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第三十二話 旅館内での情報整理

謎の男ヴァルによる脱出ゲームに参加することになった、シロとネコ。二人は夕食を食べ終わった後ようやく、旅館の部屋でゆっくりと休んでいた。

 温泉に入る前の数時間。夕食でおなかを満たした二人が、雑魚寝をしながらのんびりと休憩していた。


 明日は、謎のゲームに参加するため今日は早く寝なければいけないことがなんとも腹立たしい。

 そう感じるのはネコだけではなかった。


「はあ、てかあのヴァルとかいうひと、結局何が目的なんすかね?俺らの脱出ゲームを見て、絆でも見たいんすかね?」


 天井を見上げながら、シロがぽつりと言った。隣にいたネコはそんな彼の横顔をちらりと見る。シロは相変わらず、喜んでいるのか本当に悩んでいるのか、わからないような表情をしていた。


 まあ、どっちもどっちだったが。


 ネコは息を深く吸い、シロの問いに答える。


「あれは大抵、脱出ゲームを模した僕らのチームワークを見る気だ。あれだけファンだ、ファンだって……僕らの人生をまるで娯楽みたいにいいやがって。」


「まあ、それもそっすね。なんだか、気に食わないっす。」


 不服そうにシロは口をとんがらせながら、「なんかむかつく。」と一言付け足した。あまりにも正直な感想にネコはクスッと笑う。


「僕もむかつく。でもまあ、あの世界を知った以上常に見られてしまう事は仕方がないよな。むしろ見せつけてやろうぜ、僕らはたぶん最強だって。」


「多分って何すか。いきなり自信をなくさないでよ、ネコちゃん。多分じゃなくて絶対最強っす!」


 ぐっとこぶしを天に向けて突き出す。その意思はその行為全てに詰まっていた。


 ネコは満足そうに目を細めると、視線を天井に移す。


「そうだな。」


 そう小さく返事を返した。

 しばらく二人は沈黙を浮かべていた。気まずくはない。むしろ心地が良い。気を使わないでいい関係というのは、こういう事だろう。

 仕事仲間とか、同じ家にすむ住民だからとは関係がない。ただ、あの路地裏で二人の行く先は交わったのだ。それだけなのだ。


 たったそれだけで、二人はずいぶん気が楽になったのも事実。実際、もしあの場でどちらかがどちらかをうったのならおそらくここにはいない。そんなちいさな出会いがこの二人を作りあげている。


 そしてそれは、みんなにもみられているということだ。


「……さて、シロ。明日のことだがどういうものが来るのかは僕にもさっぱりわからない。」


「ええ?まあ、そりゃそうか。相手は裏社会の人間。俺等はちょっと平和ボケしてるからね。」


「そこでだ。ここからは憶測の話になるから、よく聞け。」


 ネコはがばっと起き上がると、一応持ってきていたパソコンを立ち上げた。カタカタとキーボードをたたき、パスワードを解除。そしてそのまま普段使っている裏社会も表社会も把握できるようなサイトを開いた。


「まずは、ヴァルについて現時点で知っていることを話す。僕が把握しているのは、一つだけ。”アラク”所属ってことだ。」


「アラク?そこって確か、情報に強い組織っすよね。なんでもいろんな分野を知りすぎて怖いっていう。」


「お前はどんな認識してんだ?」


 シロの言う通り、アラクは裏社会の人間なら誰しもが知るほどの大きな組織。情報に長けており、蜘蛛の糸のように全体的にはびこっているらしい。


 それは、生きている組織や個人に限らず死んだひとの情報も含まれている。

 ネコも一度お世話になったが、その情報量は目を疑うものだったらしい。他の組織が表面しか知らない中、彼らはまるで細胞内まで見ているような精密さだった。


「ただ、あいつらはぼったくりだ。流石に情報ひとつに数百万はやりすぎている。内容次第だけどな。ちょっとだけ相場が高い。」


「つまり……頭がいい金好きっすか?」


「まあ、そんな感じだ。」


 情報に長けた相手に、ざっくりいえば挑戦しなくてはいけないというものだ。そして脱出できなければきっと、前進くまなく捜索されるだろう。




 二人はしばらくぼんやりしていた。軽く脳裏によぎる言葉が一つ。


 これ、積んでね?


「僕は生まれ変わっても、絶対あの組織相手に喧嘩売れねえ。」


「右におなじく。スナイパーで打ち抜く前に、弾抜かれてそう……。」


 ネコは横になりながら、頭をガシガシとかく。


「しかも、僕らのこと気になってるってことは相当本気だ。はあ……いやな予感しかしない。」


「もー、ネコちゃんが言うと俺まで心配になるっす!」


 シロがわーっとわめくのとほぼ同時に、旅館の扉がノックされた。


「ん?はーい!」


 シロはにこにこと、先ほどの子供っぽい一面を消し飛ばし、扉を開いた。そこには、旅館のスタッフがいた。


「お待たせいたしました。温泉のご利用時間となりましたので、ごゆっくりお楽しみください。」


「おお!もう、そんな時間すか!ありがとうございます!」


 スタッフはぺこりとお辞儀をするなり、引き返していった。そうだ。もともと温泉に入りに来た。


 二人は今日起きたことのせいで、忘れていたがこれはそもそものはなし温泉旅行。二人は、一気に意識がそちらに移る。


「温泉すよ!ネコちゃん!温泉って、お風呂と何が違うんすかね?」


「聞いた話によると、露天風呂?ってやつがあるらしい。外に風呂?すごいよな。」


「ええ!?それって犯罪にならないっすか?なんていうか……」


 がやがやと先ほどまでの殺伐とした雰囲気は消え去り、すっかり旅行気分だ。だが、忘れてはいない。


 明日はきっと二人にとって、試練の一日になるということを。

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