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『承認欲求強めの最強勇者、魔法動画でバズって前世のヒロインたちを召喚してしまう~今世の幼馴染が管理しきれないほど愛が重すぎる~』  作者: 悪癖


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第70話 勇者チャンネル、新たな仲間と公式グッズ始めます

 久しぶりの動画撮影だった。


 ここ最近の炎の勇者チャンネルは、生配信ばかりだった。


 だからこそ――。


「よし! 今日はちゃんと動画を撮るぞ!」


 カメラの前で、ハルトは満面の笑みを浮かべていた。


「久しぶりの動画だな!」


 撮影スタジオとして使っている部屋には、いつもの撮影機材が並んでいる。


 カメラの後ろには結衣。


 その隣には聖奈、凛、摩夜、陽葵。


 そして今日は、もう一人。


 少し離れた場所に、真利・R・ヴァインが立っていた。


 つい先日までなら、ここにいるはずのない人物だった。


 ハルトたちと敵対し、互いの資産を削り合い、世界規模の騒動まで引き起こした相手。


 それが今では――。


「……準備できたよ、ハルト」


 結衣がカメラの横から声をかける。


「おう!」


 ハルトはカメラへ向き直った。


「じゃあ、いくぞ!」


 結衣が録画ボタンを押す。


 赤いランプが点灯した。


 その瞬間。


 ハルトの表情が、いつもの動画用の笑顔へ切り替わった。


「どうもー! 炎の勇者チャンネル、ハルトです!」


 元気いっぱいのあいさつ。


 続けて、いつものように手を振る。


「今日はみんなに、すっごく大事なお知らせがあります!」


 結衣がカメラの後ろで小さくうなずいた。


 ここまでは予定通り。


 だが――。


「なんと!」


 ハルトが両手を広げる。


「今日から、炎の勇者チャンネルの公式グッズを販売開始します!」


 いきなりだった。


 結衣が思わず目を丸くする。


「えっ、もう言うの!?」


「だって今日の動画、それが目的だろ?」


「そうだけど……!」


 結衣のツッコミをよそに、ハルトは楽しそうに続ける。


「今まで炎の勇者チャンネルでは、公式グッズってほとんど作ってなかったんだけど――」


 そこで一度、カメラへ顔を近づける。


「今回から、ちゃんと作ることになりました!」


 ハルトは嬉しそうだった。


「しかも、俺たちのためにグッズを作ってくれる会社までできました!」


 カメラの外に視線を向ける。


「ということで!」


 ハルトが手を伸ばした。


「まずは、この人を紹介します!」


 真利へ向かって。


「真利、こっち来て!」


「はい」


 真利は落ち着いた足取りでカメラの前へ出た。


 背筋は伸びている。


 表情にも余裕がある。


 まるで、最初からこうなることを知っていたかのようだった。


「こちら!」


 ハルトが紹介する。


「株式会社炎の勇者パートナーズの社長、真利・R・ヴァイン!」


「皆様、初めまして」


 真利は上品に一礼した。


「株式会社炎の勇者パートナーズ、代表取締役の真利・R・ヴァインと申しますわ」


 その声を聞いた瞬間。


 聖奈の表情が、ほんの少しだけ固くなった。


 凛も無意識に背筋を伸ばす。


 摩夜は何も言わない。


 ただ、真利の姿をじっと見ていた。


 三人にとって、真利はつい最近まで明確な敵だった。


 直接ぶつかった。


 策略を仕掛けられた。


 そして、こちらも容赦なく反撃した。


 そんな相手が。


 今は同じカメラの前に立っている。


 しかも――。


「真利が社長をしてる会社で、今回の公式グッズを作ってくれるんだ!」


 ハルトは、何のわだかまりもなく笑っていた。


「そうですわ」


 真利も笑顔で答える。


「今回のグッズは、炎の勇者チャンネルの正式な公式商品として販売いたします」


「すごいよな!」


 ハルトが嬉しそうにうなずく。


「俺、こういうの欲しかったんだ!」


 その言葉に。


 真利の目がわずかに細くなる。


 以前の彼女なら。


 その言葉を聞けば、そこから契約を広げ、利益を計算し、ハルトを自分の事業へ取り込む方法を考えていただろう。


 だが今の真利は違った。


