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第107話 それぞれの召喚

玲子と勇斗は、お互いが召喚された経緯について話をする。

 ノルムたちの救助について目算が立ったところで、勇斗はほっと息をついた。

 脱力して、やわらかいソファに体が沈み込む。

 天井を眺めながら、呟いた。

「……よかった」


 その言葉に、玲子は苦笑する。

「まだ、実際に救出できてはないけどね」


 勇斗は、ばっと身を起こして、いえ! と言った。

「信じてます。だって、橘さんは、聖女なんですよね?」


 玲子は、困り切ったような顔をしながら言った。

「そういうことになってるけど……私は、ただのゲームディレクターでしかないわ。聖女なんてもんじゃない」


 あれ? と勇斗は首を傾げた。

「でも、聖女として召喚されたんすよね?」


「ちがうちがう」

 と、玲子は両手を振りながら否定する。

「なんかわかんないけど、神殿の人が急に言い出してさ。私たちを召喚した人も困ってたわよ」


「え? だって、俺なんて、勇者として召喚されてて……」


「ええっ! 勇斗くんって、勇者なの!?」


「あ、いや! 勇者として召喚されたみたいなんすけど、ぜんぜん使い物にならなくって……」

 言いながら、だんだん声が小さくなる。

「……今は、ハズレ勇者って呼ばれてます」


「はぁ!?」

 と玲子は言った。

「信じらんない! 自分から召喚しておいて、その言い方はないわ」


 玲子はぷりぷりと怒っている。


 勇斗は少し恐縮した。

「まあ、役立たずだったのは間違いなくって。ノルムたちが転移したときも、俺、なんにもできなかったから……」


「でも、今は彼らを救おうとしてるわけでしょ。それって、立派に勇者の行いだと思うわ」


「そうですかね?」


「そもそも、地下七階に到達してる冒険者がどれだけいると思うのよ。そうだ! あなたたち、冒険者ギルドに地図を提出するといいわ。たぶんランキングに載ると思うから」


「え!? 俺たちがランキングに!?」

 驚いて言ってから、勇斗は少し考えこむ。


 ランキングに載れば、多少は周囲を見返せるだろうか?

 いや、そんなことは、どうでもいいのである。

 少なくとも、アンジェロは喜ぶに違いない。それだけでも、ランキングに載る価値はある。

 そう、勇斗は思った。


「ありがとうございます。あとで地図提出します」


「そういえば、君はいつ頃、こっちに来たの?」

 玲子が話題を変えた。


 ええと……と、少し考えて、勇斗は答える。

「もう、二年以上前っすかね」


「え!? 二年!?」


「どうかしました?」


「私たちがこっちに来たのって、一年ちょっと前なのね。君は、二年以上前?」


「はい」


「おかしいわ。理屈に合わない……」


「はぁ。そうなんすか?」

 意味が分からず、勇斗は首を傾げる。


 玲子は言った。

「私たちは、ファンサガがサ終したその日に、こっちの世界に召喚されたの。それなのに、私たちより先にこっちの世界に来ていたあなたが、ファンサガのサ終を経験している……。時系列が合わないのよ」


「えっ!? そうなんすか!?」

 勇斗も驚いた。


 つまり、元の世界では、玲子たちが先に召喚されているわけである。勇斗が召喚されたのは、ファンサガのサ終から、数年後のことであるので、だいぶ後である。

 しかし、玲子の言葉を信じるなら、こちらの世界では勇斗が先に召喚されている。

 二つの世界の時系列が、奇妙にねじれていた。


 ふと記憶がよみがえる。

 ギルバート伯のところから追い出されてしばらくした頃、酒場で会った謎の人物に、ファンサガのことをあれこれ聞かれたことがあった。そのとき、玲子の名を伝えたような……?


 さっと顔が青くなった。

 もしかして、橘さんが召喚されたのって、俺のせい……かも?


