第58話 夜だけ開く、将軍の城
ヘリコプターでの空中遊覧を終え、高級ヴィラで少し休憩した頃。
聖奈が全員へ向けて微笑んだ。
「皆さん。夜の予定ですが、少し早めに移動しましょう」
「次はどこへ行くんだ?」
ハルトが期待に満ちた表情で尋ねる。
聖奈は少しだけ悪戯っぽく笑った。
「今夜の夕食会場です」
「夕食?」
「はい。ただし、普通の料亭ではありません」
そこで一拍置き、全員の視線を集める。
「通常営業終了後の**二条城**を貸し切っています」
「…………」
一瞬、誰も言葉を発しなかった。
そして。
「…………え?」
最初に反応したのは結衣だった。
「に、二条城?」
「はい」
「え、あの世界遺産の?」
「はい」
「貸し切り?」
「はい」
聖奈は当然のように頷く。
「城内で宴会の準備を整えてあります」
「…………」
結衣は数秒固まった。
「いやいやいやいや!」
思わず頭を抱える。
「貸し切る場所じゃないでしょ!」
「正式な手続きを踏んでおりますので問題ありません」
「問題しかないと思うんだけど!?」
凛も小さく目を丸くしている。
「城を貸し切るとは……さすがに私も経験がないな」
摩夜はすでにスマホを構えていた。
「これ、絶対ネットに書きたくなる案件だけど書けないやつじゃん……」
「守秘義務がありますのでお願いします」
「ですよねぇ」
陽葵は目を輝かせる。
「お、お城の中に夜入れるんですか?」
「一般公開終了後ですので、非常に珍しい体験になります」
「すごーい!」
ハルトだけは感心したように頷く。
「なるほど!」
「ハルト君だけ理解が早い!」
「異世界でも城で宴会はよくあったからな!」
「そっちの理由!?」
結衣が即座に突っ込む。
「でも現代の日本のお城で宴会なんて普通はないから!」
「そうなのか?」
「そうなの!」
聖奈が苦笑する。
「今回は文化財保護の関係もありますので、立ち入り可能な範囲は限定されています。その代わり、通常では入れない時間帯の見学ができます」
「夜の二条城か……」
凛が静かに呟く。
「昼間とは違う趣がありそうだ」
「きっと幻想的ですよ!」
陽葵も楽しそうに頷いた。
――――――
車で十分ほど移動すると。
夕暮れが藍色へと変わり始めた空の下。
巨大な石垣と、重厚な城門が姿を現した。
「おお……」
自然と全員の声が漏れる。
昼間とは違う。
観光客で賑わう時間は終わり、人影はほとんどない。
ライトアップされた石垣は静かに浮かび上がり、広い堀の水面には夜空の色が映り込んでいた。
「昼とは全然雰囲気が違いますね……」
陽葵が思わず息を呑む。
「閉園後だから、本当に静か」
摩夜も普段の軽い口調を忘れて周囲を見回した。
城門の前では関係者が一礼する。
「西園寺様、お待ちしておりました」
「ありがとうございます」
聖奈が挨拶を返すと、重厚な門がゆっくりと開かれる。
ギィ……
静かな夜に響く木戸の音。
その音だけで、まるで時代が数百年前へ戻ったような錯覚を覚える。
「なんか……」
結衣が思わず呟いた。
「入っちゃいけない場所に入るみたいで緊張する……」
「分かる!」
陽葵も小さく頷く。
「昼間に来たことはありますけど、この時間は特別感がすごいです!」
ハルトは門を見上げながら腕を組んだ。
「立派な城だな」
「それだけ?」
「それだけって何だ?」
「もっとこう……『すげぇ!』とかないの!?」
「城とはこういうものだろ?」
「異世界基準で話さないで!」
また結衣のツッコミが響き、全員が笑う。