「ご期待くださいませ」


 ただ、それだけを答えた。


「もちろん!」


 ハルトは満足そうに笑った。


「というわけで、今日はこの公式グッズを紹介していきます!」


 ここで一度、ハルトは真利から離れた。


 そしてカメラへ向かって、さらに大きく笑う。


「それから――もう一つ!」


「まだあるの!?」


 結衣が思わず声を上げる。


 ハルトは振り返った。


「あるぞ!」


 そして。


 何でもないことのように、次の言葉を口にする。


「真利には、今日から炎の勇者チャンネルの新メンバーとしても参加してもらいます!」


 静かになった。


 聖奈が目を見開く。


 凛が固まる。


 摩夜が眉を上げる。


 陽葵は嬉しそうに微笑んだ。


 そして真利だけが――。


 ほんの一瞬。


 驚いたように目を見開いた。


 だがすぐに。


「……はい」


 柔らかな笑顔を浮かべた。


「新メンバーとして、よろしくお願いいたしますわ」


 真利がもう一度、カメラへ向かって頭を下げる。


「こちらこそ!」


 ハルトは満足そうにうなずいた。


「じゃあ、さっそくグッズ紹介いこう!」


 ハルトがそう言うと、結衣が用意していた商品を一つずつ机の上へ並べていく。


「まずはこちら!」


 最初に取り出されたのは、炎の勇者チャンネルのロゴが入ったアクリルスタンドだった。


 炎をまとった勇者姿のハルトが、剣を片手に立っている。


「おお!」


 ハルトが目を輝かせる。


「これ、俺じゃん!」


「いや、ハルトをモデルに作ってるんだから当たり前でしょ」


 結衣が呆れたように言う。


「でもすごいな! ちゃんと立つぞ!」


 ハルトは机の上にアクリルスタンドを置き、横から眺めた。


「これ部屋に置いたら、毎朝俺に会えるな!」


「自分で言う?」


「だって俺のグッズだぞ?」


「そうだけど……」


 結衣は苦笑する。


 カメラの向こうにいる視聴者へ見せるように、ハルトがアクリルスタンドを持ち上げた。


「こういうの欲しかった人、いるんじゃないか?」


 続いて。


「次はキーホルダー!」


 小さな炎の勇者ロゴが入ったキーホルダー。


「鞄につけられるやつだな!」


 ハルトが手に取ってみる。


「これなら学校にも持っていけそうだ」


「校則に引っかからないようにね」


 結衣がすかさず注意する。


「分かってるって」


 ハルトは笑いながら、キーホルダーを元の位置へ戻した。


 その次はタオル。


 炎の勇者チャンネルの名前とロゴが大きく入っている。


「これ、結構大きいな」


「動画撮影やイベントでも使えるようにしてあります」


 真利が説明する。


「なるほど!」


 ハルトが感心したようにうなずいた。


「夏とか便利そうだな!」


「ええ。実用品としても使えるよう、素材や大きさも考えております」


 真利の説明は簡潔だった。


 しかし、商品の一つ一つについて、何を目的に作ったのかが明確だった。


 次はTシャツ。


 胸元には炎の勇者チャンネルのロゴ。


 背中には大きく、炎をまとった勇者のシルエットが描かれている。


「おお、これ格好いい!」


 ハルトが嬉しそうに広げる。


「俺もこれ着ようかな」


「撮影用にサイズ違いで何枚か用意してあります」


「本当か?」


「もちろんですわ」


「じゃあ今度これ着て動画撮ろう!」


「それも宣伝になりますから、ぜひ」


 真利が微笑む。


 その会話を聞いていた聖奈が、わずかに目を細めた。


 真利の受け答えは自然だった。


 以前のような、ハルトを自分の利益のために利用しようとする雰囲気はない。


 あくまで。


 炎の勇者チャンネルを支える会社の社長として話している。


「そして最後がステッカーですね」


 結衣が透明な袋を持ち上げた。


 炎の勇者チャンネルのロゴ。


 ハルトのデフォルメされた顔。


 さらに、これまで動画に登場した魔法をイメージしたデザインまで何種類も用意されている。


「これ、スマホに貼れる?」


「もちろんです」


「じゃあ俺、スマホに貼ろうかな」


「ハルトが自分のグッズを自分のスマホに貼るの?」


 結衣が笑う。


「いいじゃん!」


 ハルトは楽しそうだった。


 次々と商品を見せていく。


