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第108話 救出、そして再会

玲子たちは、魔晶石に囚われた冒険者を救うためのオペレーションを開始する。

「オペレーションを確認します」

 と水谷は言った。


「まず、魔晶石に囚われている冒険者を、ここ――」

 言って、腕を広げる。

「サンドボックスエリアに転送します」


 サンドボックスエリアは、ダンジョンにおける新機能の作成や検証に用いるため作られたエリアである。

 出入口はなく、転移によってしか入ることができない。一般冒険者の立ち入れないエリアになっている。


「この時点で、転送された冒険者は、瀕死の状態になる想定です」


 そこで玲子は口を挟んだ。

「悪いけど、そこの理屈をもう一回説明してもらってもいいかしら?」


 答えたのは、フェリスである。

「彼らの肉体を生かしておるのは、通常の生命活動ではなく、魔晶石から供給される過剰なマナによる魔法的な活動であるのじゃ。つまり、彼らは、一時的に魔法生物のような状態にあると言えるわけじゃな」


「それで、供給されるマナがなくなると、死ぬってわけね」


「その通りじゃ。しかし、本当に死んでしまうと、我々にそれを蘇生することはできぬ。ダンジョンの蘇生術は、あくまで回復術であるからして」


 フェリスの指摘に、玲子は頷く。

 ダンジョンの蘇生術は、瀕死の状態を検知して、自動的に全回復、転移させるものである。


 水谷が言った。

「今回の冒険者たちは、ダンジョンの蘇生術が実装される前にダンジョン内にいたせいで、蘇生術の対象者として追跡できていませんでした。また、生命反応が著しく低かったせいか、マーカーでも検知できていなかったんです」


 基本的に、ダンジョン内の冒険者や魔物などは、マップ上にマーカーとして表示される。彼らは、そのマーカーですら感知できない状況にあったということである。


「そこは、蘇生術の対象として再設定できたのよね?」


 玲子の問いに、水谷は、はいと答えた。

「ですので、サンドボックスエリアに転送された時点で、瀕死になった彼らにダンジョンの蘇生術が発動します。その後の流れは、通常の蘇生術と同じですが――」」


 水谷が目線を送ると、続きをフェリスが引き継ぐ。

「ダンジョンの蘇生術が、実際は回復術であるという点が、本来ならば問題となる」


 フェリスが言うところによれば、回復術というのは、現状回復が基本であるという。

 つまりは、怪我をした状態を、怪我をする前の状態に戻す、というのが回復術の基本であるらしい。その上で、時間がたてばたつほど、回復は難しくなる。


「今回の場合、魔晶石に囚われていた時間が長すぎるので、回復術は効かないというのが常識ではあるのじゃが……回復の祭壇は、どうやら違うのじゃ」


 回復の祭壇というのは、元よりダンジョン内にあったもので、玲子たちは蘇生術にそれを利用している。


「――命のある限り、肉体を任意の状態まで回復できるのじゃ」


「そこがよくわかんないだけど」

 と玲子は首をひねった。

「任意の状態って、どういうこと?」


「タイム風呂敷ですよ」

 と水谷が言った。


 タイム風呂敷は、ドラえもんに登場するひみつ道具である。物体に被せることで、その物体の時間を進めたり戻したりできる。


「未来は無理ですけど、過去方向であれば、いくらでも肉体を元の状態に戻せるみたいなんです」


「ある種のタイムマシンってこと?」


「はい。その通りです」


「てことは、赤ちゃんにしちゃったりも……?」


「理論上はできることになります」


「やば!」

 回復の祭壇は、想像よりやばいものだったらしい。


「じゃあ今回は、特定の時間を指定して、戻す感じになるの?」


「はい。回復の祭壇の術式をフェリスさんに解析してもらいました」


 水谷の言葉に、フェリスが頷いた。


「時間を指定して回復させることのできる拡張モジュールの組み込みも完了しておる。名付けて――」

 と、フェリスはためを作った。


「回復の祭壇改!」


 ためた割には、普通の名称であった。




 ノルムが目覚めたのは、見覚えのない部屋だった。


「おお冒険者よ。死んでしまうとはなさけない」


 死んだ? 俺が?


 記憶がよみがえってくる。

 隠し部屋にあった宝箱。罠は見つけられなかった。それを開けて――。


 光に包まれたところまで覚えている。

 あれは何らかの致死性のトラップだったのだろうか。


 それで、俺は――死んだ?

 シャーリーは? ガルベスは?


 そう考えたところで、おかしいと思いなおす。

 死んだのであれば、今の俺は――なんだ?


 ゆっくりと身を起こした。

 周囲の壁や天井に見覚えがあった。石のように見えるが、石そのものではない、奇妙な材質のそれは、ダンジョンのものである。


 不意に声がした。先ほどのものと同じ、男とも女ともつかない、奇妙な声である。

「あなたには二つの選択肢があります」


 選択肢――? と思う間もなく、声は続ける。 


「ひとつは、このままダンジョンの外に出ることです。この場合、あなたが今回のダンジョン探索で得たものは、すべて没収されます」


 ダンジョンの外、という言葉にノルムは驚愕した。

「まってくれ。じゃあ俺は、生きてるんだな! そうなのか!?」


 ノルムの言葉に反応することなく、声は続ける。

「もうひとつは、先ほどあなたが死んだ場所に戻ることです」


「いやいや! 戻らねえから! 生きて出られるのか? 出られるんだな!」


 「この場合、取得物は没収されずに残ります。だだし、あなたの死の原因となった場所に戻ることになるので、それなりの覚悟が必要でしょう」


「いや、そんなのはいい。どうやればいい? どうやったら出られる?」


「そこの扉から出れば、ダンジョンの外に出ることができます。こちらは無料です」


 見れば、確かに扉があった。この部屋には、目の前にある何かしらの祭壇と、その扉しかない。


 ノルムは迷うことなく、その扉に飛びついた。

 背後で、謎の声がまだ何か言っていたが、それを無視して扉を開ける――。


「ノルム!」

 名を呼んだのは、昔馴染みの声である。


 頬を涙が伝った。

 ノルムは、彼らの名を呼び返した。


「シャーリー! ガルベス!」


 シャーリーがノルムの胸に飛び込んだ。彼女もまた、泣いている。


「よかった……。本当によかった……」


 そう言うシャーリーを、ノルムはそっと抱きしめた。


 顔をあげて周囲を見回せば、そこはダンジョンの外だった。

 ガルベスが腕組みをして、笑顔を浮かべている。


 そして、その横には――。


「ユート?」


 召喚された勇者が、そこに立っていた。


 しかし、その姿は、ノルムの記憶にあるものとはまるで違っている。

 体つきががっしりとして、背も少し伸びているように見える。

 一番違ったのは、その顔つきである。それは――いっぱしの冒険者の顔であった。


「おかえり、ノルムさん」

 と勇斗は笑顔で言った。

次回更新は4/8の予定です。

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