表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『承認欲求強めの最強勇者、魔法動画でバズって前世のヒロインたちを召喚してしまう~今世の幼馴染が管理しきれないほど愛が重すぎる~』  作者: 悪癖


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
56/68

第55話 世界一高い豪遊動画のはじまり

 放課後を告げるチャイムが鳴り響く。


 金曜日。


 教室中が「やっと休みだ」という空気に包まれる中、ハルトは机の上で拳を握り締めた。


「よし! ついに今日だ!」


 満面の笑みで立ち上がる。


 その声に結衣が苦笑した。


「朝からずっとそのテンションだもんね」


「だって楽しみだろ? 炎の勇者チャンネル史上、一番豪華な動画なんだから!」


「それは否定しないけど」


 結衣も思わず笑ってしまう。


 今回の企画は、豪遊動画。


 しかも、ただの旅行ではない。


 会社設立と黄金竜オークション成功の記念企画として、二泊三日を丸ごと使った超豪華旅行である。


 学校が終わった金曜日の夕方に出発し、日曜日の夜に帰宅。


 そのすべてを動画として撮影する予定だった。


「主、車の準備は整っています」


 凛が静かに報告する。


「勇者様。空港の使用許可や飛行計画も問題ありません」


 聖奈も微笑みながら続けた。


「ネット上への情報漏えいも確認していない。今日の撮影場所は完全に秘匿されているよ」


 摩夜がスマートフォンを見ながら告げる。


「皆さん、今日は思い切り楽しみましょう」


 陽葵も嬉しそうに頷いた。


「よーし! じゃあ出発!」


 ハルトの一声で、六人は教室を後にした。


 夕日に染まる校舎を抜け、校門へ向かう。


 学校帰りの生徒たちが、楽しそうに談笑しながら帰路につく中、その脇へ一台の黒塗りの高級車が静かに横付けされた。


「相変わらず目立つねぇ……」


 結衣が苦笑する。


「仕方ありません。今回は撮影機材も多いため、大型車を用意いたしました」


 聖奈は悪びれた様子もない。


「普通の高校生の送迎じゃないよね、それ」


「動画撮影ですから」


「便利な言葉になってきたね、それ」


 結衣が肩をすくめると、一同は笑いながら車へ乗り込んだ。


 車内には既に撮影機材やカメラケースが整然と積み込まれている。


 運転席には西園寺グループの専属運転手。


 車は静かに学校を離れた。


 窓の外には、夕暮れへ変わり始めた街並みが流れていく。


「旅行なんて久しぶりだな」


 ハルトは窓の外を見ながら笑う。


「動画で遠出は何度もしてるけど、泊まりは初めてだもんね」


 結衣が答える。


「しかも二泊三日だぞ!」


「知ってる知ってる」


「楽しみすぎて昨日あんまり寝られなかった!」


「子供じゃないんだから」


「いや、これは寝られないだろ!」


 ハルトの笑顔につられ、車内も自然と明るい空気になっていく。


 陽葵はその様子を優しく見守りながら微笑み、凛は満足そうに目を細める。


 主が楽しそうなら、それだけで十分だった。


 しばらくして高速道路へ入り、車は空港へ到着した。


 一般の利用客とは別のゲート。


 関係者以外立ち入り禁止と書かれた区域を進み、さらに専用エリアへ入っていく。


 結衣は窓の外を見て目を丸くした。


「えっ……」


 思わず声が漏れる。


「うわ……」


 ハルトも思わず足を止めた。


 夕焼け色に染まる滑走路。


 その中央に、一機の真っ白な機体が静かに待機していた。


 流線形の美しい機体。


 夕日を受けて輝く翼。


 近付くだけで圧倒される存在感。


「これが……」


 ハルトが目を輝かせる。


「プライベートジェットか!」


「はい」


 聖奈が誇らしげに頷いた。


「今回の動画撮影のためにチャーターいたしました」


「すげぇぇぇぇ!」


 ハルトは子供のように駆け出した。


「近くで見るとめちゃくちゃ大きい!」


「ハルト! 走らない!」