 どれも、これまで炎の勇者チャンネルを応援してくれた視聴者が楽しめるように作られたものだった。


 そして。


 最後に残った商品だけは、他の商品とは明らかに扱いが違った。


 結衣が一枚の資料を取り出す。


「じゃあ、最後の商品について説明するね」


「うん」


 ハルトがカメラを見る。


「今回の目玉商品です!」


 ハルトの声が少しだけ弾んだ。


「実はさ」


 ハルトは少し考えるように腕を組む。


「俺のグッズって、今まで動画で使ってる服とか、ロゴとか、そういうのが中心だっただろ?」


「そうだね」


「だったら、もっと俺らしいものがあってもいいと思うんだ」


 そこでハルトは笑った。


「勇者ハルトが異世界で冒険してた時に使ってた愛剣を持った姿!」


 結衣がうなずく。


「今回、その姿をモデルにしたグッズを作る予定なんだよね」


「そう!」


 ハルトは嬉しそうに答える。


「せっかくだから、ちゃんと格好いいやつにしたいんだよな」


 その言葉に。


 真利が少し興味深そうにハルトを見る。


「勇者様が実際に使っていた剣、ですか」


 聖奈も反応した。


「以前からお話には聞いていましたが……」


 凛も静かに続ける。


「私も、実物を見たことはありません」


「私もだね」


 摩夜が腕を組む。


「話には聞いていたけど、実際にどんな剣なのかは知らない」


 陽葵も小さくうなずいた。


「私もです」


 異世界で共に旅をした彼女たちですら。


 その剣だけは、見たことがなかった。


 それも当然だった。


 ハルトが異世界から帰還した時。


 その剣は、ずっと彼の収納魔法の中にしまわれたままだったのだから。


「そういえば、みんな見たことなかったな」


 ハルトは少し意外そうな顔をした。


「じゃあ――」


 ハルトが立ち上がる。


「せっかくだから、本物も見てみたいよな?」


「本物……?」


 結衣が聞き返す。


「うん」


 ハルトは何でもないことのように答えた。


「俺が異世界で使ってた剣」


 そして。


 右手を軽く前へ伸ばした。


「収納」


 空間が、わずかに揺らいだ。


 次の瞬間。


 何もなかった場所から、一振りの剣が現れた。


 鞘に収められた長剣。


 ハルトがそれを握る。


 ただ、それだけだった。


 なのに。


 部屋の空気が変わった。


 誰も声を出さない。


 鞘の隙間から漏れるような淡い光。


 決して派手ではない。


 炎が燃え上がっているわけでもない。


 雷が走っているわけでもない。


 それでも。


 その剣がそこに存在しているだけで。


 空間そのものが静まり返ったような、神聖な気配が広がっていく。


 まるで。


 長い年月を越えてなお、その剣だけが己の役目を忘れていないかのようだった。


「……」


 聖奈は息をのんだ。


「これが……」


 思わず一歩、前へ出る。


「勇者様の剣……」


 凛は目を見開いた。


 騎士だった頃から、数え切れないほどの名剣を見てきた。


 だが。


 目の前の剣から感じる威圧感は、それらとはまるで違う。


「話には聞いていたが……」


 凛の声が低くなる。


「これほどのものだったのか」


 摩夜も珍しく言葉を失っていた。


「……魔力を感じる」


 じっと剣を見つめる。


「いや、それだけじゃない」


 魔術師としての感覚が告げている。


 これは単純な魔道具ではない。


 何かもっと根本的な。


 長い時間をかけて積み重ねられた力が、この剣には宿っている。


「興味深い……」


 摩夜の目が輝いた。


「こんなものが収納魔法の中に入っていたのか」


「ずっと入れてたぞ?」


「君は……」


 摩夜が額を押さえる。


「とんでもないものを財布みたいに扱うな」


「だって普段使わないし」


「そういう問題じゃない」


 陽葵は剣を見つめたまま、両手を胸の前で組んでいた。


「……綺麗」


 その表情には畏敬が浮かんでいる。


「まるで、今でもハルトさんを守っているみたいです」


「そうか?」


 ハルトは首をかしげた。


「ただの剣だけどな」


「ただの剣……」


 真利が小さくつぶやく。


 彼女もまた、剣から目を離せずにいた。


 経済。


 資産。


 市場価値。


 そんな言葉では、この場にあるものを説明できない。