案内係の後ろについて歩き始める。
足元の砂利が静かに鳴り、夜風が木々を揺らす。
昼間なら観光客で賑わう道も、今は自分たちだけのものだった。
「贅沢ですね……」
凛が周囲を見渡す。
「人のいない城というだけで、これほど印象が変わるとは」
「写真撮ってもいいですか?」
「撮影可能な場所でしたらご自由にどうぞ」
その言葉に摩夜と陽葵は早速スマホを構える。
「やば……映える。」
「昼とは全然違う雰囲気です!」
石畳をゆっくり歩きながら、一行は歴史ある建物を眺めていく。
江戸時代から受け継がれてきた門。
広々とした庭園。
手入れの行き届いた松。
静寂の中にだけ響く虫の音。
歴史そのものが夜の空気に溶け込み、歩くだけで特別な時間を味わえる。
「京都ってすごいなぁ……」
結衣が素直に感心する。
「修学旅行じゃ絶対に体験できないよね」
「ええ」
聖奈も満足そうに微笑む。
「今夜は、この特別な時間をゆっくり楽しんでください」
宴会場へ向かう足取りは自然とゆっくりになっていた。
誰もが、この静かな夜の二条城を少しでも長く味わいたいと思いながら、歴史ある城内を散策していくのだった。
案内係に導かれ、一行は城内の奥へと進んでいく。
磨き上げられた廊下。
歴史を感じさせる襖絵。
天井を見上げれば、一本一本の梁に職人の技が宿っている。
「ここ、本当に江戸時代から残ってるんですよね……」
陽葵が小声で呟く。
「そう考えると緊張します……」
「昔のお殿様もここ歩いてたのかな」
結衣も辺りを見回しながら歩く。
観光客の姿は一人もいない。
聞こえるのは自分たちの足音だけ。
昼間とはまるで別世界だった。
「静かだな」
ハルトがそう呟くと、案内係が振り返る。
「この時間は貸切でございますので」
「なるほど。城とは本来こうあるべきだ」
「だからその異世界基準やめて!」
結衣が苦笑する。
「普通の人はお城って観光地だから!」
――――――
やがて、一枚の大きな襖がゆっくりと開かれた。
「こちらでございます」
その瞬間。
「おぉ……」
誰からともなく感嘆の声が漏れた。
広々とした大広間。
黄金に彩られた襖絵。
柱や天井までもが威厳に満ち、部屋全体が歴史そのものを感じさせる。
その中央には、長く美しい漆塗りの宴席が整然と並べられていた。
季節の花が飾られ、一つ一つの席には美しい器が並ぶ。
まだ料理は置かれていないが、それだけで一流の宴席だと分かる。
「すご……」
結衣は思わず立ち尽くいた。
「テレビでしか見たことない……」
「映画のセットじゃないんですよね?」
陽葵もきょろきょろと辺りを見回す。
摩夜は思わずスマホを構えたが、すぐに苦笑してしまう。
「写真撮るより、自分の目で見た方がいいや……」
凛は静かに部屋を見渡し、小さく息を吐いた。
「歴史の重みを感じるな。」
ハルトも部屋の奥へ視線を向ける。
そこには一段高くなった上座が用意されていた。
「なるほど。」
そう呟くと。
何の迷いもなく、その最上席へ歩いていく。
「え?」
「ハルト?」
誰も止める間もなく。
ハルトは堂々とその席へ腰を下ろした。
「ここが総大将の席だな。」
「総大将じゃないから!」
結衣が即座に突っ込む。
「いや、どう見ても一番偉い人が座る場所だぞ?」
「それはそうだけど!」
聖奈は思わず笑ってしまう。
「代表取締役ですし、今回は主賓でもありますから。」
「聖奈まで肯定しないで!」
「では私はこちらですね」
聖奈は自然とハルトのすぐ隣へ。
続いて凛、結衣、摩夜、陽葵も並んで座る。
