表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
軍人は戦場レンタルされる  作者: 森羅秋
南天極の古蛇
11/29

11:喜び雪駆け回り

『ってことで、いってらっしゃい! 装備は自由に整えてねー!』


 【アーティ】が明るく誘導したのち、後ろのハッチが開いた。


 凍傷しそうなほど冷たい風が入り込むと、外気に近い壁がみるみる白くなっていく。

 さっさと追い出すために機長が開けたと、説明をしなくても分かったが。


「もう数分ほど待っていてくれてもいいのに」


 フェヴァは思わず不満を零す。


「キシシ、これじゃあ凍死待ったナシだな」


 コォラが笑いながらキャビンの中を歩き始める。


「こら。準備を手伝え! その恰好で遠くへ行くんじゃないぞ!」


 フェヴァはハンドガンを収め、詰まれている箱から極寒に耐えられる装備を探し始めた。


(今の装備にプラスするならこれだな)


 ライトグレーの外套とオーバーパンツ。

 フェイスマスクにゴーグル。

 厚手の手袋。

 ブーツの上から装着する、深いラグ入りのオーバーソール。


 フェヴァはそれらを二人分取り出し、整然と床に並べた。


「コォラ、装備を借りて移動を……」


 顔を上げて呼びかけると、コォラが野球ボール大の雪玉を投げてきた。咄嗟に腕でガードするが、雪がはらはらと装備に降りかかる。


「ハハハ! 命中!」


「どこから取って来た!」


 フェヴァは眉間にしわを寄せて睨む。


 雪が積もるハッチの傍に、コォラは立っていた。

 かき集められたかのような筋が足元に広がっているので、中に入り込んだ雪で雪玉を作ったのだろう。


 彼はにたにたと笑いながら、両手で何かを握って――二つ目の雪玉を作っていた。


 フェヴァの目に怒りが灯り、立ち上がって装備を指し示した。


「遊ぶな! さっさとこれを着ろ!」


「へいへーい」


 コォラは握っていた雪玉を後ろに投げ捨てて、とことこと歩いて装備の傍に立ち、一瞥する。


「衝撃耐性は薄いけど、いい感じだな!」


 口では褒めているが、表情を見るからにあまり気乗りしないようだ。だがフェヴァが選んだものなので手に取り、着始める。


「仕方ないだろ。おそらく通常任務用の防寒着だ」


 フェヴァはため息をつきながら、防寒着を着用する。最後にフェイスマスクにゴーグルをつけ、フードを被ると、襟首の内側にあるスイッチを押し、透明な軍事用光硬化膜ヘルメットとなり頭部に展開する。


 寒さは和らいだが、フードのせいで視界がかなり狭い。


 後ろを特に注意しなければと思いながら、武器や弾薬、投擲のチェックを終えた。アサルトライフルを斜めに掛け、サブマシンガンを胸に掛ける。


「コォラ、準備は?」


「いつでも良いぜ」


 コォラは手袋をつけ、指の動きを確認していた。

 防寒着の前を閉めず全開にしている。動く服の隙間から刀の柄が見えた。いつの間にか腰にぶら下げている。


 彼は銃器類をほぼ持たない。超近接戦を好むためという建前があるものの、実際には射撃の腕が素人以下なので、危なくて持たせられないというのが本音だ。

 その分、投擲系をガッツリ持っているに違いない。


 いつものことなのでフェヴァはもう注意すらしなかった。


「行こう」


「おっけー!」


 二人は軍用ヘリから外へ出てすぐに、下半身が雪に埋もれた。


「きゃっほー! 雪だー!」


 コォラが歓声を上げながら、雪の中を進んでいった。


 建物を探すためフェヴァは周囲を見渡すが、吹雪のため景色が灰色に染まり、何も見えなかった。


(……確かフライトは十時間弱。まだ昼間の時間だが、暗いな)


「お、フェヴァ。あそこじゃないか?」


 コォラが指し示した先に、雲間から太陽の光が覗く。

 柔らかいとはいえ直視すると眩しく、フェヴァは目を細めた。


 太陽が再び雲間に隠れると、二階建てのコンクリート建築が見えてきた。サイズとしては四角い一軒家だ。


 大型シャッターの両横に縦長のライトが赤く光っている。緊急を示す色のため、到着した軍用輸送ヘリを招く気はないようだ。


「あれが南極研究所」


 フェヴァは背負っていたアサルトライフルを持ち、構えながら雪をかき分けて進む。


(……ヘリは?)


 ふと、気になって後ろを振り返った。


 軍用輸送ヘリは飛び立っていない。どうやら時間になるまで飛び立たないようだ。

 徐々に白化粧が施されると、機長の安否が気になった。


 だがすぐに『極寒に強い個体』なのだろうと考え、前を向く。


 コォラはそれを見て笑った。


「大丈夫じゃね? キサズは寒さに強い遺伝子があるってさ」


「……キサズ?」


「機長の名前」


 フェヴァは足を止め、疑惑の眼差しを向ける。

 サプライズと言っていた理由が、ここで分かった気がした。


「知り合いだったのか? 途中で任務変更になったのを知っていて、機長と一芝居うって、俺を驚かせたかったんだな。止めてくれ」


「おいおいフェヴァ。俺がお前をハメるなんて、そんな超難易度特殊技術もっているわけねーじゃん。むしろ欲しいくらいだ」


「それもそうだな」


「少しは否定してくれよー」


 コォラは脱力したように頭を前に傾けてから、姿勢を正す。


「まぁそんなとこも好きだぜフェヴァ」


「話を逸らすな。どこまでが作り話だ?」


「全部」


 フェヴァが雪の中を猛ダッシュしたので、コォラは「きゃー」と楽しそうな声を出しながら、物凄いスピードで雪をかき分けて――姿を消した。


 この辺りは腰以上の高さがある。しゃがめば見えにくくなるだろう。


 フェヴァは追いかけるのを諦め、南極研究所へ向かう。

 適当に遊んだら帰ってくるので、放っておくのが一番だ。



読んで頂き有難うございました。

次回は7/16更新です。

物語が好みでしたら☆応援して頂けると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