 ただの物体なのに。


 見る者へ、価値という概念そのものを押しつけてくるような存在感がある。


「これを……グッズに?」


 真利が尋ねる。


「うん!」


 ハルトはいつもの笑顔で答えた。


「この剣を持った俺のフィギュアとか、作ったら絶対格好いいだろ?」


 真利は一瞬だけ黙った。


 そして。


「……ええ」


 小さく微笑む。


「それは、確かに」


 カメラの前には。


 勇者がいた。


 そしてその手には。


 かつて異世界で魔王へ挑み、数え切れない戦いを越えてきた剣が握られていた。



「うーん……」


 ハルトは手にした剣を眺めながら、首を傾げた。


「フィギュアにするとしたら、どんなポーズがいいかな?」


「ポーズ、ですか?」


 真利が尋ねる。


「うん。せっかくなら、一番格好いいところを再現したいだろ?」


 ハルトは剣を握ったまま、いくつかポーズを試してみる。


 剣を肩に担ぐ。


「うーん……違うな」


 今度は片手で前へ突き出す。


「これも違う」


 剣を腰の横へ構える。


「……いや、これは結構いいかも」


 ハルトが真剣な顔でポーズを決めている。


 その姿を見ていた聖奈が、ふと思い出したように口を開いた。


「そういえば……」


「ん?」


「ハルトさんって、最初からその剣を持っていたわけではないのですよね?」


「ああ」


 ハルトはあっさり答えた。


「最初は持ってなかったぞ」


「やっぱり」


 聖奈が頷く。


「私たちは、ハルトさんが聖剣を持っていなかったことは知っています」


 凛も続ける。


「勇者として召喚されたのだから、当然聖剣を持っているものだと思っていたが……」


「俺が召喚された時にはなかったんだよな」


 ハルトは剣を見下ろした。


「歴代の勇者が使ってた聖剣は、俺より前に召喚された勇者が持っていっちゃって、そのまま死んだらしいんだ」


「え?」


 結衣が驚く。


「じゃあ、聖剣そのものがなくなってたの?」


「そうそう」


 ハルトは頷いた。


「だから俺は、聖剣なしで勇者やってた」


「……それ、大丈夫だったの?」


 結衣が心配そうに聞く。


「別に困らなかったぞ?」


「困らなかったんだ……」


「うん」


 ハルトは本当に何でもないことのように答える。


「普通の剣でも魔物は倒せたし」


「……」


「ドラゴンとかも倒せたし」


「……」


「魔王軍の幹部とかも普通に倒せたし」


「……」


「だから、聖剣がなくても別に問題なかった」


 その場に微妙な沈黙が落ちた。


 凛が小さく息を吐く。


「……相変わらずだな」


「何が?」


「いや、なんでもない」


 凛は諦めたように首を振った。


 ハルトにとっては、本当に「聖剣がなくても困らなかった」のだろう。


 だが。


 普通の勇者なら、そうはいかない。


 そもそも勇者に選ばれた者が聖剣を持っていないというのは、かなりの問題だったはずだ。


「でもさ」


 ハルトは少しだけ照れくさそうに笑った。


「勇者なのに聖剣持ってないっていうのも、なんか格好つかないだろ?」


「そこなんだ……」


 結衣が呟く。


「だから、自分でどうにかすることにしたんだ」


「自分で?」


 真利が聞き返す。


「うん」


 ハルトは剣を軽く掲げた。


「摩夜と別れた後くらいだったかな」


「私と別れた後?」


 摩夜が目を瞬かせる。


「ああ」


 ハルトは記憶を辿るように話し始めた。


「その頃には、俺も魔法のことがかなり分かるようになってたんだよな」


「かなり、というか……」


 摩夜が小さく苦笑する。


「君はその頃には、私でも知らない魔法を次々作っていたじゃないか」


「そうだったっけ?」


「そうだよ」


 ハルトは気にせず続ける。


「それで、付与魔法をいろいろ研究してたらさ」


 ハルトは剣を見る。


「だったら、普通の剣を聖剣にしちゃえばいいんじゃないかって思ったんだ」


「…………」


 聖奈が言葉を失う。


「普通は、そういう発想にならないと思いますが……」


「でも、聖剣って要するにすごく強い剣なんだろ?」


 ハルトは首を傾げる。


「だったら、強くする付与をいっぱい付ければ、それっぽくなるじゃん」


「それっぽく……」


