚きを露わにした。
「なんとうことだ。この意味が分からないのか。はー、嘆かわしい」
「で?」
「つまり自然の生物とは考えられないということだよ。あれは人間の手で作られ、閉じ込められたものだろうと推測できる。過去の遍か、ほかの国か、誰の仕業か分からないが……」
「そっちの方が助かる。俺はクリーチャー専門だしな」
コォラが明るい表情で胸を張ると、アラストと研究員たちが困惑の眼差しを向けた。
フェヴァは部屋にいる人数を確認する。この場に居るのは十六人であるが、その中に軍人はいない。
「所長。固守隊がいないようだが」
「あいつらは汚名返上と言ってフロストサーペントを追って地下三階に向かった。上手くいくかは……」
「……そうです!」
一人の研究員が思い出したように声を出すと、後ろを振り向いて実験テーブルに置かれている二台のノートパソコンに顔を向けた。その動きにつられるように、皆、ノートパソコンに群がる。
「軍人たちは無事に降りたか?」
「武器調達できてると良いんだけど」
「倒さなくてもいいから無事に戻ってきてほしい」
人だかりができているので、コォラもフェヴァも近づけない。
「よし。フォーメーションだ!」
「は? ……っと!」
コォラがフェヴァの背中に飛び乗ると、袈裟懸けに背負われたショットガンとアサルトライフルの間に足を差し込み、二本の銃を踏み台にして肩の上によじ登り、肩立ちをした。
ぐらつかないよう、フェヴァは咄嗟にコォラのふくらはぎを持って支える。
背丈が高くなったコォラは持ち前の視力でノートパソコンの画面を把握して、フェヴァに伝える。
「一つは多分、防犯カメラだな。地下三階と地下二階。動きがあるのは地下三階だ。もう一つは誰かの視線だから、小型カメラの映像かもな。視点は五つだ。誰かは知らね」
防犯カメラの映像は四人乗りのオープンカージープが二台走っているのが見えた。
地下三階の天井は十五メートルほどで、三階吹き抜けの巨大通路にいる。
天井には熱パイプとガスパイプが交互に走っている。
配管の継ぎ目が壊れている部分もあり、蒸気が漏れていた。
金属パネルで覆われた壁は、ところどころに圧力計が設置されており、異常を知らせる赤い点滅が蒸気で屈折され、周囲を照らしていた。
床は荷物輸送用のレールが埋め込まれており、ジープはそれを避けながら、巨大な何かが通ったような擦れ跡を追っている。
ノートパソコンを操作する研究員が、周囲を詳しく見ようと映像をズームアウトした時、うねっとした長い物体が猛スピードで過ぎ去った。
「ぎゃあああああ!」
研究員たちが軒並み悲鳴を上げ、身体を仰け反る。ある者は床にしゃがみ込んで恐怖に震えながら顔を覆っていた。
「コォラ。フロストサーペントの姿が見えたのか?」
フェヴァが尋ねると、コォラは「うん」と頷いた。
「画面いっぱいに蛇の鱗が見えた。直進だったし、写った時間から消えるまでを計ったら一・五秒ほどだったな。えーと……時速五十キロ?」
「距離を時間で割るんだ。二十メートルで時間が一・五秒なら……時速四十八キロだ」
「同じじゃん」
「二キロも違う」
「まぁクリーチャーなら遅い方だな」
「そうとも言える」
コォラが再び映像に目を向けた時、ノートパソコンから音声が出てきた。
『おい! おい! アラスト所長! 聞こえるか!? こちらは固守隊のクージだ。蛇を追っているんだが見失った! そこから確認できないか!?』
言われて、ノートパソコンを操作している研究員たちが、画面をチェックしてフロストサーペントを探した。
全員がわたわたとしている中、フェヴァはコォラの足を後ろに押して落とした。
「何すんだよ」
着地したコォラはやや不満げな顔で腕を組む。
だがフェヴァは「行くぞ」と小さく告げてから、ドアへ足を向ける。コォラは肩をすくめてその後をついて行った。
「どこへ行く! 勝手に徘徊しないでもらいない!」
フェヴァがドアを開けようとしたところで、アラストが怒鳴った。だが一瞥してから遠慮なくドアを開けて通路へ出る。蛇は複数いるとは聞いていない。地下三階にいるのならここでいくら音を立てても危険はないだろう。
コォラも続いて通路に出ると、アラストが大股で近づき、通路に出てきた。
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次回は7/23更新です。
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