第77話 リアルタイムダンジョン監視システム
ルーベルンたちが、強敵に挑もうとする一方その頃――。
玲子は、水谷からダンジョンのリアルタイム監視システム完成の報を受ける。
サイロン隊がサイクロプスの討伐に失敗し、全滅したとの報は、それから二日後に届いた。
蘇生術によって復活の間で再生し、そこからダンジョン外に離脱したとのことである。
復活の間では金銭を払えば元の場所に復帰できるが、それはサイクロプスの部屋に戻ることと同義である。再度死亡しては意味がないので、サイロンたちの判断は正しいと言えた。
――申し訳ございません……。
交信珠は念話の装置である。物理的に声が聞こえるわけではないのだが、届いた思念からはサイロンの悔しさが滲んでいるように感じられた。自分たちパーティの力量不足を恥じているのだろう。
ルーベルンは念を送る。
――大丈夫だ。僕たちがリカバーする。
サイロンには伝えていないが、ルーベルン隊は、既にサイクロプスの待つ部屋の近くまで移動を済ませている。サイロン隊には荷が重い相手であろうことを、ルーベルンは予期していたのである。
――休息と補給を済ませたら、再度、地下八階まで移動するように。到着はどのくらいになりそうかな?
――七日、いえ、六日後には到着いたします。
「遅い」
とルーベルンは言った。
探索しながらではないのである。地下八階までのルートは既に確立されている。
できれば、五日で来てほしいところだが、サイロンたちの力量では仕方ないところだろう。
「ジョシュア隊なら、たぶん五日もかからないけどな」
再びルーベルンは独り言ちる。
当然ながら、ルーベルンの言葉は、地上にいるサイロンには届かない。
――団長?
サイロンの戸惑ったような思念が聞こえた。
ルーベルンは思念を送る。
――了解した。なるべく急いで前線復帰を。念話終了。
――了解。念話終了。
ふう、とルーベルンはため息をついた。
「どうしました?」
問いかけたのは司祭のミグラスである。
横から狩人のジェイルが口を出す。
「どうせまた、サイロンの奴が使えねーってため息ついてたんだろ」
「そういうわけじゃないさ」
とルーベルンは言った。
「彼らの忠誠心は信頼しているよ」
なにせ、神殿騎士団を辞め、冒険者となったルーベルンたちに同調し、同じく神殿騎士団を辞め、冒険者となった者たちなのである。
「忠誠心だけは、な」
皮肉気に言ったジェイルに、ルーベルンは苦笑する。
サイロンのパーティは、一般的な冒険者と比べれば十分に優秀である。ジョシュアたちのような一流と比べると、ため息も出てしまうのであるが……。
さて、と気を取り直して、ルーベルンは言った。
「僕たちも、たまには実力を示さないとね」
いつものように無言で、魔法使いのハーディが頷く。
「サイクロプスかぁ。久々の大物だな。腕が鳴るぜ」
ジェイルがこぶしを打ち鳴らした。
それを見たミグラスが言う。
「油断は大敵ですよ、ジェイル」
「わーってるよ。油断なんかしてねーって」
「サイクロプスの情報は、昨晩伝えたとおりだ。死んだ者は、復活の間で金を払ってすぐ戦線に復帰すること。他の者は、遅滞戦闘に努めて、復帰を待つ」
そう言って、ルーベルンは最後の指示を出す。
「蹂躙するよ。サイクロプスなんて、僕らの敵じゃない」
*
「もうできたの!?」
玲子は驚嘆の声を上げた。
「ええ。五日でやるって言ったじゃないですか」
得意げに水谷が胸を張る。
玲子の隣に座るアンドリューも驚いているようであった。
今日は玲子とアンドリューの二人で、今後の運営方針について打ち合わせを行っていた。そこに飛び込んできたのが、水谷のこの報告であった。
「さあ、ダンジョン監視システムの初お披露目です!」
そう言って、水谷は呪文を起動した。
「マップ・ダンジョン」
中空にダンジョンの地図が浮かび上がる。
従前からある、ダンジョンの地図魔法である。
ちょっとだけ拍子抜けして、玲子は言った。
「いつものやつよね? 機能拡張したの?」
はい、と答えながら、水谷は地図を指先で操作して、地下八階の地図を表示する。
そこには、小部屋の前で待機する、四つの三角形があった。
「……別にこれまでと同じじゃない? マーカーの横に、冒険者の名前とか表示されるようになるかと思ったのだけど」
「すみません。そのためには冒険者のデータベースを用意したり、冒険者を同定する仕組みが必要だったりで、五日では無理でした」
「そうなのね。でも、要求仕様は満たせてるわけよね?」
玲子の提示した要件は、以下の三つである。
要件1:冒険者のリアルタイム監視をできるようにする