「どうかした?」


 玲子の問いに、ぶるぶると頭を振って、その考えを振りほどいた。

「な、なんでもないっす。いやー、なんか、不思議なこともあるもんですねー」


 もしそうだとするなら、この事実は墓までもっていくと、勇斗は決意した。知られてしまったら、絶対恨まれるのである。少なくとも勇斗なら恨む。


 玲子が俯いて、ぶつぶつと呟いている。

「なるほど……。召喚の魔法は、時を選ばない――どの時代からも召喚できるのね……。そこは考えたこともなかったわ……」


 その独り言を聞いて、勇斗はふと疑問に思っていたことを尋ねた。

「そういえば……橘さんって、若返ってますよね?」


 かつてインタビュー記事で見た玲子は、明らかにおばさんだったのである。


 ばっと顔をあげた玲子は、満面に喜色を浮かべていた。

「そうなの! ていうか勇斗君は違うの? ていうか何歳?」


「十八っす」


「若っ! めちゃ若い! そうかー。じゃあ、見た目通りって感じね」


「そっすね」


「私なんてもう五十近いわよ」


「ええっ!? 見えないんですけど……?」


「だって若返ったから」

 言ってから玲子は、腰に手を当ててポーズをとってみせた。


 勇斗は尋ねた。

「それって、魔法かなんかなんですか?」


「召喚魔法の副次効果みたい。一番いい時期の肉体で召喚されるとか言ってたわね」


「じゃあ、俺の場合は、二年前が一番いい時期だったってわけなんすかね……?」


「どうだろう……? 私たちの場合、全員若返ってたけど、若い人だと逆に成長することもあるのかしら?」


 正直なところ勇斗としては、二年前より今のほうが、肉体としては全盛期だと感じる。

 肉体労働のおかげか、人生で一番筋肉がついているし、引きこもりのゲーマーだった頃とは比べるべくもない。


 そういえば、と玲子は言った。

「勇者って、どういうこと?」


「俺を召喚した人が言ってたんすけど……」


 勇斗を召喚したギルバート伯が、竜の痣を持つ者こそ世を救う勇者であると、神殿で信託を受けたという話をする。


「で、これが、勇者の証である痣なんだそうです」

 言って勇斗は、右手の甲を玲子に向けた。そこには、竜に見えなくもない、傷跡があった。


「子供の頃に、火傷でできた傷なんすけど、まさか、こんなもんのせいで異世界に飛ばされるなんて……」


「私が聖女って言われてるのも同じ理由なの!」

 と玲子は言って、ほら、と自身の右頬を指した。


 そこには、不思議な形状の痣がある。


「これが、神殿の紋章と同じだとか言ってさ!」


 確かに、言われてみればそう見えなくもない。勇斗も神殿の紋章は見たことがあるのである。

 しかし――。


「いや、まあ見えるっちゃあ見えますけど、微妙に違くないすか?」


「だよね! 勇斗くんの竜も、そう見えるっちゃ見えるけど、そうでもなくない!?」


 二人して、うんうんと頷きあう。

 どうやら似た境遇であるようだ。


 でも、現在の立ち位置は、ぜんぜん違うよな――と勇斗は思った。


「でも、俺なんかとは違って、橘さんって、ちゃんと聖女やれてますよね……」


「まあ、なんとなくそれっぽいことは、やれてなくはないわね」


 勇斗は、ごくりとつばを飲み込んでから、尋ねた。

「……やっぱり、チートスキルとかあるんすか?」


「え!? 勇斗くんにはあるの!?」


「いや、ないっす」


 そうかー、と玲子は少し落胆したようである。

「私だってないわよ。あったら欲しいわ。ていうか、私らを召喚した人が言ってたんだけども、過去にも召喚された人って何人かいたらしいのね」


「そうなんすか?」


「でも、ただの一人として、チートスキルなんてものがあったことはないんだって」


 それを聞いた勇斗は、がっくりと項垂れた。

「やっぱそうなんすか……」


 もしかしたら、隠された才能として、チートスキルが眠っているのでは? と淡い期待をしていたのだが、あっさりと否定されてしまった。


「でも橘さんは、チートスキルなしで、聖女としての力を発揮されてるんですね。一体、どうやって……?」


「具体的なところは秘密。まあ、いわゆる現代知識無双ってやつ? 無双ってほどじゃないけども」


「なるほど」

 と頷いて、勇斗は自嘲気味に苦笑した。

「俺みたいなただの学生じゃ、そんな知識もないし、ぜんぜんダメダメっすよ……」


「いやいや! そんなことないでしょ! だって、君……」

 と玲子は言った。

「落とし穴使って、ショートカットしてたわよね?」


「え!? なんでそれを!?」


「あんなの、ゲーマーしか思いつかないわよ! 君には、普通の冒険者にはない知識があるじゃない」


 そうだろうか、と勇斗は思った。

 確かに、ゲームの攻略にはそれなりに自信がある。


「でも、この世界は、ゲームじゃないっすよね……」

 だから、勇斗はハズレ勇者なのだ。


「確かにそうね」

 と玲子は頷いてから、小悪魔的な笑みを浮かべた。

「でも、ダンジョンだけは違うかもよ」


「どういうことですか?」


「だって、ダンジョン運営してるのって、私たちだもの。私たちの前の世界での仕事、知ってるでしょ?」


「……ファンサガの神運営」


「嬉しいこと言ってくれるじゃない」

 と玲子は笑った。

「みんなが楽しんで攻略できるように、これから色々やっていくつもりよ。期待しててね」


 そうか、と勇斗は思った。

 ダンジョンがゲームなら、自分でも攻略できるかもしれない。


 もちろん、ゲーム的に、コマンドを選ぶだけでスキルが発動したり、魔法が発動したりはしないだろう。この世界のルールは曲げられない。

 それでも、少しの光明が見えたような気が、勇斗にはした。


「はい! よろしくお願いします!」


 元気よく言ってから、思い出す。

「そういえば、地下七階の隠しエリアの手前にあったトイレなんですけど……」


「……ああ、あったわね。あそこがどうかした?」


「入り口が隠し扉になってます。たぶん、バグっすよね?」


 ええっ!? と玲子は驚愕の声をあげた。


「めっちゃバグです。ごめん、報告ありがとう。すぐに修正します」


 言って、玲子はぺこりと頭を下げた。

次回更新は4/1の予定です。

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