「なんか……」
結衣が苦笑した。
「家臣団みたいになってる。」
摩夜が吹き出す。
「殿!」
「やめろ。」
ハルトは真面目な顔で返す。
「宴会の前にそのような軽口は慎め。」
「もう完全に殿様じゃん!」
部屋中に笑い声が広がった。
――――――
すると、襖が静かに開く。
料理人たちが次々と部屋へ入り、料理を並べ始めた。
一皿ごとに芸術作品のような盛り付け。
旬の京野菜。
新鮮な鱧。
伊勢海老。
鮑。
和牛。
季節の炊き合わせ。
香り豊かな土瓶蒸し。
色鮮やかな八寸。
見るだけで食欲を刺激する料理が、次々と卓上を埋め尽くしていく。
「わぁ……」
陽葵の目が輝く。
「全部おいしそう……」
「これ、一品いくらするんだろ……」
結衣は逆に金額が気になってしまう。
「考えたら負けですよ」
摩夜が苦笑する。
「今日は五千億円の社長がいるんだから。」
「五千億円って言うな。」
ハルトは少し照れ臭そうに頭をかく。
「全部黄金竜のおかげだからな。」
そこへ再び襖が開く。
今度は華やかな着物姿の女性たちがゆっくりと部屋へ入ってきた。
髪を美しく結い上げ、色鮮やかな京友禅を身にまとった舞妓たち。
歩く姿まで気品に満ちている。
「本日はお招きいただき、ありがとうございます。」
美しく頭を下げる姿に、一同は思わず見惚れた。
「本物の舞妓さんだ……」
陽葵が感動の声を漏らす。
「テレビ以外で初めて見ました……」
結衣も思わず背筋を伸ばす。
聖奈が微笑みながら説明した。
「今夜は、お食事だけでなく京都らしいおもてなしも楽しんでいただこうと思いまして。」
「すげぇ……」
摩夜が素直に感心する。
「もう旅行っていうか文化体験だね。」
舞妓たちはそれぞれの席へ丁寧に挨拶を済ませる。
そのタイミングで料理長が一礼した。
「それでは、お料理がすべて揃いました。」
聖奈が全員を見渡す。
「皆さん、京都旅行二日目もお疲れ様でした。」
グラスが配られる。
ハルトは嬉しそうにそれを手に取った。
「では!」
満面の笑みを浮かべる。
「夜の二条城と、美味い飯に感謝して!」
「乾杯!」
六人の声が歴史ある大広間へ響き渡り、特別な夜の宴が華やかに幕を開けた。
乾杯を終えると、一同は自然と卓上へ視線を向けた。
目の前には、京都の旬を詰め込んだ豪華な宴会料理。
どれから箸を付けても正解だと思えるほど、美しく盛り付けられている。
「……これは迷うな。」
ハルトが腕を組む。
すると料理長が一歩前へ出た。
「お料理は温かいうちにお召し上がりいただくのが一番でございます。本日の舞も、お食事が一段落してからご覧いただけますので、どうぞまずはごゆっくりお料理をお楽しみください。」
聖奈も頷いた。
「せっかくですから、まずはお料理をいただきましょう。」
「賛成!」
陽葵は待ってましたと言わんばかりに箸を手に取る。
「冷めちゃうともったいないですもん!」
「こういう料理って見てるだけでも幸せだけど、やっぱり食べないとね。」
結衣も笑いながら最初の一品へ箸を伸ばした。
――――――
最初に口へ運んだのは、旬の京野菜を使った炊き合わせ。
優しい出汁の香りが口いっぱいに広がる。
「……おいしい。」
結衣が思わず目を閉じた。
「味が濃いわけじゃないのに、ちゃんと美味しい。」
「これが京料理なんですね。」
陽葵も嬉しそうに頷く。
「素材の味がすごく分かります。」
凛も静かに一口。
「上品だな。」
「無駄が一切ない。」
「まさに職人技ですね。」
聖奈も満足そうに微笑む。
