第50話 黄金は隠しきれない
西園寺グループ所有の巨大物流施設。
その最深部にある特別保管倉庫は、もはや「倉庫」と呼ぶにはあまりにも規格外だった。
天井は何十メートルもの高さがあり、巨大なクレーンが幾本も走る。
横幅も奥行きもサッカー場を軽く超えるほど。
大型船舶の部品や航空機すら組み立てられる超大型施設であり、普通の人間なら一歩足を踏み入れただけで、その圧倒的な空間に言葉を失う。
そんな場所へ、炎の勇者チャンネルのメンバーが集まっていた。
「…………」
結衣は入口で立ち止まった。
ゆっくりと天井を見上げ、次に何もない広大な床を見回す。
「……ねぇ」
小さく呟く。
「うん?」
ハルトがカメラケースを持ちながら振り返る。
「なんで倉庫なのに、こんなに広いの?」
「大きいもの作るから!」
あまりにも当然という顔だった。
その一言だけで、結衣の胸騒ぎはさらに強くなる。
(やっぱりそうだ……。)
(絶対、普通じゃない。)
(昨日、私が寝込んでる間に絶対とんでもない企画決めたんだ……。)
視線が自然と聖奈へ向く。
聖奈はいつも通り上品に微笑んでいた。
「勇者様のご要望通り、十分な広さを持つ施設をご用意いたしました。」
「ありがとう!」
「この施設でしたら、ご希望の物でも問題なく収容できます。」
「さすが聖奈!」
何が収容されるのか。
その説明だけが、誰からも出てこない。
結衣は恐る恐る尋ねた。
「……ちなみに、その『ご希望の物』って?」
「見れば分かるよ。」
ハルトは満面の笑みだった。
「え?」
「動画の方がリアクションいいじゃん!」
「いや、その前に教えて!?」
「サプライズだから。」
「サプライズで済む話じゃない気がするんだけど!?」
凛が真面目な表情で周囲を確認する。
「施設内の安全確認は完了しています。作業員も全員退避済みです。」
「搬入口も封鎖済みです。」
摩夜も続ける。
「通信妨害も完了。
外部から内部を撮影される心配はない。」
「ありがとう!」
全員が着々と準備を終えていく。
結衣だけが事情を知らない。
(待って。)
(待って待って待って。)
(作業員退避って何!?)
(通信妨害って何!?)
(そんな撮影ある!?)
嫌な予感だけが、どんどん大きくなる。
そこへ聖奈が一枚の紙を差し出した。
「結衣さん。」
「な、なに?」
「本日の進行表です。」
結衣は受け取り、目を通す。
『撮影』
『鑑定』
『今後オークションへ出品予定と発表』
「…………」
一瞬、思考が止まった。
「オークション?」
思わず読み返す。
「え?」
「え?」
「オークション?」
もう一度確認する。
見間違いではなかった。
「え、何を!?」
聖奈は穏やかに答える。
「本日制作する物です。」
「いやだから何を作るの!?」
「それは勇者様からご説明いただく予定です。」
「説明してよハルト!」
ハルトはカメラを三脚へ取り付けながら笑う。
「まあまあ。
動画が始まってからのお楽しみ!」
「楽しみじゃなくて怖いんだけど!」
結衣は頭を抱えた。
昨日まで風邪で寝込んでいた。
たった一日。
たった一日、自分がいなかっただけで。
企画がオークションにまで発展している。
(絶対止められなかったやつだ……。)
(私、一日休んだだけだよね?)
(なんでここまで話進んでるの!?)
