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第76話 地下八階攻略作戦

ギルバート伯に雇われたパーティは、リーダー間の会合で、地下八階の攻略方針について議論する

 地下八階の小部屋で、ルーベルンたちは落ち合った。

 ギルバート伯の抱える複数のパーティ。そのうち、主要な三パーティの、リーダーたちである。

 それぞれのパーティメンバーは、小部屋の入り口を守る形で待機していた。


 ルーベルンが最初に口を開く。

「それじゃあ、報告を聞こうか」


「では、俺から」

 言ったのは、ジョシュアである。

 ベテランの冒険者で、パーティも全員が実力者で占められている。

「どうやら、うちのルートが当たりだったようだぜ?」


 サイロンが、その太い眉をわずかに顰める。

 彼は元宮廷騎士であり、かつてのルーベルンの部下であった。


 サイロン隊とジョシュア隊は、それぞれ別ルートの探索を進めていた。


 サイロンの様子に、軽い優越感を浮かべながら、ジョシュアは続けた。

「ルームガーダーの守る部屋を見つけた。いたのは、情報通り、サイクロプスだ」


 ルームガーダーというのは、文字通り、ダンジョンで特定の部屋を守る魔物である。周辺の魔物より、一回り強い。部屋から移動することはなく、自らの背後にある扉を、侵入者から愚直に守る。そういう存在である。


「バカな!」

 言ったのは、サイロンであった。

 すぐに自分の言動を恥じたのか、失礼しました、とルーベルンに頭を下げた。

「しかし、我々も、ルームガーダーの守る部屋を発見しております。中にいたのは、こちらも情報に違わず、サイクロプスでございました」


 サイロンは、三男とはいえ子爵の出である。ルーベルンとは違って、冒険者に身を窶した今でも、貴族らしい立ち居振る舞いを心掛けている。


「うん。どうやら、そうみたいだね」

 ルーベルンは言った。


 その軽い様子に、ジョシュアが気色ばんだ。

「はぁ? さては、てめえ、知ってやがったな」


「うん。君たちからそれぞれ、交信珠で報告を受けてるから」


「じゃあ、そんとき言えっつーんだよ!」


「まあまあ。こういう情報を擦り合わせるのが、この会合の意味だからさ」


 ちっ、とジョシュアは舌打ちして、頭をぼりぼりとかいた。


 その様子を不快そうに見ながら、サイロンが言った。

「団長は、この状況をどう見られているのですか?」


 サイロンは、ルーベルンを団長と呼ぶ。ギルバート伯の冒険者たちを束ねているのは、ルーベルンであるから間違いではない。

 しかし、サイロンの意図はそこになく、おそらくわざと、昔の呼称で呼んでいるのであろうと、ルーベルンは思っている。


「サイクロプスが、別の場所に二体、ねぇ」

 ルーベルンは言った。

「――大転換の影響だろうね」


 大転換というのは、十年前に発生した、大規模なダンジョンの再構築である。


 数多の冒険者の進軍、更には現ベルモント候である勇者アンドリューによるダンジョンの攻略――魔王の封印によって、ダンジョンの構造は概ね明かされていた。

 ダンジョンがベルモント領の管轄になってからも、当然ながらその情報は有効である――はずであった。


 しかし、それが間違いであることが、後日すぐにわかる。

 冒険者たちが再びダンジョンに足を踏み入れてみると、通路の繋がりも小部屋の位置も、従来とは全く違うものになっており、出現するモンスターも変化していたのである。


 それを、冒険者たちは、大転換と呼んでいる。


 地下八階のルームガーダーが、サイクロプスであったというのは、大転換前の情報と一致する。しかし、それが二体というのは……。


 ジョシュアが発言する。

「どっちかが本物で、どっちかが偽物ってことか?」


「本物っていうのはつまり、その先に地下九階への階段があるってことだね」


 ルームガーダーの守る部屋の先には、下階への階段が存在するというのが、ダンジョンでの常識である。彼らが守るものというのは、その階段であるからだ。


「……あるいは、どっちも本物か」


 ルーベルンが呟くと、サイロンが驚いて言った。

「どちらも本物……!? つまり、地下九階への階段が二つあるということですか?」 


「そういうこともあり得るんじゃない?」


「そんなまさか……。これまで、そのような事例は聞いたことがありません」


「でも、どっちかの先が行き止まりだったら、ルームガーダーのいる部屋の先には下階への階段がある、っていう常識が破れるわけでさ。今回の場合、いずれにしたところで、これまでのダンジョンの常識からは外れることになるよ」


