第五話 狩りの準備
シロとネコのもとにクイーンと名乗る依頼人がやってきた。その依頼はとある人の身辺調査のようだ。こんな深夜に来る理由とは一体何なのだろうか
ネコはあごに手を当てながら考えた。
「まず、この人がどんな見た目で何の仕事をしてるのか把握しないとだな。クイーンさんは把握してるのか?」
それを聞いた彼女はおもむろに立ち上がると茶封筒を渡す。中には一枚のプリントが入っていた。
「それが、私たちが把握している部分だ。どうにも、しっぽがつかめなくてね。」
そのプリントには渋谷大翔の履歴書が刻まれていた。ごくごく普通の全日制大学を卒業し、今は公務員として働いているようだ。
「うわぁ、政府混じりだときつくね?」
シロがややだるそうに言うと、ネコは淡々と言った。
「いや、あくまでも身辺調査だ。知り合いか、そうでないか。なにに使ってるか、どこに行ってるか。それは、調べたら出てくる話だ。」
「なんだ、ネコちゃん。頭いい!」
ワシャワシャとシロはネコの頭をなでる。ネコは大変迷惑そうにしていた。
「おい。さわんな!」
その声でようやく手を止めた。シロはにやにやと満足そうだ。クイーンはお茶を飲みながらその様子を見ていた。ふと声をかける。
「君たちは、何ができるんだ?何でも屋だから何でもできるってわけじゃあないよな。流石に役割分担してるのか?」
その質問が聞こえるとネコは金色の瞳をクイーンに向けた。それから目を細めた。
「その質問は有料だ。」
クイーンはその言葉を聞いてふっと笑う。この男やるなと。
「商売上手だね。嫌いじゃあないよ。さて、雑談はここまでだね。私は失礼するよ。追加でほしいものがあったら言ってちょうだい。」
白いコーヒーカップに入れられていた茶を飲みほし立ち上がる。小さく微笑んで「期待している」と言葉をこぼした。
ガチャンと重い玄関の扉が閉まる音とともに静寂と二人の時間が訪れる。二人ともなんだか疲れたようだ。
「あのひと、完全に裏の人だよね。」
「そうだな~。いや、何かわくわくしてきた。」
シロはそういうと、立ち上がり冷蔵庫に向かう。ネコはその背中を目で追いながら時計を見た。
「もう十時か。」
くわっと背伸びをすると、ネコも立ち上がる。
「シロ。先シャワー浴びる。」
少しだけ大声で声をかけると遠くから「分かった~!」とのんきな声が聞こえた。ネコは呆れたように微笑みシャワーを浴びに行く。
今日も何も起きず、平和な一日だったと思いながら。
翌朝。小鳥のさえずりを耳にしながらゆっくりとネコが体を起こす。時刻は七時。健康的かそうでないかは人によるが、九時間睡眠である。
「……ご飯作るか。」
職場でもあり自宅でもあるここでは家事を分担している。クイーンの言っているように彼らには得意不得意があった。それは人間だれしも持っているものだ。
例えば料理ができるのはネコ。シロは炭を作ってしまう。だが、掃除は苦手でいつも散らかしているのはネコ。貧乏性から整理整頓を常にしているシロが代わりに掃除をしている。というふうに、彼らは互いに得意不得意を理解しあって分担し合っているのだ。
「今日は……卵とほうれん草で卵焼きを作るか。」
ガチャっと冷蔵庫を閉めると料理を始める。カチャカチャと箸がフライパンに触れる音、じゅーっと卵が焼ける音が二人の家に広がっていく。
それを感じ取ったかのようにシロが起きてきた。頭は見事にぼさぼさである。目には少しだけ隈があった。
「ふわあ……おはよ。ネコちゃん。」
「おはよう、シロ。なんだその面。寝てないのか?」
目をこすりながらリビングに設置されているダイニングテーブルに腰を掛けた。
「ポンピーン……。」
「なんでだよ。ふつうに寝れる時間だったろ?」
ネコは呆れながらフライパンを動かした。目線で理由を尋ねるかのように、シロを睨んでいる。シロは小さく笑うと、机に伏せていった。
「今回の任務ちょっと怖いなって。」
「……珍しいな。なんでだ?」
シロは顔を伏せながらぽつりと言う。
「そもそも何でも屋って、正式に認められる職業なのか?もしそれが政府のだれかに感づかれて、こちらが狙われる身になったらどうする。」
ネコは小さくため息をついた。なんだ、そんなことかと思いながら。振り返って、目の前に卵焼きを置く。そしてぽんと軽く頭をたたいた。
「そもそも借金地獄で借金取りから狙われてるんだろ?国から狙われたって変わらない。僕も右におなじく。」
「そうだけどぉ……。」
ブツブツ言いながらもおなかは空いているようで、ちらちらと卵焼きを見つめている。ネコはそれを見て安堵した。
「心配するならまずは自分の体調を整えろ。特攻隊長が崩れたら誰が動くんだ?」
シロは黒い瞳をそっと上げてネコを見つめた。ネコは次いでに毒づく。
「あと、毎朝ネガティブになられると困るのこっちなんだけど。」
この行動、会話は恒例行事だったようだ。シロはふっと笑ってぼそりという。「ケチ。」体を起こすと、熱々の卵焼きを口に放り込んだ。
「んま。」
もぐもぐと食べながらのんびりの朝を送った。この人時こそ、彼らの仕事へのモチベーションへとつながることは、二人しか知らないだろう。