そんな結衣をよそに、撮影準備はどんどん進む。
照明が点灯する。
大型カメラが起動する。
音声チェック。
ドローンカメラも待機。
まるで映画撮影のような現場だった。
ハルトはカメラの前へ立ち、大きく息を吸う。
「よし!」
指を立てる。
「今回も最高の動画にしよう!」
「はい。」
「お任せください。」
「問題ない。」
「頑張ります!」
4人は迷いなく返事をした。
結衣だけが、おずおずと手を挙げる。
「あのー……。」
「ん?」
「今からでも企画変更とか……。」
「え?」
ハルトは本気で不思議そうな顔をした。
「なんで?」
「なんでって!」
「絶対面白いぞ?」
「そこじゃなくて!」
「今回、すごい自信ある!」
「だから怖いんだってば!」
ハルトは笑いながらカメラの録画ボタンを押した。
赤いランプが点灯する。
「こんにちは!」
いつもの明るい声が巨大な倉庫へ響く。
「炎の勇者チャンネルです!」
結衣は思わずため息をついた。
(始まっちゃった……。)
(お願いだから……。)
(お願いだから今日は、世界を壊さないでね……。)
そんな幼馴染の願いなど知る由もなく。
ハルトは満面の笑みで、今回の企画発表へと口を開いた。
カメラの赤い録画ランプが静かに点灯する。
「こんにちは!」
広大な倉庫へ、ハルトの明るい声が響いた。
「炎の勇者チャンネルです!」
いつものあいさつに続き、ハルトは何もない巨大な空間を大きく手で示した。
「今日はこの広い倉庫を借りて、錬金術を使った企画をやっていくぞ!」
カメラが周囲をゆっくり映す。
天井ははるか頭上。
奥の壁すら遠く見えるほどの巨大空間。
視聴者にも、この場所が普通ではないことが一目で伝わる映像だった。
「まず最初は――」
ハルトは何もない床の中央へ歩いていく。
「土魔法で土台を作る!」
「いや、その時点でもう普通じゃないからね?」
結衣が思わず画面の外から突っ込む。
「そこはCGでしょって流してもらうところじゃないの?」
「大丈夫大丈夫!」
ハルトは笑って親指を立てた。
「今まで全部そうだったし!」
「それで押し切れると思ってるのが怖いんだけど!」
そんなやり取りをよそに、ハルトは静かに床へ手を向けた。
「じゃあ、いくぞ。」
空気が震えた。
直後。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!
地鳴りのような低い音が倉庫中へ響き渡る。
床そのものが盛り上がり始めた。
「えっ……?」
結衣が息を呑む。
巨大な岩の塊が地下から押し上げられるように現れ、その質量だけで空気が震える。
しかし、それはただの岩では終わらなかった。
ハルトの指先がゆっくりと動く。
岩肌が削られ。
削られた石は砂にもならず、その場で新たな形へ組み替えられていく。
巨大な翼。
鋭い角。
長くしなる尾。
何本もの牙。
何枚もの鱗。
一本一本の爪。
すべてが信じられない速度で形になっていく。
まるで世界最高峰の彫刻家が、時間そのものを止めて何年も作業した作品を、一瞬で完成させているかのようだった。
やがて全貌が姿を現す。
倉庫いっぱいに広がる、圧倒的な巨体。
翼を大きく広げ、今まさに獲物へ飛びかかろうと前脚を振り上げた瞬間。
口は大きく開き、今にも咆哮が響きそうなほど迫力に満ちている。
首の筋肉。
鱗一枚一枚の質感。
牙の細かな傷。
瞳の鋭さ。
石であるにもかかわらず、次の瞬間には動き出しそうな命の気配すら感じさせた。
「…………」
結衣は口を開けたまま固まっていた。
「…………」
数秒後。
「でっっっっっっかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」
倉庫中へ絶叫が響いた。
「ちょっ、ちょっ、ちょっと待って!?
何これ何これ何これ!?」
思わず後ろへ何歩も下がる。
「怖い怖い怖い!!
今にも動きそうなんだけど!?」
凛は静かに像を見上げ、小さくうなずいた。
「見事です。
私が知るドラゴンそのものです。」
「ええ。」
聖奈も感慨深そうに微笑む。
「勇者様らしい一体ですね。」
摩夜は腕を組みながら分析する。
「表面の細部まで再現されている。
資料を見て作ったという次元じゃない。」
陽葵は両手を胸の前で組み、目を輝かせていた。
「まるで神話の一場面ですね……。
とても、美しいです。」
結衣だけが全力で首を振る。
「感動してる場合じゃないよ!?
