第三十一話 脱出ゲーム?
シロとネコは本来泊まる予定だった旅館ではなく、謎の男によって別の館へと迷い込んだ。この男は、二人のファンなのか、ただの変態なのか。わからないが、ただ一つ言えるのは二人のことをよく知っている人物であるということだ。
彼らをここにつれてきた男の名は、ヴァルというらしい。こちらも本名ではなさそうだ。
キラキラと、シロとネコを交互に見て楽しそうに微笑んでいる。
「さーて、君たちに一つ依頼を出そうと思っていたんだ。どうせ、君たち温泉旅行を温泉につかるだけで終わらせるつもりだろう?」
ヴァルはそういうと、表情を見るかのように首を傾げた。実際図星だったかもしれない。
二人はこれが初めての旅行だ。理由あって、学校での大イベントでもある修学旅行も、家族ぐるみの外出もまともにできなかった。
シロは言わずもがな、親が若干厳しめで、結局夜逃げという形で借金をプレゼントしてきた。最初で最後の自分へのプレゼント。
――そのせいで彼は殺し屋になったが。
ネコも何かしら、理由がある。シロと同等。又はそれ以上。だが、それを広言することはない。自分のことを話すというのは、同時に弱点をさらしだすということだ。
――その警戒心が、彼の武器となり本来、強みとなるはずが自分のことを縛る弱点になっているとは、気づいていない。
そんなあべこべの二人がいきなり旅行に行くと決めてもスムーズに計画をたてることなんてできない。
一応、ネコが調べてルートは決めていたみたいだが。本当に行きたいかはさておき、ヴァルは邪魔をしてでも、知りたいのだ。
二人の間に何があるのかを。
「だからさ、私の用意したゲームで遊んで行かないかい?二人のチームワークなら、突破できると思うんだ。」
「ゲーム?」
「そうさ。」
ヴァルは両手を掲げていう。まだあたたかな陽ざしが、窓から差し込みまるで天然のスポットライトのように男を照らした。
「名付けて”リアル脱出ゲーム”。二人で協力して、この館から脱出しちゃおってわけさ。」
シーン。
あたりが静まり返る。シロはぽかんと、ネコは大層面倒くさそうに睨んでいた。
「え。それって依頼って判定っすか?」
シロは単純に、お金が欲しかった。そもそも、借金があるのに旅行にきているのはバグかもしれない。
聞かれたヴァルはきょとんとしたが、即座に深い深い笑みを浮かべる。
「うん。そゆこと。見事脱出出来たら、ちゃんと賞金を用意する。あー、安心して?今日じゃなくて明日から。今日はただの挨拶。」
ネコはため息をついた。もう、いやな予感がビンビンとしている。
ああ、これ。絶対やるまで温泉旅行に戻らせない気だと。
諦めるのも作品のうち。シロの腕を軽く引っ張る。シロは首をかしげて振り返った。
「どしたの、ネコちゃん。」
「諦めよ。裏社会の人間なんて所詮、狙ったものは逃さない狩人だ。逃げるのはめちゃ疲れる。旅行前に疲れたくない。」
シロはしばらくその言葉をかみしめた後、頭をかいた。あきらめろと言われても、こちらは旅行に来た身だ。できれば、避けたい。
「ええ、でもネコちゃんとのデートが。」
「だから!紛らわしいこと言うな、あいつが喜ぶだろ!」
しかし、既に喜んでいるようだ。カメラがあったなら、連続でシャッターを切っていた。それぐらい、満面の笑みだ。
「ああ、もう満足。二人の絡みをみれて。って、だめだめ。とりあえず、どうする?てか、やっていいの?」
ヴァルはここまで来て、不安になったらしい。温泉旅行に行く彼らのマップを魔改造して、ここにつれてきて。君らを知っているといいながら。
ネコはそんな変なテンションのヴァルを見て言う。
「さっさとルール説明しろ。んで、成功報酬についてもっと詳しく。」
腕を組みながら、不服そうに言う彼。だが、本心はただの現金な人だった。
ヴァルは説明を改めてした。リアル脱出ゲーム。館はすでに密室。なぞ解きをしながら、館からの脱出を五感を使って行うというシンプルなものだ。
まるで、お遊戯のようなイメージだが、裏社会の人間がやるからには何か裏がある。そう、ネコは思っていた。
「館は全部で二階まである。部屋は全部回っていいよ。でも、鍵がかかって空いてない箇所は、二人で協力して鍵を探してね。時間制限は午前六時から午後六時まで。十二時間ってとこだね。」
「え?短くないっすか?」
ヴァルはそれに気づいているのかコクリとうなずく。
「二人なら大丈夫でしょ。現に、あの事件の解決までネコの指示ありではあったものの、シロ君だけでたった一時間しかかかってないんだから。」
「いや、あれ途中から警察が手伝ってくれたから。実質僕たちの手柄じゃない。なあ、シロ?」
「うん。おいしいところ持ってかれた。」
不服そうにシロは眉を顰める。まだ、根に持ってたらしい。
それでもシロは、若干ほめられたと気づくと、まんざらでもない表情を浮かべた。
「まあ、俺のおかげっすよね。」
「はあ。話がややこしくなる。つまり、明日の朝六時からここであんたが用意した脱出ゲームで遊べばいいんだな?」
ヴァルは「そのとおり!」というと、パンッと手をたたいた。
「さて、話は終わり。今日はもう大丈夫。旅館に行くなり、ご飯を食べに行くなりしてくれ。ただし、明日は迎えに行くからね?」
にこにこと、ただ嬉しそうにそういうヴァル。明日が来ないでほしいとシロとネコは思った。
ヴァルの手配した、タクシーで本来行くはずだった旅館に着いた。ようやく、人がちらほら見え始め体の疲れがどっとこみあげてくる。
「せっかくの休みなのに、頭使いたくないっすよ。」
「あんたはほぼ使わないだろ。さっさとチェックインに行くぞ。」
二人して、疲れ切った顔をしながら歩き出す。荷物はそこまで多くはない。だが、旅行というイベントに対する期待値は高かった。
「とりあえず、今日はゆっくり休む。ついでに、明日の作戦会議をしよう。」
「了解っす。それより、聞いてよ琥珀ちゃん!夜めちゃいいご飯出てくるんだって!」
気持ちを切り替えたかのように、シロがそういう。ネコはなんだかもう、どうでもよくなった。
どうせ、明日には変なゲームに付き合わされる。
ネコは小さく微笑み、シロからそのご飯とやらを聞くのだった。