 真利が呟く。


「それで実際に作ったんですの?」


「うん」


 ハルトはあっさり頷いた。


「聖剣化の付与魔法」


 その言葉に。


 摩夜が目を細めた。


「……そんなものを開発していたのか」


「うん」


「私と別れてから、そんなことをしていたのか……」


「結構面白かったぞ」


 ハルトは嬉しそうに笑う。


「普通の剣を一本用意して、そこにいろんな付与を重ねていくんだ」


 ハルトは剣の鞘を軽く叩いた。


「切れ味を上げたり、耐久力を上げたり、魔力を通しやすくしたり、魔物への特効を付けたり」


「……」


「そうやって、俺が考えた聖剣化の付与をまとめてかけたら――」


 ハルトは胸を張った。


「普通の剣が、ちゃんと聖剣みたいになったんだ」


「みたい、ではなく……」


 凛が剣を見る。


「実際に聖剣と呼べるほどのものになった、と?」


「そうそう」


 ハルトは頷いた。


「それでしばらく、それを使ってた」


「しばらく?」


 聖奈が聞き返す。


「うん」


 ハルトは楽しそうに笑った。


「でも、旅の途中で本物の聖剣を見る機会があったんだよ」


「本物の聖剣を?」


「そう」


 ハルトは懐かしそうに目を細める。


「その時に、せっかくだから解析魔法で調べてみたんだ」


「……」


 摩夜が頭を抱えた。


「君は本当に……」


「だって、気になるだろ?」


「普通は気になっても解析しようとはしない」


「でも、どうやって作ってるのか知りたかったんだよ」


 ハルトは悪びれる様子もない。


「解析してみたら、結構面白い作り方しててさ」


「それで?」


「材料を調べて」


 ハルトが一本ずつ指を折る。


「必要な素材を集めて」


「まさか……」


「自分で作った」


 あまりにもあっさりした言い方だった。


「……」


「……」


「……」


 全員が沈黙する。


「いや、本当に?」


 結衣だけが代表して聞き返した。


「本当」


 ハルトは笑った。


「だから、この剣は最初から聖剣だったわけじゃないんだ」


 ハルトは鞘に収まった剣を見つめる。


「俺が自分で作った剣に、俺が自分で開発した聖剣化の付与をかけた」


 そして。


「それが、この剣」


 ハルトは何でもないことのように言った。


 だが。


 その言葉を聞いた者たちは、改めて目の前の剣を見つめていた。


 勇者に与えられた聖剣ではない。


 誰かから授けられた伝説の武器でもない。


 勇者ハルトが。


 自分自身の手で作り上げた剣。


 その事実を知ったことで。


 先ほどまでとは、剣から感じる存在感が少し違って見えた。


「……あれ?」


 ハルトは剣を眺めながら、ふと何かを思い出したように声を漏らした。


「そういえば、この剣って最初から今みたいな感じだったわけじゃないんだよな」


「どういうこと?」


 結衣が尋ねる。


「俺が最初に作った時は、聖剣化の付与魔法って一時的なものだったんだ」


「一時的?」


「うん」


 ハルトは頷く。


「付与魔法って、基本的には戦う直前とかに使うものだからな」


 ハルトは剣を軽く持ち上げた。


「剣そのものにずっと効果を残すんじゃなくて、必要な時だけ魔力を流して強化する」


「なるほど……」


 真利が頷く。


「つまり、最初に作った時点では、その剣は常時聖剣だったわけではないのですね」


「そういうこと」


 ハルトは笑う。


「でも、何度も使ってるうちに変わっていったんだよな」


「変わった?」


「うん」


 ハルトは剣を見つめる。


「俺の聖剣化の付与って、結構強力だったからさ」


 まるで自慢するような口調だった。


「何度も何度も使ってたら、付与されてた力が少しずつ剣そのものに定着していったんだ」


「……」


「最初は一時的に聖剣化してただけだったのに、使えば使うほど、その状態が残るようになっていって」


 ハルトは剣の鞘を撫でる。


「そのうち、何もしなくても聖剣っぽい力が出るようになった」


 聖奈が目の前の剣を見る。


「だから……先ほど感じた、この神聖な雰囲気は……」


「そう」


 ハルトが頷く。


「使い続けた結果だな」


 それだけ聞けば、すでに十分に異常だった。


 しかし。


 ハルトはさらに続けた。


「でもさ」


