第78話 サイクロプスVSルーベルン隊
ルーベルン隊は、ルームガーダーであるサイクロプスと対峙する――!
ルーベルンたちの眼前にあったのは、幅、高さが五メートルにも及ぶ、巨大ともいえる扉である。
ルームガーダーの存在する部屋の扉は、他のそれとは異なっているのが常であった。
すなわち、この扉の先では、サイクロプスが冒険者を待ち構えているのである。
「準備はいいね」
ルーベルンは、パーティの仲間に向けて、最終確認の問いを投げた。
「あったりまえだろ!」
「はい。問題ありません」
ハーディはいつものように無言である。
めいめいに皆が頷き返すのを見て、ルーベルンもまた一つ頷くと、重い扉に手をかける――。
ダンジョンの監視魔法でそれを見ていた玲子は、水谷に尋ねた。
「この部屋には何がいるの?」
「えっと、たしか……」
と水谷が答えようとするところに、アンドリューが言った。
「おそらく、サイクロプスでございましょう」
「サイクロプス……って、一つ目の巨人よね?」
「さようでございます。その強さは、八階においても別格。つまり、彼らがこれまでダンジョンで遭遇した中で、最も強いモンスターであるでしょう」
「へえ。ちなみに、アンドリューは戦ったことあるの?」
「むろんです」
「どんなモンスター? 特徴とか」
「強靭な体躯に、比類なき腕力。それに、巨大な目が特徴と言えますな」
「まあ、あの目は特徴的よね」
玲子は、ドラクエにおけるサイクロプスのグラフィックを思い起こす。
「戦闘面ではどんな感じなの?」
「巨大な目を持つだけあって、非常に目がよいです。遠方でも物が見え、動体視力も高い。なにより、ほとんど全方位が見えているのか、死角というものがございません」
「へえ! なんか、私たちの知ってるサイクロプスとは違う気がするけど……」
「そうなのですか?」
「弱点とかはあるのかしら?」
「それは、やはり目でございます」
「そうなの?」
「長所と短所は表裏一体と申しますか、彼らは目が良すぎるがゆえに、それ以外の感覚が鈍いのです。なので、目さえ潰すことができれば、容易に倒すことができます」
「なるほど……」
と玲子は腕組みする。
「ルーベルン隊……だっけ? 彼らは、それを知っているかしら?」
「むろん、知っておるでしょう。私が魔王を封じる前でございますが、私以外にも地下九階に到達した者はおりました。それはつまり、地下八階のルームガーダーであるサイクロプスを倒した、ということです」
「ルームガーダー? なにそれ?」
玲子が尋ねると、アンドリューはルームガーダーについて簡単に説明した。
玲子は驚いて言った。
「なにそれ!? じゃあ、このサイクロプスが倒されちゃったら、もう冒険者が地下九階に到達しちゃうってこと!?」
ダンジョンは地下十階までしかない。クリア間近ということになってしまう。
「いえ、そうはならないと思います」
狼狽する玲子に、水谷は、はっきりとそう言った。
ルーベルンたちにとって、サイクロプスは間違いなく、これまで戦った中で最も強い魔物であった。
目を潰せばよいということは、従前からわかっていたことであるが、それが至難である。
サイクロプスは、体長四メートルにもなろうかという、巨大な魔物である。
したがって、その頭の位置イコール目の位置も、高い位置にあって剣の射程外である。
矢や魔法で魔法で狙うにしても、的が小さく狙いづらい。
目がいいから、その目を潰せばよい。言うは易しである。
目がいいということは、すなわち動体視力にも優れているということであって、こちらの攻撃は容易に躱されてしまう。
「ちくしょう。思った以上に厄介だぜ……!」
幾度目かの矢を外したジェイルが、怒りを込めて叫ぶ。
ルーベルンは、すぐに新しい指示を出した。
「下半身を狙え! 膝をつかせるんだ!」
膝をつけば、必然的に頭の位置は下がる。頭の可動域も少なくなり、目を狙いやすくなるはずである。
『迅速なる風の刃よ』
ハーディが古代語の詠唱をする。
「ウインド・ブレード!」
ハーディの杖から飛翔した風の刃が、サイクロプスの右足を切り裂く。
しかし、サイクロプスの肉体は硬く、表皮を浅く傷つけたに過ぎなかった。
「ミグラス!」
とルーベルンが叫ぶや否や、ミグラスの詠唱が開始される。