なんでみんなそんな落ち着いてるの!?」
ハルトは満足そうに石像を見上げた。
「うん、結構いい感じにできたな。」
「結構じゃないよ!」
「実物はもっと迫力あった気がするけど。」
「実物って何!?」
待っていましたと言わんばかりにハルトが振り返る。
「これさ。」
石像を指差す。
「異世界で倒したドラゴンなんだ。」
「…………え?」
「俺に襲い掛かってきた時の場面を思い出しながら作ってみた。」
懐かしそうに笑う。
「あの時は空から急降下してきてさ。
いきなり火を吐いてきたんだよ。」
ハルトは両手を広げながら当時を再現する。
「おおー、すごかったぞ。
山一つ燃えるくらい火力があって。」
「いや、その時点で聞きたくないんだけど。」
「でも避ければいいだけだったし。」
「基準がおかしい!」
「そのあと剣で一発斬ったら倒せたから、意外とあっけなかったな。」
さらりと言い切る。
「だから、この飛びかかってくる瞬間が一番印象に残ってるんだよ。」
結衣はゆっくりとドラゴンを見上げた。
今にも食い殺されそうな迫力。
その姿を見てから、もう一度ハルトを見る。
「…………」
「…………」
「いやいやいやいや!」
再び盛大に叫んだ。
「そんな化け物を『あっけなかった』の一言で済ませないでぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
巨大なドラゴンの石像を前に、ハルトは満足そうに腕を組んだ。
「よし。」
一度うなずく。
「形はこんな感じでいいかな。」
陽葵が思わず拍手を送る。
「すごいです……。本当に生きているみたい……。」
「細かいところまで完璧ですね。」
聖奈も見上げながら感嘆する。
凛は石像の前まで歩き、ゆっくりと鱗へ手を添えた。
「この傷跡まで再現されているとは……。」
「覚えてたからね。」
ハルトは懐かしそうに笑う。
「この辺の傷は、俺が最初に斬ったところ。」
「そんな情報いらないから!」
結衣が即座に突っ込む。
「これ以上リアルにしなくていいの!」
「でも今回はここからが本番なんだ。」
「まだ本番じゃなかったの!?」
ハルトは石像の正面へ歩く。
「錬金術!」
右手を前へ突き出す。
瞬間。
魔法陣が幾重にも展開した。
黄金色の光が巨大な石像全体を包み込み、倉庫の天井まで照らし出す。
まるで巨大な太陽が地上へ降り立ったような輝きだった。
「えっ……!」
結衣は思わず腕で目を覆う。
眩しい。
とても直視できない。
光はドラゴンの全身をゆっくりと這うように流れていく。
翼。
胴体。
首。
牙。
爪。
尾。
鱗一枚一枚が黄金色へ染まり始めた。
石の質感が消える。
代わりに現れたのは、鏡のような金属光沢。
やがて光が消える。
静寂。
そこに立っていたのは――
黄金のドラゴンだった。
巨大な身体が照明を反射し、倉庫全体を黄金色に染め上げる。
一枚一枚の鱗が宝石のように輝き、翼は金属とは思えないほど美しい曲線を描いていた。
その圧倒的な存在感に、誰もすぐには言葉を発せなかった。
「……完成。」
ハルトが満足そうに笑う。
結衣だけが口をぱくぱくさせている。
「…………」
「…………」
「き、き、き、金ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!?」
絶叫が倉庫へ響き渡る。
「全部!?
全部金になってるんだけど!?」
「うん。」
「うんじゃないよ!」
結衣は巨大な翼を見上げながら半泣きになる。
「色だけじゃないよね!?
これ塗装じゃないよね!?」
「もちろん。」
ハルトは何でもないことのように答えた。
「中まで全部純金。」
「…………」
「純度百パーセント。」
「…………」
「混ざり物なし。」
「待って待って待って待って!!」
結衣は頭を抱えた。
「中まで全部金!?