「ごめんごめん!」


 結衣が笑いながら後を追う。


「でもこれはテンション上がるよね」


「だろ!」


「私もちょっと分かる」


 機体の前へ移動すると、結衣はすぐに撮影用カメラを取り出した。


「よし、本番いこう」


「オッケー!」


 ハルトは一瞬で表情を切り替える。


 深呼吸。


 そしてカメラへ向かって満面の笑みを浮かべた。


「どうもー! 炎の勇者チャンネルです!」


 手を振る。


 後ろには巨大なプライベートジェット。


 夕焼けを背負った最高のロケーションだった。


「今日はですね!」


 ハルトは勢いよく後ろを指差す。


「なんと! このプライベートジェットをチャーターして、超豪華旅行へ行きます!」


 結衣たちも画面へ入る。


「イエーイ!」


 陽葵が控えめに拍手し、凛も小さく頷く。


 聖奈は上品に微笑み、摩夜は少し照れながら手を振った。


「今回の動画は二泊三日!」


 ハルトが指を二本立てる。


「炎の勇者チャンネル史上一番豪華な旅行企画だ!」


「ちなみに行き先は?」


 結衣がカメラの後ろから問い掛ける。


 ハルトは胸を張った。


「京都!」


 その一言で、全員の表情がさらに明るくなる。


「京都で思いっきり遊んで!」


「おいしいもの食べて!」


「最高の景色を見て!」


「最高の動画を撮ってくる!」


 ハルトは拳を突き上げた。


「絶対バズる動画にするから、最後まで楽しみにしててくれ!」


 結衣がカメラへ親指を立てる。


「それじゃあ!」


「行ってきます!」


 六人の声が重なった。


 撮影を一旦止めると、スタッフに案内されて機体へ向かう。


 階段を上がるたび、ハルトの足取りは軽くなる。


「人生初のプライベートジェットだ!」


「俺、絶対窓際座る!」


「はいはい、小学生」


「いやこれは仕方ないって!」


 笑い声を響かせながら、一人、また一人と機内へ入っていく。


 扉が静かに閉まり、エンジン音がゆっくりと大きくなり始めた。


 豪遊動画。


 炎の勇者チャンネル史上、かつてないスケールの二泊三日が、いよいよ幕を開けようとしていた。



――――――



 機体が夜空を滑るように飛び続ける。


 プライベートジェットの機内は、想像していた以上に広かった。


「うわぁ……」


 ハルトは思わず辺りを見回す。


「ソファまである!」


 向かい合わせの革張りのソファ。


 中央には大きなテーブル。


 照明は暖色で落ち着いており、高級ホテルのラウンジのような空間になっていた。


「これ、本当に飛行機なんだな」


「私も初めて乗ったけど、すごいね……」


 結衣も窓の外と機内を何度も見比べている。


 凛は静かに座席へ腰を下ろしながら周囲を確認していた。


「揺れも少ないようですね」


「さすが西園寺グループが手配した機体だよ」


 摩夜が感心したように呟く。


「勇者様、軽食もご用意しております」


 聖奈がテーブルへ並べられた料理を示す。


「飛行時間はそれほど長くありませんが、ご自由にお召し上がりください」


「ありがとう!」


 ハルトは嬉しそうにサンドイッチを手に取った。


「飛行機で食べる飯って、なんか特別感あるよな!」


「それ、分かるかも」


 結衣も笑いながら一つ手に取る。


 そんな何気ない時間も、動画用のカメラはしっかり記録していた。


 豪華な旅行ではある。


 だが六人にとって一番楽しいのは、高級な設備よりも、みんなで過ごす時間そのものだった。


 やがて窓の外に無数の街明かりが見え始める。


「見えてきました」


 聖奈が静かに告げた。


「京都です」


 眼下には夜景が広がっていた。


 碁盤の目のように整った街並みを、無数の明かりが照らしている。


「おぉ……!」


 ハルトが窓へ顔を近付ける。


「京都って上から見るとこんな感じなんだな!」


「夜景もきれいですね」


 陽葵が優しく微笑んだ。


 機体はゆっくりと高度を下げ、そのまま滑らかに着陸した。



 ――――――



