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『承認欲求強めの最強勇者、魔法動画でバズって前世のヒロインたちを召喚してしまう~今世の幼馴染が管理しきれないほど愛が重すぎる~』  作者: 悪癖


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19/31

第18話 剣聖、転校初日に学園を制圧する

 翌朝。


 青葉高校二年A組は、いつも以上に騒がしかった。


 始業前だというのに教室のあちこちでスマホが掲げられ、机を囲むように生徒たちが集まっている。


 話題はもちろん一つ。


 昨夜公開された炎の勇者チャンネルの最新動画だった。


「見たか!?」


「見た見た見た!」


「再生数もう一億超えてるぞ!」


「いやそれよりあの女の子だろ!」


「凛さんだっけ?」


「美人すぎるだろ!」


「ていうか強すぎる!」


「なんで日本刀であんな動きできんの!?」


 朝から興奮気味の男子たちが大声で盛り上がる。


 女子たちも例外ではない。


「私、昨日三回見返した」


「わかる」


「顔が良すぎる」


「しかも格好いい」


「映画の主人公みたいだったよね」


「絶対人気出るって」


 教室中が完全にその話題一色だった。


 そして当然。


 その中心にいる人物もまた、教室にいた。


「へぇー」


 一ノ瀬晴人は自分の席に座りながら満足そうに頷いた。


「やっぱり凛はウケると思ったんだよな」


「そういう問題じゃないと思うんだけど」


 隣の席で如月結衣が疲れた顔をする。


 朝から何度目かわからないため息だった。


「再生数見た?」


「見た見た」


「一億二千万突破してる」


「おお!」


 ハルトは嬉しそうに拳を握る。


「これは登録者もかなり増えたな!」


「普通そこは凛の心配しない?」


「なんで?」


「今日から転校してくるんでしょ?」


「そうだけど」


「学校大丈夫かなって思わないの?」


「人気者だから歓迎されるだろ」


「歓迎で済めばいいけどね……」


 結衣は遠い目をした。


 昨日の撮影を思い出していた。


 百体のゴーレム軍団。


 それを数分で全滅させた女騎士。


 しかも本人はまだ本気を出していない。


 そんな危険人物が今日からクラスメイトになるのである。


 頭痛がしない方がおかしかった。


 その時だった。


「なぁなぁハルト!」


 クラスメイトの田辺が勢いよく近寄ってくる。


「動画見たぞ!」


「お、サンキュー」


「いやサンキューじゃねぇよ!」


 田辺は机を叩いた。


「あの子誰なんだよ!」


「凛?」


「そう!」


「新メンバー」


「それは見れば分かる!」


「うーん」


 ハルトは少し考える。


「剣がめちゃくちゃ強い奴」


「それも見れば分かる!」


 周囲から笑いが起きた。


「知りたいのはそういうことじゃねぇんだよ!」


「じゃあ何?」


「彼氏いるのかとか!」


「好きなタイプとか!」


「どこ住んでるとか!」


「なんでお前らそんな食いついてるんだよ」


 ハルトは呆れたように言った。


 しかし周囲の男子たちは全力で頷く。


「当たり前だろ!」


「めちゃくちゃ美人じゃん!」


「しかも強い!」


「漫画かよ!」


「現実に存在したのかよ!」


 教室の男子たちが口々に叫ぶ。


 女子たちも半分ほど同意していた。


 凛はそれほど強烈な印象を残していた。


 全国大会三連覇。


 女子剣道界の伝説。


 そして昨日の動画。


 元々有名人だったところに、世界的人気チャンネルでの大活躍である。


 注目されないはずがなかった。


「そういえばさ」


 別の女子生徒が言う。


「本当に転校してくるの?」


「するぞ」


 ハルトが答える。


「へぇー」


「マジなんだ」


「すごいな」


 教室中がざわつく。


 すると。


「でもさ」


 一人の男子が首を傾げた。


「全国大会三連覇の人が転校してくるとかありえる?」


「しかもこのタイミングで?」


「動画の宣伝じゃないの?」


「いや、俺も最初そう思った」


「俺も」


 疑う声も少なくない。


 だが。


「本当だぞ」


 ハルトはあっさり答えた。


「昨日も会ったし」


「え?」


「マジで?」


「うん」


 その瞬間。


 教室の温度が一段上がった。