空洞じゃなくて!?」
「全部。」
「メッキじゃなくて!?」
「全部。」
「金箔でもなくて!?」
「全部。」
「純金。」
「全部ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
その叫びを聞きながら、摩夜は静かに眼鏡を押し上げる。
「国家予算級の物体が一つ増えた。」
「さらっと怖いこと言わないで!」
聖奈は苦笑しながらスマートフォンを取り出した。
「それでは予定通り、鑑定士の方に入っていただきます。」
大型シャッターが開く。
そこから数名のスタッフと共に、一人の男性が姿を現した。
白い手袋を着用し、大型の分析機器を積んだワゴンを押している。
結衣は目を丸くした。
「本当に呼んでたの!?」
「もちろんです。」
聖奈がうなずく。
「勇者様の作品ですから。」
鑑定士は黄金のドラゴンを見上げた瞬間、完全に動きを止めた。
「…………」
ゆっくり眼鏡を外す。
もう一度見る。
さらに近付く。
「……これは。」
思わず声が震える。
「信じられない。」
慎重に鱗の一枚へ触れ、専用機器で成分分析を始める。
別のスタッフが超音波探査を行う。
さらに内部密度を測定。
複数の検査が同時進行で進められた。
倉庫には機械音だけが響く。
数分後。
鑑定士は深く息を吐いた。
「確認が完了しました。」
全員の視線が集まる。
結衣はごくりと唾を飲み込んだ。
「鑑定結果を申し上げます。」
鑑定士は静かに黄金のドラゴンを見上げる。
「こちらは表面だけではありません。」
一拍置く。
「内部構造を含め、全体が均一な金属で構成されています。」
結衣の肩がびくりと震えた。
「成分分析の結果、検出された不純物は測定限界以下。」
さらに続ける。
「純度は九九・九九九パーセント以上。」
鑑定士はゆっくり首を振った。
「現在の分析技術では、純金と断定して差し支えありません。」
倉庫が静まり返る。
その沈黙を破ったのは、やはり結衣だった。
「純金って認められちゃったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
結衣の絶叫が倉庫いっぱいに響き渡る中、鑑定士はなおも興奮を抑え切れない様子で黄金のドラゴンを見上げていた。
「ここまで巨大な純金製品は、人類史上存在しません。」
その一言だけで十分だった。
結衣は両手で頭を抱えたまま、その場にしゃがみ込む。
「人類史上って言っちゃったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「まあ、そうなるよな。」
ハルトはどこか嬉しそうだった。
「世界初って響き、なんかいいよな!」
「そこ喜ぶところじゃないから!」
結衣は涙目で突っ込む。
「世界初の純金ドラゴンなんて聞いたことないよ!」
「俺も作ったことないし。」
「初めてだから当たり前だよ!」
そのやり取りを見守っていた聖奈が、一歩前へ出た。
いつものように上品な笑みを浮かべながら、カメラへ向き直る。
「それでは、皆様へ一つご報告がございます。」
自然とその場の空気が引き締まる。
「本作品につきましては、撮影終了後より、西園寺グループが責任を持って保管いたします。」
結衣が目を丸くした。
「預かるの?」
「はい。」
聖奈は穏やかにうなずく。
「勇者様がお作りになられた大切な作品です。最高水準の保管設備と警備体制を整え、安全に管理いたします。」
凛も静かに続ける。
「警備計画も既に策定済みです。
保管中は二十四時間体制で監視を行います。」
「そこまで本気なの!?」
結衣の悲鳴に、摩夜が淡々と補足する。
「この規模の資産を一般的な警備で管理するのは不可能。
むしろ、それでも十分とは言い切れない。」
「もう資産扱いなんだ……。」
結衣は遠い目になった。
聖奈は改めてカメラへ視線を戻す。
「そして、こちらの黄金のドラゴン像ですが――」
一呼吸置いて、丁寧に言葉を続ける。
「後日、正式なオークションへ出品する予定でございます。」
ハルトが笑顔で親指を立てる。
「欲しい人がいたら買ってくれ!」
「軽い軽い軽い!」
結衣は思わず突っ込む。
「そんなフリーマーケットみたいに言わないで!」
聖奈は小さく微笑みながら説明を続ける。
「なお、開催まで少しお時間をいただく予定です。」
「え?」
