11:喜び雪駆け回り
『ってことで、いってらっしゃい! 装備は自由に整えてねー!』
【アーティ】が明るく誘導したのち、後ろのハッチが開いた。
凍傷しそうなほど冷たい風が入り込むと、外気に近い壁がみるみる白くなっていく。
さっさと追い出すために機長が開けたと、説明をしなくても分かったが。
「もう数分ほど待っていてくれてもいいのに」
フェヴァは思わず不満を零す。
「キシシ、これじゃあ凍死待ったナシだな」
コォラが笑いながらキャビンの中を歩き始める。
「こら。準備を手伝え! その恰好で遠くへ行くんじゃないぞ!」
フェヴァはハンドガンを収め、詰まれている箱から極寒に耐えられる装備を探し始めた。
(今の装備にプラスするならこれだな)
ライトグレーの外套とオーバーパンツ。
フェイスマスクにゴーグル。
厚手の手袋。
ブーツの上から装着する、深いラグ入りのオーバーソール。
フェヴァはそれらを二人分取り出し、整然と床に並べた。
「コォラ、装備を借りて移動を……」
顔を上げて呼びかけると、コォラが野球ボール大の雪玉を投げてきた。咄嗟に腕でガードするが、雪がはらはらと装備に降りかかる。
「ハハハ! 命中!」
「どこから取って来た!」
フェヴァは眉間にしわを寄せて睨む。
雪が積もるハッチの傍に、コォラは立っていた。
かき集められたかのような筋が足元に広がっているので、中に入り込んだ雪で雪玉を作ったのだろう。
彼はにたにたと笑いながら、両手で何かを握って――二つ目の雪玉を作っていた。
フェヴァの目に怒りが灯り、立ち上がって装備を指し示した。
「遊ぶな! さっさとこれを着ろ!」
「へいへーい」
コォラは握っていた雪玉を後ろに投げ捨てて、とことこと歩いて装備の傍に立ち、一瞥する。
「衝撃耐性は薄いけど、いい感じだな!」
口では褒めているが、表情を見るからにあまり気乗りしないようだ。だがフェヴァが選んだものなので手に取り、着始める。
「仕方ないだろ。おそらく通常任務用の防寒着だ」
フェヴァはため息をつきながら、防寒着を着用する。最後にフェイスマスクにゴーグルをつけ、フードを被ると、襟首の内側にあるスイッチを押し、透明な軍事用光硬化膜ヘルメットとなり頭部に展開する。
寒さは和らいだが、フードのせいで視界がかなり狭い。
後ろを特に注意しなければと思いながら、武器や弾薬、投擲のチェックを終えた。アサルトライフルを斜めに掛け、サブマシンガンを胸に掛ける。
「コォラ、準備は?」
「いつでも良いぜ」
コォラは手袋をつけ、指の動きを確認していた。
防寒着の前を閉めず全開にしている。動く服の隙間から刀の柄が見えた。いつの間にか腰にぶら下げている。
彼は銃器類をほぼ持たない。超近接戦を好むためという建前があるものの、実際には射撃の腕が素人以下なので、危なくて持たせられないというのが本音だ。
その分、投擲系をガッツリ持っているに違いない。
いつものことなのでフェヴァはもう注意すらしなかった。
「行こう」
「おっけー!」
二人は軍用ヘリから外へ出てすぐに、下半身が雪に埋もれた。
「きゃっほー! 雪だー!」
コォラが歓声を上げながら、雪の中を進んでいった。
建物を探すためフェヴァは周囲を見渡すが、吹雪のため景色が灰色に染まり、何も見えなかった。
(……確かフライトは十時間弱。まだ昼間の時間だが、暗いな)
「お、フェヴァ。あそこじゃないか?」
コォラが指し示した先に、雲間から太陽の光が覗く。
柔らかいとはいえ直視すると眩しく、フェヴァは目を細めた。
太陽が再び雲間に隠れると、二階建てのコンクリート建築が見えてきた。サイズとしては四角い一軒家だ。
大型シャッターの両横に縦長のライトが赤く光っている。緊急を示す色のため、到着した軍用輸送ヘリを招く気はないようだ。
「あれが南極研究所」
フェヴァは背負っていたアサルトライフルを持ち、構えながら雪をかき分けて進む。
(……ヘリは?)
ふと、気になって後ろを振り返った。
軍用輸送ヘリは飛び立っていない。どうやら時間になるまで飛び立たないようだ。
徐々に白化粧が施されると、機長の安否が気になった。
だがすぐに『極寒に強い個体』なのだろうと考え、前を向く。
コォラはそれを見て笑った。
「大丈夫じゃね? キサズは寒さに強い遺伝子があるってさ」
「……キサズ?」
「機長の名前」
フェヴァは足を止め、疑惑の眼差しを向ける。
サプライズと言っていた理由が、ここで分かった気がした。
「知り合いだったのか? 途中で任務変更になったのを知っていて、機長と一芝居うって、俺を驚かせたかったんだな。止めてくれ」
「おいおいフェヴァ。俺がお前をハメるなんて、そんな超難易度特殊技術もっているわけねーじゃん。むしろ欲しいくらいだ」
「それもそうだな」
「少しは否定してくれよー」
コォラは脱力したように頭を前に傾けてから、姿勢を正す。
「まぁそんなとこも好きだぜフェヴァ」
「話を逸らすな。どこまでが作り話だ?」
「全部」
フェヴァが雪の中を猛ダッシュしたので、コォラは「きゃー」と楽しそうな声を出しながら、物凄いスピードで雪をかき分けて――姿を消した。
この辺りは腰以上の高さがある。しゃがめば見えにくくなるだろう。
フェヴァは追いかけるのを諦め、南極研究所へ向かう。
適当に遊んだら帰ってくるので、放っておくのが一番だ。
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次回は7/16更新です。
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