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『承認欲求強めの最強勇者、魔法動画でバズって前世のヒロインたちを召喚してしまう~今世の幼馴染が管理しきれないほど愛が重すぎる~』  作者: 悪癖


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33/38

第32話 情報は校舎に眠っている

 撮影当日。


 前回の会議で決めた準備は、驚くほど順調に進んでいた。


 撮影許可は学校側から正式に下り、使用範囲や時間も調整済み。機材は聖奈が手配した最新設備がそろい、予備の機材まで万全に用意されている。編集用の構成は結衣が事前にまとめ、撮影ルートも確認済みだ。


 凛は校内を一通り見回り、「護衛経路に問題ありません」と真剣な顔で報告したが、結衣から「今日は戦場じゃなくて学校だからね」と念を押されていた。


 一方で摩夜も、撮影前に校内の通信環境や電波状況を静かに確認していた。


「……問題なし。情報霊脈……じゃなかった。校内ネットワークも安定してる」


「今『情報霊脈』って言おうとしたよな?」


「……気のせい。」


 そう言ってそっぽを向く摩夜に、結衣は苦笑する。


「はいはい。撮影中はその言い方禁止だからね?」


「努力はする。」


「努力じゃ困るのよ……」


 そんなやり取りを交わしながらも、全員どこか楽しそうだった。


 そして――。


 青葉高校の正門前。


 カメラが回り始める。


 結衣が親指を立てた。


「はい、録画開始!」


 その合図と同時に、ハルトはいつものように明るい笑顔を浮かべ、大きく手を振る。


「どうもー! 炎の勇者チャンネルです!」


 慣れ親しんだ決めぜりふ。


 校門を背景にしたオープニングは、もはやチャンネルのお約束となっていた。


「今日はですね! いつもの学校企画なんですが、実は皆さんにお知らせがあります!」


 ハルトはそう言うと、一歩横へ移動した。


「今日から新しいメンバーが加わります!」


 カメラがゆっくりと隣へ向く。


 そこには黒を基調とした落ち着いた服装の摩夜が立っていた。


 相変わらず表情の変化は少ない。


 少し長めの黒髪が風に揺れ、眠たそうにも見える赤い瞳が静かにレンズを見つめている。


 撮影には慣れているはずなのに、その視線だけはほんの少しだけ固かった。


(……勇者様の隣。)


(動画で。)


(やっと。)


 内心では胸がいっぱいだった。


 異世界では叶わなかった。


 勇者と肩を並べて、平和な日常を過ごすこと。


 それが今、現実になっている。


 だからこそ、平静を装う。


「……黒沼摩夜です。」


 一言。


 本当にそれだけだった。


 数秒ほど沈黙が流れる。


 ハルトが苦笑する。


「あれ? 自己紹介終わり?」


「終わり。」


「もうちょっと何かない?」


「……特に。」


「短っ!」


 カメラの向こうで結衣が思わず吹き出した。


「編集で何とかするしかないわね、これ。」


 凛は真面目な顔で首をかしげる。


「十分ではありませんか? 名乗りは簡潔であるほど敵に情報を与えません。」


「自己紹介を敵への情報漏えいとして考えないで。」


 すかさず結衣が突っ込む。


 そのやり取りに、摩夜の口元がほんの少しだけ緩んだ。


 ハルトは改めてカメラへ向き直る。


「摩夜さんは、俺たちの新しい仲間です!」


「情報関係がすごく得意で、今回から色々手伝ってもらいます!」


「それで今日は、その摩夜さんの得意分野をみんなにも紹介したいと思います!」


 そう言って校舎を振り返る。


「今回の企画はこちら!」


 ハルトは両手を広げた。


「『情報のプロと歩く! 青葉高校を探検してみた!』」


 少し間を置いて続ける。


「普段みんなが何気なく見てる学校にも、実は色んな情報が隠れてるらしいんですよ!」


「俺もまだ詳しく聞いてないので、一緒に勉強していこうと思います!」


 カメラが再び摩夜へ向く。


「摩夜さん、お願いします!」


 突然話を振られても、摩夜は落ち着いたままだった。


「学校は。」


 一拍置く。


「情報の宝庫。」


「人は歩くだけで痕跡を残す。」


「掲示物。」


「靴箱。」


「教室の配置。」


「窓。」


「廊下。」


「全部。」


「見方を変えれば情報になる。」


 淡々と語る。


 まるで当たり前のことを説明するように。


 しかしその内容は、聞いているだけで妙な説得力があった。


「今日は。」


「そういう『見落としがちな情報』を、実際に歩きながら説明する。」


「危険なことを教えるつもりはない。」


「情報を見る視点。」


「観察する考え方。」


「それだけ。」


 結衣はカメラの後ろで小さくうなずいた。


(ちゃんと配慮してる。)


