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第七話 金と欲望

ネコがある程度調べたところ、ターゲットは特定のキャバクラにいっているというデータを入手することができた。特に来る確率の高い金曜日に、実際にシロがキャバクラに訪れることにした。ターゲットの情報を集めることはできるのだろうか。

 数日後。シロは十万円を握り締めてあのキャバクラ”アンテナ”の前にやってきていた。

「ここが、キャバクラ。」

 謎に緊張しながら、ぼんやり看板を眺めている。そんな彼の耳には白いイヤホンがついていた。これでネコと連絡をやりあうようだ。


 しばらく突っ立っていると、ノイズ交じりの声がシロの耳に聞こえてくる。

『あー、テステス。』

「お、ネコちゃん。聞こえてるよ!早速寂しくなったのかな?」

 からかうようにシロがいうと、ネコはため息をつく。あたりまえだ、今から仕事なのだから。ふざけてられないだろう。シロはネコの声を聞けて安堵したのか、にこにことご機嫌そうだった。


「もう行っていい感じ?」

『問題ない。指名はマロさんにしろ。その人が一番ターゲットにかかわているとされるキャバ嬢だ。』

「了解。マロさんね。」


 シロ本人はキャバクラは初めてで、女性はあまり得意ではないが、お酒が飲めるのならいいかと楽観的に考えている。カツカツと、着なれないスーツを身にまといながら入り口に入った。




 中に入ると、そこは異世界といわんばかりに景色がガラッと変わった。ムードのある赤いライトがあたりを照らし、客一人につき一人のスタッフが話をしたり、お酒を飲んだり思い思いに過ごしている。シロは入り口で立ち尽くしていた。モニタリングしているネコでさえ言葉を失っていた。


『こんなところに公務員は来るのか?』

「いや、知らないよ。とりあえず酒飲むわ。」


 そういいながらさっそくスタッフに声をかけられた。

「いらっしゃいませ。ご指名はありますか?」

「はいっ。えと、マロさんでお願いします!」

 元気満々に言ったシロ。しかし、その瞬間周囲の甘い空気が凍り付いた気がした。


 そして周囲からクスクスと笑い声が聞こえてくる。

「うわ、あのマロを選ぶとかあいつ変わってんな。」

「そうそう。馬鹿ね、本当に。」


 シロはすうっと目を細める。小さく笑みを浮かべているが、目が笑っていなかった。


「あの、マロさんを選ぶのがなんで変わってるんですか?」


 彼の声を聞いた近くの男性が酒交じりのテンションで淡々と答えた。


「いや、VIP客にしか媚び売らないんだよその子。」

「へえ。じゃあ、初回客の俺は顔を見ることもかなわないってか。」


 初回客という単語が飛び交うとさらにどっと笑いが立ち上がる。一人を狙ったかのような集中的ないじりだった。


「お前さん吹っ掛けたなあ。いやあ、無理無理。見向きのされないぞ。」

「確かに、顔はいいかもだが……あの子は金しか目がないよ。」


 それはひどい言われようだった。自分もマロも馬鹿にされている。なんともまあ、キャバクラらしからぬダークさがここに漂っていた。


 シロは口元の笑みをそのままに、ひとまずそこで待つことにした。マロが本当に来てくれるのかどうかを。

「とりあえず、来て下さるか話だけでもお願いできますか?」

 にこにこと笑みを浮かべたシロをみてスタッフは慌てて頭を下げた。ようやくシロが笑っていないことを気づいたようだ。


「かしこまりました。少々お待ちください。」

 わずかに声が上ずりながらそのスタッフは奥へ引っ込んでいった。シロはにこにこ微笑みながらボソッという。

「マジで腹立つ。」


 それをモニタリングしていたネコはようやく口を開いた。

『落ち着け。あとでケーキ買うから。』

 するとシロは即座に期限を直した。今のこの状況ではなくご褒美のほうが強かったようだ。現金な男である。


「よっしゃ。じゃあいいや。」


 今度の笑みは本物だった。




 数分後。先ほど出ていった男性スタッフの後ろをけだるげに歩いてくる一人の女性がいた。長い金髪。着古された赤いドレスを身にまとい、厚化粧でこちらを見ている。シロがイケメンとわかっても大して心が揺れなかった。


「あんたが、新客でいきなり私を指名した人?」

「そうです。初めまして。」

 にこやかに笑みをこぼすと、マロはふっと微笑んだ。


「バカねあんた。私、誰からも好かれてないのよ。一人の客をのぞいてね。」


 マロはさらに近づき、シロの顎に手を添えた。じっと、シロの黒い瞳を見つめている。探っているようなそんな視線だ。

 そして数秒後。ふっと小さな息が漏れた。

「いいわ。その覚悟気に入った。ついていらっしゃい?」

 マロはそういうと、奥の部屋へシロを案内した。当の本人はぽかんとしている。てっきり断られると思っていたのだろう。

 だが、任務が遂行されるのならどうなってもかまわない。にこっと微笑みついていく。

「よろしくお願いします!」

 とキャバクラに似つかぬ、挨拶をかみしめてついていった。飼い主に首輪をはめられた犬のように。


 部屋は意外にもシンプルだった。机と赤いソファがあり、淡い光が部屋を照らしている。シロはキョロキョロとするわけでもなく、マロの言葉を待った。


「座って頂戴。ちなみにお金はいくら持ってきたのかしら。見るからに貧乏人だけど。」


 見透かされているようだ。シロは小さく笑いながら言う。

「ひどい言われようですね。今日は十万持ってきました。」

 マロは毒づいたにもかかわらず、淡々とそして馬鹿正直に言うシロを見て目を細めた。

「あなた、変わっているわね。」

 その声が二人だけの空間に静かに解けた。

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