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第二十五話  頑張ったご褒美

犯人を捕まえたシロ。依頼人の男性にそのまま預けた。ようやく、長期にわたる依頼が終わったらしい。

 やってきた警官。名を斎藤(さいとう)(まなぶ)は、その会社の社長安西を縛り上げた。シロはネコのそばで座り込み文句を垂れている。


「あれやりたかった~。」


「はいはい、また今度な。」


 駄々をこねる子供のような態度は現在も継続中。ネコはなだめるのに苦戦中だ。情報戦よりも疲れた顔をしている。


 斎藤は安西の耳元でなにかをつぶやくなり、部下に任せてこちらにやってきた。


「ありがとう。二人とも。まさか、こんな大掛かりな芝居だとは思わなかったよ。」


「ああ、それは同感です。僕も、いくら調べても空き巣なんだとばかり。」


 ネコは目を細めながら愛想よさそうに会話をする。その心の内ではいろんなことを考えていた。


 なぜ、現場に来た。話もほとんどなく。


 さかのぼること数時間前。ネコはパソコンでシロに指示をしていた。その時に一本のメールが届いたのだ。


 ー現場にきてくれ。ネコ。我々も向かうー


 と。話した覚えはない。つけられていたんだと客観的に思っていたが現場であってもネコはまだ把握していなかった。


 例え情報屋でも、相手のすべてを理解しているわけではない。それに相手は警察。深いところまで潜ろうとしたら、こちらも見られる恐れがある。


 だから、ネコはあえて調べなかった。本来なら依頼主のことは何でも調べたいと思うのに。クイーンの時も調べなかった。自身のことを明かさないために。


「ちなみに、僕をここへ呼んだ理由は教えて下さらないのですか?」


「ああ、そうだった。」


 斎藤は肩をすくめてネコを見下ろした。


「そちらのワンちゃんにどんな指示をしているのか気になってね。今回はピザ配達か。それって詐欺罪だけど。」


 ネコはそれを聞いてクスッと笑う。何だ、そんなことを聞きたいのか?それともそれを聞いて何かを求めていたのか?


 どちらにしろ、ネコは気に入ったらしい。マスク越しに、口元に手を添えて言う。


「うちはそういう営業方針なので。そこに依頼を持ち掛けたのはそちらですよ?依頼を達成したのに、犯罪を犯したから金を支払わないというんですか?」


 脅されたのなら、脅しで返す。それが彼なりの務めだった。シロが実践で戦うのなら、ネコは知能で戦う。まあ、どちらも不完全だから、互いに補うしかないのだが。


 そう言い返すと、斎藤はぽかんとした。あのつかみどころのない警官が、鳩が豆鉄砲でも打たれたような。


 数秒後、クスッと笑う。


「確かに、金払わないほうが悪いか。」


 喧嘩をふっかけに来たわけではなかったらしい。安西がちゃんと連れて行かれるのを見守ってから、斎藤は二人に何かを手渡した。 


「これは?」


「しばらく休むんだろう?少しでも気休めになってほしいと思ってね。」


 渡されたのは二人分の温泉旅行券。ネコの目が丸くなった。今この場で渡すにしては、ずいぶん味気ないものだったのだろう。ネコは眉をひそめた。


「嬉しいが、僕らはきほんこういう場所にいかないんです。」


「わかっているとも。強制ではないよ。ただ、ちゃんと休んだほうがいいと思う。」


 斎藤は口元に孤を描くように微笑んだ。ネコはそれを不気味がりながらも断らなかった。駄々をこねているシロにこれはたしかに有効だ。二人ともあまり旅行に行ったことがなかったのだから。


 ネコはしばらく考えた後肩をすくめる。


「……参考にします。」


 ネコを呼んだのはたった、これだけのことだったらしい。腑に落ちないとネコも内心もやもやとしながらシロの方へと向かう。温泉旅行。言ってもいかなくてもいい緩めのチケット。二人は行くのだろうか。




 二人はそのまま帰宅した。シロはもう駄々をこねる前から、いろんなことに疲れていたらしい。帰ってすぐ寝室に溶け込んだ。


 ネコもネコで、先程の会話といい、作戦中といい想定外が置きすぎて頭が痛い。リビングに置かれているソファに背中を預けると天井を見上げた。


 木造建築。木の模様がしっかり見えている。


「……それにしても、ピザの下に鉄板仕込んでたがあいつ重くなかったのかな。」


 現実逃避をするように、気にしなくてもいいことを疑問に思うと意外と時間が潰れていくのをかんじた。


 もともとスナイパーだから、余裕だったのか。


 あまりお得なかったのか。


 もしくは我慢してただけなのか。それでも、本当のところは寝ている本人にしかわからないことである。ネコはチラりとそちらの方向に視線を向けて小さくため息をつく。


「……おやすみ、シロ。」


 それからまもなくして、ネコも自室ではなくリビングで横になった。すやすやと、子猫がようゆく安心する場所に帰ったかのような睡眠だった。すぅ……すぅ……と規則正しい音を漏らしながら。


 ようやく終わったこの依頼。後日、しっかり調査が行われて職員全員が加担したと見られて逮捕されたらしい。


 ……しかし、シロが対峙したあの女の姿や名前は一切聞こえない。身を隠しているのか、自白したのか。あるいは……裏社会にも取ったのか。


 そのどれも選んでも何でも屋は対応しなくてはいけない。今回の依頼は終わった。知ることは許されない。本来は。ただ、それだけのことなのだから。

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