(やっぱり会議で話したことを意識してくれてるんだ。)


 以前の摩夜なら、効率だけを考えてもっと危うい説明をしていたかもしれない。


 だが今は違う。


 ハルトやチャンネルに迷惑を掛けないよう、自分なりに言葉を選んでいる。


 その小さな変化に、結衣は少しだけ安心していた。


 ハルトも笑顔で親指を立てる。


「俺も普通に知らないことばっかりだから楽しみだ!」


「あと今日は俺も企画に合わせて色々手伝います!」


「魔法も使うので、お楽しみに!」


 その一言だけで、スタッフ陣は苦笑した。


 企画に合わせると言っても、ハルトの魔法は規模がおかしい。


 結衣は思わず念を押す。


「派手なのは禁止だからね?」


「分かってる分かってる!」


「今日は摩夜さんが主役だし!」


 その言葉に、摩夜は一瞬だけ目を見開いた。


(違う。)


(主役は……。)


 彼女は静かに首を横へ振る。


「違う。」


「主役は君。」


「私は案内役。」


 それだけ言って、ハルトの方を見た。


 その視線はどこまでも自然で、どこまでも優しかった。


 本人は隠しているつもりなのだろう。


 だが、その場にいる三人にはもう十分伝わっている。


(また出た。)


(無自覚デレ。)