「まだあるの?」


 結衣が思わず聞く。


「あるぞ」


「……」


「この剣って、俺が魔王と戦った時も使ってたんだけど」


 ハルトは何でもないように言った。


「その時は、これにさらに聖剣化の付与を重ねてたんだよな」


「…………」


 結衣が固まった。


「重ねる?」


「うん」


「今ある聖剣化の力に、さらに?」


「そう」


 ハルトは当然のように答える。


「魔王相手だから、念のためな」


 凛が眉をひそめた。


「……念のため?」


「念のため」


「魔王相手に?」


「うん」


 凛は何か言いかけて。


 やめた。


 ハルトにとっては、それが本当に「念のため」なのだろう。


「じゃあ」


 ハルトは剣を構え直した。


「今もやってみるか」


「今?」


「うん」


 ハルトの周囲から、わずかに魔力が集まり始める。


 空気が揺れた。


「聖剣化」


 その瞬間。


 剣を包む空気が変わった。


 先ほどまで漂っていた神聖な気配が、一気に濃くなる。


「……っ」


 聖奈が思わず息をのむ。


 剣そのものが。


 淡く光り始めた。


 最初は、ほんのわずかな光だった。


 けれど。


 ハルトが魔力を込めるほど、その光は強くなっていく。


 白。


 純白の光。


 剣の鞘そのものが発光しているように見える。


「すご……」


 陽葵が呟いた。


 だが。


 驚くべきことは、光だけではなかった。


 部屋に広がっていた空気が。


 柔らかくなった。


 まるで、澄み切った朝の森にいるような。


 あるいは。


 長い間抱えていた疲れや苦しみが、知らないうちに溶けていくような。


 そんな感覚だった。


「……何、これ」


 結衣が自分の手を見る。


 さっきまで感じていた疲労が、嘘のように軽くなっていた。


 肩に乗っていた重さが消えている。


 頭の奥まで、すっと澄み渡っていく。


「傷……」


 聖奈が自分の手を見つめた。


 指先にあった小さな切り傷が。


 消えている。


「……治っています」


「え?」


 結衣が振り返る。


「本当だ」


 凛も自分の腕を確認する。


 古い傷の跡まで、わずかに薄くなっていた。


「これは……回復魔法とは違う」


 摩夜が驚愕の表情を浮かべる。


「身体だけじゃない」


「え?」


「精神にも作用している」


 摩夜は自分の胸元へ手を当てた。


 普段なら頭の片隅に残っている焦燥や苛立ち。


 そういったものが、すっと消えていく。


 まるで。


 心の中に溜まっていた汚れを、光が洗い流しているようだった。


「……負の感情まで薄れていく」


 摩夜の声が震える。


「怒りも、不安も、憎しみも……」


 消えていく。


 ただし。


 何もかもが無になるわけではない。


 自分自身の意思や感情が奪われるのではない。


 ただ。


 心を覆っていた濁りだけが、取り除かれていく。


「すごい……」


 陽葵は光を見上げていた。


「なんだか、すごく安心します」


 真利もまた。


 静かに光る剣を見つめていた。


 その表情には、いつもの計算高さがない。


 ただ純粋な驚きが浮かんでいる。


「これが……」


 真利が呟く。


「聖剣……」


 ハルトは剣を見ながら、満足そうに笑った。


「うん」


 白い光が、さらに強くなる。


 部屋全体が淡い光に包まれていく。


「魔王と戦った時は、これをもっと強くして使ってた」


「もっと?」


 結衣が聞き返す。


「うん」


「今より?」


「もちろん」


 ハルトは笑った。


「魔王戦だからな」


 その言葉と同時に。


 聖剣から放たれる光が、さらに一段階強くなった。


 まるで太陽の光をそのまま剣に閉じ込めたような輝き。


 それは単なる演出ではなかった。


 触れるだけで身体が癒える。


 汚れが消える。


 心に積もった負の感情が浄化される。


 目の前に存在するだけで、人の心と身体へ実際の変化を与える。


 それほどまでに強力な、純粋な聖なる力。


 そして。


 その中心に立っているハルトだけが。


「やっぱり、これ格好いいな」


 いつもの調子で呟いていた。


 周囲の誰も。


 その言葉にツッコむことができなかった。


