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第三十話 到着した先で

ネコが車酔いを起こしながらも、無事目的地でもある旅館に到着した。

 バスから降りて、数時間後。彼らは目的地でもある旅館の前にやってきた。まだ、日は高く自然豊かな良い土地に佇む一つの建物がそびえたっていた。


 二人は、目の前に佇む旅館にほぼ同時にこんなことを思う。


 思ってたんと違うと。


 それは、旅館というには小さすぎる一つのお屋敷のようなもの。他には宿泊客の気配すらない。それはそのとおり。今の時刻は午前十時ほど。ホテルにしろ、旅館にしろ、チェックインするには早すぎる。


「な、なんか違くね?もしかして場所間違ってる?」


 シロが、スマホをじっと睨みながらそう尋ねた。ネコは首を振る。


「いや、ここであってる。住所も、特徴も……一応。本当にここに温泉なんかあるのか?」


 ネコも不安なのか、首をかしげながらスマホを見つめている。その建物に入るまでは確かめようがない。


「行くぞ。阿久戸。」


「お、おう。」


 二人は覚悟を決めて、館の扉を開けた。


 なかはとにかく静けさを放っていた。従業員の姿が一切見えない。ただ、鍵が開いていたため誰かいたという形跡は確認できる。


「なあ、琥珀ちゃん。これって本当に温泉旅行になると思う?」


「同意見だ。なんだか、いやな予感がする。」


 そう思いながらも元情報屋と元殺し屋は好奇心を抑えられなかった。二人とも、そっと足を踏み入れる。


 次の瞬間。空気がガラッと変わった。シロとネコはほぼ同時に荷物をその場に下ろす。戦闘準備。


「ちぇ、せっかく旅行でのんびり”ネコちゃん”とイチャコラできると思ったのに。」


「おい”シロ”。その言い方はやめろ。誤解される。」


 すでに、仕事の呼び方に切り替えており、表情が鋭くなった。周囲を見渡し、なにかを探っている。


 敵か、罠か。


「シロ。先いけ。」


「ええ~、でもネコちゃん一人で残すと危ないじゃないっすか。さっさと敵が出てきてくれることを祈るっすよ。」


 二人が言い合いをしていると、カツカツカツと足音がした。そちらに目線を向ける。


 パチパチと乾いた拍手も聞こえてきた。一体、何に感動されているのだろうか。


 やってきたのは一人の男。仮面をつけており、顔は見えないが見るからに只者ではない雰囲気を醸し出している。




「いやはや、初めましてだね。シロくん。ネコくん。」


 低く、まるで耳元でささやかれているようなねっとりとしたトーンで声をかけてきた。ネコは、不機嫌そうに目を細める。明らかにがっかりしていた。


「なあ、あの温泉旅行偽物だったのか?」


「いや、あれは本物。旅館は別に用意しているから安心してね?」


「は?」


 男は改めて説明した。


「あの事件、なんだっけ……エナジードリンクの販売者を装ったサイト詐欺。そして空き巣。それを解決したのが、まさかかの有名な情報屋と名高い殺し屋のコンビだと知ったときは――とても興奮した。」


 男性のねっとりしたテンションに、シロは引きつった笑みを浮かべたまま固まっていた。ネコはというと、完全に「関わりたくない」という顔をしている。だが、男はそんな二人の反応などお構いなしに、さらに一歩近づいてきた。


「い、いやあ、嬉しっすね……?」


「いや、変態の間違いだろ。てか、温泉に行けるのなら何故ここに誘導した。」


 二人がどんなにうろたえようと、その男は変わらず話を続ける。それはもう楽しそうに。


「何でも屋を営んでいると聞いてね、なぜ二人が出会ったのか。我々、裏社会の住民も非常に、興味をひかれたんだ。」


「我々?」


 男はクスクスと笑いながら、ぐんとネコに近づく。そして、耳元でささやきながら言った。


 彼らは、いろんなところが君たちの関係に興味を示していると。


 なぜあのとき殺し屋は情報屋を殺さなかったのか。

 なぜあのとき情報屋は殺し屋を売らなかったのか。


 なにかあったのだろう?それを暴きたくて仕方がない……とのこと。

 自分のことをあまり知られたくない二人にとっては、どれだけ嫌なことか。だが、甘く考えてはいられない。


 とうとう、二人の正体が裏社会にも浸透したというわけだ。

 ネコがそっとため息交じりに


「はあ、面倒なことになった。裏社会にはもう行きたくないってのに。」


「ほう?非常に興味深いな。もしかして、二人で逃げるために何でも屋になったのか?」


「ちがうわ。」


 シロとネコは互いに目配せしながら、この男をどうしようかと悩んでいた。ここに長居すれば、間違いなく全身をみられるように二人の関係が明らかになる恐れがある。


「……どうする。」


「どうするも、こうするもあの男の人、なんでここに俺らを呼んだか一切話してくれないっす。……あれじゃないっすか?話してくれるまで帰さない的な。」


 そう予想したシロもそれを聞いたネコも、どんどん旅行気分が落ちていく。せっかく、初めての二人旅行だというのに。


 その様子をみた男は、胸を押さえた。


「ぐっ。そんなに息をそろえて、私を殺す気か……?」


 このおかしな男をどう攻略するのかは、二人にかかってはいる。だが、目的も理由もわからない以上どう対処すればいいかわからない。


 そもそもこいつは誰なのだろうか。

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