16/29
恋の花5
『踏まれても踏まれても。
アスファルトを突き破る力強い生命力。
太陽に向かって手を伸ばそう。』
メロメ君が、油の煙の中で語る。
扇風機は壊れていて動かない。
とても淀んだ空気の中。暑いし。
前髪がうねる。
可愛くしたかったのに。
『なんだか良い詩だね。』
私は、アスパラベーコン巻きを食べるのに苦戦していた。歯に挟まらないでと願う。
『ありがとう。でもね、魂の一言みたいな言葉をね、僕はまだ見つけられていないんだ』
『なにそれ?』
『みんなをさ。みんなの心にさあ……
みんなの心の疲れや汚れや悲しみを。
洗い流してくれるようなさあ……』
『ふうん。便利だね。』
『ミドリちゃん……』
それまで遠くを見つめていた、メロメ君が、
やっと私を見てくれた。
『便利とか、そんな、便利とか言うものがね、
本当に僕たちにとって大切なものなのかなあ?』
まっすぐに私を見つめながら言った。
『便利さが、人の心をね、貧しくしたのかもしれないよね。考えてみて。宿題。』
メロメ君はキラキラした笑顔で、
居酒屋の汚れたトイレのカレンダーに
書いてあった言葉を、宿題にしてくれた。
小さくうなずいた私は、
アスパラベーコン巻きを
上手に可愛く食べることができた。