「会ったの!?」


「いつ!?」


「どこで!?」


「動画の裏話聞かせろ!」


「撮影どうだった!?」


「本物の日本刀だったの!?」


「ゴーレムって何!?」


「百体いたってマジ!?」


 一斉に質問が飛んでくる。


「おお……」


 ハルトは少しだけ引いた。


「なんかすごいな」


「お前が言うな」


 結衣が即座にツッコむ。


 お前が原因だろ。


 教室中の生徒がそう思った。


 だが騒ぎは止まらない。


 誰もが転校生の話を聞きたがる。


 誰もが動画の裏話を知りたがる。


 そして誰もが。


 剣崎凛本人を見たがっていた。


 そんな熱気に包まれる中。


 ガラリ。


 教室の扉が開いた。


「おーい席つけー」


 担任教師が教室へ入ってくる。


「ホームルーム始めるぞー」


 その一言で生徒たちは慌てて席へ戻った。


 しかし。


 全員の顔には期待が浮かんでいる。


 今日のホームルームで何が起きるのか。


 誰もが分かっていた。


 転校生。


 しかも今、日本中で話題になっている少女。


 剣崎凛が、この教室へやって来るのだから。


 そして――。


 担任教師は意味深な笑みを浮かべながら教卓へ立った。


 担任教師は教卓に立つと、ざわつく教室を見回した。


 その顔にはどこか楽しそうな笑みが浮かんでいる。


「さて」


 教師が咳払いする。


「お前らが朝から騒いでる理由は分かってる」


 教室中がさらにざわついた。


「ということで」


 教師は黒板を軽く叩く。


「転校生を紹介するぞ」


 その瞬間。


 教室が爆発した。


「うおおおおお!」


「マジか!」


「来た!」


「本当に来た!」


「やべぇ!」


「静かにしろお前ら」


 教師が注意するが、ほとんど効果はない。


 むしろ期待値はさらに上昇していた。


 教師は半ば諦めたように肩をすくめる。


「入ってこい」


 教室の扉が開く。


 そして。


 静寂が訪れた。


 先ほどまで騒いでいた生徒たちが、一斉に言葉を失う。


 そこに立っていた少女は、それほどまでに目を引いた。


 艶のある黒髪。


 凛とした顔立ち。


 真っ直ぐ伸びた背筋。


 制服姿であるにもかかわらず、なぜか騎士のような威圧感がある。


 歩くだけで空気が変わる。


 そんな存在感。


「……うわ」


「本物だ」


「動画より綺麗じゃね?」


「やば……」


「顔小さっ」


「モデルじゃん」


 小声のつもりなのだろうが全く隠せていない。


 凛はそんな視線など意に介さず教卓の前まで歩く。


 そして。


 教室全体を見渡した。


 その目は鋭い。


 まるで戦場を確認する将軍のようだった。


(窓、三か所)


(出入口二つ)


(高所からの奇襲は難しい)


(敵襲時の退避経路は――)


 凛の脳内では全く別のことが進行していた。


 初めての教室。


 転校初日。


 普通の女子高生なら緊張する場面である。


 しかし元騎士団長リーゼロッテにとっては違う。


 重要なのは地形把握だった。


(主の席は――)


 そして真っ先にハルトを発見する。


 窓際最後列。


 確認完了。


 護衛可能。


 問題なし。


 凛は心の中で頷いた。


 一方。


 ハルトは軽く手を振った。


「おー」


 友達を見つけた程度の反応だった。


 凛の表情がほんの少し柔らかくなる。


 その変化を見逃した者はいない。


「今笑った?」


「笑ったよな?」


「ハルトに?」


「なんだ今の?」


 クラス中がざわつく。


 そして。


 教師が黒板を指した。


「じゃあ自己紹介」


「御意」


 凛は即答した。


 そして教卓の前へ進み出る。


 教室中の視線が集まる。


 誰もが息を飲んでいた。


 凛は一度だけ背筋を伸ばし。


 堂々と名乗った。


「剣崎凛です」


 落ち着いた声だった。


 よく通る。


 まるで演説のようだった。


「趣味は鍛錬」


 女子たちがざわつく。


「特技も鍛錬」


 男子たちもざわつく。


「好きなものは主」


 教室が静止した。


「…………」


「…………」


「…………」


 一秒。


 二秒。


 三秒。


 完全沈黙。


 教師が固まった。


 結衣が頭を抱えた。


 聖奈が面白そうに微笑んだ。


 そしてハルトだけが、


(ああ、相変わらずリーゼだな)