 空港を出ると、既に送迎用の高級車が待機していた。


 六人は荷物を積み込み、そのまま夜の京都を走り始める。


 窓の外にはライトアップされた街並みが流れていく。


「京都って昼のイメージが強かったけど、夜も雰囲気あるな」


 ハルトが外を眺める。


「明日はいろいろ回る予定ですので、今日はゆっくりお休みください」


 聖奈が穏やかに答える。


「楽しみだな!」


 車は市街地を抜け、少しずつ静かな山あいへ入っていく。


 街の明かりが遠ざかり、木々に囲まれた道を進む。


 そして十分ほど走ったところで、巨大な門の前へ到着した。


 重厚な門が静かに開く。


 車はゆっくりと敷地内へ入っていった。


「……え?」


 結衣が固まる。


 広い庭園。


 手入れの行き届いた芝生。


 噴水。


 ライトアップされた石畳。


 そして、その先に建っていたのは——。


「……豪邸?」


 思わず声が漏れる。


 まるで海外映画に出てくるような巨大な建物だった。


 三階建てほどの高さがあり、ガラス張りの壁面からは暖かな光があふれている。


 左右へ大きく広がる建物は、一目で普通の宿泊施設ではないと分かった。


「すげぇ……!」


 ハルトは純粋に目を輝かせる。


「いい宿だな!」


「そうですね」


 凛も静かに頷く。


「とても過ごしやすそうです」


「お庭もすごくきれいです……」


 陽葵も感心したように見渡している。


「設備も撮影向きだね」


 摩夜は早くも撮影場所を頭の中で組み立て始めていた。


 結衣だけが一人、何度も建物を見上げる。


「いやいやいやいや!」


 ついに我慢できず叫んだ。


「どう見てもホテルじゃなくて大豪邸なんだけど!?」


 その場が一瞬静まる。


 聖奈だけは、いつも通り落ち着いた笑みを浮かべていた。


「皆さんから『せっかくだから一番豪華な場所に泊まろう』と言われましたので」


「言ったけど!」


「その際、『ではこちらで予約等を済ませます』とお伝えしました」


「言ったけど!」


「ですので、その通り手配いたしました」


 あまりにも自然な返答だった。


 結衣は額を押さえる。


「いや、普通そこは最高級ホテルを想像するじゃん!」


「こちらも宿泊施設ですので問題ありません」


「規模がおかしいの!」


「そうでしょうか?」


 聖奈は本気で首をかしげる。


 どうやら本当に何がおかしいのか分かっていないらしい。


「結衣」


 ハルトが建物を見上げながら笑う。


「すごくいいところじゃん」


「そこじゃないの!」


「俺、こんな場所泊まるの初めてだ!」


「私も初めてだけど!」


「楽しみだな!」


「話聞いてぇ!」


 結衣のツッコミに、他の五人はきょとんとしている。


 豪華な場所に泊まる。


 その目的は達成されている。


 だから何も問題ない。


 そう考えているのは、この場では結衣以外の全員だった。


「……もういいや」


 結衣は小さくため息をつき、笑ってしまう。


「このメンバーで常識を気にした私が負けだった」


「?」


 ハルトは不思議そうに首をかしげる。


「早く中に入ろうぜ!」


 その一言で、五人は嬉しそうに玄関へ向かって歩き出す。


 結衣も苦笑しながら、その後を追いかけた。


 扉の向こうには、まだ誰も見たことのない最高の二泊三日が待っていた。



 ヴィラの玄関をくぐった瞬間、全員が思わず足を止めた。


「広っ……」


 ハルトが見上げる。


 吹き抜けになった大きなエントランス。


 二階へ続くゆるやかな階段。


 大理石の床に、落ち着いた間接照明。


 壁には現代アートと日本画が違和感なく飾られ、窓の向こうにはライトアップされた庭園が広がっていた。


「これ、本当に泊まる場所なんだよな?」


「はい」


 聖奈は当然のようにうなずく。


「二日間はこちらをご自由にお使いください」


「家というより、お城じゃん……」


 結衣はまだ現実感が追いついていなかった。


