10:南極にようこそ
言っている意味が分からず、フェヴァは目を見開いたまま動きを止める。数十秒ほど間を開けて「はあ?」と驚いた声を出す。
『このヘリは二十四時間後に自動で飛び立つので、それまでに解決して乗り込んでね』
フェヴァは鋭く息を飲んでから、呻く。
「南極? そんな馬鹿な。現在地を教えてくれ【アーティ】」
『ここは、あまね南極研究所の滑走路だ』
「……マジか」
フェヴァが左手を額に当てる。一気に血圧が上がったような眩暈を覚えて、深呼吸をする。
(嘘だと思いたいが、機内の気温が寒冷地だと教えている。なんでこうなったんだ?)
速やかにこうなった原因を考える。
一番妥当な推測は――
「……乗るヘリを間違えた?」
「熱帯雨林っていう南極の地名があるんじゃね?」
「アホなこと言うな」
やはり乗るヘリを間違えたというのが正しいだろう。
フェヴァはコォラを睨みながら大股で近づき、見下ろす。
「コォラ。なにをした?」
「俺を疑っているな」
コォラの目が爛々と輝いていた。まるで暗闇からこちらを狙っているヒョウのようだ。
フェヴァはすぐにこいつが元凶だと察して怒鳴ろうとしたが、コォラが手で制す。
「よし、機長につなげてもらおうぜ。【アーティ】」
『わかった!』
すると、スピーカーから男性のしわがれた声が流れた。
『なんだぁ? 南極についたぞ。降りろよ』
「機長、質問だ」
コォラがキリっと真面目な顔になる。
「俺たち熱帯雨林に行く予定だから防寒着ないんだ。南極って寒いよな? ここにある荷物に着れそうなのあるか?」
「もっと質問内容考えろ!」
フェヴァはコォラの頭を叩いてから、横に押しのける。
「っとと、フェヴァは情熱的だなぁ」
押された勢いで椅子に座ったコォラは、お手並み拝見とばかりに手と足を組んで、楽しそうにフェヴァを見上げた。
「機長、このヘリは熱帯雨林に輸送するものではないのか? 俺たちはクリーチャー討伐に向かうため、このヘリに乗ったはずだ」
『あー……? あー……、乗るヘリを間違えたんじゃないか?』
「だよな」
コォラがあっけらかんと頷くので、フェヴァの手が無意識にハンドガンへ伸びる。だがここで発砲するのは駄目だと理性が働き、手を降ろす。深呼吸を行って怒りを鎮めた。
「……ったく」
フェヴァは苦渋に満ちた表情になり、どこで間違えたのかを考えた。
まず昨晩、熱帯雨林のクリーチャー討伐任務が入った。
そこで軍用ヘリを手配、申請手続きを済ませた。
早朝、ヘリに積み込む装備をコォラに頼み、先にヘリへ行ってもらった。
駐機場へ向かうと、コォラが手招きをしてそのヘリに乗った。
「間違えたのはおそらく……」
フェヴァは眉間に皺を寄せ、本気で呆れたような視線をコォラに向けた。
「……お前、まさかと思うが。機体番号を間違えたのか?」
「フッ、まさかぁ」
コォラが輝くような笑顔になる。
「ちゃんと途中まで整備兵に案内されたぞ。んで、番号『9』のヘリだ」
『ここは番号6だ』
機長が静かにツッコミをする。
フェヴァの目つきが鋭くなると、コォラが「あれー?」とわざとらしく首を傾げた。
「間違えたかなぁー?」
『ああ、6番と9番の紙を逆に見ていたから間違いないだろう』
「コォラ」
フェヴァは凶悪な形相になると、コォラの胸倉を掴んで持ち上げた。
「お前知ってただろ、紙をくるくる回した時にこの悪戯を思いついたんだろ!」
コォラはふっと鼻で笑った。
「6と9は、誰もが一度は間違える数字だろ?」
「間違えるほうがどうかしている!」
フェヴァが持ち上げたまま乱暴に揺らすと、コォラが「キシシ」と笑った。
「まーさーかー。南極に行くなんて思わなかったさ。研究施設で巨大な蛇が冬眠から醒めて大暴れしたとか、三日前に討伐に出された班が全滅したとか、このヘリは研究員と資料を救出するための部隊を運ぶとかさ。まーったくこれぽーっちも知らないなぁ! あ、資料は俺のポケットに入っているぞ☆」
「知ってるじゃねぇかああああああああ!」
怒声によって勢いが付き、コォラの手足がぶんぶんと揺れる。
「たっのしー♪」
「じゃねぇよ!」
フェヴァは揺らした勢いをつけてコォラは地面に叩きつけた。
キャビンが軽く振動するような強さがあったが、コォラはけろっとした表情で大の字になり、楽しそうに笑った。
「研究施設で暴れている蛇のデータをもらったぜ。出発前にここの機長から」
フェヴァが左手で頭を押さえながら、右手でハンドガンを触る。
「ああああもう、いつ、どこで、任務が変わったんだ!」
『安心して! 二人が乗るはずだったヘリは火車隊が乗ってるから大丈夫だよ! どちらとも任務に支障がないのさ!』
【アーティ】が付け加える。まさにそこがフェヴァの気になっていたところであったため、ゆっくりと右手を降ろした。
「火車隊が……それなら安心だ」
『うん、彼らと任務を交換した形だね』
「あっちも『6』と『9』を間違えたんだな!」
コォラが立ち上がりながら胸を張るので、フェヴァは足払いをかけて転がした。
『こちらの出発が早かっただけだ。風射隊の隊長と副隊長が乗って来たから、任務の再確認をした。このまま続行して良し、と指令がきたんで、お前らを連れて来た』
『火車隊は特殊任務の時人数多くてそこそこ熟練。人海戦術の方が熱帯雨林の任務に適していると判断されたのさ。一分くらいで』
機長と【アーティ】の説明を聞いて、フェヴァは再び右手でハンドガンを触った。
「それはまさか、コォラがヘリを間違えたことが発端で? だから正しいヘリポートに案内せず、そのままにしたと」
『たぶんそだねー。コォラ隊長が即決してこっちの任務になったんだけど、知らなかった?』
フェヴァはショルダーホルスターからハンドガンを抜き取り、コォラの頭に照準を当てる。
「なんで、教えなかった?」
怒りで震える声を聞いて、コォラがにこりと笑った。
「サプラーイズ!」
フェヴァの眉間に血管が浮かぶが、辛うじて発砲しなかった。
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次回は7/14更新です。
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