 結衣は心の中だけで苦笑した。


 一方のハルトは、その意味に全く気付かない。


「ありがとう!」


「じゃあ今日は先生役よろしく!」


「……うん。」


 その一言だけで、摩夜の表情がほんの少しだけ柔らかくなる。


 そしてハルトは勢いよく校舎を指差した。


「それじゃあ行きましょう!」


「情報のプロと一緒に、青葉高校探検スタートです!」


 四人は校門をくぐり、最初の目的地へ向かって歩き始めた。


 最初に向かったのは、ハルトたちが普段過ごしている教室だった。


 昼休みではないため、生徒の姿はない。


 事前に学校側から撮影許可を得ており、他の生徒が映り込まない時間帯を選んでいる。


 教室へ入ると、ハルトが振り返ってカメラへ話しかけた。


「まず最初は、俺たちが毎日過ごしてる教室です!」


「学校で一番情報がありそうな場所ですよね。」


 そう言って摩夜を見る。


「ここから何か分かるの?」


「分かる。」


 摩夜は静かに教室を見回した。


「ただし。」


「最初に一つ。」


 カメラへ真っ直ぐ視線を向ける。


「他人の情報を勝手に読むのは良くない。」


「だから今日は。」


「私たち自身を例にする。」


「知らない人の情報は扱わない。」


「情報を見る技術と。」


「配慮は別。」


「そこは間違えないで。」


 その言葉に結衣がうんうんと頷く。


「大事なところだからね。」


「真似するなら、家族や友達にもちゃんと許可をもらってね。」


「ということで今日は、全部身内でやります!」


 ハルトも笑いながら続けた。


「俺たち、ネタになるくらいなら協力するから!」


「じゃあ先生、お願いします!」


 摩夜は教室へゆっくり歩き出す。


「まず。」


「席。」


 窓際。


 一番後ろ。


 ハルトの机の前で立ち止まる。


「勇者様……ハルトは。」


「ここが自分の席。」


「これだけでも少し分かる。」


「例えば。」


 机の中を見ることはしない。


 あくまで外から見える範囲だけだ。


「机の上。」


「筆箱。」


「教科書。」


「全部きちんと揃ってる。」


「でも。」


「消しゴムだけ。」


「少し削れ方が偏ってる。」


 ハルトは首をかしげる。


「え、それで?」


「左手。」


「……あ。」


 ハルトが思わず左手を見る。


「本当だ。」


「左利きなんだ、俺。」


「文字を書く時。」


「筆圧のかかる方向。」


「消しゴムの減り方。」


「鉛筆の削れ方。」


「そういう細かいところから分かる。」


 結衣が感心したように声を漏らす。


「そんなところまで見るんだ……。」


「癖は。」


「本人が思う以上に残る。」


 摩夜は淡々と答える。


 続いて、今度は机の横へ視線を向けた。


「それから。」


「机のフック。」


「荷物を掛ける位置。」


「毎日同じ。」


 ハルトの鞄は左側。


「利き手の反対。」


「右手で持ち替えやすい位置。」


「これも生活習慣。」


「意識してなくても固定される。」


 ハルトは試しに鞄を持ち上げる。


「あ、本当だ。」


「右手でそのまま持てる。」


「普段全然考えてなかった。」


 結衣が笑う。


「人間って意外とルーティンで動いてるのね。」


「そう。」


「人は楽な動きを繰り返す。」


「だから。」


「情報になる。」


 今度は結衣の席へ移動する。


「次。」


「結衣。」


 机の上には色分けされた付箋。


 小さなメモ。


 授業用のノート。


 どれもきれいに整理されている。


「整理整頓。」


「色分け。」


「付箋。」


「期限管理。」


「予定管理。」


「全部。」


「同じ考え方で統一されてる。」


「つまり。」


「計画を立てて動く人。」


 結衣は思わず苦笑した。


「そこまで当たる?」


「当たる。」


「宿題。」


「提出物。」


「編集。」


「全部そうしてる。」


 ハルトが頷く。


「あー、それはそう。」


「動画編集の進行表も結衣が全部管理してるし。」


「私は心配性なだけなんだけど。」


「違う。」


「準備する人。」


「だから。」


「トラブルにも強い。」


 結衣は少し照れくさそうに笑った。


「褒められてる……のかな?」


「褒めてる。」


 即答だった。


 教室に小さな笑いが起こる。


 続いて摩夜は聖奈の席へ向かった。


 机の上は必要最低限。


 余計な物はほとんど置かれていない。


「聖奈。」


「無駄が少ない。」


「必要な物だけ。」


「でも。」


 ノートを指差す。


「字が丁寧。」


「定規を使って線を引いてる。」


「見返す前提。」


「つまり。」


「自分だけじゃなく。」


「他人にも見せることを考えてる。」


 聖奈は少し驚いたように目を丸くした。


「確かに、西園寺グループの資料を作ることも多いですから。」


「癖になっていますね。」


「そう。」


「普段の仕事は。」


「普段の持ち物にも出る。」


「机は。」


「その人の仕事場。」


「仕事場には。」


「考え方が残る。」


 最後は凛の席だった。


 そこだけ空気が少し違う。


 教科書もノートも整然と並び、筆記用具は一直線。


 椅子も机にぴたりと収まっている。


 摩夜は一目見るなり、小さく頷いた。


「予想通り。」


「凛。」


「毎日。」


「同じ位置。」


「同じ角度。」


「同じ並び。」


 凛は胸を張る。


「当然です。」


「乱れは心の乱れですから。」


「あと。」


 摩夜は机の横を見た。


「鞄。」


「すぐ持ち出せる向き。」


「非常時。」


「一秒でも早く動くため。」


 凛は真顔で答える。


「はい。」


「有事に備えております。」


 ハルトが吹き出した。


「学校で有事って何!?」


「いつ敵襲があるか分かりません。」


「日本は平和だから!」


 教室中に笑いが広がる。


 摩夜も、ほんの少しだけ口元を緩めた。


「極端だけど。」


「全部。」


「本人らしい。」


「情報というのは。」


「秘密を暴くことじゃない。」


「その人を理解すること。」


「今日は。」


「分かりやすい例だけ。」


「本当は。」


「もっとたくさん見える。」


「でも。」


「見る必要がないことは見ない。」


「それも。」


「情報を扱う人間の技術。」


 教室は一瞬静かになった。


 その言葉には、不思議な重みがあった。


 ハルトは感心したように頷く。


「なるほどなぁ。」


「何かを知る技術だけじゃなくて、どこまで知るべきかも大事なんだ。」


「うん。」


 摩夜は静かに頷いた。


「知れることと。」


「知っていいことは。」


「違う。」


 その短い言葉に、結衣は編集でテロップを入れる場面を思い浮かべながら、小さく笑みを浮かべた。


(これ、今回の動画の名言かも。)