 ただ一振りの剣が放つ光を。


 誰もが呆然と見つめていた。



「……うん」


 ハルトは満足そうに頷いた。


「やっぱり、これだな」


 白く輝く聖剣を見つめながら、ハルトは何度かポーズを変える。


 剣を斜めに構える。


 少しだけ身体を横へ向ける。


 そして、勇者らしく胸を張る。


「こっちもいいな……いや、こっちか?」


 ハルトが真剣に悩んでいる。


 その横で、真利はじっとハルトの姿を見ていた。


 やがて。


「……最高のイメージが湧きましたわ」


「本当か?」


「ええ」


 真利は頷いた。


「これなら、素晴らしい商品にできます」


「じゃあ決まりだな!」


 ハルトは嬉しそうに笑った。


「よし!」


 そして。


 ようやく剣を下ろす。


 白く輝いていた聖剣からも、少しずつ光が失われていく。


 やがて元の鞘へと戻った剣を、ハルトは収納魔法へしまった。


「じゃあ、今日はここまで!」


 ハルトはカメラへ向き直る。


「今回紹介した公式グッズは、これから順番に販売していくから、みんな楽しみにしててくれ!」


 そして。


 今回の目玉について、もう一度強調する。


「特に!」


 ハルトが胸を張った。


「聖剣を持った勇者ハルトのグッズ!」


 満面の笑み。


「これは是非とも買ってくれ!」


 結衣がカメラの横から補足する。


「実際に完成した商品のデザインや詳細については、動画の説明欄から商品ページを確認してください」


「そうそう!」


 ハルトが頷く。


「俺たちが今見せたのは、あくまでイメージだからな!」


 もちろん。


 実際の商品がどんな姿になるのかは、完成するまで分からない。


 だからこそ。


「完成した商品は、ちゃんと商品ページで確認してくれよ!」


 ハルトがカメラへ向かって手を振る。


「それじゃあ!」


 いつもの締めの言葉。


「また次の動画で会おう!」


 ハルトが笑う。


「ばいばーい!」


 結衣が録画を停止する。


 赤いランプが消えた。


 撮影終了。


「ふぅ」


 ハルトが肩の力を抜いた。


「終わったー!」


 そのまま真利へ振り返る。


「真利!」


「はい?」


「初めての撮影、どうだった?」


「とても新鮮な経験でしたわ」


 真利は微笑んだ。


「それならよかった!」


 ハルトも嬉しそうに笑う。


「じゃあ、次もよろしくな!」


「……」


 一瞬。


 真利の笑顔が固まった。


 次も。


 当然のように。


 まるで、今日の撮影がこれから続いていくことを疑っていない。


 ハルトにとっては、それが当たり前なのだろう。


 炎の勇者チャンネルの新メンバーになった。


 公式グッズを手掛ける会社の社長になった。


 ならば。


 次の動画にも来る。


 それだけの話だった。


 真利は一瞬だけ視線を伏せる。


 そして。


 何事もなかったかのように笑った。


「もちろんですわ」


 その返事を聞いたハルトは。


「よし!」


 満足そうに頷いた。


 こうして。


 炎の勇者チャンネルに、真利という新たなメンバーが加わってからの。


 初めての動画撮影は終わった。



――――――――――――――

投稿した動画のコメント

――――――――――――――


【動画タイトル】

『【重大発表】炎の勇者チャンネル公式グッズ発売!そして新メンバー加入!?』


【再生数:2,847,193回】

【高評価:312,846】

【コメント:47,381件】


『真利!?!?!?!?』


『いや待って、株式会社炎の勇者パートナーズってあの真利が社長なの!?』


『ついこの前まで敵だった人が普通に隣に立ってて草』


『ハルトだけ状況を何も気にしてないの本当にハルト』


『新メンバー加入の発表が軽すぎるんよ』


『結衣「えっ、もう言うの!?」←視聴者も同じこと思った』


『真利さんめちゃくちゃ礼儀正しいな』


『このメンバー紹介で一番緊張してるの聖奈説』


『聖奈と真利が同じ画面にいるの、ちょっと前から考えたらヤバすぎる』


『凛が一瞬で騎士団長の顔になってて笑った』


『摩夜さんだけ完全に警戒モードなの好き』


『陽葵ちゃんだけ素直に喜んでるの平和すぎる』


『グッズ紹介なのに最初から情報量が多すぎる』


