表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/38

 招かれる狂犬

 静寂が支配する廊下で、隠神八尾(イヌガミヤオ)は震える唇を開いた。目の前には、アカデミー最強と謳われたバナンを打ち倒し、優雅に微笑む転校生――犬噛蛍(イヌガミホタル)

 その姿は、八尾にとって恐怖の対象ではなく、泥沼から救い出してくれた輝かしい英雄ヒロインとして映っていた。


「……け、ケイ……さま……!」


 八尾はおずおずと、しかし瞳に熱い涙を溜めて声を上げた。


「す、すごいです……! 蛍様、かっこいい……! ヤオ、こんな凄い試合、初めて見ました……!」

八尾は胸の前で手を組み、精一杯の敬意と憧れを込めて叫んだ。


「勝者、西園寺蛍様ーーーっ!!」


 その声は震えていたし、チアガールらしい振り付けもなかった。だが、蛍にとってはどんなファンファーレよりも心地よく響いた。

 蛍は満足げに頷くと、八尾の元へ歩み寄り、その頭――ふわふわの犬耳の間をよしよしと撫でた。


「よくできましたわ、ヤオ……合格です」

「はぅ……♡」


 蛍に撫でられ、八尾は恍惚の表情で目を細めた。尻尾がブンブンと音を立てて振られている。

 それは奇しくも、イサナ・サカイに撫でられる時の蛍の姿と重なっていた。

 主従の連鎖。蛍は無意識のうちに、自分がイサナから受けている『支配と寵愛』を、八尾に対して実践していたのだ。


『……やれやれ。早速現地でペットを調達するとはな』

 

 脳内に鷹空早苗たかそらさなえの呆れた声が響く。


『だが、効果は絶大だ。周囲の反応を見ろ』


 蛍が顔を上げると、野次馬として集まっていた生徒やスカウトたちの目が変わっていた。嘲笑や好奇心は消え失せ、そこにあるのは『畏怖』と『熱狂』。バナンという絶対強者が敗北したことで、学園のヒエラルキーが一瞬にして書き換わったのだ。


「すげぇ……あのバナンに圧勝かよ……」

「おい、あの転校生のデータ取れ! 契約金いくらだ!?」

「新しい女王の誕生だ……」


 ざわめきが波紋のように広がる中、頭上のスピーカーから、冷徹な女性の声が響き渡った。


『――そこまでだ』


 最高管理責任者コミッショナー 、ヘンリエッタ・アーチボルトの声だ。廊下の突き当たりから数機の警備ドローンと、人型の秘書ロボットが現れ、蛍たちの元へと滑るように近づいてきた。


『西園寺蛍、及び隠神八尾。直ちに最上階の特別エリア、『プラチナ・クラス』へ来たまえ』

「プラチナ・クラス……!」


 八尾が息を呑んだ。


「そ、そこは……選ばれた特待生の中でも、さらに上位の数人しか入れない……! ネオ・オリンピア英才育成機構の運営権限すら持ち、生徒たちを管理する『生徒会』のような場所です……! ヤオなんかじゃ、一生近づくことすら許されない雲の上の……!」


 蛍はニヤリと笑った。


「あら、お呼び出しですわ。退学処分かしら? それとも……」

『……君の実力を評価しての招待だ。拒否権はない』

「ふふ、望むところですわ」


 蛍は倒れているバナンとマネージャーを跨いで通り過ぎ、秘書ロボットに向かって顎をしゃくった。

「案内なさい……ヤオ、行きますわよ。わたくしの荷物バッグをお持ちなさい」

「は、はいっ! 蛍様!」


 八尾は蛍が脱ぎ捨てた上着と鞄を慌てて拾い上げ、小走りで主人の後を追った。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