 教室を後にした一行は、校舎の奥へと歩いていく。


 ハルトがカメラを振り返る。


「次に向かうのは、俺たちが普段よく使ってる部屋です!」


「実はここ、普通の教室じゃないんですよ。」


 廊下を進み、一枚の扉の前で立ち止まる。


 ハルトがドアを開けた。


「こちら!」


 中に広がっていたのは、一般的な学校の教室とはまったく違う空間だった。


 大きなテーブル。


 人数分の椅子。


 壁際には冷蔵庫や電子レンジ、小型の電気ケトル。


 棚には食器やカップがきれいに並び、ホワイトボードには動画企画のメモが残されている。


 まるで小さなオフィスのような、多目的スペースだった。


「ここは学校の多目的教室を改装して作ってもらった部屋です!」


「昼休みはみんなでここでご飯を食べたり、放課後は動画の企画会議をしたりしてます!」


 結衣もカメラへ向かって補足する。


「撮影の打ち合わせもほとんどここだよね。」


「編集の相談もここ。」


「学校生活とチャンネル運営、両方の拠点って感じかな。」


 聖奈は穏やかに微笑んだ。


「元々は空き教室でしたので、学校側へ提案して改装させていただきました。」


「皆さんが快適に過ごせる場所になればと思いまして。」


 ハルトは笑いながら辺りを見回す。


「最初に見た時は本当にびっくりしたよな。」


「学校なのに会社の会議室みたいで。」


「今じゃ完全に私たちの部室だけど。」


 凛は当然のように頷く。


「護衛対象が一か所へ集まりやすいため、警備効率も非常に優秀です。」


「また護衛目線!」


 結衣が即座に突っ込み、部屋に笑いが広がった。


 そんな空気の中、摩夜はゆっくりと室内を見回していた。


「ここも。」


「情報が多い。」


 ハルトが興味津々で尋ねる。


「え? この部屋からも分かるの?」


「分かる。」


 摩夜はホワイトボードへ歩み寄る。


 そこには消し忘れた小さな文字が残っていた。


『没案』


『サムネ候補』


『タイトル修正』


『撮影予備日』


 摩夜はそれを指差す。


「この部屋は。」


「食事だけじゃない。」


「考える場所。」


「形跡が残ってる。」


 結衣が苦笑する。


「あ、消し忘れてた。」


「編集するとき消しておこう。」


「それから。」


 摩夜は部屋の隅を見る。


 充電器。


 三脚。


 照明。


 予備バッテリー。


 整然と収納されている。


「機材。」


「いつでも持ち出せる。」


「つまり。」


「撮影頻度が高い。」


「片付け方も。」


「ルールがある。」


「誰でも。」


「すぐ準備できる。」


 聖奈が感心したように頷いた。


「確かに、場所は全員で決めていますね。」


「探す時間をなくすためです。」


「時間は。」


「一番大事な資源。」


 摩夜は短く答える。


 ハルトは周囲を見渡しながら笑う。


「こうやって言われると、この部屋って俺たちの生活そのものだな。」


「ご飯食べて。」


「企画考えて。」


「動画撮って。」


「宿題やったりもするし。」


「青春が詰まってる。」


「そう。」


 摩夜は静かに頷いた。


「部屋は。」


「使う人を映す。」


「長く使うほど。」


「色が出る。」


 そこでハルトが、何か思いついたように手を叩いた。


「せっかくだし、ここで俺も何かやる?」


 結衣が嫌な予感しかしないという表情になる。


「……派手なのは禁止だからね?」


「分かってるって!」


「今日は企画に合わせる!」


 ハルトは部屋の中央へ立つ。


「摩夜先生!」


「情報を見るなら、明るい方が見やすいよね?」


「そう。」


「じゃあ!」


 ハルトは右手を軽く掲げた。


「《灯火》!」


 次の瞬間。


 手のひらの上に、小さな炎がふわりと灯った。


 しかしそれは赤い炎ではない。


 黄金色に輝く温かな光。


 熱はほとんどなく、まるでランタンのように部屋全体を柔らかく照らし始める。


「おおー!」


 結衣が思わず声を上げる。


「今日はちゃんと企画に合ってる!」


「でしょ!」


 ハルトは得意げに笑う。


 光球はゆっくりと宙へ浮かび、天井近くで静止した。


 照明とは違う、自然で柔らかな光が室内を包み込む。


 聖奈は目を細めた。


「幻想的ですね……。」


 凛も珍しく感嘆の息を漏らす。


「この魔法なら夜間の警備にも――」


「仕事から離れて!」


 結衣のツッコミが飛ぶ。


 摩夜は、その光を静かに見つめていた。


「……綺麗。」


 ぽつりと漏れた一言。


 ハルトは照れくさそうに笑う。


「今日は目立ちすぎない魔法にしてみた。」


「主役は摩夜さんだから。」


 摩夜はゆっくり首を横に振る。


「違う。」


「この光で。」


「見える情報が増えた。」


「だから。」


「企画に必要。」


 そう言って、ハルトの魔法が作り出した柔らかな灯りを見上げる。


「良い魔法。」


 その素直な一言に、ハルトは少し照れたように頭をかいた。


 結衣はそんな二人を見ながら、小さく笑う。


(相変わらず、この二人は噛み合ってるようで噛み合ってないんだから。)