 スタッフの案内を受けながら、それぞれが自分の部屋へ向かう。


 ハルトの部屋だけでも、一人暮らし用のマンションほどの広さがある。


「ベッドがでかっ!」


 飛び込むように寝転がると、体がふわりと沈み込んだ。


「すげぇ……雲みたいだ」


 思わず笑みがこぼれる。


 旅行用の荷物を置き、カメラ機材を部屋の隅へまとめる。


 着替えだけ取り出すと、再び一階のリビングへ向かった。


 全員が集まったところで、聖奈が時計へ目を向ける。


「そろそろですね」


「何かあるの?」


 結衣が尋ねる。


「夕食のお時間です」


 その言葉とほぼ同時に、玄関のチャイムが鳴った。


 コンコン、と控えめな音。


 スタッフが扉を開ける。


 すると次々と人が入ってきた。


「失礼いたします」


「本日はよろしくお願いいたします」


 白いコックコートに身を包んだ料理人たち。


 一人や二人ではない。


 十名近い料理人が、大きな保冷ケースや木箱を運び込んでくる。


「うわっ」


 ハルトが目を丸くする。


 箱の中には氷で冷やされた魚介。


 色鮮やかな京野菜。


 上質な和牛。


 季節の果物。


 見たこともないほど立派な食材が次々とキッチンへ運ばれていく。


「食材だけでもすごい量……」


 結衣が思わずつぶやく。


 さらに料理人たちは、自分たちで運んできた長い木箱を開け始めた。


 中から現れたのは、何本もの包丁。


 砥石。


 使い込まれた銅鍋。


 鉄鍋。


 特注らしい調理器具まで並び始める。


「調理器具まで持ってくるんだ」


 ハルトが感心する。


 料理長らしき男性が穏やかに笑った。


「包丁は料理人にとって命ですので」


 一本の包丁を手に取り、静かに刃を確かめる。


「長年使い続けた道具の方が、どうしても手になじみます」


「なるほど!」


 ハルトは何度もうなずいた。


「剣士が自分の剣を使うような感じか!」


「ええ。そのようなものです」


 凛も納得したように小さくうなずく。


「得物を選ぶのは当然ですね」


 料理人たちは慣れた手つきでキッチンの準備を始めていく。


 高級ヴィラの設備だけでも十分だったが、それでも足りない細かな道具は全て持参しているようだった。


 結衣はその光景を見渡して、恐る恐る聖奈へ視線を向ける。


「もしかして、この人たちって……」


「はい」


 聖奈は優雅に微笑んだ。


「本日の夕食を担当してくださる皆様です」


「担当って……」


「ミシュラン三ツ星レストランで腕を振るっておられる料理人の方々です」


「…………」


 結衣は一瞬、言葉を失う。


「今日はこちらへお越しいただきました」


 あまりにも自然に言うので、一瞬聞き流しかけた。


「え、ちょっと待って」


 結衣が慌てて聞き返す。


「三ツ星レストランのシェフを呼んだの!?」


「はい」


「普通呼べるものなの!?」


「日程が合いましたので」


「そこじゃない!」


 聖奈は不思議そうに首をかしげる。


「皆さんから『せっかくだから豪華に楽しもう』とのご希望でしたので」


「またそれ!」


 一方でハルトは目を輝かせていた。


「すげぇ! 三ツ星の料理って初めて食べる!」


「私も楽しみです」


 陽葵が小さく笑う。


「京都のお料理、とても勉強になりますね」


 料理長が全員へ向き直り、丁寧に頭を下げた。


「本日は京都らしさを楽しんでいただけるよう、特別なお料理をご用意しております」


 ほどなくして、料理名が告げられる。


「炭火で焼き上げた京鴨のロース。」


「賀茂なすの田楽。」


「甘鯛のうろこ焼き。」


「京都牛の炭火焼き。」


「湯葉と生麩を使った椀物。」


「旬の京野菜を使った天ぷら。」


「締めには、鱧と九条ねぎの土鍋ご飯をご用意いたします」


 さらに料理長は微笑む。


「もちろん、どのお料理も出来たてを何度でもお作りいたします」


「つまり……」


 ハルトが期待に満ちた目で聞く。


「食べ放題です」


 その一言で、ハルトの顔がぱっと輝いた。


