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初恋は最強の剣!~公爵令嬢に恋した平民は彼女の難題をすべて乗り越える~  作者: 涙目
第五章 望み編

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後日談① 新米冒険者の失敗談

この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。

 木剣が地面を転がった。


「うわっ!」


 バランスを崩したリオは、その場に尻もちをつく。


 まただ。


 身体強化を使うと力が入りすぎる。

 木剣がぶれる。

 狙っていた場所から大きく逸れてしまう。


 何度やっても上手くいかない。


「はぁ……」


 リオはため息を吐いた。

 昨日よりは少しできるようになった。


 でも、お父さんみたいには全然できない。


 クラインベルク公爵家の庭園で木剣を振る父の姿は、いつだって格好良かった。

 速くて、強くて、迷いがない。


 だからこそ思う。


「僕、お父さんみたいになれるのかな……」


「どうしたの?」


 優しい声が聞こえた。

 振り返ると、庭園へ続くテラスにリリアナが立っていた。


「お母さん……」


 リオは木剣を見つめたまま答える。


「身体強化が上手くできない」


「お父さんみたいになれない」


 リリアナは少し考えてから微笑んだ。


「ねぇ、リオ」


「なに?」


「お父さんが最初から上手だったと思う?」


「え?」


 リオは思わず顔を上げる。


「だってお父さんだよ?」


「強いし」


「何でもできるし」


「すごいし」


 リリアナはくすりと笑った。


「実はね」


「お父さんも最初は上手じゃなかったの」


「本当に?」


「本当よ」


 リリアナは頷いた。


「魔力量も少なかったし」


「身体強化も上手く扱えなかったんだって」


 リオは目を丸くした。

 今の父からは想像できない。


「お父さんから聞いたんだけどね」


「冒険者になったばかりの頃、薬草採取の依頼で身体強化を使いながら走り続けて――」


「うん」


「魔力切れで動けなくなったんだって」


「えぇ!?」


 リオは思わず吹き出した。


「お父さんが?」


「そう」


「本人が笑いながら話してくれたわ」


 二人で少し笑う。


「その次の日には角兎の依頼を受けたそうよ」


「今度は大丈夫だったの?」


「だめだったみたい」


「また!?」


「また」


 リリアナは肩を揺らして笑う。


「角兎を追いかけながら身体強化を使い続けて」


「また魔力切れ」


「そのまま逃げられたんだって」


「お父さん、失敗ばっかりじゃん……」


「そうね」


 リリアナは優しく頷いた。

 そして続けた。


「でも、お父さんはそこで諦めなかった」


「どうして失敗したんだろうって考えたの」


「考えた?」


「ええ」


「身体全部を強化しているから魔力が足りないんじゃないか」


「そう考えたんだって」


 リオは首を傾げる。


「全部使わないの?」


「走る時は脚だけ」


「剣を振る時は腕だけ」


「必要なところだけ強化する」


「そうやって工夫したそうよ」


「あ……」


 リオは自分の木剣を見た。


「だからね」


 リリアナは穏やかに言う。


「お父さんは特別な才能で強くなったわけじゃないの」


「失敗して」


「考えて」


「工夫して」


「また失敗して」


「また考えた」


「それをずっと続けたの」


 しばらく沈黙が流れる。


 そしてリオが聞いた。


「お母さん、見てたの?」


 リリアナは首を横に振った。


「ううん」


「それは全部、お父さんから聞いた話」


「そうなの?」


「ええ」


「薬草採取で倒れた話も」


「角兎を逃がした話も」


「身体強化で失敗した話も」


「全部、お父さんが教えてくれたの」


 リオは少し不思議そうな顔をした。


「お母さん、知らなかったんだ」


「知らなかったわ」


 リリアナは懐かしそうに微笑む。


「私が知っているのは、十歳の時のお父さんと」


「学院で再会した時のお父さん」


「その間は知らないの」


 そして小さく笑う。


「でもね」


「失敗した話はよくしてくれるの」


「へぇ」


「頑張った話は全然してくれないのよ」


「なんで?」


 リリアナは少しだけレオの口調を真似した。


『別に普通のことをしただけですから』


 リオは吹き出した。


「あー、お父さんだ」


「でしょう?」


 二人で笑う。

 そしてリリアナが聞いた。


「ねぇ、リオ」


「なに?」


「さっきは何が上手くいかなかったの?」


「身体強化を使うと木剣がぶれる」


「どうしてだと思う?」


 リオは考える。


 少しだけ。

 でも真剣に。


「力を入れすぎてる?」


「そうかもしれないわね」


「じゃあ今度は?」


 リオは木剣を見る。

 そして呟いた。


「腕だけ、やってみる」


 木剣を構える。

 身体強化を腕に集中する。


 一振り。


 ぶれる。


 二振り。


 少し良くなった。


 三振り。


 今度は真っ直ぐ振れた。


「あっ」


 さっきまでとは違う。

 ほんの少しだけ。


 でも確かに。


「できた!」


 リリアナが嬉しそうに笑った。


「ほらね」


「うん!」


 その時だった。

 屋敷の玄関扉が開く。


「ただいま帰りました」


「お父さん!」


 リオが駆け出す。

 レオはしゃがみ込み、息子の頭を撫でた。


「どうしました?」


「ねぇ、お父さん!」


「はい?」


「昔、角兎に逃げられたって本当?」


 レオが固まった。


「……」


 ゆっくり顔を上げる。

 視線の先では、リリアナが満面の笑みを浮かべていた。


「ふふっ♪」


「リリアナ……」


「薬草採取で魔力切れしたんだって!」


「リリアナ……」


「あと、お母さんに結婚してくださいって――」


「リリアナぁ……」


 レオは額を押さえた。


 リリアナは楽しそうに笑っている。


 リオもつられて笑う。


 やがてレオは諦めたように苦笑した。


「……全部本当ですね」


「やっぱり!」


「お父さんでも失敗するんだね」


 その言葉に、レオは少しだけ目を細めた。


「しましたよ」


「たくさん」


「悔しくなかったの?」


「悔しかったです」


「じゃあどうしたの?」


 レオは当然のことのように答えた。


「次の日、もう一度やりました」


 リオは目を瞬かせる。


「失敗したら」


「どうして失敗したのか考える」


「そして、もう一度やる」


「それだけです」


 そう言ってレオは木剣を見た。


「今日は何か見つかりましたか?」


 リオは胸を張る。


「腕だけ強化したら上手くいった!」


 レオが少し驚いた顔をした。

 そして嬉しそうに微笑む。


「それは良かった」


「ちゃんと考えましたね」


「うん!」


 レオは息子の頭を優しく撫でた。


「よろしい」


 夕暮れのクラインベルク公爵家。

 穏やかな風が庭園を吹き抜ける。


「さぁ、ご飯にしましょう」


「はい」


「はーい!」


 三人の笑い声が、温かな屋敷に響いた。


 今日もまた。

 クラインベルク公爵家の一日は、穏やかに過ぎていくのだった。

お読み頂き、ありがとうございます。

レオサイド導入話:第一話 初恋

https://ncode.syosetu.com/n7997mm/1/

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