第三話 ご褒美のご飯
猫をさがしていると黒猫に案内された。阿久戸は思う。この猫きっと俺を導いてくれると。
黒猫についていくこと早三十分。ついたのは、人気の少ない公園だった。阿久戸はキョロキョロと周囲を見渡す。
「へえ、こんなところあったんだ。」
この公園に来るのが初めてだったのか、目をキラキラと輝かせながらついていく。
「で、黒猫ちゃんはどこに連れてってくれるんだ?」
黒猫はうんともすんとも言わず、トコトコとマイペースに進んでいる。それを阿久戸が追っていく。奇妙な光景はまだ継続中だった。
「あ!!いた!!」
阿久戸がふと目線を向けると、そこに一匹の猫が座っていた。まさしく、依頼に書かれていた真っ白のペルシャ猫だ。
「ありがと黒猫ちゃん!」
手が汚れているため撫ではしなかったが、ことっと猫の缶詰を置いた。ご褒美だろうか。黒猫のしっぽが揺れている。近くにある、水道で手を丁寧に洗うなりゆっくりペルシャ猫に近づいていく。相手はまだ気付いていない。
「よしよし、いいこだぞ……。」
そういいつつ、じわじわと距離を詰めていく。白い髪が風でなびいていた。傍から見たら、猫に狼が近づいているようだが、実際は人である。
そして数分後。阿久戸はすっと手を伸ばし、ペルシャ猫を高々と掲げた。
「とったどー!!」
シャアー!!とペルシャ猫は暴れに暴れているが、阿久戸はびくともしていない。むしろ元気でいいなといわんばかりに口元を歪ませ笑みをこぼしている。
「よしよし……おうちに帰りましょうね~。」
そういいながら踵を返していく。暴れている猫をそのままに。
数時間後。無事、飼い主の家に届けた。ちゃっかり十五万円受け取った彼はご機嫌そうに自宅に帰る。
「たっだいま~、ネコちゃん。」
家では偽名を扱うため、すんなり切り替えて琥珀のことをネコと呼ぶ。ネコもまた阿久戸のことをシロと呼んだ。
「お疲れさん。」
ネコは帰宅直後のシロにスポーツドリンクを差し出した。みるみるシロは笑みをこぼす。しっぽがあったら振っているだろう。
「いや~ネコちゃんは優しいね。」
「それはどーも。それより、焼き肉行くんだろ?どこがいい。」
話が早い男だった。すでにいくつかの焼き肉屋をピックアップしているらしい。
「どうせ残ってたら借金返済に使うだろ?使い切れとは言わんが、自分のために使え。それだけだ。」
「ネコ様……!」
「うっさい。で、どこがいいんだ。」
ネコはシロのことをよく知っている。へらへらしてても、ちゃんと未来を見据えて考えているということを。そして自分も彼の世話を焼いていることを。
シロはスポーツドリンクを飲みながら、じーっと画面を見つめる。
「え、安くね?」
そこに表示されていたのは焼肉食べ放題のチラシ一覧だった。情報収集の無駄遣いである。ネコはマウスポインターを一つのチラシの前に持ってきた。
「お前、ホルモン好きだからここはどうだ。脂身多いぞ。」
「マジ?牛カルビ、牛タン、ホルモン……おお。いいな、おなかすいてきたな。」
ネコは腕を組んで背もたれによりかかった。そして腕を組んでにやりとする。
「ここでいいな?」
まるで始めから見通していたかのような発言だった。
「もちろんだ!!」
シロはしっぽを振る勢いで、返事をする。まだ深夜とまではいかないが普通に近所迷惑である。ネコはドヤ顔をしていたがみるみるジト目に代わっていく。
「うっさい。」
「ええ~。ひどいよネコちゃん。」
そんなこんなで、今夜の晩御飯は焼肉に決まったようだ。
店内には焼肉の香ばしいにおいがあたりに漂っていて、そこにいるだけでよだれが垂れてきそうだ。いや、シロこと阿久戸はすでに口を拭っていた。
「いや~何年ぶりの焼肉?」
「一か月ぶりだ。馬鹿。」
二人席に腰を掛けて、メニューを開く。空っぽのおなかではどれも宝石のように見えるだろう。ただ、食い切らなければいけない。それが焼肉というものだ。
「とりあえず、Aセットでいいか?」
メニュー表にはでかでかとAセットの内容が書かれている。牛カルビ二人前、牛タン二人前、野菜二人前。それからご飯も二人前。なんともお得なセットである。他にも注文すれば追加することができるようだ。食べ放題である。お得な一人三千円コースである。
「ああ。あと、ドリンクバーはどうする?サラダバーもあるが……」
「つける。」
「即答かよ。」
ネコ……ではなく琥珀は呆れたように笑いながら、注文用のタブレットを手に取った。
「はい。注文完了。ドリンク取りに行け。」
「はーい。琥珀様~」
阿久戸は相変わらず鼻歌を歌いそうな勢いでご機嫌だった。席を立ち、飲み物を取りに行く。琥珀は頬杖をつきながらその背中を追った。
「あいつ、ミックスジュース作らないよな。」
そんな心配をしながらパチパチと焼ける金網の音を聞く。その目は少しだけ寂しそうだった。
数分後。案の定いろんなジュースを混ぜた謎の飲み物をもってやってきた。片手にはサラダを持っている。レタスとコーン、ブロッコリーが入ったものだ。
「おまたせ~。琥珀はなんかいる?」
「僕は水でいい。」
「ええ~本当に?」
こくりとうなずいてそうだと伝える。阿久戸は明らかに引いていた。琥珀もその飲み物を見て引く。
「それ飲めるのか?」
「多分!」
そういってぐびっと一口飲んでみた。はじめはにこにこと本当に幸せそうに口に含んでいたが、みるみるしょんぼりしていく。
「なんだこれ。まずい。」
「あたりまえだろ。もったいないからって色々混ぜるな。さっさとのでオレンジジュースでもとってこい。」
まるで琥珀が親で阿久戸が子供のような関係であるが、れっきとした同じ家に住む人間である。阿久戸はブツブツ文句を言いながら、ちびちびその飲み物を飲んだ。琥珀はそんな彼の前でのんきに透き通った水を飲むのだった。