 と納得していた。


 数秒後。


 教室が爆発した。


「主!?」


「えっ!?」


「主って何!?」


「彼氏!?」


「婚約者!?」


「誰だよ主!」


「ヤバいワード出てきた!」


 大騒ぎになる。


 凛は首を傾げた。


「?」


 本気で何がおかしいのか分かっていない顔だった。


「主は主ですが」


「説明になってない!」


 誰かが叫んだ。


 教師まで吹き出しそうになっている。


 結衣は机に額をぶつけた。


「始まった……」


 嫌な予感しかしない。


 しかし凛は真面目だった。


「私の人生を変えた御方です」


「うおおおおお!」


「重い!」


「急に重い!」


「恋愛映画か!」


「誰なんだよ!」


 質問が飛び交う。


 だが凛は当然のように答える。


「こちらにおられます」


 そして。


 真っ直ぐ指を向けた。


 一ノ瀬晴人へ。


 教室が凍った。


「…………」


「…………」


「…………」


 全員の視線がハルトに集中する。


 ハルトはきょとんとしていた。


「俺?」


「はい」


 凛は即答した。


「私の主です」


 再び教室が爆発した。


「お前かよ!!」


「やっぱりか!!」


「知り合いだったのかよ!!」


「動画だけじゃなかったのか!」


「裏切り者!」


「リア充爆発しろ!」


「まだ何もしてないぞ!?」


 ハルトが反論する。


 だが誰も聞いていない。


 教室は完全にお祭り状態だった。


 教師は額を押さえながらため息を吐く。


「……お前ら落ち着け」


 全く落ち着かない。


 むしろさらに騒がしくなっていた。


 そんな中。


 凛だけは真剣な顔でハルトを見つめていた。


 再び同じ教室で学べる。


 主の側にいられる。


 それだけで十分だった。


 しかし。


 その純粋な喜びは。


 クラスメイトたちの盛大な勘違いによって、別の意味へ変換されていくのだった。


 そして誰も気付いていない。


 この自己紹介は。


 後に青葉高校伝説の始まりとして語られることになることを。



 自己紹介が終わった後も。


 教室の熱気はまったく冷めなかった。


「はいはい席つけー!」


 担任教師が何度も声を張り上げる。


「ホームルーム終わるぞー!」


 しかし誰も聞いていない。


 視線は全て。


 教卓前に立つ剣崎凛へ向いていた。


 全国大会三連覇。


 昨日の動画の主役。


 そして転校初日から堂々と「主です」とクラスメイトを指差した問題児。


 注目されない方がおかしかった。


 ようやく教師が半ば強引にホームルームを終わらせる。


「じゃあ一時間目まで自由時間な!」


 その瞬間だった。


 生徒たちが一斉に立ち上がる。


「剣崎さん!」


「動画見ました!」


「握手してください!」


「剣道っていつから始めたんですか!?」


「サインください!」


「写真いいですか!?」


 凛の周囲へ人が殺到した。


 まるで有名人の記者会見である。


「うおぉ……」


 ハルトが感心したように言う。


「人気者だな」


「原因の半分はあんただからね?」


 結衣は呆れた。


 いや、半分どころではない。


 ほぼ全部お前だ。


 そんなツッコミを飲み込みながら状況を見守る。


 一方。


 囲まれた凛は少し困惑していた。


「……?」


 前世ならば戦場で数万の兵に囲まれたこともある。


 王侯貴族との会談も経験している。


 しかし。


 女子高生たちに囲まれる経験はなかった。


「剣崎さんって本当に全国優勝したんですか?」


「はい」


「すげぇ!」


「動画の動きって本当にできるんですか?」


「できます」


「うおお!」


「ハルトとはいつから知り合いなんですか!?」


「十年以上――」


 凛が答えかける。


 結衣が飛んだ。


「ストップ!」


 ビシッ。


 凛の前に割り込む。


「そこ!」


 結衣が指差す。


「その質問は禁止!」


「ええー!?」


 不満の声が上がる。


「だって気になるじゃん!」


「めちゃくちゃ気になる!」


「主って何!?」


「どういう関係!?」


 当然である。


 クラス全員が知りたい。


 しかし結衣は即座に遮断した。


「あとで!」


「え?」


「昼休み!」


 教室中を見回しながら宣言する。


「どうせ今聞いても収拾つかないでしょ!」


 それはその通りだった。


 既に十人以上が同時に質問している。


 このままでは授業どころではない。


「昼休みに時間作るから!」


 結衣は続ける。


「その時にまとめて聞きなさい!」


「おお!」


「マジか!」


「昼休みか!」


「それなら待てる!」


 クラスメイトたちがざわつく。


 結衣は心の中で安堵した。


 とにかく今は授業を始めさせなければならない。


 このままでは教師が泣く。


「凛もそれでいい?」


 結衣が確認する。


 凛は即答した。


「結衣殿の判断に従います」


「よし」


 結衣は頷く。


 最近気付いたことがある。


 凛は自分の言葉を聞く。


 正確には。


 ハルトの近くにいる人物として認識しているため、ある程度は従ってくれる。


 聖奈ほど自由人ではない。


 そこだけは救いだった。


「では昼休みに」


 凛が真面目な顔で言った。


「質問には可能な限り答えよう」


「やったー!」


「昼休み確定!」


「絶対行く!」


「俺も!」


 教室が再び盛り上がる。


 凛はその様子を静かに見つめた。


(歓迎されている……のか?)


