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第二十二話 本格的な潜入

直接対面するよりも、証拠を入手し、トップをつぶす方がいいとネコが判断した。それを聞いたシロは実行に移す。

 エレベーター内は静かだった。上へと上がっていく小さな機械音だけが聞こえる。シロは、帽子を深くかぶり、一応ピザを抱え込んでじっと数字を眺めた。数秒ごとに上がっていく階数。


 それが、まるで死へのカウントアップのようで妙に落ち着かない。


 シロは奪ったスタンガンの、保険に隠していた武器に軽く触れて小さくため息をつく。


「はあ、緊張するな。」


 そういいつつも、無意識に笑みがこぼれてしまう。恐怖ではない。――()()だ。


 ここ最近調査ばかりで、こんな大きな案件は久々だった。例えば、猫探し。それはまだいい方だ。ゴミ拾いだったり、ひどいときは食レポをしろと言われた。


 もちろんシロが担当した。だがそれはもう、ひどい結果だった。挙句の果て、食レポはギャグとして使われてしまったらしい。それ以来、シロは二度とやるもんかと拗ねている。


 そんなこんなで、こんな犯罪交じりの依頼はかなり珍しいん。なんせ、自分らは何でも屋であって裏社会からは脱出してきた身だから。




 ニマニマと微笑みながら、構える。


 エレベーターが最上階である三十を示していた。チンと音を鳴らし、扉が開く。


 敵はいない。だが、油断ならなかった。死角なんていくらでもある。シロはまず、普通にピザ配達を装い、エレベーターから一歩足を出した。


「ピザ配達でーす。」


 インカム越しにネコの指示が届く。


『右の部屋に二人待機。素人だ。』

「了解。」


 シロはネコの指示を聞くと、あえて右の部屋に向かう。背中を狙われる方が厄介だからだ。扉を開けると案外突っ込んできた。「うおおお!!」勢いを出すかのように雄たけびを上げて、そこら辺にあったであろうカッターナイフを振りかぶる。


 やはり遅い。シロはそれをピザの箱で受け止めると、二人まとめて床に倒した。


「ストライク。」


 人をボーリングのピンに例えるぐらい、余裕があるらしい。


 雑にバリケードを作り、二人を縛り上げる。そこら辺に落ちていたマジックテープだが。まあ、しばらく動けないだろう。何重にも、二人まとめて縛り上げられているのだから。


「さーてと。ネコちゃん。お目当てはどこに?」


『今調べ中だ。ちょっと待ってろ……あ、廊下に三人来てる。一人厄介そうなのが来てる。注意しろ。』


「了解!」


 シロはにこにこと妙に楽しげに、笑みを浮かべて部屋を飛び出す。またもや先に排除するために。


 その後も何回か分けてやってくる敵を処理しながら、ネコが必死に探している。今回もかなり苦戦しているらしい。


『なんか、複雑すぎんだよ。迷路だ、迷路。こんな面白くない迷路は初めてだ。』


「ネコちゃん。情報を抜き取るのに、楽しさ覚えちゃダメっすよ。」


『おまえ、人のこと言えないだろ。』


 楽しさを覚えているのは間違いなくシロ。そんなコントのようなものをしていた。その時だった。


 背筋が凍る。その感覚をシロは知っていた。



 裏の人間だ。



 それに気づいた瞬間、シロが笑みを消す。なんの躊躇もなく振り返り際蹴り飛ばす。その敵はそれすら予知していたかのように数歩後ずさった。


 明らかに格が違う。シロは姿勢を低くして様子を見ている。


「なんか、えげつないオーラっすね。」


 軽口をたたきつつも、ごくりと息をのむ。元殺し屋。この業界にいる人間の化け物級の強さを、シロはよく理解している。下手したら死ぬと理解していた。


 相手はさっきの女性。黒髪の方だった。どのタイミングでこの階に来たのかはわからないが、さきほどのべらべら情報を話しているとは思えない殺気だ。


「……噂に聞いていた通りね。」


 さっきの不安そうな声とは裏腹に、冷めきった低い声だった。短いナイフを向けている。腰に手を当てて、じっとこちらを見ていた。

 シロは帽子を直しながら笑みを再度浮かべ始める。


「いやあ、何のうわさっすか?」


「シロ……いえ、私が興味があるのはその後ろにいるネコだけどね。私のプログラマーが頭抱えてるよ。何回攻撃しても、隙間を通られて……って、あなたに行っても意味がないわね。」


 女性はそういうと、ナイフをしまって別の得物を装備した。拳銃だ。カチャっと装填してシロの胸に向ける。


「ねえ、犬さん。スナイパーだったんでしょ?この距離だったらよけれるの?」


「犬じゃないんだけど?」


「ああ、ごめんなさい。シロ?」


 ツッコむところは絶対そこではないだろうが、銃を前にしてもシロは平然とそこにいた。二人は一歩も動かず、かといって他の人が来ることもなかった。にらみ合いというには、少しだけ空気が冷たすぎる。殺し合いというには、少しだけ空気が穏やかすぎる。


 そんな絶妙な時間がここに流れていた。


 女性がゆっくり標準をシロのこめかみに移す。確実にやる気だ。シロと同様に静かに微笑み首をかしげる。


「お願い。今回の任務はあきらめて?」


 それが本当に彼女の目的なのかは定かではない。だが、シロのことを消そうとしているのはたしかだった。その場にいるシロも、その場にいないネコもごくりと息をのむ。


 どうすれば、この強敵(えもの)を突破できるだろうか。

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