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初恋は最強の剣!~公爵令嬢に恋した平民は彼女の難題をすべて乗り越える~  作者: 涙目
第五章 望み編

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後日談 何でもない日常

この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。

 朝日がカーテンの隙間から差し込んでいた。

 リリアナはゆっくりと目を開く。


 隣を見る。

 レオはまだ眠っていた。


 穏やかな寝顔だった。


 王宮では優秀な官僚として働き。

 王城では国王から信頼され。

 多くの者が頼りにしている男。


 それなのに。

 こうして眠っている姿は、昔と何も変わらない。


 少しだけ幼く見える。


「……ふふ」


 思わず笑う。

 どれだけ眺めていても飽きない。


 長い睫毛。

 整った顔立ち。

 少し乱れた黒髪。


 そして。

 自分の隣で眠っているという事実。


 ゆっくりと頬へ手を伸ばす。


 触れる直前。

 レオの目が開いた。


「おはようございます」


 目が合う。

 寝起きなのに相変わらずだった。


「……おはよう」


 触ろうとしていた手を誤魔化すように引っ込める。


「何かされようとしていましたか?」


「してないわ」


「そうですか」


 絶対信じていない顔だった。

 だがそれ以上は追及しない。


 それが少し悔しい。


***


 二人で朝食を取る。


 焼きたてのパン。

 卵料理。

 温かいスープ。


 何でもない朝食。


 けれどリリアナは好きだった。


 王宮へ向かうレオと過ごせる短い時間だから。


「今日は帰りが遅くなります」


「知ってるわ」


「書類整理が残っているので」


「私も仕事があるもの」


 二人は顔を見合わせる。


 そして笑った。


***


 屋敷の前。

 馬車へ乗り込むレオを見送る。


「行ってきます」


「行ってらっしゃい」


 馬車が遠ざかる。


 昔なら。

 見送ったあと寂しかった。


 今は違う。


 帰ってくることを知っている。


 でも、やっぱり少し寂しい。


***


 リリアナも執務室へ向かった。


 公爵は既に書類を広げている。


「遅い」


「まだ朝です」


「言い訳だ」


 父は昔から変わらない。

 だが最近は少し機嫌が良い。


 理由は明白だった。


***


 午前。

 午後。


 領地の収支。

 事業計画。

 報告書。


 次々と処理していく。


 公爵の補佐としても十分通用するようになっていた。

 以前なら褒められただろう。


 だが今は違う。


「当然だ」


 で終わる。


 それも悪くない。


***


 気付けば夕方だった。

 執務室の扉が叩かれる。


「失礼します」


 聞き慣れた声。

 自然と笑みが浮かんだ。


「レオ、お帰りなさい」


「迎えに来ました」


 リリアナは書類へ目を落とす。

 まだ少しだけ残っていた。


「あと少しだから」


 そう言いかけた瞬間。

 向かい側からため息が聞こえた。


「いいから行け」


 公爵だった。


「ですが」


「いいから行け」


 今度は少し強め。


 そして。

 誰にも見えないように目で合図した。


 早く行け、と。


 リリアナは思わず吹き出した。


「ありがとうございます、お父様」


「仕事は明日でもできる」


 そう言いながら父は書類へ視線を戻す。


 耳が少し赤かった。


***


 二人で屋敷を出る。


「どこへ行くの?」


「内緒です」


「嫌な予感しかしないわ」


「大丈夫です」


 全然信用できなかった。


***


 連れて行かれたのは王都でも有名なレストランだった。


 窓際の席。

 夜景が見える。

 料理も美味しい。


 気付けば二人でたくさん話していた。


 学院時代のこと。

 友人達のこと。

 仕事のこと。

 昔の思い出。


 どれだけ話しても尽きなかった。


***


 店を出る。


「帰るの?」


「いいえ」


 レオが笑う。


「明日は休みですよね」


「そうだけど」


「ならもう少しデートしましょう」


 リリアナは目を瞬かせた。


 そして小さく笑う。


「そうね」


***


 丘の上。

 王都を一望できる場所だった。


 夜空の下。

 街の灯りが宝石みたいに輝いている。


「綺麗ね」


「はい」


 しばらく二人で眺める。


 静かな時間。


 心地良い沈黙。


 それだけで幸せだった。


「レオ」


「はい」


「幸せ?」


 レオは少し考えた。

 本当に少しだけ。


 そして。


「幸せです」


 迷いなく答えた。


「昔からずっと望んでいた生活なので」


 リリアナは笑う。


 本当にこの人らしい。


 王家に誘われても。

 英雄と呼ばれても。


 欲しかったものは結局同じだった。


「私もよ」


 小さく呟く。


 レオがこちらを見る。


 だから少し意地悪く笑った。


「大好き」


 今でも。

 この言葉を言うのは少し恥ずかしい。


 けれど。

 もう隠す必要もなかった。


 レオは一瞬固まる。


 それから耳まで真っ赤になった。


「レオ?」


「……反則です」


 思わず吹き出した。


 何年経っても変わらない。


 本当に。

 どうしようもなく愛おしい。


***


 帰り道。

 二人は手を繋いで歩く。


 仕事をした。

 食事をした。

 夜景を見た。


 ただそれだけ。


 特別ではない。


 だけど。

 これ以上ないくらい幸せだった。


 リリアナは隣を歩く夫を見上げる。

 そして微笑んだ。


 今日も最高の一日だった。

お読み頂き、ありがとうございます。

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