表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/23

第四話 夜中の餌

百分ほどの焼き肉を楽しんだ二人。夜の冷たい風に触れながら帰路についていた。

「食った食った。」

 お腹をさすりながら阿久戸は欠伸を噛みしめる。満腹になって、疲れて眠くなったのだろう。隣の琥珀もどこか満足そうだ。

「おいしかったな。」

「いや~たまにはいいな。」

 阿久戸は歯を見せながら楽しそうに笑みをこぼした。二人で並んで歩くと、身長差がより広がってみえる。


 阿久戸の身長は百八十を超えているが、琥珀はようやく百六十センチを記録したぐらいだ。その差二十センチ。傍から見たら兄弟に見える。

 だが、彼らはあまり気にしていないのか、のんびり雑談をしていた。


「てか、琥珀。」

「ん?」


 阿久戸はおもむろに振り返って軽くかがんで言う。


「あんたの親、見つかりそうか?」

「……。」


 琥珀はバツが悪そうに目線を外した。

「今聞くか?」

「いや。なんとなく。」

 琥珀が、何でも屋を営み始めたきっかけが、まさしく親の話である。彼の両親は行方不明らしい。何年も前から探しているようだが、まったく手掛かりはないのだ。


 そこで、何でも屋を営み情報収集をしている。

「まだ何も。」

「大変だよな。互いに。こっちは借金背負って、そっちは手掛かりゼロ。」

「……まあな。」

 ふと琥珀が空を見上げると、雲一つない星空が自分たちを見下ろしていた。阿久戸もそれを見て見上げる。


「まあ、ゆっくりでいいよな。俺たちは時間有り余ってるんだし。」


 阿久戸のその表情は、いつものへらへらとしたものとは少し違った。どこか年相応の満足そうな表情だ。白い髪が風で揺れている。まるで犬のしっぽのように。


 そんな彼らが歩いていると、ふと声をかけられた。


「そこのおふたりさん。少しいいかい?」


 阿久戸と琥珀は同時に振り返る。そこには一人の女性がいた。茶髪で赤いジャケットを羽織っている。こちらを見て小さく微笑んでいた。

 琥珀が口を開く前に、阿久戸が彼女に声をかける。へらへらと笑みを張り付けて


「なんすか?おねーさん?」

「君たち、例の”何でも屋”だろ?」


 女性がそういうと、二人の表情は固まり仕事人の顔になる。琥珀ーーネコは阿久戸ーーシロの前に出て目を細めた。


「申し訳ありません。僕たち、直接依頼を受けることはないんですよ。ホームページのほうに記載してくれると助かります。」

「そうっすね。俺たちも”暇”じゃないんで。」


 二人して仮面を張り付けて女性と話をしている。だが、相手もなかなかの者だった。


「じゃあ、この場で依頼したら話を聞いてくれるかな?」

「……ほう?」


 ネコは面白いといわんばかりにシロに目線を移した。シロもにやりと微笑む。


「まあ、考えなくもないっすよ。」


 軽い口調で返事をすると女性はこくりとうなずいた。「じゃあ、そうさせてもらう。」と何のためらいもなく目の前で依頼を撃ち込み始める。シロとネコは対して気にせず、少しだけ寒さに震えた。


「てか、寒いんで事務所来ます?」

「いいのか?」


 ネコはこくりとうなずいた。

「依頼者になるならそちらの方が早い。ついてこい。」

 意外にもネコのほうが乗り気だった。なんとなく同業者の香りがする。そんなところだろう。女性は小さく微笑むと、小柄な彼の背中を追うように歩き出した。シロもそれをじーっと眺めてのんびり足を運ぶ。三つの足音が夜の街に溶けていった。




 二人の住処に帰ってきた。いや、事務所だったか。ご丁寧に来客用に茶を淹れながら、依頼が送られてくるのを待っていた。

「そういや、お姉さん。俺たちのことどこで知ったんすか?自己紹介でもしてくれると助かるんすけど。」

 沈黙というより退屈が嫌だったシロが女性に声をかけた。女性はハッとしたように笑う。


「そうだったそうだった、自己紹介がまだだったね。私の名前は”クイーン”とでも呼んでくれると助かるよ。君たちも偽名で名乗っているようだし。ねえ、シロくんとネコくんだったかな?」


 女性はからかうようにそういった。だが、二人は大して気にしていないようだ。猫のようにマイペースで、犬のように単純である。


「へえ~クイーンって名乗ってるんだ。いいっすね!」

「安直すぎないか?いや、僕たちもそんなこと言えないか。」


 その反応を見てクイーンはわずかに眉をひそめた。


「あなたたち、本当にあの噂の犬猫ペアなの?危機感がなさすぎるわよ。」

「ええ?名前はいつかバレるもんだろ?なあ、ネコちゃん。」


 パソコンを見ていたネコに向かってシロは言う。コクリとうなずいた。

「名前はただのデータに過ぎない。というか、僕たちに名前を知られて困るような知人はいないよ。」

「ネコちゃん、同時に心えぐられたんだけどどうしてくれんの?」

「知らん。」


 口喧嘩のようで、そうでもないただの言い争いが続いていた。

 数分後。ピロンという、小さな通知音とともにネコの見ているパソコン画面にメッセージが来た。


「メール番号”九一七”であってる?」

「ああ。それだ。」


 ネコはカチカチとマウスをクリックしながら依頼を読み上げた。プライバシーも何もない、純粋な声色で。


「クイーンの依頼は……うわ、シロみてみろよ、裏仕事だぜ?」

「久々だな。今日は猫探してたってのに。」


 二人は同時に画面をみながら依頼を読み上げた。声を合わせて。


 希望期限:一か月以内

 ターゲット:渋谷大翔

 理由:裏金でキャバクラにお金をつぎ込んでいる疑いあり

 内容:身辺調査


 まるで壁と話しているかのような、シンプルすぎて通り過ぎてしまいそうな内容だった。シロとネコは互いに目線を交わす。


「ん?クイーンさん。これだけでいいんすか?というか金額書き忘れてるっすよ。」

「いや、あえて書いてない。情報の質に応じて金額を上乗せしよう。前金が必要なら、あとで申請してくれ。」


 なんとも、太っ腹な客だったようだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