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軍人は戦場レンタルされる  作者: 森羅秋
南天極の古蛇
10/29

10:南極にようこそ

 言っている意味が分からず、フェヴァは目を見開いたまま動きを止める。数十秒ほど間を開けて「はあ?」と驚いた声を出す。


『このヘリは二十四時間後に自動で飛び立つので、それまでに解決して乗り込んでね』


 フェヴァは鋭く息を飲んでから、呻く。


「南極? そんな馬鹿な。現在地を教えてくれ【アーティ】」


『ここは、あまね南極研究所の滑走路だ』


「……マジか」


 フェヴァが左手を額に当てる。一気に血圧が上がったような眩暈を覚えて、深呼吸をする。


(嘘だと思いたいが、機内の気温が寒冷地だと教えている。なんでこうなったんだ?)


 速やかにこうなった原因を考える。


 一番妥当な推測は――


「……乗るヘリを間違えた?」


「熱帯雨林っていう南極の地名があるんじゃね?」


「アホなこと言うな」


 やはり乗るヘリを間違えたというのが正しいだろう。


 フェヴァはコォラを睨みながら大股で近づき、見下ろす。


「コォラ。なにをした?」


「俺を疑っているな」


 コォラの目が爛々と輝いていた。まるで暗闇からこちらを狙っているヒョウのようだ。


 フェヴァはすぐにこいつが元凶だと察して怒鳴ろうとしたが、コォラが手で制す。


「よし、機長につなげてもらおうぜ。【アーティ】」


『わかった!』


 すると、スピーカーから男性のしわがれた声が流れた。


『なんだぁ? 南極についたぞ。降りろよ』


「機長、質問だ」


 コォラがキリっと真面目な顔になる。


「俺たち熱帯雨林に行く予定だから防寒着ないんだ。南極って寒いよな? ここにある荷物に着れそうなのあるか?」


「もっと質問内容考えろ!」


 フェヴァはコォラの頭を叩いてから、横に押しのける。


「っとと、フェヴァは情熱的だなぁ」


 押された勢いで椅子に座ったコォラは、お手並み拝見とばかりに手と足を組んで、楽しそうにフェヴァを見上げた。


「機長、このヘリは熱帯雨林に輸送するものではないのか? 俺たちはクリーチャー討伐に向かうため、このヘリに乗ったはずだ」


『あー……? あー……、乗るヘリを間違えたんじゃないか?』


「だよな」


 コォラがあっけらかんと頷くので、フェヴァの手が無意識にハンドガンへ伸びる。だがここで発砲するのは駄目だと理性が働き、手を降ろす。深呼吸を行って怒りを鎮めた。


「……ったく」


 フェヴァは苦渋に満ちた表情になり、どこで間違えたのかを考えた。



 まず昨晩、熱帯雨林のクリーチャー討伐任務が入った。

 そこで軍用ヘリを手配、申請手続きを済ませた。


 早朝、ヘリに積み込む装備をコォラに頼み、先にヘリへ行ってもらった。

 駐機場へ向かうと、コォラが手招きをしてそのヘリに乗った。



「間違えたのはおそらく……」


 フェヴァは眉間に皺を寄せ、本気で呆れたような視線をコォラに向けた。


「……お前、まさかと思うが。機体番号を間違えたのか?」


「フッ、まさかぁ」


 コォラが輝くような笑顔になる。


「ちゃんと途中まで整備兵に案内されたぞ。んで、番号『9』のヘリだ」


『ここは番号6だ』


 機長が静かにツッコミをする。


 フェヴァの目つきが鋭くなると、コォラが「あれー?」とわざとらしく首を傾げた。


「間違えたかなぁー?」


『ああ、6番と9番の紙を逆に見ていたから間違いないだろう』


「コォラ」


 フェヴァは凶悪な形相になると、コォラの胸倉を掴んで持ち上げた。


「お前知ってただろ、紙をくるくる回した時にこの悪戯を思いついたんだろ!」


 コォラはふっと鼻で笑った。


「6と9は、誰もが一度は間違える数字だろ?」


「間違えるほうがどうかしている!」


 フェヴァが持ち上げたまま乱暴に揺らすと、コォラが「キシシ」と笑った。


「まーさーかー。南極に行くなんて思わなかったさ。研究施設で巨大な蛇が冬眠から醒めて大暴れしたとか、三日前に討伐に出された班が全滅したとか、このヘリは研究員と資料を救出するための部隊を運ぶとかさ。まーったくこれぽーっちも知らないなぁ! あ、資料は俺のポケットに入っているぞ☆」


「知ってるじゃねぇかああああああああ!」


 怒声によって勢いが付き、コォラの手足がぶんぶんと揺れる。


「たっのしー♪」


「じゃねぇよ!」


 フェヴァは揺らした勢いをつけてコォラは地面に叩きつけた。


 キャビンが軽く振動するような強さがあったが、コォラはけろっとした表情で大の字になり、楽しそうに笑った。


「研究施設で暴れている蛇のデータをもらったぜ。出発前にここの機長から」


 フェヴァが左手で頭を押さえながら、右手でハンドガンを触る。


「ああああもう、いつ、どこで、任務が変わったんだ!」


『安心して! 二人が乗るはずだったヘリは火車隊が乗ってるから大丈夫だよ! どちらとも任務に支障がないのさ!』


 【アーティ】が付け加える。まさにそこがフェヴァの気になっていたところであったため、ゆっくりと右手を降ろした。


「火車隊が……それなら安心だ」


『うん、彼らと任務を交換した形だね』


「あっちも『6』と『9』を間違えたんだな!」


 コォラが立ち上がりながら胸を張るので、フェヴァは足払いをかけて転がした。


『こちらの出発が早かっただけだ。風射隊の隊長と副隊長が乗って来たから、任務の再確認をした。このまま続行して良し、と指令がきたんで、お前らを連れて来た』


『火車隊は特殊任務の時人数多くてそこそこ熟練。人海戦術の方が熱帯雨林の任務に適していると判断されたのさ。一分くらいで』


 機長と【アーティ】の説明を聞いて、フェヴァは再び右手でハンドガンを触った。


「それはまさか、コォラがヘリを間違えたことが発端で? だから正しいヘリポートに案内せず、そのままにしたと」


『たぶんそだねー。コォラ隊長が即決してこっちの任務になったんだけど、知らなかった?』


 フェヴァはショルダーホルスターからハンドガンを抜き取り、コォラの頭に照準を当てる。


「なんで、教えなかった?」


 怒りで震える声を聞いて、コォラがにこりと笑った。


「サプラーイズ!」


 フェヴァの眉間に血管が浮かぶが、辛うじて発砲しなかった。



読んで頂き有難うございました。

次回は7/14更新です。

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