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第三十七話 ひと時の休息

二つのなぞ解きをしたシロとネコ。彼らは昼食という時間を使って、合流することになった。これも相手の策略なのなら、油断は禁物だ。だが、それよりも――普通におなかが空いている。

 ヴァルに案内されたのは、先ほどいた館の別館にある食堂。仕掛け人であろう黒服たちが同じようにご飯を食べていた。


 異質な光景である。


 シロとネコは若干肩身が狭い気がした。


「本当にここで食うんすか?」


「……会話は丸聞こえってことだな。とりあえず座るぞ。」


 これでもかといわんばかりに、窓辺に空席が二つあった。それがネコにとって、とても不愉快だった。

 窓際が嫌いなわけではない。むしろ好きだ。だが、ここまで用意している感を出されるとなんとも腹が立つ。それが情報屋のプライドというやつだ。


 席に座るなり、食事がくばられた。


 メニューは生姜焼き定食。結構ボリューム感がある。シロは口からよだれが垂れかけているのにも気づかず、じっと料理を見つめる。


「う……うまそっすね……。」


「……ああ。」


 ネコでさえ先ほどの不機嫌が吹き飛ぶようなものだった。

 二人は作戦会議でもするかといったというのに、気にせず箸を手にした。ほぼ同タイミングで。


 湯気が立っているご飯を目にして、二人の挑戦者はあらがえなかった。無言で目線を交わし、コクリとうなずく。


 いただきます。


 二人の声が重なり、各々のペースで食べ進めていく。シャキシャキとしたキャベツが、味の濃い生姜焼きによく合う。それに、炊き立ての白米を加えればうまいことこの上ないだろう。


「うま!」


「……まあ、悪くない。」


 いつの間にか、黒服の人たちがこちらの様子を見ていた。それに気づいたネコがそっと目線をずらす。睨みつけるように目を細めていた。


「見せもんじゃない。」


 その声は低く、先ほどまでのご機嫌そうなものとは裏腹に刺すような鋭さを持っていた。黒服は一斉に視線を元に戻した。自分たちの食事へと。……まあ、食べ終わっている者もちらほらいる。

 二人をみたいのはやはりヴァルだけではないようだ。


 ネコは額に手を当てて呆れている。食事まで見られるのはさすがに気が気でないらしい。一方シロは、特に気にするわけでもなくもぐもぐと箸を進めている。

 それを見て、ネコはさらに何とも言えない気持ちになった。


「はあ……」


「まあ、まあ、ネコちゃん。気にせず食べようよ。」


「……。」


 シロのその言葉に返事を返すでもなく、残りのご飯を食べる。作戦会議は結局中止になった。なんせ、食べている間にもタイムリミットが進んでいるのだから。



 食べ終わるなり、ヴァルに再び連れられ元の館へと戻っていく。黒服は何も言わず気配を消し、三人の足音だけが聞こえていた。


「いやあ、満足してくれたようで何よりだ。もっとゆっくりしていけばいいのに。」


「いや、あんたのことだ。時間内にとは言いつつ、部屋によっては時間を超過してからの方が難しい問題を用意しているだろう。」


「そっす、俺たちあんたのこと信用していないっすからね。」


 二人とも正直に「疑っている」ことを伝えた。ヴァルはそれを面白おかしいといった具合に、クックックと喉を鳴らす。


「疑ってこそ、君たち……というより当たり前だろう?裏社会というのは敵も味方も疑わないといつ、死ぬかわからない。そんな世界さ。」


 ヴァルの言葉にネコが反論した。


「僕らは一応離れた身だ。確かに完全に離れられないのも事実。だが、おまえらに知ったかぶりされるのは嫌だ。」


「知ったかぶり?言うね。いったい何の事かい?」


 ネコは眉をひそめながらはっきり言う。


「ここは情報を持っているという自慢大会ではない。そうだ。僕らの過去を知っているからなんだ?脅しか?それとも傷つけることで快感を得る変態か?」


 その言葉にヴァルはぴたりと止まった。


「かなり前から言っているだろう?君たちがそういう危機にどう乗り越えるかを見るのが楽しみなんだと。」


 だが、ネコはそれを鵜呑みにしなかった。声を荒げるわけでもなく、淡々と話す。情報屋時代の頭脳を用いて。


「へえ、楽しみ?ならこんな館に閉じ込める前に、刺客でも向けてくればよかったじゃないか。なんでこんな檻に案内した?そもそも僕らが断っていたらどうしていた。」


「ネ、ネコちゃん?」


 シロは見慣れない彼の姿に若干目をキラキラさせた。場違いではあるが、尊敬していうのも事実。完全に蚊帳の外であることに気付いていない。


「大体。僕らは下っ端中の下っ端。確かに数年前まではどちらも現役だった。シロはどっかの組織の殺し屋で、僕はフリーの情報屋。だがそれだけだ。しかも、裏社会から逃げた愚か者だ。そうだろう?」


「……。」


 ヴァルはネコの言葉を聞くなり、いつも開いていた口を閉ざした。ネコは図星だといわんばかりに鼻を鳴らした。


「まあいい。とっとと脱出して賞金かっさらってまた逃げてやる。いいか、ヴァル。たとえ僕らを捕まえたとて、僕らの本心に触れることはない。覚えておけ。……シロ、行くぞ。」


 彼はそういうなり、シロの服の裾を引っ張りヴァルの案内なしに歩き出した。


 ヴァルはそんな二人をみて、ちいさく息を漏らす。


「……感づかれているか、ふふ。流石情報屋。……いや私も情報屋だった。」


 自分でも何を言っているんだろうと思いながら、踵を返した。二人のことを監視する部屋へと行くために。




 二人は再び別々になり、部屋を散策する。だが、先ほどまでの部屋と比べて普通のなぞ解きが増えてきた。


 シンプルだが難しい引っかけ問題。


 互いの部屋にあるヒントを元に解くパズル。


 そもそも脱出ゲームというのはそういうものだ。おそらく、過去をえぐるようなものはかなり珍しい部類だろう。


 地道に二人は先へと進んでいく。インカムと互いの知識をうまく活用して。その間にもヴァルにみられていることをなんとなく察しながら。


 そして、最後の部屋が見えた。遠く離れていても、同時にドアノブに手をかける。ただ、残念なことにインカムのバッテリーを考慮しなくてはならない。


 残り使える時間は三分といったところだろう。さて、最後の部屋にはどんなものがあるのだろうか。

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