「最高じゃん!」


 結衣は笑いながら額を押さえる。


「もうツッコむ気力もなくなってきた……」


 キッチンからは包丁の軽快な音が響き始める。


 食材が切り分けられ、香ばしい香りが少しずつ漂ってきた。


 豪遊動画、一日目。


 その幕開けにふさわしい、最高級の晩餐が始まろうとしていた。



 ダイニングテーブルいっぱいに料理が並ぶ。


「うわぁ……」


 思わず全員が感嘆の声を漏らした。


 美しく焼き色の付いた京鴨のロース。


 艶やかな味噌が塗られた賀茂なす田楽。


 鱗を立たせたまま香ばしく焼き上げられた甘鯛。


 絶妙な火入れの京都牛。


 透き通った出汁に浮かぶ湯葉と生麩。


 揚げたての京野菜の天ぷら。


 そして、炊き立ての鱧と九条ねぎの土鍋ご飯。


 どの料理も、芸術品のようだった。


「それでは皆様」


 料理長が穏やかに一礼する。


「冷めないうちにお召し上がりください」


「いただきます!」


 六人の声が重なった。


 ハルトはまず京都牛を一切れ口へ運ぶ。


「……うまっ!」


 思わず目を見開く。


 柔らかな肉から甘い脂があふれ、噛むほどに旨味が広がる。


「これ、飲み物じゃん!」


「いや、お肉だから」


 結衣が即座にツッコむ。


「でも分かるかも」


 自分も一口食べて、思わず笑みがこぼれた。


「本当においしい……」


 陽葵は湯葉の椀物を口に運ぶ。


「お出汁が優しいですね」


「京料理らしい上品な味です」


 聖奈もうれしそうに頷いた。


 凛は京鴨を味わいながら静かに感心する。


「これほど柔らかな鴨肉は初めてです」


 摩夜は賀茂なす田楽を食べて目を丸くした。


「茄子ってこんなに甘かったっけ……」


 料理長たちは、その反応を見て満足そうに微笑んでいる。


「皆様」


 料理長が声を掛けた。


「本日は貸切でございますので、お気遣いは不要です」


「?」


 ハルトが顔を上げる。


「お好きな料理を、お好きなだけお申し付けください」


「え?」


「同じ料理を何度でもお作りいたします」


 さらに料理長は続ける。


「本日は皆様だけのお食事です。他のお客様はいらっしゃいませんので、マナーなども過度に気になさらず、ご自宅のようにお楽しみください」


 その一言で、ハルトの目が輝いた。


「いいのか!?」


「もちろんでございます」


「じゃあ京都牛おかわり!」


「かしこまりました」


「あと土鍋ご飯も!」


「承知いたしました」


「京鴨も!」


「すぐにご用意いたします」


「天ぷらも!」


「ありがとうございます」


 料理長は嬉しそうに厨房へ戻っていく。


 数分もしないうちに、出来たての料理が再び運ばれてきた。


「すげぇ!」


 ハルトは大喜びで箸を動かす。


「うまい!」


 一口食べる。


 すぐに土鍋ご飯をかき込む。


 京都牛を頬張る。


 またご飯。


 京鴨。


 ご飯。


 天ぷら。


 ご飯。


「ハルト!」


 結衣が笑いながら声を上げる。


「チェーン店の牛丼食べてるみたいな勢いで高級料理かき込まないの!」


「だってうまいんだもん!」


「分かるけど!」


「冷めたらもったいない!」


「それはそうだけど!」


 口いっぱいに頬張りながら幸せそうに笑うハルト。


 見ているだけで食欲が増してくる。


「勇者様、本当においしそうに召し上がりますね」


 聖奈が微笑む。


「だろ!」


 ハルトは元気よく親指を立てた。


「最高!」


「その食べっぷりなら、料理人の皆さんも作りがいがありますね」


 料理長たちも思わず笑顔になっていた。


「ありがとうございます」


「これほど気持ちよく召し上がっていただけるのは、料理人として何よりうれしいことです」


 食卓は終始笑い声に包まれていた。


 そのとき。


 ――ドォォン。


 低く響く音が聞こえた。


「ん?」


 ハルトが箸を止める。


 続いて夜空を震わせるような大きな破裂音。


 ドンッ!


 ドォンッ!