 前世では畏怖されることはあった。


 尊敬されることもあった。


 だが。


 こんな風に気軽に話しかけられることは少なかった。


 少しだけ不思議な気分になる。


 そんな彼女の視線が。


 ふとハルトへ向いた。


 すると。


 ハルトはいつものように笑っていた。


「人気者だなー」


 自分のことのように嬉しそうだった。


 その笑顔を見た瞬間。


 凛の口元がわずかに緩む。


 主が喜んでいる。


 それだけで十分だった。


 しかし。


 その光景を見たクラスメイトたちは見逃さなかった。


「あ」


「今見た?」


「見た」


「完全に見てた」


「ハルト見て笑った」


「やっぱりそういう関係じゃん」


「昼休み絶対聞き出すぞ」


 男子も女子も同じ結論に達していた。


 結衣は聞こえてきた会話に頭を抱える。


「違うからね……?」


 誰に向けて言ったのか自分でも分からない。


 だが。


 既に遅かった。


 昼休み。


 転校生質問会。


 その開催が決定した瞬間だった。


 そして結衣はまだ知らない。


 凛の常識が。


 この学校の常識と致命的なまでに噛み合っていないことを。


 昼休みは間違いなく荒れる。


 その予感だけは、嫌というほど当たっていた。



――――――



 昼休み。


 本来ならば生徒たちが思い思いに昼食を楽しむ時間である。


 しかし。


 二年A組だけは違った。


「よし!」


 ハルトが教卓を叩いた。


「転校生歓迎記者会見を始めるぞ!」


「なんでよ」


 結衣が即座にツッコむ。


 だが既に遅い。


「おおおおお!」


「待ってました!」


「記者会見だ!」


「質問タイム!」


「炎の勇者チャンネル特別編!」


 クラスメイトたちは大盛り上がりだった。


 教室前方には椅子が置かれ。


 その中央に凛。


 左右にはハルトと結衣。


 完全に会見会場である。


「なんでこんなことになってるの……」


 結衣が遠い目をする。


「面白そうだから」


 ハルトは満面の笑みだった。


「祭りは参加するものだろ」


「学校で祭り開催しないで」


 すると田辺が勢いよく手を上げた。


「はい!」


「記者一号!」


 ハルトが指差す。


「剣崎さんは彼氏いますか!」


「却下」


 結衣が〇・〇一秒で遮断した。


「早っ!」


「早すぎる!」


「まだ本人答えてない!」


「答えなくていいの!」


 結衣は断言した。


「恋愛関係は禁止!」


「横暴だ!」


「言論統制だ!」


「ここは私が管理してるから」


 暴君だった。


 しかしクラス全員が理解している。


 この場で最も信用できるのが結衣であることを。


「では次!」


 ハルトが進行する。


 田辺が不満そうに座った。


 代わりに女子生徒が手を上げた。


「剣崎さんって本当に全国大会三連覇なんですか?」


「はい」


 凛が頷く。


「剣道は幼少期から続けています」


「おおー」


「本物だ」


「やっぱすげぇ」


 教室から感嘆の声が漏れる。


「ちなみに」


 ハルトが割り込んだ。


「凛はめちゃくちゃ強いぞ」


「動画見れば分かる!」


「いや、あれでもだいぶ手加減してたし」


「え?」


 教室が静まる。


 凛が当然のように頷いた。


「はい」


「え?」


「百体程度なら準備運動です」


 教室が静止した。


「百体?」


「準備運動?」


「何の?」


「戦争?」


 誰かが呟く。


 結衣は頭を抱えた。


 やはり話させるべきではなかったかもしれない。


「次!」


 強引に進行する。


 今度は女子グループが手を上げた。


「好きな食べ物は?」


「肉です」


「おお、普通!」


「安心した!」


「ちなみに異世界だと巨大魔獣の腿肉が――」


「そこはカットで」


 結衣が遮断する。


「なんで?」


「絶対長くなるから」


 正解だった。


 凛は少し残念そうにした。


 続いて別の男子。


「好きなタイプは!」


「却下」


「まだ聞いてる途中!」