「今回の作品は、一般的な美術品や貴金属とは比較にならない価値を持つ可能性がございます。」
穏やかな口調のまま、理路整然と語る。
「そのため、参加をご希望される皆様にも、ご購入資金をご準備いただく期間が必要であると判断いたしました。」
結衣は思わず聞き返した。
「購入資金を準備する期間……?」
「はい。」
聖奈は優雅にうなずく。
「世界中の皆様が公平にご参加いただけるよう、十分な期間を設けた上で開催する予定でございます。」
摩夜が静かに付け加える。
「既に世界中の資産家や企業が動き始めても不思議ではない。
時間を設けることは、市場の混乱を抑える意味でも合理的。」
「もう世界規模の話になってる……。」
結衣は完全に力が抜け、その場へへたり込んだ。
「私、普通の高校生だったはずなんだけどなぁ……。」
ハルトはそんな結衣へ笑いかける。
「大丈夫だって!」
「何が!?」
「ちゃんと売れたら動画的にも大成功だし!」
「そこしか見えてない!」
倉庫に笑い声が広がる。
巨大な黄金のドラゴンは、照明を受けながら静かに輝き続けていた。
まるで、本当に次の時代の幕開けを見届けているかのように。
ハルトはカメラへ向かって元気よく手を振る。
「というわけで!」
「今回は巨大なドラゴンを純金にしてみました!」
「これからオークションの準備も進めていくから、続報も楽しみにしててくれ!」
聖奈たちもカメラの横へ並ぶ。
「ぜひ、今後の展開にもご期待ください。」
聖奈が優雅に一礼する。
「よろしくお願いいたします。」
凛も静かに頭を下げた。
「続報は随時お知らせします。」
摩夜が短く告げる。
「皆さん、本日もありがとうございました!」
陽葵が柔らかく微笑む。
そして最後に。
結衣だけが苦笑しながら、小さく肩を落とした。
「……お願いだから、次の企画はもう少し普通でお願いします。」
ハルトは満面の笑みで締めくくる。
「それじゃあまた次の動画で!」
「またなー!」
全員で手を振る。
赤い録画ランプが静かに消え、歴史的な一本となる動画の撮影は幕を閉じた。
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【動画タイトル】
『【錬金術】巨大ドラゴン像を純金に変えて鑑定してもらった結果がヤバすぎた』
【再生数:2億8,416万回】
【高評価:1,973万】
【コメント:68万件】
『また炎の勇者チャンネルがおかしいこと始めたぞ』
『サムネから意味が分からんwww』
『開幕の巨大石像でもう十分おかしい』
『土魔法(CG)が年々雑になってきて好き』
『結衣ちゃん今日も胃が痛そうで安心した』
『「まず土台を作る!」←そこからおかしい』
『石像のクオリティ高すぎるだろ』
『映画会社全部泣くぞこれ』
『ドラゴンの鱗一枚一枚作り込む必要ある?』
『必要ない。だから好き。』
『実物を見たことある人しか作れない質感なんだよな』
『いや実物なんているわけないだろw』
『本人「昔倒したドラゴン」』
『また勇者設定で笑わせにきた』
『山一つ燃える火を避ければいいだけ←????』
『本人だけゲームの難易度がおかしい』
『結衣の「基準がおかしい!」で吹いた』
『「一発で倒せた」←ラスボスかな?』
『石像だけで世界遺産レベル』
『ここから本番です』
『ここまで前座だったの怖い』
『黄金化の演出えぐすぎる』
『CG班寝てるだろ』
『CG班「いません」』
『毎回CG班が存在しない説』
『金属の反射表現どうやってるんだよ』
『専門でCGやってるけど意味が分からない』
『VFX業界「助けて」』
『純金になりました』
『いやならんwww』
『塗装かと思ったら中まで純金で草』
『結衣「全部ぇぇぇぇ!!」←全国民の声』
『鑑定士さん完全に仕事忘れてたよね』
『鑑定士が震えてる動画初めて見た』
『鑑定結果「純金です」』
『認めるなwwwww』
『鑑定士が一番動画盛り上げてる』
『これ西園寺グループ案件なの本気度高すぎる』
『西園寺グループが保管って時点でスケール壊れてる』
『企業公式が本気すぎる』
『オークション出すの!?』
『買える人いるのかこれ』
『「資金を準備する期間を設けます」←桁がおかしい』
『金持ちにも準備期間が必要なの笑う』
『世界中の富豪が今頃銀行走ってそう』
『国家予算級ってコメント本当にその通り』
『経済ニュースになるだろこれ』
『金価格暴落しない?』
『逆に値上がりしそう』
