第三十五話 脱出ゲーム その二 シロの視点
なぞ解きが始まり、一つ目の答えをネコが導いた。その答えとは。
インカム越しで答えを待つシロ。
ニ・三分という短時間だが、なんとなく落ち着かないらしい。そわそわとその場を歩き回った。
そしてついに待ちに待ったインカムが光った。
「お、答え出たっすか。どうぞ!」
ネコの部屋がどんなものかわからないシロは、能天気に尋ねた。何が嫌いだったのかシロは知らない。今はなんとなく知っている節があるが。
例えばお酒。ネコは酔いやすいし、「任務に支障が出るから」とあまり好んでいない。それから辛い物。ただの刺激物だし辛いし嫌いと以前言っていた。
だから、シロはそれと同レベルの回答が来ると思っていた。だが、実際来たのは。
『昔の僕が嫌いなもの。それは、今も昔も自分自身だ。』
突然の言葉にシロは言葉を失う。そわそわしていた足も、へらへらと笑っていた口元も動かなくなった。
空気が急に重く蝕んでいく。一言の質問、一つのゲームのはず。
だが、ネコの言葉がシロにとって予想外だった。元情報屋の彼は何を考えているのかよくわからない。それほど、隠すのに長けていたというわけだ。
シロは深呼吸した。とりあえず、答えを宣言するべきか、なにか声をかけるべきか。悩んでしまった。
そういう時はまず落ち着く必要がある。
「……そっすか。自分が嫌い……今もか。ちなみに何でっすか?」
テンションを無理やりあげて、尋ねた。正直に話してくれるとは限らないが、聞かないわけにはいかない。しばらく沈黙していると、返事が返ってきた。
『……。』
あのネコがだまった。いや、本音を飲み込んでいるのかもしれないが。ただただインカムの充電を使ってしまっている。
シロは声を震わせながら声をかけた。
「い、いや、やっぱり……無理しなくていいっす。ただで情報聞くのってダメっすよね。あはは……。」
インカムをぶつ切りし、シロは聞くのをやめた。
問題の書かれた紙に答えを書き記す。そしてあらかじめ用意されていた箱に入れた。カランと音がする。足元を見てみると、次の部屋の鍵がおちていた。
「こんな感じの問題が続くのは、気が滅入るっすね……ネコちゃんがまた遠くなるっすね。」
シロが鍵を手にしたとき、ふとインカムが光った。
なぜだ?
ネコは話したくなさそうだったし、次の部屋の鍵がおちてきたのだから次に行けるだろう。
「ネコちゃん?」
インカムのボタンを押す。しばらく無音が流れた。
「……おーい。」
シロが尋ねると、数秒後。ネコが恐る恐るといった様子で声を漏らす。
『……答えはあっていたんだよな。こっちには鍵が来たが。』
「ええ、そっすね。……やっぱり知られていること怖いっすか?」
『……ああ。』
珍しく素直に相槌をした。シロが目を丸くしている間に、ネコは言葉を続けた。
『……言ってなかったよな。僕がその、親がいないってこと。あいつは、つまりそれも把握しているわけだ。次の部屋からも僕らの過去をえぐりに来る可能性がある。』
「お、親がいない……え。あ、いや、そっすよね。俺はまだ借金背負ってる人っすけど、ネコちゃん何というか……」
『慌てすぎだ馬鹿。知られているのは仕方がない。とにかく、変に脱出できずにこちらが情報を話す方が面倒だ。』
ため息が聞こえる。シロのどもりようがなんとなく面白かったのか、飽きれているのか。どちらでもないかもしれないが、空気はほんのりと軽くなっていた。
そして、インカムが切れる前にネコは一言いった。
『……心配してくれてありがとな。』
インカムのランプは切れた。通信も切れた。
その言葉の衝撃に、シロはインカムを落としかける。壊したら元も子もないため、慌てて態勢を戻した。
「ネコちゃんが、ありがとって!嘘だろ……熱でも出てる!?やった!!!」
シロは変に気を遣うことなく、鍵を片手に部屋を出た。次の部屋に向かうために。そして、自分たちの弱点をこれ以上さらさないために。
つぎの部屋は、どうやらシロ側が回答する側のようだ。部屋はいたってシンプル。だが、面白いのは二つの部屋が同じ鍵で開いたことだ。
「なぞ解きっぽくなってきたっすね。この感じ間違い探しっすかね。」
そんなことをかんがえながら探索をしているとインカムが光った。
『シロ。次はシンプルだ。二部屋開いているのか?間違い探しをしろって指示だ。間違っている方は、緑の扉の部屋。そして、間違っている個所を開けば鍵が見つかるらしい。』
「了解っす!」
『部屋の数が合わなかった理由が分かった。……頑張れよ。』
再びインカムが沈黙する。シロはしっぽがあればまるで振っているように周囲をキョロキョロと見渡した。
「間違い探しっすか。得意っすよ。」
細かいところから見るのではなく、一旦見本となる黄色の扉の部屋に立って周囲を見渡した。勉強机にベッド。ふつうの部屋。だが、どこか既視感がある。
「これもどっちかに関係してるんすよね。うーん。」
顎に手を添えて細かい模様を見て回った。ある程度覚えても、部屋を使った間違い探しだと覚えミスが発生する。だからこそ、細かく見て違いに敏感になれるようにするのだ。
「さーて、あとちょっとで隣の部屋行きましょっか。」
自己宣言をしてから、シロは最後の確認をして部屋を出る。
ふと向こう側の廊下を見ると、こちらをじっと見るネコの姿があった。こちらを観察している……というよりやることがなくて暇を持て余しているようだ。
「うわあ、ふてくされてるネコちゃんかわい。早く解いてあげなきゃっすね。後が怖いっす。」
緑の部屋のドアノブに手をかけて部屋に入った。ネコはまだこちらを見ている。