「却下」


「暴政だ!」


「民主主義を学びなさい!」


 結衣が叫ぶ。


 すると。


「民主主義」


 凛が反応した。


「前世の聖奈殿もよく否定しておりました」


「言うな」


 結衣が即座に止める。


 危険な単語が聞こえた。


 聖奈がここにいたら喜々として語り始める。


 絶対に止められなくなる。


「じゃあ質問!」


 今度は女子。


「動画の時、本当に怖くなかったんですか?」


 その質問に。


 凛は少しだけ考えた。


「怖い?」


「うん」


「百体に囲まれた時」


「……?」


 本気で意味が分からない顔だった。


「むしろ懐かしかったですが」


 教室がざわつく。


「懐かしい?」


「囲まれるのが?」


「どういう人生送ってんの?」


 当然の反応だった。


 凛は首を傾げる。


「騎士団時代はもっと多かったので」


「騎士団時代?」


「設定にしては重いな」


「作り込みがすごい」


 クラスメイトたちは勝手に納得した。


 ハルトも頷く。


「凛はキャラ作り徹底してるからな」


「いや本当なんだけど」


 結衣だけが知っている。


 本当に本当なのである。


 その時。


 教室後方から声が上がった。


「ハルトとの関係を聞きたいです!」


「おお!」


「それ!」


「一番気になる!」


 全員が頷いた。


 結衣の額に嫌な汗が流れる。


 やはり来た。


「友人です」


 ハルトが即答した。


「仲間!」


「それだけ?」


「うん」


 ハルトは笑う。


「昔から知ってるし」


 嘘ではない。


 異世界時代から知っている。


 ただし説明が足りなすぎる。


 そして。


 凛も答えた。


「主です」


 教室が爆発した。


「それだよ!」


「そこを詳しく!」


「主って何!?」


「どういう意味!?」


 凛は真顔で答える。


「文字通りです」


「説明になってない!」


 総ツッコミだった。


 すると。


 凛は少し考え。


 真剣な顔で言った。


「私の人生を導いてくださった御方です」


「おお……」


「なんか重い」


「急に重い」


「告白じゃん」


「違う!」


 ハルトが笑った。


「昔からこんな感じなんだよ」


 本人は全く気付いていない。


 凛が見つめる目に。


 忠誠以外の感情が混じっていることに。


 結衣は深いため息を吐いた。


 すると今度は女子が聞く。


「じゃあ剣崎さんは将来何になりたいんですか?」


 これは比較的安全な質問だった。


 結衣も止めない。


 しかし。


 凛は即答した。


「主の剣です」


「だめだった」


 結衣が天を仰いだ。


「全部そこに帰ってくる!」


「ぶれないな!」


「むしろ清々しい!」


 教室は爆笑に包まれる。


 凛だけが真面目だった。


「主が望まれるなら盾にもなります」


「かっけぇ!」


「騎士だ!」


「完全に騎士だ!」


 男子たちは妙な方向で盛り上がる。


 そんな騒ぎの中。


 ハルトは楽しそうに笑っていた。


 動画のコメント欄が現実になったような空間。


 みんなが盛り上がっている。


 凛も受け入れられている。


 最高だった。


「いいなこれ!」


 ハルトが言う。


「毎月やろうぜ!」


「やらない」


 結衣が即答する。


「絶対やらない」


 だが。


 クラスメイトたちからは大ブーイングが飛んだ。


 昼休みの記者会見は。


 まだまだ終わりそうになかった。



 結局。


 転校生歓迎記者会見は予想以上の盛り上がりを見せていた。


「じゃあ最後の質問!」


 田辺が手を挙げる。


「剣崎さんって弱点あるの?」


「あります」


 凛は即答した。


 教室がざわつく。


「おお?」


「意外だ」


「何?」


 凛は迷いなく答えた。


「主の命令です」


 教室が爆笑した。


「それ弱点じゃねぇ!」


「むしろ設定が完成してる!」


「一貫性ありすぎる!」


「最強の騎士じゃん!」


 男子たちが大盛り上がりする。