 だが、その自然な空気こそが、このチャンネルの一番の魅力なのかもしれなかった。


 教室を後にした一行は、校舎の奥へと歩いていく。


 ハルトがカメラを振り返る。


「次に向かうのは、俺たちが普段よく使ってる部屋です!」


「実はここ、普通の教室じゃないんですよ。」


 廊下を進み、一枚の扉の前で立ち止まる。


 ハルトがドアを開けた。


「こちら!」


 中に広がっていたのは、一般的な学校の教室とはまったく違う空間だった。


 大きなテーブル。


 人数分の椅子。


 壁際には冷蔵庫や電子レンジ、小型の電気ケトル。


 棚には食器やカップがきれいに並び、ホワイトボードには動画企画のメモが残されている。


 まるで小さなオフィスのような、多目的スペースだった。


「ここは学校の多目的教室を改装して作ってもらった部屋です!」


「昼休みはみんなでここでご飯を食べたり、放課後は動画の企画会議をしたりしてます!」


 結衣もカメラへ向かって補足する。


「撮影の打ち合わせもほとんどここだよね。」


「編集の相談もここ。」


「学校生活とチャンネル運営、両方の拠点って感じかな。」


 聖奈は穏やかに微笑んだ。


「元々は空き教室でしたので、学校側へ提案して改装させていただきました。」


「皆さんが快適に過ごせる場所になればと思いまして。」


 ハルトは笑いながら辺りを見回す。


「最初に見た時は本当にびっくりしたよな。」


「学校なのに会社の会議室みたいで。」


「今じゃ完全に私たちの部室だけど。」


 凛は当然のように頷く。


「護衛対象が一か所へ集まりやすいため、警備効率も非常に優秀です。」


「また護衛目線!」


 結衣が即座に突っ込み、部屋に笑いが広がった。


 そんな空気の中、摩夜はゆっくりと室内を見回していた。


「ここも。」


「情報が多い。」


 ハルトが興味津々で尋ねる。


「え? この部屋からも分かるの?」


「分かる。」


 摩夜はホワイトボードへ歩み寄る。


 そこには消し忘れた小さな文字が残っていた。


『没案』


『サムネ候補』


『タイトル修正』


『撮影予備日』


 摩夜はそれを指差す。


「この部屋は。」


「食事だけじゃない。」


「考える場所。」


「形跡が残ってる。」


 結衣が苦笑する。


「あ、消し忘れてた。」


「編集するとき消しておこう。」


「それから。」


 摩夜は部屋の隅を見る。


 充電器。


 三脚。


 照明。


 予備バッテリー。


 整然と収納されている。


「機材。」


「いつでも持ち出せる。」


「つまり。」


「撮影頻度が高い。」


「片付け方も。」


「ルールがある。」


「誰でも。」


「すぐ準備できる。」


 聖奈が感心したように頷いた。


「確かに、場所は全員で決めていますね。」


「探す時間をなくすためです。」


「時間は。」


「一番大事な資源。」


 摩夜は短く答える。


 ハルトは周囲を見渡しながら笑う。


「こうやって言われると、この部屋って俺たちの生活そのものだな。」


「ご飯食べて。」


「企画考えて。」


「動画撮って。」


「宿題やったりもするし。」


「青春が詰まってる。」


「そう。」


 摩夜は静かに頷いた。


「部屋は。」


「使う人を映す。」


「長く使うほど。」


「色が出る。」


 そこでハルトが、何か思いついたように手を叩いた。


「せっかくだし、ここで俺も何かやる?」


 結衣が嫌な予感しかしないという表情になる。


「……派手なのは禁止だからね?」


「分かってるって!」


「今日は企画に合わせる!」


 ハルトは部屋の中央へ立つ。


「摩夜先生!」


「情報を見るなら、明るい方が見やすいよね?」


「そう。」


「じゃあ!」


 ハルトは右手を軽く掲げた。


「《灯火》!」


 次の瞬間。


 手のひらの上に、小さな炎がふわりと灯った。


 しかしそれは赤い炎ではない。


 黄金色に輝く温かな光。


 熱はほとんどなく、まるでランタンのように部屋全体を柔らかく照らし始める。


「おおー!」


 結衣が思わず声を上げる。


「今日はちゃんと企画に合ってる!」


「でしょ!」


 ハルトは得意げに笑う。


 光球はゆっくりと宙へ浮かび、天井近くで静止した。


 照明とは違う、自然で柔らかな光が室内を包み込む。


 聖奈は目を細めた。


「幻想的ですね……。」


 凛も珍しく感嘆の息を漏らす。


「この魔法なら夜間の警備にも――」


「仕事から離れて!」


 結衣のツッコミが飛ぶ。


 摩夜は、その光を静かに見つめていた。


「……綺麗。」


 ぽつりと漏れた一言。


 ハルトは照れくさそうに笑う。


「今日は目立ちすぎない魔法にしてみた。」


「主役は摩夜さんだから。」


 摩夜はゆっくり首を横に振る。


「違う。」


「この光で。」


「見える情報が増えた。」


「だから。」


「企画に必要。」


 そう言って、ハルトの魔法が作り出した柔らかな灯りを見上げる。


「良い魔法。」


 その素直な一言に、ハルトは少し照れたように頭をかいた。


 結衣はそんな二人を見ながら、小さく笑う。


(相変わらず、この二人は噛み合ってるようで噛み合ってないんだから。)