要件2:冒険者の識別ができるようにする
要件3:常時監視しなくていいように、特定条件でアラートが飛ぶようにする
「もちろんです!」
と水谷はきっぱりと答えた。
「どうするわけ?」
ふふふ、と含み笑いをして、水谷は次の魔法を起動した。
「モニター・ダンジョン!」
指先を、先ほどの四人の冒険者のマーカー付近に触れた。すると――。
「なにこれ!?」
玲子は思わず叫んだ。
そこには、ダンジョンにいる四人の冒険者の姿が映し出されていた。会話している様子が見て取れる――動画である。
「いや……まじでなにこれ!?」
「ものすごく簡単に言えば、監視カメラによる映像です」
「えっ!? ダンジョンに監視カメラつけちゃったの!?」
「いえ。正確にはそうでなく、ダンジョン内の任意の場所に、監視カメラを生成できる魔法です。場所に固定されているわけではないので、術者の意思で自由に動かせますし、ズームも思いのままです」
「確かに要件は満たせていそうだけど……予想外すぎる実装方法で驚いたわ」
「実装方法はお任せでしたからね」
「これ、相手からカメラが見えたりしないの?」
「物理的な何かを生成しているわけではないので、見えません」
「完璧な盗撮アイテムじゃん!」
「大丈夫です。トイレには生成、移動できないようにしてあります」
さすが水谷。そのへんは抜かりない。
「冒険者の識別――ってところは、見て判別しろってことね」
「はい。とはいえ、僕は冒険者を見たことがないので……。このパーティは、どこの誰なんでしょう?」
「たぶん、ギルバート伯のところのパーティでしょ。地下八階に来ているのは、そこと、神殿だけだわ」
玲子が言うと、アンドリューが横から口を出す。
「これは、ギルバート伯の雇っている、ルーベルン隊でございますね」
「ルーベルン隊?」
「はい。元宮廷騎士団長であるルーベルン卿を筆頭とするパーティでございます。ダンジョンでしか活動していない冒険者ゆえ、世間的にはあまり知られておりませんが、経歴からしても実力は折り紙付きでしょう」
そう言ってアンドリューは、騎士ルーベルン、司祭ミグラス、狩人ジェイル、魔法使いハーディを、それぞれ映像で指示した。
「ちょっと待って! 宮殿騎士団長!? それが、冒険者やってるの?」
「はい。ルーベルン卿は、ダンジョンを攻略し魔王を打倒することこそ、国を守る術であるとおっしゃり、下野され冒険者になられました。王が一向に、宮廷騎士団をダンジョンに送らぬことに、業を煮やされたのです」
「それと、もう一人、司祭って言ってなかった?」
「はい。ミグラス卿は司祭にございます」
「司祭って、神殿でかなり偉いわよね」
玲子の知っている司祭はマグナスである。あまり好ましい人物ではないが、かなり偉いのだと聞いたことがある。
「それが、冒険者やってるわけ?」
玲子との問いに、アンドリューは頷く。
「ルーベルン卿の意思に共鳴されたと聞き及んでおります」
むう、と玲子は唸った。
「他の二人は?」
「いずれも、元宮廷騎士団。ジェイル殿は過去最高とも呼ばれる弓手であり、ハーディ殿は騎士団きっての攻撃魔法の使い手でありました」
いずれも立派な経歴である。
玲子はわずかに焦燥感を覚えた。
――もしかして、地下八階の攻略も近いんじゃないの?
首を振って、その思念を追いやる。これまでのペースを考えれば、いくらなんでもそんなに早く攻略されるはずはない。
なにせ、冒険者が地下七階に来るまでに、十年近い月日がかかっているのである。ここから急に、ペースが早まることなどありえない。
いや、でも、もしかして――と玲子は思う。
――玲子たちがこの世界に転移してから、冒険者たちの攻略スピードは上がっているのではないだろうか……?
それは、ランキングの実装である。
冒険者を雇用する貴族たちは、攻略モチベーションを高めて、これまで以上の投資をするようになったのではないか。
それは、課金アイテムの実装である。
玲子たちの作った課金アイテムの数々は、冒険の効率を上昇させ、これまで以上の頻度でダンジョン攻略に挑むことができる状況を作ったのではないか。
それは、入場税の撤廃である。
数多くの冒険者が流入して、冒険者の母数が増えることで、上澄みとなるトップレベル冒険者がよりハイレベルな者になっていったのではないか。
なんてこと……。じゃあ、この状況って、私たちのせいじゃん……。
玲子は心の中でため息をつく。
そのとき――。
水谷が言った。
「あっ。ルーベルン隊が動き始めましたよ!」
次回更新は12/17予定です。




