冬のマフラーは手編みと雪降る夜の2人のゼロ距離とメリークリスマス7メートル。1
『よっとこらせっ……と。』
不器用な手先で何か精密な作業をしているのは
この物語の主人公、
柳生新左衛門宗厳(やぎゅう しんざえもん むね
よし)。
エピソードタイトルにて、
そうあるように、
もちろん手編みのマフラーを制作している最中。
誰のために?
『ふー。やれやれ……』
ひとり小さく呟いてから、
柳生新左衛門宗厳(やぎゅう しんざえもん むね
よし)。
は、
『あ。……わたし……どうして
伊藤一刀斎景久(いとういっとうさいかげひ
さ)。
の口癖なんか呟いちゃってるの?』
と、己が無意識下に発言した、
やれやれについて、少し戸惑った。
その時、
柳生新左衛門宗厳(やぎゅう しんざえもん むね
よし)。
の部屋の窓が、こんこん。と鳴る。
『いるんだろ?オレだぜ開けろよ。やれやれ。』
それは、
幼馴染で、家が隣同士で、いつの間にか逞しくなってて、喧嘩っ早いけど、優しい顔もできる。
おそらくそろそろ恋に落ちるだろう、
伊藤一刀斎景久(いとういっとうさいかげひ
さ)。
の声だった。
『もー。何回言ったらわかるのよ!窓からエントリーしてこないでよー!もーやだー。』
窓を、からり。と開けて、
柳生新左衛門宗厳(やぎゅう しんざえもん むね
よし)。
は、遺憾の意を表明した。形だけの。
それに対し、
伊藤一刀斎景久(いとういっとうさいかげひ
さ)。
クールに言う。以下のセリフを↓
『なんだよ。やれやれ。いいじゃねえか。かたいこと言うなよな。そう。昔っから、オレは窓からエントリー派だった。好きなお前と家が隣同士、さらにはお互いのプライベート空間である、部屋。それは2階に位置していて、オレはいつもいつも、お前が好きだと言う気持ちだけを胸に、エントリーをしてきた。この行為、本当はけっこう危ないうえに、おそらく軽犯罪に相当するのだろう。それでもオレはエントリーをやめない。やめられない。なぜ?わかるだろう?お前の事が好きだから。全くやれやれだぜ。ホントやれやれ。
そうして、エントリーした後は、そしらぬ顔をするのさ。なぜ?それはオレが、オレのキャラを守るため。好きだ。やれやれ。雪ふりそう。
……
………
やれやれ。』
『もー。何しにきたのよ?』
ほっぺをぷーとふくらませて、
もー。する、
柳生新左衛門宗厳(やぎゅう しんざえもん むね
よし)。
その頬がピンクで、スッと何本かの紅色斜線が入っているのは、
窓エントリーへの怒りからでは無いだろう。
恋。
恋なのだろう。
デリカシー無く、作法も無く、
部屋の中へのエントリーをまんまと完了させた
伊藤一刀斎景久(いとういっとうさいかげひ
さ)。
全くの悪意の無い、笑顔で言う。
『やれやれ。お前の部屋に遊びに来るのに、理由が必要なのかよ?やれやれ。退屈してたんだよ。何か面白い漫画とかねえの?と、それはもう普通の、いつものオレみたいに言いまして、それから、オレはお前のベッドにポーンと座る。心の臓は早鐘。とても正気ではいられない。やれやれ。お前の部屋。お前のベッド。匂いは甘い猛毒。そして、お前のその頬の紅色斜線。いわゆる赤面、照れ照れ。その頬がピンクで、スッと何本かの紅色斜線が入っているのは、
窓エントリーへの怒りからでは無いだろう。
恋。恋なのだろう。やれやれ。好きだ。甘い猛毒。それは恋の毒。やれやれ。お?それ何?マフラー?誰かに編んでいるのかよ?』
手編みのマフラーをめざとく発見した、
伊藤一刀斎景久(いとういっとうさいかげひ
さ)。
毒にやられながらも、なんとか正気を保ち
マフラーの宛先を聞いた。
『うん。これはね……』
宛先を聞かれたからには、
答えなければいけない。
柳生新左衛門宗厳(やぎゅう しんざえもん むね
よし)。
は、編みかけのマフラーに、
少し目線を落とした、
お風呂あがりの、プライベートな前髪が、
さらり。と目のあたりにかかり、
その表情はよみとれない。
『伊藤一刀斎景久(いとういっとうさいかげひ
さ)。に……だよ。』
『え?……』
………トゥクン……。