 だが、その自然な空気こそが、このチャンネルの一番の魅力なのかもしれなかった。


 多目的教室を後にした一行は、そのまま校舎内を歩き回る。


「ここからは少しテンポよく行きましょう!」


 ハルトがカメラへ笑顔を向ける。


「普段はあまり長時間いない場所でも、見方を変えると色々分かるらしいです!」


「摩夜先生、お願いします!」


「うん。」


 まず最初に訪れたのは体育館だった。


 昼間ということもあり、授業では使われていない。


 広い体育館へ足を踏み入れると、摩夜は床へ視線を落とした。


「体育館は。」


「一番分かりやすい。」


「床。」


「ボール。」


「器具。」


「全部。」


「使われ方が残る。」


 ハルトも床を見る。


「……俺には普通にしか見えない。」


「例えば。」


 摩夜はバスケットゴールを指差した。


「ボールの跡。」


「集中してる。」


「よく使われる。」


「逆に。」


「あっち。」


 ステージ側を指す。


「傷が少ない。」


「使う頻度が低い。」


「学校全体の活動も。」


「少し見える。」


「なるほどなぁ。」


 ハルトが感心している横で、凛は壁際のマットを見つめていた。


「ここなら護身術の訓練も――」


「しません。」


 摩夜が即答する。


「……はい。」


 珍しく凛が素直に引き下がり、結衣が思わず吹き出した。


「摩夜には凛の扱い方が分かってきたね。」


 次に訪れたのは音楽室。


 扉を開けると、静かな空気と木の香りが漂う。


 整然と並ぶ机。


 壁際には楽器。


 ピアノが一台置かれていた。


 ハルトは懐かしそうに辺りを見回す。


「音楽室って久しぶりに入ったかも。」


 摩夜は黒板を見る。


「音楽室は。」


「音。」


「だけじゃない。」


「並び方。」


「譜面台。」


「椅子。」


「全部。」


「大人数で合わせる前提。」


「つまり。」


「協調性を作る部屋。」


 結衣が小さく頷く。


「確かに、普通の教室とは配置が全然違うね。」


「部屋は。」


「目的で形が決まる。」


「だから。」


「用途を見るだけでも情報になる。」


 聖奈が微笑みながら付け加える。


「学校という場所は、それぞれの教室が役割を持っていますものね。」


「そう。」


「役割が違えば。」


「残る情報も違う。」


 そのまま特別教室の廊下を歩きながら、理科室、美術室、家庭科室も軽く紹介していく。


 理科室では実験器具がきれいに整理されていること。


 美術室では作品を保管するための棚が多いこと。


 家庭科室では調理器具の配置が作業効率を重視していること。


 摩夜は一つひとつを簡潔に説明していく。


 どの説明も派手さはない。


 だが、「普段気にも留めなかったこと」が次々と情報へ変わっていく。


 ハルトは歩きながら何度も感心していた。


「いやー。」


「学校って毎日通ってるのに、知らないことだらけだな。」


「見えてるのに。」


「見てない。」


 摩夜は短く答える。


「情報は。」


「特別な場所にあるんじゃない。」


「普段の中にある。」


 結衣はカメラ越しに頷いた。


「今回の企画って、何か探偵番組みたいになってきたね。」


「でも全然怖くない。」


「『なるほど』って感じ。」


「それが理想。」


 摩夜も静かに頷く。


「知識は。」


「誰かを困らせるためじゃない。」


「世界を面白く見るため。」


 その一言に、ハルトは笑顔で親指を立てた。


「いいね、それ!」


「じゃあ最後は、学校の中でも一番『情報』が集まりそうな場所へ行ってみよう!」


 そう言って歩き出したハルトの後ろを、三人も続く。


 次なる目的地を前に、カメラは再び回り続けていた。


 校舎内を一通り見て回った一行は、最後の目的地へと足を運んだ。


 ハルトが歩きながらカメラへ向かって話しかける。


「さて、いよいよ最後です!」


「摩夜先生が『学校で一番情報が集まる場所』を紹介してくれるそうです!」


