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第三十四話 脱出ゲーム その一 ネコの視点

シロとネコは別々にこの館の脱出ゲームをすることとなった。こういう頭脳を働かせるのが得意なのはネコだ。シロのことを若干心配しつつ、足を運ぶのだった。

 シロのことを見向きもせず、ネコは左側の通路を歩いていく。まずは部屋に入らず、突き当りまで歩いていた。


「……相性を調べたいのなら対照的にしているはず。一、二……。」


 指さし確認をするように、扉の数を言葉でカウントする。情報屋としてはあり得ないだろう。敵陣で声を出しながら考え事をするなど。だが、ネコは違う。


 これも作戦の内だ。声を出してはいけないというルールは今のところない。ちらっと後ろを見ながら、扉を数えた。


(まだ、シロ(あいつ)は廊下にいる。俺の声は聞こえて居るはずだ。耳がいいからな。)


 静かに呼吸をして続けると遠くから似たような声が聞こえた。


「一!二!」


(でかいよバカ。)


 内心で舌打ちしつつも、離れながらも二人で行動する。部屋の数は一緒化に思えたが、違った。

 シロ側だけ一部屋多い。なにか、理由があるのだろう。


 シロの方を見ずに、ネコはいろんな可能性を巡らせた。


(……シロには若干不利な問題、謎があるってことか。それとも、そのもう一つの部屋に出口の鍵があるのか。)


 とりあえず、鍵の開いている部屋を探索して様子を見るしかない。そう思ったネコはそのまま、近くにあった扉に手をかけた。


 解散したすぐ手前の部屋。ご丁寧に【第一の部屋】というネームプレートが付いている。

 何度目かのため息を挟みながら足を踏み入れた。


 その部屋は、おもちゃが多かった。クマのぬいぐるみ、積み木、それからおままごとセットと思われる小さなキッチン。

 だが、ネコは知らない。これが、どのようなものか。


「ふーん、おもちゃね。……懐かしいな。」


 指先でそっと触れながらふと、上を見上げる。

 淡く光るライトはゆっくりと明滅していた。かなり、年季が入っている。


「……この館、だれかの住処ではなさそうだな。わざわざこんなゲーム会場にするくらいだ。」


 目を細めて、そのまま部屋全体を俯瞰するように視線を走らせた。しばらく観察していると、さっそくインカムのライトが光る。


「なんだ。」


『こちらシロっす。そっちの部屋ってどんな感じっすか?』


「ああ、こっちは子供部屋だ。おもちゃがたくさんあるぞ。」


 充電の残量はまだある。だが、使ってみるのも手だろう。ネコはそんなことをかんがえながら、なぜ連絡をしてきたか尋ねた。


「で?そっちは何があった。」


『一枚の紙があったんすけど……いいますよ?』


「ああ。」


 ちかくにおいていた、クマの絵柄が付いている椅子に座るネコ。一体、シロ側にどんな文章の紙が描かれているかを予想した。


(おそらく、この子供部屋からなにか共通点やらマークやらを聞き出すんだろうな。――もしくは。)


 ネコが一つの答えを予想した時だった。

 恐る恐るといったようにシロが尋ねた質問が、その答えを覆す。


『問題。ネコちゃんの昔、嫌いだったものは?』


「……は。」


 背筋が凍る。なぜ、そんなことを知っている?あのヴァルとかいう男はと。動揺してはならないのは確かだ、深呼吸をしながらシロに尋ねる。


「で。文字制限とかあるのか?あと、種類とか。僕、昔から嫌いなもの多いぞ。」


『うーん。特に指定ないっす。おそらく、ネコちゃんの部屋の中で嫌いなもの探すんじゃないっすか?』


「分かった。一旦、切るぞ。答え出たらまた連絡する。」


 了解っすと、ネコの感情とは裏腹な元気いっぱいの返事を聞きながら、インカムを切る。手元を確認した。充電はまだまだたくさんある。




 ネコは慎重に辺りを見渡す。かすかに懐かしさを感じる子供部屋。ここに自分が嫌いだったものがある……らしい。


「はあ、昔はかなり好き嫌い多かったな。」


 そうぼやきながら、おもちゃに近づいた。色褪せたおもちゃたち。どれをとっても、特に好き嫌いはなかった。


 なんせ、極端に嫌いになるほど思いではないはずだから。


 しばらく探索を続けているととあるものを目にした。机の上に、ひっそりと置かれている一冊の本。じっと見て目を細めた。


「何だっけこれ。」


 古びた本。というより絵(・)本(・)。ネコはそっと手に取った。


 タイトルは【みにくいアヒルの子】。有名な童話だ。


 一匹の灰色のアヒルはみんなと違うからと仲間はずれにされたり、いじめられた。だが、本当はきれいな白鳥で旅の果てでようやく自分の居場所を見つけられた、そんな話だっただろう。


 ネコはそんなことをかんがえながらパラパラとページをめくる。何ら、特徴的なものはない。ただ、ネコ本人が懐かしいと感じる。


 紙は擦り切れて、使い古されている。何度も、何度も読まれた跡がそこに刻まれていた。そして最後のページ。


 ネコが閉じようと雑にめせんを下げた。だが、手が止まったのだ。そこにはアヒルの絵に、黒いクレヨンで落書きが施されていた。


 ぐるぐるとただ力をこめて、書きなぐった絵。醜いアヒルの子をさらに隠すように、傷つけるように。ぐるぐると。


 ネコはそれを見て思い出した。


 というより自覚した。


「そっか。僕は昔から……。」


 彼は自覚したらしい。自分が何が嫌いかを。インカムを起動する。また、のんきなシロの声が聞こえた。


『お、答え出たっすか。どうぞ!』


 ネコは小さく微笑んで言う。


「僕は。」


 その言葉を聞いたシロはどう思うのだろうか。

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