『アクスタのハルト本人が「これ俺じゃん!」って言うの何なんだよw』


『そりゃ本人モデルなんだから本人だよw』


『自分のアクスタ見てテンション上がる勇者』


『「これ部屋に置いたら毎朝俺に会えるな!」←本人が言うと圧が強い』


『自分のグッズを自分のスマホに貼ろうとしてて草』


『学校に持っていく気満々なのも面白い』


『タオル普通に欲しい』


『Tシャツはデザイン次第で普通に普段着できそう』


『真利のグッズ説明だけ妙に企業の商品紹介っぽくて安心感ある』


『さすが社長、説明がちゃんとしてる』


『と思ったら最後にとんでもない商品出てきた』


『勇者の愛剣!?』


『いやそれグッズにする前に国宝指定とかそういう話では???』


『収納魔法から本物出すなwww』


『「せっかくだから本物も見てみたいよな?」じゃないんだよ』


『視聴者「本物!?」→ハルト「うん」→収納魔法 この流れ好き』


『あの剣、画面越しでもヤバいの伝わってきた』


『CG派です。さすがに実物ではないと思いたい』


『魔法の存在がほとんど確定した状況でCGかどうか議論してるのもう面白い』


『CGならあの空気感まで再現してるスタッフ化け物すぎる』


『いやこれ本物だろ……』


『専門家だけど、あの発光現象は普通の道具の挙動には見えません』


『魔術師です。私にも何が起きてるのか説明できません』


『剣そのものから魔力が漏れてるってどういう構造なんだよ』


『凛が「これほどのものだったのか」って言ってる時点でヤバさが伝わる』


『摩夜さんが「こんなものが収納魔法の中に入っていたのか」って頭抱えてて草』


『ハルト「ずっと入れてたぞ?」←財布か何かだと思ってる』


『ハルトの「ただの剣だけどな」で全視聴者がツッコんだと思う』


『ただの剣(異世界の魔王戦で使用)』


『ただの剣(聖剣化済み)』


『ただの剣(実質聖剣)』


『ただの剣(持ってるだけで周囲の傷が治る)』


『本人だけ感覚がおかしい定期』


『聖剣を自作しました←ここで思考停止した』


『「普通の剣を聖剣にしちゃえばいい」って発想がもう勇者のそれじゃない』


『聖剣を自作する高校生』


『専門家「聖剣とは……?」』


『ハルト「強くする付与をいっぱい付ければそれっぽくなる」←雑すぎる理論』


『しかも本物の聖剣を解析して材料まで調べて自作してるのヤバい』


『魔法研究者の皆さん今頃泣いてそう』


『一時的な聖剣化が使い続けた結果、剣そのものに定着したって設定めちゃくちゃロマンある』


『そして魔王戦ではさらに聖剣化を重ねてました←さらっと言うな』


『「念のためな」じゃないんよwww』


『魔王相手に念のためで聖剣強化を重ねる男』


『今でも十分ヤバいのに魔王戦ではもっと強かったという事実』


『浄化効果まであるの完全に聖剣じゃん』


『小さい傷が消えるの何!?』


『身体だけじゃなく精神まで浄化するのはもう武器じゃなくて聖域』


『専門家困惑ポイント:回復魔法と精神浄化が同時発生している』


『これがグッズ紹介動画という事実を誰か説明してくれ』


『グッズ紹介→実物の聖剣披露→回復→精神浄化』


『通販番組の内容じゃないw』


『真利さん、あの剣見た瞬間だけ完全に商売人の顔じゃなくなってたな』


『「これを……グッズに?」←そりゃそうなる』


『真利が「最高のイメージが湧きましたわ」って言った瞬間、社長に戻ったの笑う』


『聖剣を見て商品企画を思いつく女子高生社長』


『でもこの剣持ったハルトのフィギュアは普通に欲しい』


『これは売れる。断言する』


『公式グッズ第一弾で聖剣フィギュア出そうとしてるの強すぎる』


『そして最後に「次の動画もよろしくな!」って真利を完全に仲間扱いしてるハルト』


『真利さん一瞬固まったの見逃さなかった』


『あの一瞬、今までの真利を知ってると重い』


『でも「もちろんですわ」って返したの良かった』


『なんだかんだこの二人、今後めちゃくちゃ相性良さそう』


『真利加入でチャンネルどうなるのか楽しみすぎる』


『次回から真利がどんな企画に出てくるのか気になる』


『絶対また何かとんでもないこと起きるだろこのチャンネル』


『次回予告なしでも「次回が気になる」チャンネル、それが炎の勇者チャンネル』



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