 ジョシュアが渋面を浮かべて言った。

「もし、二つの階段が存在するとすれば、地下九階の探索はなかなか骨が折れそうだな」


 ルーベルンは頷いた。

「まずは、どちらの階段が正解か、ってことになるよね」


 これまでの階層では、上階から降りた先を探索していけば、必ず下層への階段が見つかった。今回の場合、地下九階への階段が二つある以上、下りた先を探索したうえで、片方は完全に行き止まりということもあり得るのである。

 そうなった場合、探索時間を大幅にロスすることになる。


「団長、どちらから探索しますか?」

 サイロンが尋ねて、言った。

「ここはぜひ、我々のほうから!」


「なんでだよ! うちのほうからだろうが!」


「はい、喧嘩しなーい」

 とルーベルン言って、ため息をついた。

「両方探索するにきまってるでしょ」


「両方ですか?」


「だって、階段があることを確認するより、階段がないことを確認するほうが、大変だよね」


 階段が「ある」ことを確認するのは容易い。階段が見つかればそれまでだからである。

 半面、そこに「ない」ことを確認するには、すべての領域を探索しなければならない。

 どちらが短時間で達成できるかと言えば、前者であることは明らかであった。


「うちのメリットは、複数パーティで協力して探索できること。それを利用しない手はないよね。サイロン隊は、自分らが見つけたサイクロプスを討伐して、その先を探索。ジョシュア隊も同じく、サイクロプスを討伐して、その先を探索して。必要であれば、僕らも協力する」


「は。いらねーよ」


「私どもも、ご助力は不要にございます」


 ルーベルンは二人に頷きを返した。


 とはいえ、サイクロプスは強力な魔物である。ジョシュア隊は問題ないだろうが、サイロン隊は厳しいかもしれない。


 ――一応、後詰の準備はしておこうかな。

 ルーベルン隊の立ち位置は、先遣隊のバックアップである。


 ジョシュアが尋ねた。

「他のパーティはどうする?」


「現状は、地下八階の探索を続けてもらう。サイロン隊、ジョシュア隊が下層に入ったら、残りの二パーティも、地下九階の探索に投入する」


「あいつら、大丈夫か? なんたって、地下九階だぞ」

 ジョシュアが懸念を示す。


 ここにいる三パーティに比べて、残り二パーティが地力で劣ることは否めない。現在は地下八階の未踏破領域の探索と地図作成を行わせているが、魔物から逃げ回りながらで、かなり厳しい状況である。


「極力、戦闘を回避しながら、地図の作成に専念してもらう。まあ、多少マズったとこで、蘇生されるから大丈夫でしょ」

 そう言って、ルーベルンは軽く笑った。


「多分、地下九階にもルームガーダーがいるはず。それも、超ど級の奴が」


 大転換前の情報であれば、そこにいるのは魔王軍の四天王である。

 彼を倒したアンドリュー曰く、撃退はしたものの、確実に命を絶てているかは不明ということで、今も地下九階にいる可能性は高いとルーベルンは見ている。

「正直、君らでそれに対処するのは難しいと思う。だから、場所が判明したら、僕らのパーティで行く」


 ルーベルン隊は、ギルバート伯の擁するパーティの、最高戦力である。

 元宮廷騎士団長のルーベルンを初めとして、ジェイル、ミグラス、ハーディといった、かつての宮廷騎士団内における有力者で構成されている。


「という方向で進めたいと思うけど、いいかな?」


 ルーベルンの言葉に、二人は頷いた。


「状況に変化があったら、交信珠ですぐに連絡を。次回のリーダー会合は五日後、この場所で」


「了解だ」


「了解しました」


「さてと!」

 とルーベルンは手を打った。


「それじゃ、飯にしよっか。美味しいコーヒーも淹れるからさ」

 言って、ルーベルンはにっこりと笑った。

すみません。少し遅れてしまいました。

次回更新は12/12予定です。

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