一方。
ハルトはというと。
伊勢海老の造り。
和牛の炙り。
鮑。
土瓶蒸し。
次々と箸を伸ばしていた。
「うむ。」
「これも美味い。」
「これも美味い。」
「これも美味い。」
「全部美味いな!」
あまりにも真っ直ぐな感想に、一同が笑う。
「語彙力!」
結衣が思わず突っ込む。
「食レポ下手すぎる!」
「美味いものは美味い。」
「それしか言ってないじゃん!」
「では。」
ハルトは土瓶蒸しを一口飲む。
「これは、とても美味い。」
「ちょっとだけ増えた!」
結衣が肩を震わせる。
摩夜も笑いながらスマホを構える真似をした。
「本日のレビュー。
『全部美味い』」
「星五つ。」
凛まで真顔で続ける。
「理由、美味いから。」
「みんな乗っかるな!」
部屋の空気が一気に和やかになる。
――――――
「そういえば。」
陽葵が湯葉を口へ運びながら尋ねた。
「こういう豪華な宴会って、ハルト先輩は異世界でも経験あったんですか?」
「あったぞ。」
ハルトは懐かしそうに頷く。
「王都で魔王軍に勝利した祝いの宴や、各国との同盟締結、収穫祭など色々あった。」
「やっぱりあるんだ。」
「ただ。」
少しだけ苦笑する。
「料理が運ばれる速度は、こっちの方が圧倒的に速い。」
「そこ比較するの?」
結衣が笑う。
「向こうは巨大な魔獣を丸焼きにすることも多かったからな。」
「スケールが違う!」
「あと酒豪ばかりだった。」
「それはなんとなく想像できる。」
摩夜が頷く。
「異世界の戦士って、みんな強そうだし。」
「宴会になると武勇伝が始まる。」
「現代と変わらないじゃん。」
結衣が吹き出した。
――――――
そこへ舞妓の一人が、お酒を注ぎながら微笑む。
「皆様、とても仲がよろしいのですね。」
「そう見えます?」
結衣が照れ笑いを浮かべる。
「はい。」
「皆様がお話しされているだけで、こちらまで楽しい気持ちになります。」
「ありがとうございます。」
聖奈が丁寧に頭を下げた。
「この六人で過ごす時間が、私たちも大好きなんです。」
その言葉に、陽葵が嬉しそうに頷く。
「学校ではこんな贅沢できませんもんね。」
「普通の高校生は二条城貸し切らないからね。」
摩夜が即座に返す。
「そうでした。」
陽葵はえへへと笑った。
「感覚がおかしくなってました。」
「旅行始まってから全部規模がおかしい。」
結衣も苦笑する。
「プライベートジェットにヘリコプター、高級ヴィラ、会員制ラウンジ……」
そこで大広間を見渡した。
「締めが夜の二条城って、どんな旅行よ。」
「確かに。」
凛も静かに笑みを浮かべる。
「一生忘れられない旅になりそうだ。」
全員が自然と頷いた。
その頃には、最初に並べられていた料理もほとんど空になっていた。
料理長がその様子を確認し、静かに一礼する。
「それでは、この後は京都の伝統芸能もお楽しみいただければ幸いです。」
部屋の照明が少しだけ落とされる。
舞妓たちがゆっくりと中央へ歩み出ると、大広間の空気が宴から雅な舞台へと静かに移り変わっていった。
先ほどまで料理を楽しんでいた宴会場は、まるで小さな舞台へと姿を変えた。
静かに三味線の音が響き始める。
軽やかで、それでいてどこか懐かしい旋律。
舞妓たちは扇を手に、音色へ合わせるようにゆっくりと舞い始めた。
足運びは小さく。
袖や扇の動き一つ一つに無駄がない。
激しく踊るわけではない。
ゆったりと流れる時間そのものを楽しませるような、美しい舞だった。
「……きれい。」
陽葵が思わず呟く。