「俺もどこなのかまだ聞いてません!」


 結衣も首を傾げる。


「職員室とか?」


 聖奈も考え込む。


「図書室でしょうか。」


 凛は真剣な表情で答えた。


「警備室です。」


「確かに情報はありそうだけど!」


 ハルトが笑いながら突っ込む。


 そんな三人を見ながら、摩夜は静かに首を横へ振った。


「違う。」


「一番なのは。」


 数歩先。


 廊下の壁一面を指差す。


 そこには学校中の生徒が毎日目にする、大きな掲示板があった。


 学校からのお知らせ。


 行事予定。


 部活動の大会日程。


 検定試験。


 進路案内。


 保健室からの連絡。


 文化祭や体育祭の告知。


 様々な紙が整然と貼られている。


「ここ。」


 ハルトは思わず目を丸くした。


「掲示板?」


「そう。」


 摩夜はゆっくり頷く。


「学校が。」


「全員に伝えたい情報。」


「全部。」


「ここへ集まる。」


 カメラが掲示板を映す。


 もちろん個人情報が載っている部分は映さないよう、構図にも十分配慮している。


「見るだけで。」


「今。」


「学校が何を重視しているか。」


「何が近いか。」


「どんな活動が多いか。」


「全部分かる。」


 結衣も納得したように頷いた。


「なるほど。」


「確かに毎日見てるけど、ちゃんと見てるかって言われると……。」


「意外と流し見してるかも。」


「そう。」


「情報は。」


「隠れているものだけじゃない。」


「堂々と置かれているものほど。」


「見落とされる。」


 ハルトは腕を組みながら感心する。


「言われてみればそうだなぁ。」


「宝探しみたいに秘密を探すんじゃなくて、普通にあるものをちゃんと見るってことなんだ。」


「うん。」


 摩夜は静かに頷く。


「観察。」


「それが基本。」


「特別な才能はいらない。」


「見る癖。」


「考える癖。」


「それだけ。」


 少しだけ間を置き、カメラへ向き直る。


「でも。」


「今日一番伝えたかったのは。」


「情報を集める技術じゃない。」


「扱い方。」


「知れることと。」


「知っていいことは違う。」


「見えることと。」


「使っていいことも違う。」


「便利だからこそ。」


「気を付ける。」


「それが一番大事。」


 穏やかな口調だった。


 だが、その締めくくりは今日一番印象に残る言葉だった。


 ハルトも真剣な表情で頷く。


「今回の動画を見て、『観察って面白いな』って思ってもらえたら嬉しいです。」


「でも、摩夜さんが言った通り、誰かを困らせるためじゃなくて、普段見ている景色をもっと面白く見るために使ってください!」


 そしていつもの明るい笑顔へ戻る。


「ということで!」


「今回は新メンバー・黒沼摩夜さんと一緒に学校を探検してきました!」


「面白かったら高評価とチャンネル登録をよろしくお願いします!」


「それじゃあまた次の動画で!」


「「「「またねー!」」」」


 手を振る四人を最後に、結衣がカメラを止めた。


「はい、カット!」


 撮影終了。


 張り詰めていた空気がふっと和らぐ。


 ハルトは大きく伸びをした。


「終わったー!」


「思ったより歩いたな。」


 結衣もカメラをケースへしまいながら笑う。


「でもいい動画になったと思う。」


「摩夜の解説も分かりやすかったし。」


 聖奈も満足そうに微笑んだ。


「企画としても新鮮でしたね。」


「普段見慣れた学校でも、ここまで見方が変わるとは思いませんでした。」


 凛も真剣な表情で頷く。


「大変勉強になりました。」


「今後は校内巡回の際にも――」


「だから仕事モードは終わり!」


 結衣が笑いながら肩を軽く叩く。


 凛は「失礼しました」と照れくさそうに咳払いした。


 そんなやり取りを眺めていたハルトが、ふと思いついたように口を開く。


「そうだ。」


「撮影も終わったし、このまま帰るのももったいないな。」