『経済学者誰か説明して』
『貴金属ディーラーです。本物なら世界市場が崩壊します。』
『材料工学です。あのサイズで均一純金は加工技術では説明不能です。』
『地質学です。石が一瞬で金になる理屈を募集中です。』
『冶金屋だけど今日で仕事辞めたくなった』
『CG派だけど鑑定だけ本物なのどういう撮影なんだ』
『鑑定士も役者なんじゃ?』
『西園寺グループが協力してる時点で仕込みにしては規模がおかしい』
『最近マジで魔法なんじゃないかと思えてきた』
『↑そういう設定のチャンネルだからw』
『でも説明できなくなってきてる』
『結衣ちゃんだけ常識人だから応援したくなる』
『陽葵ちゃん終始キラキラしててかわいい』
『凛さん警備の話しかしなくて好き』
『摩夜さんだけ国家レベルで考えてる』
『ハルトだけ最後まで「売れたら面白そう!」なの好きすぎる』
『このチャンネルだけ毎回スケールが一国動かしてる』
『オークション編絶対事件起きるだろ』
『次回、経済が壊れそう』
『絶対世界中の金持ち集まるじゃん』
『続報待機。今までで一番楽しみな企画かもしれない』
――――――
日本有数の超高層ビル。
その最上階。
壁一面がガラス張りになった執務室からは、夜景が宝石のように広がっていた。
しかし、その豪華な景色に興味を示す者はいない。
「会長。」
一人の秘書が恭しく頭を下げる。
「例の件について、ご報告がございます。」
机に向かって書類へ目を通していた少女が、ゆっくりと顔を上げた。
長い金髪。
紅い瞳。
まだ高校生ほどの年齢でありながら、その眼差しには数え切れない商談を制してきた者だけが持つ鋭さが宿っている。
真利・R・ヴァイン。
現代日本において、数多くの企業を傘下へ収める巨大企業グループの若き会長。
異世界では、一介の商会の娘から四大商会の商会長にまで上り詰めた少女だった。
「話して。」
短い一言。
それだけで秘書は背筋を伸ばす。
「現在、各方面で話題となっております動画投稿グループ『炎の勇者チャンネル』ですが……。」
大型モニターへ映像が映し出される。
黄金のドラゴン。
そして動画タイトル。
『【錬金術】巨大ドラゴン像を純金に変えて鑑定してもらった結果がヤバすぎた』
「この純金像が、後日正式なオークションへ出品されることが発表されました。」
秘書は資料をめくる。
「映像演出である可能性が高いとの見方が大半ですが、西園寺グループが正式に保管を表明しており、市場では本物である可能性も含めて議論が広がっています。」
「ふぅん。」
真利は興味深そうに画面を見る。
「純金像を企業の象徴として保有したいという声も多く、各国の富裕層や企業から問い合わせが相次いでおります。」
「ブランド価値としては十分。」
真利は静かに微笑んだ。
「話題性は最高。
唯一無二。
世界中が知るシンボルになる。」
それだけで十分な投資価値がある。
たとえ純金でなくとも。
いや、本物ならなおさら。
「落札をご希望でしょうか。」
秘書が尋ねる。
真利は腕を組み、黄金のドラゴンを眺め続けた。
「そうね。」
「ぜひ欲しいわ。」
その瞬間だった。
黄金のドラゴンを見つめる真利の瞳が、わずかに揺れる。
「…………」
どこかで見た。
この姿を。
この翼。
この角。
この傷跡。
ゆっくりと、遠い記憶が浮かび上がってくる。
燃え盛る山々。
空を覆うほど巨大な影。
そして。
討伐された一頭のドラゴン。
「……あら。」
思わず小さく笑みが漏れた。
「そういえば。」
懐かしそうに目を細める。
「私、このドラゴンを買ったことがあったわね。」
異世界。
商人だった彼女は、討伐されたドラゴンの死体を莫大な金額で買い取った。
最高の素材。
最高の商品。
最高の利益。
それだけを考えていた頃。
その時だった。
ふと、一人の少年の姿が頭へ浮かぶ。
黒髪。
どこまでも真っ直ぐな瞳。
信じられないほど強く。
そして、お金では決して動かなかった勇者。
「…………」
真利はゆっくりと椅子へ背を預けた。
「そういえば。」
くすりと笑う。
「私のものにできなかった方が、一人だけいらっしゃいましたわね。」
その笑みは、獲物を見つけた商人のものでもあり。
決して諦めない投資家のものでもあった。
窓の外では、無数の街明かりが輝いている。
現代という新たな市場。
そこで再び、一人の商人が静かに動き始めようとしていた。