「動きがすごく静かなのに、全然飽きないです。」
「分かる。」
結衣も目を離せない。
「テレビだと数秒しか見ないけど、実際に目の前で見ると全然違うね。」
摩夜も珍しくスマホをしまったまま見入っていた。
「これは動画じゃ伝わらないや。」
「空気まで含めて芸なんだね。」
凛は静かに頷く。
「武を極める者にも通じる。」
「一つ一つの所作が研ぎ澄まされている。」
ハルトも舞を見つめながら感心していた。
「無駄のない身体の使い方だ。」
「やっぱり見るところが違う。」
結衣が苦笑する。
「普通は『きれい』って感想になるの。」
「もちろん美しいと思っている。」
ハルトは真面目に答えた。
「だが、それだけではない。」
「あれだけゆっくり動いているように見えて、軸が全くぶれない。」
「かなり鍛錬を積んでいる。」
その言葉に、舞を終えた舞妓の一人が少し驚いたように微笑んだ。
「ありがとうございます。」
「そのように見ていただけるとは思っておりませんでした。」
「毎日の積み重ねがあるのだろう。」
ハルトが自然に言う。
「長年鍛えた者だけが持つ動きだった。」
舞妓は嬉しそうに頭を下げた。
「幼い頃から、お稽古を続けております。」
「やはりそうか。」
「努力は動きに表れる。」
結衣は小さく笑う。
「褒め方だけは勇者っぽいんだよなぁ。」
――――――
次に披露されたのは、三味線に合わせた唄。
広い大広間へ、透き通るような歌声が響き渡る。
歌詞の意味までは分からなくても、不思議と耳を傾けたくなる。
「京都って感じですね。」
陽葵が目を輝かせる。
「修学旅行でも見られないですよね。」
「こんな距離ではまず見られないだろうな。」
聖奈も静かに微笑む。
「私も幼い頃に何度か拝見しましたが、何度見ても素敵です。」
「歴史ある場所で見るから、余計に雰囲気がありますね。」
摩夜が辺りを見回す。
「昔のお殿様も、こんな感じで見てたのかな。」
「かもしれないな。」
凛が黄金の襖へ視線を向ける。
「数百年前も、この部屋には同じように三味線の音色が響いていたのだろう。」
「そう考えると不思議だ。」
結衣もゆっくりと周囲を見渡した。
「歴史の教科書って苦手だったけど、こういう場所に来ると急に実感が湧くね。」
「確かに。」
陽葵も何度も頷く。
「ここで昔の人も宴会してたんだなぁ……。」
「戦国武将とか?」
「いや。」
摩夜が笑う。
「二条城は江戸時代のイメージかな。」
「徳川将軍とか。」
「そっか。」
結衣は思わずハルトの方を見る。
最上席へ堂々と座る姿。
その隣へ自然と並ぶ五人。
「……なんか。」
「さっきからハルトだけ違和感ないんだけど。」
「確かに。」
陽葵まで笑ってしまう。
「最初見た時から普通に殿様でした。」
「違和感が仕事してない。」
摩夜も肩を震わせる。
「何だ。」
ハルトは首を傾げる。
「皆も座ればよかったではないか。」
「一番偉い席だから遠慮したの!」
「そうか?」
「そうなの!」
また結衣のツッコミが入り、大広間が笑いに包まれる。
その様子を見た舞妓たちも、小さく口元をほころばせていた。
歴史ある城で味わう京料理。
目の前で披露される京都の伝統芸能。
そして、いつも通り笑いの絶えない六人。
格式高い空間でありながら、不思議と肩肘張らずに楽しめる時間が、ゆっくりと流れていくのだった。
舞が終わると、大広間には自然と拍手が広がった。
「ありがとうございました。」
代表の舞妓が深く一礼する。
それに合わせるように、他の舞妓たちも美しく頭を下げた。