 三人がハルトを見る。


「みんなで飯でも食いに行かない?」


「今日は企画も無事終わったし、お疲れさま会ってことで!」


 結衣はすぐに笑顔になる。


「賛成!」


「今日は私、お腹ぺこぺこ。」


 聖奈も優雅に頷いた。


「私もご一緒します。」


「たまには学校の外でゆっくり話すのも良いですね。」


 凛も迷いなく答える。


「護衛対象と行動を共にします。」


「だから護衛じゃなくて、ご飯!」


「……はい。」


 少しだけ照れたように言い直す。


「ご飯をご一緒します。」


 最後に、全員の視線が摩夜へ向いた。


「摩夜さんは?」


 ハルトが尋ねると、摩夜はほんの一瞬だけ考え、小さく頷いた。


「行く。」


「みんなと。」


 その短い返事だけで十分だった。


 ハルトは嬉しそうに笑う。


「よし、決まり!」


「今日は何食べようかな!」


 他愛もない話をしながら歩き出す四人。


 撮影は終わった。


 動画の企画も無事成功した。


 そして今はただ、気の置けない仲間たちと過ごす、ごく普通の放課後。


 そんな穏やかな時間を楽しみながら、一行は夕暮れの街へと歩いていくのだった。



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投稿した動画のコメント

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【動画タイトル】

『【学校探検】情報のプロと歩いたら、いつもの学校が別世界に見えた件』


【再生数:2,847,612回】

【高評価:198,473】

【コメント:41,286件】


「新メンバーきたあああああ」


「摩夜ちゃん可愛すぎる」


「自己紹介短すぎて草」


「『黒沼摩夜です。』←終わり!?www」


「編集泣かせで笑った」


「結衣さんのツッコミ今日もキレッキレ」


「凛さんが最後まで凛さんだった」


「護衛目線やめろwww」


「学校で敵襲は草」


「聖奈さんの『学校を改装しました』が一番意味分からん」


「普通の高校生のセリフじゃないんだよなぁ」


「多目的教室オシャレすぎる」


「学校に電子レンジあるの羨ましい」


「完全に会社の会議室じゃん」


「青春っていいなぁ」


「摩夜ちゃん、淡々としてるのに聞き入っちゃう」


「説明が分かりやすすぎる」


「情報を見る技術じゃなくて扱い方が大事って言葉好き」


「今回めっちゃ勉強になった」


「左利きの見抜き方普通に面白かった」


「消しゴムの減り方で分かるのは初めて知った」


「観察力ってこういうことか」


「探偵ってこんな感じなんかな」


「情報系の仕事してるけど内容かなりまともだった」


「↑同業だけど変に誇張してなくて好感持てた」


「『知れることと知っていいことは違う』←名言」


「このチャンネル急に教育番組になった?」


「いや勇者チャンネルだぞ」


「勇者どこいったwww」


「勇者『今日は控えめです』」


「なお魔法は普通に使う模様」


「ライト魔法めっちゃ綺麗だった」


「CG班また本気出してる」


「いやあの光どうやって撮ってるんだ?」


「LEDドローンじゃね?」


「CGにしては周囲への反射自然すぎるんだけど」


「毎回CG論争になるの草」


「物理屋だけど光の回り込みがおかしい気がする」


「↑また始まった」


「専門家が困惑する動画」


「摩夜ちゃんの『綺麗』で全部持ってかれた」


「ハルト鈍感すぎるだろw」


「いや完全に好感度MAXじゃん」


「結衣さん絶対ニヤニヤして編集してる」


「古参だけど新メンバーかなり好き」


「この4人+ハルトの空気感最高」


「情報担当が増えて企画の幅広がりそう」


「次は校外編ありそう」


「次回は何やるんだろ」


「このメンバーなら絶対また何かやらかす予感しかしない」


「更新待ってます!!」

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