第二十七話 温泉旅行マイナス二日目
無事、借金の一部を返済したシロとそれの対応をしたネコ。二人は、以前うけた依頼の報酬としてもらった温泉旅行に行くことにした。今日はその前日。何気に二人で旅行に行くのは初めてだった。
次の日。時刻は午前十一時。二人は、私服を着てショッピングモールにきていた。温泉旅行にいく準備をするためだろう。
しかし、二人は途方に暮れていた。
「旅行って何準備するんだ?」
「俺も知らないっす。」
なんせ、片方は借金生活。もう一人は――。まあ、どちらにしろ、旅行なんて行く機会はなかった。もちろん二人だけでも。二人とも頭の上にはてなマークを浮かべて困惑していた。
「金とスマホと、あとチケットと。あと何かいる?」
「うーん……。あ、服!俺たち、普段は黒パーカーとシロパーカーしかまともに持ってないっすよね。この機会に買ってもいいんじゃない?」
絞り出した答えがまさかの服。ひどい、かなりひどい結果だ。だが、ようやく二人の足は動いた。服屋へと一直線に。
しかし、二人は知らなかった。服を選ぶというのが、苦難であることを。
ショッピングモールの中でも比較的、安めのお店に自然と二人は入った。依頼はあるとはいえ、借金返済に消える金を考えると、かなりかつかつな生活を送っている。今を生きていられるのは、ネコの情報屋時代の賜物だろう。
「うわ、みてみて!」
シロは若干はしゃぎながらとある服を一着選んだ。そして自身にあてるとネコに見せる。そこには、犬のイラストの描かれたTシャツがあった。
「お前、犬じゃないんじゃなかったのか?」
「たまにはいいかなって。どうっすか?にあってるっすか?」
しっぽをぶんぶん振っているように、次から次へと服を当てていく。だが、決めることはなかった。服を買うのは楽しいが、どれを選んだらいいかわからないといった様子だ。
「はあ、シロ。適当に選ぶな。温泉旅行に限らず、普段使いできるやつ選べ。ただでさえ、お前は金欠なんだから。」
「はーい。」
シロはそれから慎重になった。先ほどまでは派手目の黄色のシャツや、桃色のズボンを適当に手に取っていた。だが、今は灰色のワイシャツであったり、紺色のズボンだったりとかなり考えているようだ。
ネコもネコで、近くのマネキンを見つめて眉をひそめている。オシャレのオの字もない彼ら。まったく、ピンと来ていない。
「はあ?どれ選べばいいんだよ。」
二人して、なかなか服が決まらないという無限ループをしていた。
そんな時間を約一時間過ごした。片や、元情報屋。片や殺し屋。それが信じられないほど、平和な休日だ。
結局、ありきたりなシンプルなシャツとズボンを選択し、アクセサリーを買うことで決着をついた。服でこんなに悩んでいるのだから、アクセサリーはもっと悩むだろう。なんせ、安価な買い物ではなくなるから。
「ああ、適当に歩き回ってスタミナきれた~。なあ、ネコちゃん。ご飯食べない?」
「ああ、わかった。フードコートでいいか?」
「うん!」
先ほど、普段使わない脳を使ったためか、あるいはおなかがとても空いているだけなのか。非常に嬉しそうだった。
二人は二人掛けの席に自然と収まると、周囲を見渡す。フードコートというのは便利だ。互いに食べたいものが違っても、同じ場所で食べられる。席を守るために、ネコがのこり、先にシロが料理を取りに行った。
「じゃ、ネコちゃん待っててくださいっすよ。」
「ああ。」
一人になったネコ。普段はパソコンの前でひたすら打っているだけだから、人前に出ることはほとんどない。まあ、あの事件では最後にちらっと顔を出したのだが。
だから、いつも通り電子機器に自分を閉じ込めて一人過ごしていた時だった。
「お兄さん一人?」
「……え?」
ネコが顔を上げてそちらを見ると、二人組の女性がいた。露出度の高い服装を身にまとい、カバンをぶら下げている。
ネコは目を丸くした。
―この僕が話しかけられるだと?―
ネコはしばらく困惑していた。それを見越して、金髪の女性が身を乗り出す。
「うわ、よく見ると目、綺麗だね。かわいー!」
「か、かわ?」
ネコはみるみる顔を赤らめていく。かっこいいといわれるよりもよっぽど心に来る。
「あー!赤くなってる!かわいい!」
「や、やめてくださ……」
ネコが言い返せずに困っていると、どこからともなく声がかかった。
「どーも、お嬢さん方?」
そこには、すでに注文を済ませて、食事を手にもちにやにやしている。二人の女性はパッと後ろを振り返る。シロもまた、イケメンに分類される男だったのだろう。
「あ、お兄さん。連れですか?」
「いいですね!モノクロコンビといいますか!」
茶髪の女性がキャッキャと嬉しそうにしている。昼食時になぜこんな雰囲気になっているんだとネコは思いつつ、シロがきてくれて安堵している自分もいた。
「あの、よければ一緒に……」
金髪の女性が何かを言おうとしたとき、シロがグイッと顔を近づけた。そして何かをささやく。角度的にネコにはわからなかったが、二人の女性はみるみる顔を赤らめていく。
シロのことだから、なにか口説いたのだろうか?だが、何を言ったのだろうか。
そして何も言わずにそそくさと退場した。ネコは何があったんだといわんばかりに、シロを見る。シロはそれはそれは楽しそうにクスクスと笑っていた。
「気にしなくていいよ、ネコちゃん。」
そんな彼ののんきな言葉をネコにかける。もう、ネコは困惑したようにポカンとするしかなかった。




