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第九話 情報整理という名の休憩

身辺調査の一環としてキャバクラを楽しんだ後、シロは帰宅した。ここからはネコの仕事である。



 お酒に強いのか、シロはけろっとしたまま帰宅した。強いとはいえ、テンションは高い。手を振っている。


「たっだいま~ネコちゃん。耳からかわいい声が聞こえてたよ~!」

「うっさい。だまれ、さっさと風呂入れよ。」


 ネコはぴしゃりと冷たく言い放った。シロはというと大げさに胸を押さえてがっくり項垂れる。


「つめたいよ、ネコちゃん。俺、頑張ったのに。」


 そういいながらも、素直に従うのかトボトボと歩き出した。ばたんと扉が閉まる音が響く。ネコは肩を落としながらもしぶしぶ起き上がる。


「コーヒー牛乳でも汲んでやるか。」


 そんな独り言を漏らしながら、その足はキッチンへと向かった。


 数分後。風呂上りのシロと不機嫌そうなネコはダイニングテーブルに座った。シロはのんびりゆったり入ったのか、ずっとご機嫌そうだ。ネコはというと、なにかにイライラしているようだが。


「お前なあ……泡ぶろの掃除大変だからやめろって言ったろ?」

「いいじゃん、いいじゃん。ネコちゃんもあとで入ってきなよ。」

「はあ……。」


 額に手を当てながら、本題に入る。バンッと音を立てて机の上に広げたのはシロとマロの会話履歴だ。一言一句記録されており、シロは目をぱちくりさせている。


「うげ、さすが元情報屋。」

「……でだ、これが全部本当なら信頼度はがた落ち?とまではいかないがまあ奥さんに嫌われて仕方がないな。」


 文字を指でなぞる。そこにはこう書かれていた。マロが言ったあの言葉だ。


【貴方が奥さんだったらよかったのにって】


「つまり、奥さんとこの人には共通点がある。容姿の好みか、あるいは雰囲気。いろいろあるが……まあ、調べてみないと分からんな。だが、奥さんに関しては表の人間だ。慎重にいかないと。」

「そうっすね~。あれ、本人に聞き込みするの?」


 ネコは首を振る。本人に直接はしないらしい。タブレットでなにかを打ち込むとシロに差し出した。そこには様々な情報がアリの巣のように入り組んで表示されている。シロは目を細めた。


「いや……なにこれ。」

「僕が調べた内容だ。渋谷大翔が誰とどのようにかかわってきたのか。まあ、知らん奴らしかいなかった。」


 その情報は全て人間関係の図を表していたらしい。誰かに盗まれてもわかりにくいほど入り組みすぎている。シロがのんびりカクテルを飲んでいる間、ほとんど仕事が片付いているではないか。


「ちょっと!?ネコちゃん?俺の仕事奪わないでよ!?」

「はあ?こちとらお前のこと監視しながら調べてたんだ。別にいいだろ。」

「よくない!」


 駄々をこねるようにそういうと、タブレットを掲げた。それをどうするかといえば、目をキラキラさせながらぶんぶんと振る。

「でもすげえ!!」

 さっき仕事を奪った発言とは思えないほど、まっすぐな誉め言葉だった。ネコは目を丸くする。


「は?」


 そして、ネコはため息をついた。こいつのテンションはいつもついていけないと思ったのだろう。それでも、いやそうな顔をしていない。どこか呆れているような、安堵しているようなそんな表情だった。




 しばらくたち、時計の針が十時を指したころ。ネコは静かに言った。


「明日一日、調べる。」

「あいあいさー。」

「家事は任せた。じゃ、今日は解散。」


 雑に言い切ったが、これが彼らなりのコミュニケーションだ。ネコは立ち上がると風呂場に向かった。泡ぶろに入る羽目になるのだろう。


「はあ。おやすみ。」


 ネコはトボトボと風呂場に進む。小柄な彼は迷わず足を運ぶ。シロはそれを見送った。




 シロはのんびりテレビを見ながら今日のことを振り返った。

「しっかし、奥さんいるのにキャバクラで酒飲んでる理由ってなんだろ。寂しい?うーん、シンプルに酒おいしいから。」

 他人の恋愛事情も、裏事情もシロはあまり知らない。この事務所を支えているのは基本ネコだ。実行役としてシロが担当しているだけの話。実をいうと、ネコはもともと裏社会出身だ。


 情報屋。情報を買ったりしてやり取りをする職業。しかも場合によっては表も裏も関係ない中立者だったりする。危険な立場の人間だ。そんな彼はシロが加わってからもそれを続けているのか、続けていないのか。どちらにしろその能力は健在だと思う。


 でもどこかシロにとっては引っかかっているようだ。


「絶対弱み見せないんだよな。俺なんか泣き顔見せたことあんのに。」


 頬杖をつきながら、ネコが消えた浴室の扉を見つめる。黒い瞳はしばらく動かなかった。


「俺も、何かやるべきかな。ふわあ……。」


 目をこすりながらようやく動き出す。時刻は十時三十分を回ったころだ。シロは普段十一時には寝ている。だから、眠くなってきたのだろう。


「よし。ネコちゃんのために明日はとびきりおいしい料理をつくろうじゃあ、ないか。」


 ひそかにそう決意を固めるとゆっくり立ち上がった。明日はネコの仕事日。環境を整えるのは相棒の役目だと彼は思ったのだろう。

「早寝早起きしてから仕込みしよ~っと。」


 騒がしかったキャバクラの空気も。仕事を終えたという達成感も、睡眠という形で静かに眠りにつく。


 明日もまた何かが解き明かされるのだろう。

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