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第二十一話 いざ対面

ピザを配達する階に付いたものの、人一人いやしない。罠か、それとも通常運転か。シロは先へと進んだ。

 シロがしばらく歩いていた時だった。不意に後ろから、声が聞こえる。静かすぎて、足音が聞こえなかった。


「あ、ピザですか?」


 シロが振り返った瞬間、目の前にあったのはスタンガンを片手にそこに立っている社員だった。バチバチと、既に起動してあてようとしていたそぶりを見せている。シロが見ても、顔色一つ変えなかった。


 その社員は、先ほどの女性ではなく別の男性。首をかしげて、同じような声色で言う。


「どうしたんです?そんな怖い顔をして。()()()の配達員なら、まず驚かずに気絶しているのですが……あなた、何者ですか?」


 シロは帽子を深くかぶり、にやりと笑う。


「挨拶もなしに、いきなりスタンガンっすか。それって、なにかやましいことがあると同義っすけど、良いんすか?」


 偽物のピザの箱を抱えながら、シロはゆっくり構える。


 低い姿勢。隙を見せないように、目をじっと合わせた。男性はじっとシロを見て、肩をすくめる。


「ただのスパイ……とかでもなさそうだな。名乗れ。さもなければ、こちらは容赦しない。」


「へえ、やる気満々っすね。じゃあ、自己紹介しましょう。敦。それが、今の名前です。」


 敦。シロの偽名の偽名。だから、プライバシーは関係ない。だから淡々とあっさりと話した。本名は別にある。


 それを見抜いたのか、見抜いていないのか、男性は変わらずスタンガンを構えた。


「敦か、似合わぬ名前だな。」

「おっと、失礼だね。あんたこそ、名前教えてくれないのか?」

「敵に話す気などない。」


 ずいぶんと身勝手な話ではあるが、確かに今の状況はシロが中に入った敵。そして、それを打ち倒すべく、武器を構える人である。そう。シロは今敵なんて言葉ではなく、この会社の”悪”なのだ。


 にらみ合いをしても、きりがない。そう判断したかのように二人とも同時に動いた。


 男性はスタンガンを当てようと振りかぶる。だが、道具に頼る人間は所詮、赤ん坊。シロの手によれば、なんともない。


 スタンガンをもつ、右手を強く握りしめる。ほら、男性は痛みに悶えて、手を離したではないか。それをシロは華麗に拾い上げて仕返しする。


 びりびりと、筋肉が電気で焼けこげる音と、匂いがあたりに散る。それを覆い隠すように、ピザの香りが漂った。


 男性は威厳はあったが、実力はあまりなかったようで地面に横たわった。気絶……殺し屋時代なら絶対にしない方法である。


「こいつは、この部屋にぽいってしよっと。」


 先ほどまで、命を狙われていたかもしれない状況だったというのに、かなり余裕そうにいい放つ。


 空き教室に男性を放り投げると、手をパンパンとはたいた。


 すると、インカムにあの声が聞こえた。ネコである。

『お疲れさん。だが、確定した。みんなに気づかれている。さっき乗ってた女性もおそらく、攻撃しに来るだろう。だが、安心しろ。戦闘力があるのはおそらく、トップの人間だけだ。』

 冷静な判断。それが、今のシロにとってどれほど助かるかをお互いに知らない。ほっと肩を下ろし、もっと聞きたいといわんばかりに、イヤホンをつけなおした。


「お疲れ、ネコちゃん。それで?これからゾンビパニックでも始まるの?」

『何言ってるんだ。……まあ、大体あってる。ゾンビで例えるなら、さっきのやつは武器持ちゾンビだ。』


 ネコも時々、悪乗りをする。今回はシロが戦場のなかだというのに、乗ってしまった。思わず、シロは吹き出した。


「ほんと、ネコちゃん。人使い荒いっすね。」


『いいだろ。信頼してんだ、あんたは。なんせ――。いや、恥ずかしいからやめる。』


 何を言いかけたかは、本人しか知らない。それでも、シロは何かを嗅ぎつけたのか、ニマニマし始めた。さすが、犬のような男である。


『やめろ。指示が狂う。シロ。今から言うことをちゃんと守れ。良いな?』


「はいはーい。あ、ご褒美に何言おうとしていたか、教えてね?実行犯は意外と大変なんだよ。善人だけどね?」


『いいから。』


 ネコは何を話すのか、伝えるのか、考えるように数秒沈黙をした。




 ネコは話し始める。


『内部アクセスを試みたい。ここの階は会議室が多めだ。エレベーターに乗り、最上階まで行ってくれ。そこに大本があるはずだ。その分、危険が伴う。指導者と出くわすかもしれない。……行けるか?』


 シロはこくこくとうなずく。


「何言ってるんすか、ネコちゃん。どんな場面でも信頼しててくださいっすよ。そこで、終わったらそこまでっす。」


 満面の笑みを浮かべるシロを、ネコは遠くからパソコン越しに見ていた。はあ、と小さくため息をつくとボソッという。


「……お前が死ぬと、寂しい。」


 それを、シロが効いたか聞いていないかはわからない。だが、猫のツンデレのデレる部分が出てきたということはここで、報告しておこう。


「とりあえず、最上階に行けばいいんすよね?行ってきまーす。」


 シロが男性から奪った、スタンガンを片手にエレベーターに引き返していく。ピザ屋とは思えない、音のない足を動かしながら。この先にあるパソコンの中身を盗むため。


 同時に、犯人を捕まえるために。

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