「ガルボアに祈り奉る。彼の風を、より強く、鋭くせんことを願い奉る!」
ミグラスが唱えたのは、神聖魔法による、風の増幅である。
「アンプリフィケーション・ウインド!」
ミグラスの詠唱が完了すると同時に、ハーディの風の刃が勢いを増した。
ふくらはぎの肉を抉り、血が噴き出る。
間髪入れず、筋肉が顕わになった個所に向けて、ルーベルンが剣先を突き立てた。
グウウアアアアウゥ~~~、と奇妙な声を上げて、サイクロプスの姿勢が崩れる。
膝立ちの姿勢となった、その瞬間――。
「もらったぁぁぁ!」
ジェイルの放った矢が、過たず、サイクロプスの目を抉った。
「すごい! あんな大きいの、倒しちゃった!」
玲子は興奮して言った。
「冒険者の戦闘を見るのは初めてだけど、めっちゃすごいわね!」
画面の中央では、サイクロプスがその巨体を横たえている。
目を潰されてから、目に見えて動きに精彩を欠くようになったサイクロプスは、冒険者たちの波状攻撃の前に、あっけなく潰えた。
ううむ、とアンドリューはひとつ唸り声をあげて、言った。
「個々の戦力としても上々ですが、それ以上に、パーティとしての連携が非常に洗練されております。リーダーのルーベルン卿は、よほど優秀な指揮官と見えますな」
「元宮廷騎士団長は、伊達じゃないってところかしら」
うんうん、と玲子は頷く。
頷いてから、はっとする。
「ていうか、ルームガーダー倒されちゃったじゃん! え? これで地下九階に到達しちゃうわけ?」
画面を見やると、ルーベルン隊はサイクロプスから頭頂部の角だけ回収すると、奥の扉に向かって歩いていく。
「まって! 困るんですけど」
現在、ダンジョンは地下十階までしか存在しない。冒険者が地下九階まで到達すると、あと二階層でクリアされてしまうのである。
「行かないで! もうちょっと地下八階探索してて! たぶん、いい感じの宝箱とかあるから!」
そんな玲子の願いが彼らに届くことはなく、ルーベルンは扉を開けて、奥の通路に足を踏み出した。
「ああっ」
と玲子は、力なくテーブルに突っ伏す。
「まだ、帰れるほど稼げてないのに……。ガチャの実装もできてないし、ファンサガのリメイクだって、できてないのに……」
「橘さん! 大丈夫ですから!」
水谷が言った。
「地図を見てください。この先に階段はありません」
水谷が示したのは、ダンジョンの地図魔法である。
彼の言うように、冒険者を示す三角形のマーカーが移動する先には、まだまだ通路が伸びている。
「どういうこと? ルームガーダーって、階段を守ってるんじゃないの?」
「この先は……行き止まりになっています。ですが、そこに隠し部屋があって、その中に宝箱がありますね。僕たちが置いたものではない、ダンジョン産の宝箱です」
「じゃあ、あのルームガーダーは、その宝箱を守っていたってこと?」
「おそらく、そうでしょう」
水谷が頷く。
「それに、地下九階の階段近くに冒険者がきたら、アラートを鳴らす設定にしてたでしょ?」
「……そうだったわ」
水谷がそう言うのであれば、玲子の依頼したアラートも、一通り実装できているのだろう。
ダンジョンの地図を眺めながら、アンドリューが言った。
「ふむ。どうやら地下八階には、複数のルームガーダーがおるようですな」
「そうなの?」
「はい。私が攻略したときには、サイクロプス一体しかおりませなんだが、どうやら大転換によって大きく構造が変化しているようですな」
大転換というのは、アンドリューがダンジョンを攻略した後に起こった、ダンジョンの再編のことである。
「これは、私が攻略したときよりも、相当厄介そうでございますな」
くっくっく、と人が悪そうにアンドリューは笑う。
「部屋の構造から見る限り、八体はおりますでしょう」
「八体も!?」
「そのうち、最低でも三体は倒さない限り、階段には辿りつけぬようです」
言って、アンドリューが地図を示した。
なるほど、確かにそのような構造になっている。
「じゃ、じゃあ、しばらくは安泰? 安泰よね!?」
「ええ。ルーベルン隊ほどの実力者でも、すぐには突破できぬでしょう」
アンドリューの太鼓判に、玲子は大きく安堵のため息をついた。
次回更新は12/22の予定です。




