表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

80/91

第78話 運営失敗!?

トップパーティが地下九階に到達した影響は、他のパーティにも広がっていく――。

「最後通牒ってわけですか?」

 苦々しげに、ハンソンはつぶやいた。


 対面に座るルミナス伯が、うむ、と重々しくうなずいた。

「おぬしらの慎重さは、美点ではある。しかし、戦においては時に、無謀ともいえる蛮勇が求められるのだ。今がその時である!」


「つまり、一刻の猶予もないと、ルミナス様はお考えで?」


「無論だ」

 とルミナス伯は言った。

「おぬしも今月のランキングを見たであろう。ギルバート伯のパーティが地下九階に到達した。神殿騎士どもも、それに迫る勢いである。それに対して、おぬしらはどうだ?」


 ルミナス伯は、テーブルを掌で叩く。ばあん! と大きな音がした。


 ハンソンはひっそりと苦笑する。


「まだ地下八階であろうが! その八階の踏破率も、神殿騎士どもに抜かれておる!」


「ようやく地下八階の魔物相手の戦術が構築できたところでしてね。これから一気に巻き返しますよ」


「一気に、とは?」


「今月中には、地下八階の踏破率を八十……いや、九十くらいにはできるかと」


「それでは遅いのだ! もはや地下八階の踏破率は考えずともよい! 一刻も早く地下九階に入り、そこを攻略せねば!」


「やはり、九階ですか……」

 八階の魔物でも、ハンソンたちにとっては格上である。それを、熟達したパーティの連携で、どうにか撃退しているのが現状だ。

 それなのに、地下九階か……。無謀にもほどがあるだろう。


「最低限、ギルバート伯のパーティと、肩を並べねばならん。それができねば、このままダンジョン探索を続行することは、無意味である」

 ルミナス伯はそう言い切った。


「無意味、と言いますと?」


「魔王討伐の望みがない以上、おぬしらを雇う意味はないということである」

 ルミナス伯は、その言葉を、再度、口にした。


 ハンソンは言った。

「俺たちを解雇して、どうなさるんで? 他のパーティを雇うんですか?」


 ルミナス伯は首を横に振った。

「そうなれば、吾輩はダンジョンから手を引く。おぬしら以上のパーティを雇い入れることなど、もはや叶わぬだろう。吾輩はおぬしらを買っておるのだ」


 そいつは――と、ハンソンは苦笑した。

「嬉しいことを言ってくれますね……」


 つまりは、一蓮托生ということである。

 雇い主にそこまでの覚悟があるということならば、応えざるを得まい。


 ハンソンは嘆息して言った。

「少しだけ、無理を通してみますかね」


 たのむ、と言って、ルミナス伯が深く首を垂れた。



 貴族から最後通牒を突き付けられたのは、ハンソンたちのパーティだけではない。同じような話が、そこここであった。


 ハンソンたちのように挽回の機会が与えられたのは、まだいいほうである。

 ランキングに一度も載ったことのないような泡沫貴族の一部は、そのまま冒険者を解雇して、ダンジョン探索から手を引いてしまったのである。



 ダンジョンに入場する冒険者の急激な減少と、課金アイテムの大幅な売り上げ低下。そのアラートは、現場からすぐにアンドリューに伝えられた。そしてアンドリューから、玲子たちへと伝わる。


 それを聞いた玲子は、頭を抱えた。

「危惧していたことが起きてしまったわ……」


「いったいこれは、どういうことでしょうか……?」

 アンドリューは困惑顔である。


「急激なユーザーモチベーションの低下。それに伴う大量離脱……」

 玲子はため息をついた。

「典型的な、運営の失敗ね……」


「モチベーションの低下というのは、どういうことですか?」


「今回のことで言えば、ランキング首位の冒険者が、地下九階に到達したことが引き金になった。自身でダンジョン攻略することが無理と思った冒険者たちが、ダンジョン探索を続ける意欲を失ったの」


「なんと!?」


「それだけならまだよかった。アルスくんが酒場で聞いた噂によれば、一部の貴族が同じようにやる気を失ってしまった。雇っていた冒険者を解雇して、ダンジョン探索から手を引いてしまったみたい……」


「まさか、そんなことが!?」


「考えてみれば、当然の結果よね。そもそもが、彼らのモチベーションは、ダンジョンを一番に攻略することにしかなかったんだもの。それが達成できそうにないから、もうやめる。当然のことだわ」


「いや、しかし、そんな……」

 アンドリューが納得いかないといった態で口ごもる。


 そんなアンドリューに、玲子は問いかけた。

「人が何事かを継続的に続けていくためには、何が必要だと思う?」


 アンドリューは首をひねる。

「……なんでしょう? わかりかねます」


「期待――よ」

 と、玲子は言った。


「期待――でございますか?」


「そう。これを続けていれば、将来いいことがある、っていう意味での期待。もっといい仕事にありつけるかもしれないから勉強する、鍛錬する。ゲームだったら、今後もまた面白い体験ができるだろうっていう期待。それが、続ける理由になる。でも、ダンジョン探索は……」


 アンドリューが言葉を継いだ。

「……魔王を倒して、英雄になれるかもしれない。王より褒賞を賜れるかもしれない」


 そう、と玲子は頷く。

「それが貴族や冒険者がダンジョン探索に抱いている期待なの。その期待を持てなくなった人たちが、今、離脱を始めた」


「一体、どうすれば……?」


「まずは、すぐにでも噂を流す」


「噂とは?」


「ダンジョンの最下層が、地下十階ではなくなったらしい。どうやら、魔王軍がダンジョンを拡張したようだ――ってね」


「なるほど……」


「まだ挽回の機会があると思わせる。冒険者や貴族の期待を維持するには足りないと思うけど、今すぐにできることはこれしかない」


 不安げにアンドリューが言った。

「それで、どうにかなりますか?」


「多少は期待を維持できると思う。でも、根本の問題は解決していないわ……」


「根本の問題とは?」


「ユーザーモチベーションの設計が良くなかった。魔王討伐しかモチベーションになっていない、現状のままだと、いずれまた同じ問題が起こる」


「しかし、どうすれば……?」


「ゲームサイクルを設計します」


「ゲームサイクル?」


 首をかしげるアンドリューに、玲子は言った。

「緊急会議を実施するわ。皆を集めてくれる?」

次回更新は8/16(土)です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