美しいそよ風に揺れる美しの黒髪の美しい物語。
《いつか君に届くまで。》 11話。
『まだ。ぜんぜん終わってないよ。』
『え?』
『ううん。なんでもない。』
物語は、続く。
———
素敵フレグランス。清潔で爽やかな空気。
大蛇みたいな大蛇じゃ無いみたいな
黒髪が風に揺れる、この揺れる髪にさえ
物語は宿っているのだろう。
風はそっと物語を運ぶ。美しく。
美しいという言葉は、この日、この朝の、
この黒髪のためだけに作られた言葉だろう、
って勘違いするほどに美しい美しいを連呼した、美しさ、あわよくば儚さ。までも併せ持て。
朝のホワイティな陽光が窓を、そしてレースのカーテンをやわらかに突き破って、美しの髪を照らしていた。
美しの髪の持ち主は、
吉備津彦命。
通称、ミコト部長。
そのミコト部長が、そのミコト部長の向かいに存在する人物と美しさに溢れた会話を始める。
『終わってないって何が?』
『ううん。なんでもないよ。コーヒー飲む?』
『うん。ありがとうミコト。』
『少し待っててね、ミコト。』
『完結したのかな? ってお話がね、完結したのかな?って思ったら、まだ続いていたの。』
『ふうん。そうなんだ。いいね。』
『うん。』
そう美しく微笑んで、ミコト部長のためのコーヒーを注ぐのは、ミコト。
ゆるやかで繊細なクラシック音楽が、朝を彩る。
美しく。
『そういえばさあ。ぬいぬいの全国大会って
そろそろだっけ? ミコト。』
『うん。今日。これからだよ。ミコト。』
『今日? そっかー。ミコトは3年生だから、
この大会が最後なんだよね。ミコトは卒業。』
『うん。ミコト。』
『きっとミコトなら大丈夫だよ。』
『ありがとう。頑張るね、ミコト。』
『あ。そういえばミコト宛に荷物届いてた。』
『そうなの?ミコトが受け取ってくれたの?』
『はい。』
『うん。ありがと。ミコト。』
ミコトは微笑む。
ミコトは微笑む。
『ねえ、ミコト。』
『なに? ミコト。』
少しの沈黙、クラシックレコード。
『好きだよ。ミコト。』
頬を美しく染めながら、
ミコトがミコトへの愛情を表現した。
淡く美しく。
『うん。ミコト、大好き。』
逆光と、朝の陽光だけに許された、
美しい光の産毛。
そよ風にさえ崩壊してしまいそうな、
想うだけで涙がでるような
大切な気持ち。
THE ラブ。
キスを。
ミコトは、ミコトにキスをした。
ミコトは、ミコトのキスを受け入れた。
ピアニスティックな美しの白い指が、
ボタンをさぐる。
優しく。優しく。
壊してしまわないように。
少しだけ、
ほんの少しだけ、
ミコトの膝は
期待に震えていた。
トゥクン。
———
『行ってきます。ミコト。』
『行ってらっしゃい。ミコト。』
美しく、ミコトはミコトの家の
美しいドアを出る。
美しいドアの横には、小さな美しい表札。
月読命。