 結衣はもう訂正する気力もなかった。


 なぜなら。


 本当にその通りだからである。


 今後の学校生活で凛を止められる唯一の方法。


 それはハルトの命令だった。


 笑い事ではない。


 だが誰も信じない。


 そして。


 凛も真面目だった。


「主の命令は絶対です」


「ほらまた!」


「重い!」


「でもなんか格好いい!」


 教室中から笑いが起きる。


 そんな光景を見ながら。


 ハルトは満足そうに頷いた。


「よし」


 パンッ。


 手を叩く。


「じゃあそろそろ締めるか!」


「おっ」


「来た」


「司会者気取りだ」


 クラスメイトたちが笑う。


 しかしハルトは気にしない。


 むしろノリノリだった。


 教卓の前へ立ち。


 まるで動画撮影の時のように大きく手を広げる。


「ということで!」


 教室中の視線が集まる。


 ハルトは満面の笑みを浮かべた。


「新メンバー剣崎凛をよろしくお願いします!」


 パチパチパチパチ!


 自然と拍手が起きる。


 凛が少し驚いた顔をした。


 拍手。


 歓迎。


 祝福。


 それらは前世でも経験した。


 だが。


 今のそれは少し違った。


 英雄や剣聖としてではない。


 一人のクラスメイトとして迎えられている。


 そんな温かさがあった。


 凛は静かに頭を下げる。


「よろしくお願いいたします」


 その仕草は相変わらず騎士のようだったが。


 教室からは再び拍手が起きた。


「よろしくー!」


「今度剣道教えて!」


「動画楽しみにしてる!」


「また話そうぜ!」


 凛は少しだけ目を丸くした後。


 小さく微笑んだ。


「はい」


 その笑顔を見た瞬間。


 教室中から歓声が上がる。


「可愛い!」


「笑った!」


「今笑ったぞ!」


「スマホ構えろ!」


「撮るな!」


 結衣が即座にツッコむ。


 そんな騒ぎの中。


 ハルトはさらにテンションを上げた。


「それじゃあ今回の記者会見はここまで!」


 どこからともなく笑い声が上がる。


「高評価!」


「チャンネル登録!」


 田辺が悪ノリする。


「よろしくお願いします!」


 ハルトが乗っかった。


 教室は大爆笑だった。


 そして。


 誰も気付いていなかった。


 昼休み終了のチャイムに。


 完全に。


 誰一人として。


「…………」


「…………」


「…………」


 ガラガラガラ。


 教室の扉が開いた。


 その音でようやく全員が振り返る。


 そこには。


 担当教師が立っていた。


 教室を見渡し。


 盛り上がったままの空気を感じ取り。


 そして一言。


「お前ら」


 静寂。


「まだ騒いでたのか?」


 全員固まる。


「え?」


「今何時間目?」


「チャイム鳴った?」


「マジで?」


 慌てて時計を見る生徒たち。


 既に授業開始時刻を過ぎていた。


「やべぇ!」


「終わってる!」


「席!」


「急げ!」


 生徒たちが蜘蛛の子を散らすように席へ戻る。


 田辺が机に飛び込み。


 女子たちが慌てて着席し。


 凛も素早く自席へ向かう。


 数十秒後。


 何事もなかったかのように全員着席していた。


 教師は呆れた顔でため息を吐く。


「そんなに盛り上がるか普通」


 盛り上がる。


 なにせ。


 世界的人気チャンネルの新メンバーであり。


 全国的有名人であり。


 しかも転校初日から主発言をした少女なのだから。


 教師も半分は理解していた。


「はい、それじゃ授業始めるぞ」


 教科書を開く音が響く。


 騒がしかった教室は徐々に静かになっていく。


 だが。


 誰もが思っていた。


 剣崎凛という転校生は。


 間違いなく普通ではない。


 そして。


 この学校の日常も。


 今日を境に少しずつ変わっていくのだろうと。


 そんな予感を抱きながら。


 青葉高校の午後の授業が始まるのだった。

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