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第八話 お金と絡む過去

マロに案内された個室で、話を聞くことになるのか。その話を聞きだすのはシロの腕前だ。

 二人は特に会話をすることもなく、ソファでほどより距離感を保ちそこにいた。シロは出された水を飲みながらようやく口を開く。

「そういや、あの噂は本当なんですか?今のところ全くそう思わないんですが。」

 シロがそう尋ねると、マロはクスッと笑った。


「あなたは信じるの?」

「いや、信じないです。」


 ズバッと言い放つ。マロはまた笑う。

「あなたねえ。絶対キャバクラ来ちゃだめよ?ここは危ない場所なの。純粋な子ほど悪い子に食われちゃうわ。」

 その声色はなんだか、先ほどよりも柔らかく素のような声のトーンだった。そしてボソッという。

「残念ながら、事実よ。お金は好きだわ。」

 まさかのこちらも正直だった。それを聞いたシロはふっと吹き出す。飲み物を飲んでいたら危なかっただろう。

「マロさんも正直者っすね。」

「ふふ、お互い様よ。」

 二人して少し笑いあう。ここでは嘘も建前も消えてしまった。


 数分後、シロはようやく本題に入った。

「VIP客にしか媚び売らないって言ってましたけど、誰かお気に入りの方でもいるのですか?」

「あら、いきなり聞くのね。はじめは異性の好みを聞く者よ。まあ、いいわ。それより一杯ぐらい飲まない?ここまで来て水だけってのは寂しいわ。」


 シロはハッとした。せっかくお小遣いをもらったのに、まだ飲んでいないじゃあないかと。にやりと笑うと、マロに尋ねる。


「そうですね、ぜひ飲みたいです。おすすめとかあります?」


 問いかけると、マロは小さく笑みを浮かべてメニュー表を差し出す。


「そうね、あなたは酒に強いのかしら?」

「そこそこですね。あんまり飲む機会なかったので。」

「じゃあ、初心者さんはここら辺がおすすめよ。」


 そこにはアルコール濃度の低いカクテルが並んでいた。値段はそこそこするものの、質と量が合うのならややお得感がある設定だった。

「カミカゼって、さっぱりしているやつですよね。」

「あら、知らないの?でも、いきなりそれだと度数が強いかもね。でも、気になるなら試してみる?私のお勧めはカーディナルよ。」


 シロは一文字も見逃さないようにと、メニュー表を見ていた。それはどこか必死にも見えるが、どちらかというとおもちゃを選ぶ子供のようでもあった。


「じゃあ、そのお勧めのカーディナル?お願いします!」

「わかったわ。」

「というか、バーみたいなメニューですね。てっきりシャンパンタワーしかないのかと。」


 注文を頼みに行こうとしたマロがぴたりと止まる。そして肩を震わせて笑いをこらえていた。

「あなた、本当におかしな客ね。そんなことないわよ。」


 そして今度こそ注文をして、席に戻ってきた。その表情は、噂とは似つかぬ素の表情に近いものだ。


「で、本題に入りましょうか。お気に入りがいるかどうかだけど……一人だけいるわ。でも私からじゃなくて客側からね。一方的なものよ。」


 メニュー表を爪でトントンと振れながら、ゆっくりいった。


「そのひと、最近奥様に冷たくされているみたいでさらに普段の仕事に付かれてよくここにきているの。」

 マロはシロという他の客に常連客のことを話し始めた。シロは黒い目を丸くして少しだけ拍子抜けした気がした。

「そんなべらべら話していいんですか?」

「ふふ、正直しつこいのよ。私に毎回指名して。だから変に嫉妬が来ていろんな噂が立ってる。事実も嘘も含めてね。それに、愚痴を話せる相手はあまりいないから。こんなところにいると、そればかり考えてしまうわ。」

 マロは遠い目をしながらそっと目を伏せた。


「それで、その人は言うの。貴方が奥さんだったらよかったのにって。」


 シロは静かに聞いていた。ぽつりぽつりと話される情報を、イヤホン越しにネコに伝えるために。マロは相手が何の理由で尋ねてきたかも知らずに話し続けた。


 その人はお金が有り余っているから、自分に貢ぎたいと積極的に言っていること。


 その代わりに他の指名は取るなという脅しも。


 間違いなく渋谷大翔の情報と一致している。しばらく沈黙していたネコがシロに向けて言葉を漏らした。

『……嫉妬深いというより、執着が強いというデータがヒットした。その話は正しい。奥さんに冷められてるのは愛が重すぎるからだろうな。憶測だが。』


 シロは両耳でいろんな情報を聞きながら、こくりとうなずく。

「つまり、その人はお金が尽きてもここに来る可能性があると?」

 その言葉を聞いた、マロが目を丸くした。まさにその通りだっようだ。

「ええ、まさにその通りよ。」

「うわ、大変っすね……。」

 シロは嫌な妄想をしたのか、わざとらしく顔をしかめる。身辺調査という名目で、このキャバクラに来たが、予想以上の情報を手に入れられたと思ったのだろう。よかった半面、その人の裏側を知ってしまい、頭を抱えた。

『疲れてるな。そろそろさっき頼んだの来るぞ?』

 ネコがイヤホン越しにため息をつく。特攻隊長が疲れてどうするんだといわんばかりに。

「お、そうだった。注文したものはいつ来るんすか?」

「もう、せっかちさんね。もうすぐ来るわ。」

 その後はお酒を飲み、のんびり雑談して表も裏も関係のない時間を過ごした。渋谷大翔はいったいなぜ彼女を選んだのだろうか。


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