 陽葵が窓の方を向く。


「あっ……!」


 リビングの一面を占める大きなガラス窓の向こう。


 夜空に一輪の大きな花が咲いた。


 赤。


 青。


 金。


 次々と色鮮やかな光が夜空を染め上げる。


「花火!」


 ハルトが立ち上がる。


 窓へ駆け寄ると、そこには視界いっぱいに広がる大輪の花火。


 まるで目の前で打ち上げられているような迫力だった。


「うわぁぁぁ!」


「すごい……」


 結衣も思わず息をのむ。


 ヴィラのベランダから見下ろすような位置に、次々と花火が打ち上がっていく。


 音が胸に響き、光が夜空を埋め尽くす。


「最高だ!」


 ハルトは子どものように目を輝かせながら叫んだ。


 豪華な料理。


 気の置けない仲間たち。


 そして目の前いっぱいに広がる大輪の花火。


 二泊三日の豪遊旅行は、まだ始まったばかりだった。



 夜空いっぱいに、大輪の花が咲く。


 赤。


 青。


 金。


 紫。


 色とりどりの花火が、夜空を鮮やかに染め上げていく。


 六人は料理を皿に取り分け、そのまま広いベランダへと出た。


 夏の夜風が心地よい。


 目の前には京都の夜景。


 その上空で、次々と花火が開いていく。


「すっげぇ……」


 ハルトは京鴨を頬張りながら、目の前の景色に見入っていた。


「こんな近くで見る花火初めてだ」


「迫力ありますね」


 陽葵も花火の光を瞳に映しながら微笑む。


「音が胸まで響きます」


 凛は静かにグラスを傾けながら夜空を見上げる。


「戦場の爆発音とはまるで違いますね」


「比べるものがおかしいよ」


 結衣が苦笑する。


 摩夜は片手に賀茂なす田楽の皿を持ちながら、スマートフォンで景色を撮影していた。


「この映像だけでも動画映えしそう」


「絶対サムネになるな!」


 ハルトも満足そうにうなずく。


 料理人たちはベランダの横で、出来たての料理を次々と運んできてくれる。


 皿が空けば、また新しい料理が並ぶ。


 まさに食べ放題だった。


「京都牛おかわり!」


「承知いたしました」


「土鍋ご飯も!」


「ただいまお持ちいたします」


 料理長が笑顔で応じる。


「幸せだぁ……」


 ハルトは頬いっぱいにご飯を詰め込みながら笑った。


「本当に幸せそうだね」


 結衣も思わず笑ってしまう。


 そのとき。


 ドォォォンッ!


 ひときわ大きな花火が夜空いっぱいに広がった。


「そういえばさ」


 ハルトが花火を眺めながら首をかしげる。


「今日って、たまたま花火大会でもやってたのか?」


「いえ」


 聖奈は穏やかに首を横へ振った。


「違います」


「え?」


 全員が聖奈を見る。


 本人だけは、いつも通り落ち着いた表情だった。


「せっかく皆さんで旅行へ来るのですから」


 さらりと言う。


「本日のこの時間、このヴィラのベランダから最高の眺めになる位置へ花火を打ち上げるよう依頼いたしました」


 静寂。


「…………」


 結衣は数秒間固まった。


「…………え?」


「ですので、本日の花火は皆様のための演出でございます」


 ドォンッ!


 まるでタイミングを合わせたように、特大の花火が夜空いっぱいに咲いた。


「いやいやいや!」


 結衣が思わず叫ぶ。


「そんなことできるの!?」


「はい」


「"はい"じゃないの!」


「専門業者へお願いしただけですが」


「そのお願いの規模がおかしいんだって!」


 聖奈は少しだけ考えるように首をかしげる。


「皆様に楽しんでいただくには、この方法が最適かと」


「金銭感覚どうなってるの!?」


 一方。


 ハルトは感心したように何度もうなずいていた。


「なるほど!」


「納得するの!?」


「なんか金持ちっぽいよな!」


「そこだけ!?」


 ハルトは腕を組みながら満足そうに笑う。


「豪遊って感じがする!」


「……」


 結衣はその言葉を聞いて、ゆっくりとハルトへ視線を向けた。


 そして聖奈を見る。


 さらにもう一度ハルトを見る。


「……ああ」


 小さくため息をついた。


「分かった」


「何が?」


 ハルトが首をかしげる。


「これ、聖奈さんだけじゃないな」


「?」


「ハルトも一緒になって豪遊企画だからもっと派手にしようとか言ってるでしょ」


 その瞬間。


 ハルトと聖奈の動きがぴたりと止まった。


 二人は顔を見合わせる。


「……」


「……」


 そして同時に、すっと視線を逸らした。


 あまりにも分かりやすい反応だった。


「やっぱり!」


 結衣が指を差す。


「絶対そうじゃん!」


「いやぁ」


 ハルトは頭をかきながら笑う。


「せっかくの豪遊動画だし?」


「もっと豪華な方が面白いかと思いまして」


 聖奈も悪びれる様子はまったくない。


「ほらぁ!」


 結衣は思わず空を仰ぐ。


「この二人が組むと、毎回スケールがおかしくなるんだから!」


「でも楽しいだろ?」


 ハルトが笑う。


 目の前では、夜空を埋め尽くすような花火が咲き誇る。


 最高級の料理。


 最高の景色。


 最高の仲間たち。


 誰もが自然と笑顔になっていた。


 そして結衣も、小さく笑って肩をすくめる。


「……まあ」


 夜空を見上げる。


 色鮮やかな光が瞳に映る。


「これだけきれいなら、文句言えないか」


 その言葉に、全員が笑った。


 夜空へ咲く大輪の花火は、旅行一日目の最高の思い出として、いつまでも六人の目に焼き付いていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