「すごかったです!」
陽葵が思わず立ち上がる。
「本当に素敵でした!」
「ありがとうございます。」
舞妓たちは柔らかく微笑んだ。
結衣も満足そうに息を吐く。
「京都って、お寺とか神社を巡るだけじゃないんだね。」
「こういう伝統芸能も含めて京都なんだって実感した。」
「ええ。」
聖奈も頷く。
「皆さんに楽しんでいただけたようで何よりです。」
料理長も部屋へ姿を見せる。
「お料理もすべてお口に合いましたようで安心いたしました。」
「全部美味しかったです!」
陽葵が笑顔で答える。
「ごちそうさまでした!」
「本当にありがとうございました。」
凛も丁寧に頭を下げる。
ハルトも立ち上がり、料理長と舞妓たちへ向かって一礼した。
「素晴らしい宴であった。」
「料理も芸も見事だった。」
「心より感謝する。」
その言葉に、料理長も舞妓たちも嬉しそうに微笑む。
「こちらこそ、本日はありがとうございました。」
――――――
一行は席を立ち、大広間を後にする。
静まり返った廊下を歩きながら、最後にもう一度だけ振り返る。
先ほどまで賑やかだった宴会場は、再び静かな歴史ある空間へ戻っていた。
「終わっちゃいましたね。」
陽葵が少し名残惜しそうに呟く。
「楽しかったなぁ。」
「本当ね。」
結衣も笑顔を浮かべる。
「こんな経験、一生に一回あるかないかだよ。」
「また来たいですね。」
「うん。」
全員が自然と頷いた。
そして城門へ向かう途中。
ハルトが立ち止まり、大きく息を吸う。
「――よし!」
両手を軽く叩く。
「殿様モード終了!」
「……え?」
五人が一斉に振り返る。
「え、演技だったの?」
結衣が目を丸くする。
「せっかく城で宴会だったからな。」
ハルトは照れ笑いを浮かべる。
「雰囲気が出るかなって思って、ちょっと殿様っぽくしてみた!」
「やっぱり演技だったんだ!」
「途中から完全に板についてたけど!」
摩夜が吹き出す。
「違和感なさすぎて素だったのかと思った。」
「私もそう思ってた。」
凛まで苦笑する。
「いやー、楽しかった!」
ハルトはいつもの調子で笑う。
「やっぱりイベントは全力で楽しんだ方が面白いだろ!」
「その発想で殿様になろうとする高校生、世界中探してもハルトだけだよ。」
結衣が呆れ半分、笑い半分で肩をすくめる。
「でも。」
聖奈が小さく笑う。
「とても似合っていましたよ。」
「え、本当?」
「はい。」
「じゃあ、また機会があったらやってみようかな!」
「やらなくていい!」
結衣のツッコミが夜の二条城へ響く。
舞妓たちも思わず笑みをこぼしていた。
――――――
二条城を後にし、車へ乗り込む。
窓の外では、ライトアップされた城がゆっくりと遠ざかっていく。
「今日は本当に濃い一日だったな。」
凛が静かに呟く。
「ヘリコプターに、高級料理、夜の二条城。」
「全部動画にしたら、とんでもない再生数になりそう。」
摩夜が苦笑する。
「編集が大変そうだけど。」
「今日は撮影より楽しむ方を優先したからね。」
結衣も満足そうに笑う。
「たまにはこういう日もいいよ。」
聖奈が前を向いたまま口を開く。
「京都旅行も、いよいよ明日で最後です。」
「午前中だけですが、もう少し京都をご案内します。」
「まだあるのか!」
ハルトの目が輝く。
「楽しみだ!」
「最後まで全力で遊ぼう!」
その一言に、全員が笑顔で頷いた。
豪華な京都旅行は、いよいよ最後の一日へ。
六人を乗せた車は、夜の京都の街並みを静かに走り抜けていくのだった。




