第二十八話 ゲームセンター
温泉旅行のために、買い物をしに来たシロとネコ。服を購入して、疲れた二人はフードコートに来た。だが、まさかのネコがナンパされてしまう。シロが華麗に助けてくれたものの、ネコはなんだか腑に落ちないようだった。
二人、向い合せでご飯を食べていた。シロは醤油ラーメン。ネコは豚丼。先程の会話を聞くことができず、ネコはなんだかもやもやしていた。
たとえ情報屋だとしても、まだまだわからないこともある。当たり前だが。
「さっきなんて言ったんだよ。青ざめるならわかるが、赤くなって帰ることないだろ。」
シロはヘラヘラと笑いながら麺をすすっているばかりで、話すことはなかった。それはいつものことで、ネコは振り回されてばかりだ。
この男だけはどうも読めない。
何が望みで、何がしたいのか。
まあ、そんな事は後でいい。とにかく今は豚丼が美味しい。ネコはそう思うことにした。
先ほどの女性たちのことも忘れるぐらい、腹を膨らませた二人は今度こそ旅に備えての買い物を始めた。
「なんかよく聞くのは、タオルとか?」
温泉だから、必要だろうとシロの予想だが、ネコは首を振る。
「さっき調べた。」
「なんだよ、ノーヒントでいかないんだ?」
「俺は前々日に慌てたくないんだよ。」
そういいつつ、シロにそのページを見せた。シロはそれをじっと見て、次第に曇っていく。
「は?こんなにいるの?下着と服と、ボディソープと……」
「備え付けでよければいらないらしい。だが、ないとこもあるんだとか。」
「ほえ~。」
謎の相槌を打ちながらも一緒に確認した。常備薬の有無。お金はいくら持つのか。それから買い物をするようのエコバックはいるんだろうかと悩みに悩んで話を進めた。
そしてあらかた買い物を済ませることに成功。時刻は午後二時半といったところだ。まだまだ時間はあるが、帰ってもいいという微妙な時間。
ふとシロがネコに目をキラキラさせて言うのだ。
「俺、ゲーセン行ってみたい。」
子供のようにうきうきとそういうシロ。ネコはいろいろ疲れて肩をがっくりと落としている。
「はあ?今からまた歩くの?」
「おんぶするから。お願い!この通り。」
手をすりすりと、火をおこすようにおねだりしている。先ほど助けてもらった身だ。ネコは断れなかった。仕方ないといわんばかりにゲーセン方向へ歩き出す。
「はいはい、行くぞ。あ、おんぶはいらん。」
「マジで?わーい!!」
それはそれはシロは嬉しそうに、ネコの背中を追う。疲れなんて一ミリも見られないような様子だった。それに振り回されるネコも、なんだかんだ言って微笑んでいる。
二人がついたゲームセンターはお昼時を過ぎたあたりということもあり、家族連れのお客さんが多かった。
「こ、これが、夢にまでも見た……ゲーセン!」
シロは生まれて初めてだったらしい。隣りにいるネコはというと。
「ああ。そうだ。」
来たことはあるらしい。……があまり慣れてないのか大きな効果音の方向に目線をチラチラと向けている。シロはまず入り口付近に設置されているクレーンゲームに目が言った。
「これって、アームで掴むんだろ?知ってる!」
そういいながら、適当に近くにあった機器にコインを入れる。ネコは目を丸くしてた。
「お前……。そんなのいるのか?」
シロが入れた台は、何の意味があるのかペット用のクッションである。二人はまずペットは飼っていないし、これからもきっと買うつもりはないだろう。しかし、コインは入ってしまった。その事実は変わらない。
「よーし。いくぞ〜。」
軽く準備運動をすると、シロはルールも何もわからないと言ったふうにボタンを押した。だが、何もわからないというのはこんなにもだめらしい。
置く方面にある景品を取る気もない、取り出し口付近にアームが止まってしまう。ボタンを押したら自動で取れるとでも思っているのだろうか。シロはぽかんと虚無を掴むアームを見つめていた。
「へ?」
「はぁ……お前、絶対アニメか漫画の影響受けてんだろ。……かせ。」
そう言うと、本来いらないはずの景品を求めてコインを入れる。そして、今度は完璧にアームの位置を定めた。
このゲーセンを知り尽くしているわけではない。だが、ある程度はしっている。
「はじめから一発で取らせる気はないってことをね。……裏をかけば工夫次第で一発で取れる。」
ネコはそういうと、最後のボタンを押した。ウィーンと効果音がなるようにアームか下がっていく。その位置は景品によくついているタグだった。そこを引っ掛けるように持ち上げていく。
周りのお客さんも気がつけば目に止まるほど器用な手さばきだった。普通は何千円とするペット用のクッションを、このネコは華麗にアームで運ばせ……そのまま獲得したのだ。パラパラと拍手が聞こえる。
「お前は、実践と経験が足りなすぎる。知識だけじゃ何もできないぞ。」
「うわ……琥珀ちゃんかっこいい……。」
表社会だからと、本名で言ったがシロはニヤニヤが止まってない。にやりと笑うと指をその景品に指して言う。
「それって猫ちゃん用っすか?」
その質問は完全にからかっていた。それに気づいたネコはむっと目を細める。
「違うわボケ。」
方言を吐きながらもまぁ、使い道はないよりマシだと言わんばかりに、ぎゅっとそのクッションを抱きしめた。まるで子猫がようやくぬくもりを覚えたかのように。




